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1-4

◇◆◇◆ 1-4


 何故明人が夜になったら起こせと言ったのかを理解したのは、一時間後だった。

 重いのだ。

 人の頭って、特に寝てる時って、重いんだね知らなかったよ……。色恋沙汰とは縁遠い人生を送ってきたので、膝枕なんてこれが初めてだし。

 これを朝までとか、無理。

 楽になるよう体勢をかえようとしても明人を起こす訳にいかないので、限度があるし……。

 ううん……。

 しかも、暇だ。

 鞄から文庫本でも出しておけばよかったと後悔しても遅い。

 そうなると、どうしてもさっき聞いた話について考えてしまう。



 私の記憶は、最寄り駅の改札を出て二人で歩いているところで途切れている。

 明人の言っていたトラック云々というのは全く記憶にない。だからといって疑う気持ちもない。こんなことで嘘を言うような人間じゃないから。

 ただ、明人は覚えていて、私の記憶にないという事は無視出来ない……忘れちゃいけない事のような気がした。

 同時に、深く追求するのは躊躇われた。

 なんとなく、いい結論が導き出せないような。そんな予感がした。

 明人に相談したほうがいいのだろうか。

 でも私のことでこれ以上煩わせたくもない。



 結論の出ないまま、改めて明人の寝顔を眺める。

 何せ美形なので、すこしばかり見続けたところで飽きないのだ。

 私が独り身なのは当然としても、なんで明人まで独身なんだろうね。もったいない。

 早く奥さんもらって、明さんと瞳さんを安心させてあげてほしい。

 そんなことを考えながら眺めているうちに、ふと、違和感がでてきた。

 ……肌、こんなにツルツルだっけ?

 なんだかんだ言って、私たちはもう三十五歳だ。お肌の曲がり角なんてとっくに過ぎている。そりゃ明人は美形だけど、それは人類の範疇内だから、若いころと比べると肌が疲れてるのは仕方ないことなんだけど……いや、明人の場合は、元々の造作に年齢相応の落ち着きが加わって色気が増してるんだけどさ。

 それはともかくとして、今の明人は若いころのような肌をしている。触ってはないけれど、見ればわかる。そりゃ色気がだだもれするってものだ。

 若い明人に、でも三十五歳の落ち着きって、なんか無敵すぎる……。

「あ、なんかムカついてきた」

 よし。起こそう。

 気づけば夜だ。

 起こしてもいいだろう。そして何一人で若返ってるんだと文句をつけるんだ。うん。




「アキ、起きなよ」

 肩を揺すって目覚めを促す。でも眠りが深いのか起きる気配はない。

 ってことは、しばらく大丈夫だろう。

 八つ当たりを兼ねて遊んじゃえ。

「アキちゃーん」

 この呼び方を嫌がるのは知っている。ついでに頬を撫でてみると、予想通り、すべすべでいい感触だった。なんて羨ましい。あ、髭はさすがに伸びてたけれど、元々薄いのでみっともないことにはなっていない。

 何歳ぐらいの肌なのかなぁ。男性の肌なんて触るものじゃないので、私には見当もつかない。

「じゃあ、後は……」

 昔、工藤家で飼ってたミケ(三毛猫ではなく黒猫だ。命名瞳さん)を抱っこしていた時の事を思い出して、喉をごろごろする。喉仏があるって、当たり前だけど男性だなぁ。

 ミケを思い出すと猫をさわりたくなる。今度の休みは猫カフェでも行ってみようかな。その今度の休日が訪れるかどうかは考えないでおく。

「おまえさあ……」

 そんなことを考えているときに、明人の声がしたのでびっくりした。むしろ放り出さなかったのをほめてほしい。

「うわっ! お、起きてたの!?」

「誘ってんの?」

 なにをだ。

「い、いつから起きて……」

「ナイショ」

 言うつもりはないんだね。

「で、どうなの?」

 首に腕をまわして引き寄せられる。

「だから近いってば!」

 特に唇が。

「いいだろ減るもんじゃないし」

「減る!」

 主に価値が。いや、今更後生大事にとっておくものでもないけれど。

「……初めて?」

「うるさい!」

 常々セクハラ野郎は滅べばいいと思っているので、遠慮なく、明人をごろん、と押しやった。



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