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2-1

ありがとうございます。ここから2章です。ヒーロー(多分)が頑張ってくれるはずです。

◇◆◇◆ 2-1.


 これは夢だと、分かっている。

 何度も何度も、繰り返し見た夢だから。とはいえここ十年以上は見てないのだけど。

 私が言う内容も、それへの反応も以前と同じだ。

 それでも。会いたくて、でも会えなくなった両親の姿がある。


 夢の中でも久しぶりに会えて嬉しい。

 でも私が望む返事をくれないのが悲しい。


 今回こそは頷いてくれるのではないかと期待して、願いを口にする。


 けれど……




「……弥、美弥! 大丈夫か!?」

 明人の声で目が覚めた。

「アキ……?」

 あれ? なんで寝起きに明人のドアップが?

 しかもやたら深刻そうな顔してるし。

 あと体がバキバキしてる。また布団に入る前に寝落ちしちゃったかしら。でもなんで明人がいるんだろう。

 ……じゃなくて。

 思い出した。

 ここは、私の住む部屋でも工藤家でもない。というか日本ですらない、見知らぬ土地だ。どこのファンタジー小説かと言いたいけれど、きっと異世界。寝る前に空を見上げたら月が二つあったので確定。

 何故か明人と二人でここに飛ばされて、近くにあった無人の建物で夜を過ごしたのだ。

 一夜を過ごしたとか言うと何かあったようだけど、従兄妹なのだから単純に睡眠をとっただけだ。

 集会所みたいな建物なのだろう。長椅子っぽいのがあったので、そこを寝床に、布団がわりにコートを羽織って寝たのだった。

「もう朝? 寝過ごしちゃった? ごめん」

 しかし、起き抜けに美形のドアップって心臓に悪い。

 頑張って何でもない様子に取り繕って言うと、明人は大きなため息をついた。……そ、そんなに寝坊したのか。

「朝だけどまだ六時だから時間は大丈夫だ」

 早いじゃん。

 じゃあ何故起こしたんだろう。

「何かあった?」

 事態が進展するような、何かが発生したんだったら納得だ。

 とりあえず上半身を起こして動けるようにする。

「大丈夫か?」

 ええと……顔をのぞきこまないでください。むしろ明人の行動のほうが私を大丈夫じゃなくする。

「な、何が?」

「うなされて、泣いてたから……覚えてないならいい。起こして悪かったな」

 その言葉に、久しぶりに見た夢の内容が甦った。

 ああ、そうか。

 明人は、私を心配してくれたのか。

「大丈夫よ。ありがとう。夢を見ただけだから」

 昔、瞳さんも同じように、夢を見た後の私を心配してくれていた。

 まだ私たちが中学生だった頃、お弁当を作るため誰よりも早く起きて支度をしていた瞳さんは、私の様子に気付いて、横に居てくれていた。結果、お弁当は間に合わなくて謝られたけれど、あの夢を見た後は人恋しくなるので私からは感謝しかなかった。……明人は、完全にとばっちりだった。ごめん。

 当時の瞳さんと同じで、明人は私の横に座って……いや別に涙をぬぐってくれなくてもいいんだけど。ていうか私、おもいっきり寝起きだよね……母親がわりの人に寝起きをみられるのは気にならないけれど、同世代の明人には一応嫁入り前(嫁にいく予定がどこにもなくても、だ)としては微妙だったり。

 とか言いつつ、明人の体温がものすごく有り難かった。

 頬にふれた指先とか。すぐ近くにある温もりが、一人じゃないと教えてくれる。

「どんな夢なんだ?」

 話して楽になれと言われた気がした。

 明人の問いは興味本位じゃなくて、気遣ってくれたものだった。

 だからかもしれない。

 瞳さんにもちゃんと話したことがない、あの夢の内容を話してもいいと思った。

「……連れていってもらえないの。一人だけ置いていかれる夢」

 誰にかは敢えて言わなかった。

 きっと明人なら分かってくれる。

 寝台がわりにした(ベッドというには堅すぎる)長椅子で膝を抱えて話す。明人がどんな表情を向けるのか見たくなかったので視線は床に落とす。

「私も一緒に行くって、どんなに頼んでもダメとしか言われないのよ。一人にしないでって泣いて、いつも目が覚めるの」

「……いつも?」

 朝からこんな話を聞かされたからか、明人の声は固い。

「うん。高校時代までは、よく見てた。最近は見なかったんだけど……こんな状況だからかしら」

「よくって……」

「ああ、直後以外は、一ヶ月に一回あるかないかぐらいよ。それにいつも瞳さんが居てくれたから平気。ほら、時々お弁当なかった日があったでしょ。あれ私のせいだったのよ。ごめんね」

