負け組み候補!?
おかしい。
教室に入った俺は物凄い違和感に気が付いた。
おかしい。
みんなが俺を見てる。そして何かこそこそ喋ってる。
今までなんて、俺と目を会わす事も出来なかったはずなのに、今日はやけに視線を感じる。
何故だ?
俺は疑問符を頭いっぱいに浮かべながら席に付いた。
目玉だけを動かして部屋を見渡してみる。
男女問わず俺に視線が入っている。
何故だか居た堪れないのは気のせいでしょうか?
そう思った唐突に、教室のドアが物凄い勢いで開けられた。
バンッ、という音に俺は少し心拍数を上げた。
そっちに視線を移すと、なにやら眼鏡を掛けた、いかにもインテリっぽい奴が入ってきた。
そして歩いてくる。歩いてくる。
こっちに歩いてくる!!??
俺は内心ビクビクだったが、そこは生まれ付いての感情表現の乏しさで何とか冷静を装う。
今の俺は周りから見れば、こっちに向かってきた男をにらめ付けているのだろう。
それはそれで悲しい。
ピタッと、姿勢良く俺の目の前で眼鏡男が止まった。
やはり、俺に何らかの用があるのか。
「君が川島魁人君だね?」
姿形がインテリっぽかったら、口調もなんてインテリなのでしょうか。
ぶっちゃけ、肌が粟立つ。
俺は緊張しながら答える。
「そ、だけど。あんたは?」
そう聞いた途端、その眼鏡男はいきなり鼻息を荒くして、眼鏡をくいっと持ち上げた。
「良くぞ聞いてくれた!!この私、周藤幸太はこういうものです」
と言いながら、胸ポケットから一枚の紙切れを取り出した。
俺はそれを受け取る。
そこには
《負け組み愛好会 創立者兼会長兼議会長
周藤幸太》
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「・・・・・・負け組み・・・・・・」
「そう!!負け組み!!人生とは世界とは、いずれも必ず勝ち組と負け組みに分けられてしまうのだ!勝ち組は自分達がそうだと言う自覚を持たず、悠々とその生活を送るが、負け組みは違う!!何時も自分より才能が
ある他者を妬み、嫉妬し、劣等感に苛まれ続けているのだ!そんな負け組みたちを救うのがこの負け組み愛好会。自分よりも才能が無い同じ負け組みを集めることによって、その傷を薄め、癒し、友情を作る。喜べ川島魁人!君はその素晴らしい愛好会に入団する権利を得たのだ!さあ、我々と一緒に負け犬となり、遠吠えでもしながら傷の舐め合いでもしようではないか!!!」
言っていることの意味が分からない。負け組み?入団?何言っちゃってんのこいつ?
「・・・はい?」
「ふむ、現状を理解していないようだね。それも仕方が無い。こんな素敵なところに入ることが出来るのだ。混乱して当然だろう」
いやいや、負け組みのどこが素敵なんだよ!逆に嫌じゃわ!
もろ如何わしいしじゃねぇか。それに負け犬って何だ負け犬って。俺は一体何に負けたんだよ。
「説明しよう。昨日君はある女子生徒に体育館裏に呼び出されたね。実は愛好会組員の一人が早くもその情報をキャッチしていてね。君の後を付けたらしいんだ」
な、なんて奴らだ。どこでそんな情報を掴んだんだ。ていうか負け組み愛好会ってお前の他にも居たのかよ。
「そこで見たものは、女子生徒に鳩拳を食らい、膝裏と胸を蹴られ、逃げ出そうとした隙に後頭部に一撃を貰ったそうじゃないか」
なんてこった。こいつは事細かに昨日の事態の説明をしやがった。改めて聞くとなんて恥ずかしいんだ。
すると、俺の耳に「やっぱり本当だったんだ」という女子のヒソヒソ話が届いた。
やっぱりって、という事は学校中に知られてしまっているって事か。
「沈黙は肯定と取っても構わないね。そう、だからこそ君は選ばれた。君はその破壊力のある眼光によって学校を牛耳っていたが、ある美少女転校生によってその座から引き摺り下ろされ、負け犬となった。その後の君は屈辱と恥辱、後悔と孤独が待っているだけだろう。しかし、我々がそうはさせない。君を負け犬と見込み、負け組み愛好会に招待しよう」
そうか、なるほど。別に牛耳っていたなんて事実は無いが、端から見たらそうだったのだろう。
そんな俺が、突如としてやってきた転校生にコテンパにやられた訳で、無様な姿を晒しているんだろう。
しかし、周りの視線からは、同情でもなければ哀れみでもなくて、むしろ嘲笑ってないか?
なんだか精神的に痛い。
ガタッ、と椅子を引いて立ち上がる。
「おお、入団する気にって、何所に行こうとしているのかね?」
俺は眼鏡男を無視して教室のドアを開ける。
「待ちたまえ!」
「便所だ。ついて来るな」
その後、ホームルームが始まったにもかかわらず、俺はずっとトイレの個室に居た。
何してたかって?
泣いてたんだよ!!
・・・・・・少しな。