 だんだん何を言ってるのか分からなくなってきた。

「ごめんついでに、一つお願いがあるのだけど」

「なんだ」

「体かして」

 体を強ばらせた明人の返事を聞く前に、私は縋るようにすぐ近くにあった肩に顔をのせた。

 泣き顔を見られたくないし、明人の体温をもっと感じたかった。

「分かってるの。一緒に行くっていうのがどういう事なのか。だから二人が頷いてくれるはずなんて、ないって。分かってても、夢って自覚してても、言っちゃうの。夢でも会えるだけでありがたいのにね。笑っちゃうでしょ」

 違う。明人が笑うはずないのは、誰よりも知っている。単に『そんなことない』って言って欲しいだけのセリフだ。

 案の定、明人は「笑う訳ないだろう」といって、頭を撫でてくれた。それだけじゃない。体勢を変えて、ぎゅっと抱きしめてくれた。それが一番してほしいことってどうして分かったの。誘発されて、起きてからはおさまっていた涙が再び出てくる。

 ……私は、弱い。

「一人だと……ずっと思ってたのか」

 問われて初めて気付く。そう思うのは、明人や瞳さん、明さんに対して失礼な話だと。三人は最初から私を、居候じゃなくて家族として扱ってくれたのに。

「さすがに今は違うわ。一人じゃないって分かったからもう夢にみなくなったんだし」

 慌てて言う。

「でもまた見たってことは……って悪い、美弥が好きで見てるわけじゃないのに俺は何を言ってるんだか」

 後半は独り言だった。

「アキ? 気になるから最後まで言って」

 何を言おうとしたのか。困惑で涙がとまった。

 顔を上げようとしたら、明人の手が頭をおさえて遮った。胸板に顔を押しつけられた形になる。とくん、と明人の心臓の音が聞こえた。

「……弱音だけど、聞いてくれるか」

「うん」

 この状況で美弥に言うのもたいがい情けないけど、と明人は前置きした。気にしなくていいのに。

「昨日、美弥の気持ちを聞いたばかりなのに、不安になったんだ。俺といても美弥は一人だと感じてるって」

 伝わってくる明人の心臓の音が、少し早くなった。緊張してるんだろう。

「言ってもらったばっかりなのにな。そんなの言ってられる状況でもないのに、情けなくて自分に腹が立つ」

 明人の言葉を、心音を、ぼうっと聞く。

 アキったら何言ってんの、が真っ先に浮かんだ感想だった。

 次に悦び。

 明人がここまで気にかける相手は、滅多にいない。従兄妹という繋がり故だけど、明人の『特別』であるのはうれしいことだった。

「……馬鹿ね」

 素直な感想を呟くと、心音が乱れた。

「あの夢を見たのは、不安だからよ。一人だなんて思ってない。私は弱いから、また見るだろうけど、アキが隣に居てくれたら大丈夫なの。ほら、今だってもう大丈夫でしょう? だから自信もって慰めてよ」

 ずいぶん上から目線な言葉だなぁと、呆れる自分がいたけど無視する。

「俺に……どうしてほしい?」

 心音が速くなった。明人の声は、甘い。酔ってしまいそうなほどに。

「傍にいて。……一人に、しないで」

 だから今は一人だなんて思ってないと、言外に告げる。

「そんな事……ずっと、そうしてた」

「うん。だから、ここでも同じにして」

 甘い明人の声に誘われて望みを言葉にする。

 明人の優しさにつけ込んだ、このうえない大それた願望を。今の弱い私なら言っても許される気がした。

 けれど……。

「同じは無理だ」

 すっと頭が冷える。

 明人の甘さに酔っていた心が、現実に引き戻された。

 無理、か。

 知ってたことだ。あの明人を縛り付けるようなことが、出来るはずなんてないと。

 今この流れなら、優しい明人は頷いてくれるかもしれないと謀った己の卑怯さに気付かされて、違う意味で泣きたくなる。

「……そう……だよね」

 そっと体をはなそうとしたのが分かったのか、より強く抱きしめられた。

「同じだったら、また離れていってしまうかもしれないだろ。だから、もう美弥が逃げても、そのままになんてしない。ちゃんと捕まえるから」

 ………………うん?

「あ、アキ?」

 なんか違う。

 あれ? 何? なんなの、この流れ!?

「これまで以上に、一緒にいるから覚悟しとけよ」

 なんの覚悟!?

「え? え?」

 話についていけないのに、明人は抱擁をといて立ち上がった。

「とりあえず、顔でも洗いにいくか」

 言われてようやく、寝起きで泣いた後という、自分のどうしようもない状況を思い出した。うん、洗う。今すぐ洗顔したいです。


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