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◇◆◇◆ 2-3.
明人が拗ねている間、鞄の中身の確認をした。
通勤時の持ち物だから使えそうなものは少ないけれど、皆無でもなかった。
手帳はこちらに来てからの日数の確認に。今日で二日目だからチェックをしておく。女の体はいろいろとあるので、周期の把握のためにも必要だ。あとはメモ帳部分や筆記用具も何かに役立つかも。
携帯マグも使える。水を持ち運ぶのには丁度いいだろう。あまり容量の大きいものじゃないけど、無いよりずっといい。
それから……
「……何やってんの?」
ごそごそしてるのが気になったのか、明人が胡乱げに聞いてきた。
「んー、何か役立ちそうなのないかな、って。あまりないものね。携帯マグと……裁縫セットと爪切りぐらい?」
「……爪切り?」
「携帯用の小さいのだけどね。爪割れたのそのままにしとけないから、あると便利よ」
あとは糸をちょっと切るのとか、持ち歩いていると意外と重宝するのだ。
「そうか……」
何故遠い目をしてるのかしらね?
「それで、これからどうする? アキはここの人に会わないとって言ったけど、どうやって?」
この会話を続けるのは不毛だから、話をかえる。
「正直なところ、悩んでる」
明人はため息をついた。
「ここに留まったところで先はじり貧だ。それは確かなんだけど……」
じゃあ移動しましょう、とならないのはこの建物の立地が原因だ。
顔を洗う時に外に出て、改めて周囲を確認してぞっとしたものだ。周りに建物が何も見あたらない。背後の林をのぞいたら、一面の平原だった。遠くに山は見えたけどそこにたどり着くのにどれぐらいかかるか考えるだけでめまいがする。
人里はどこ? 何故こんな立地に建物を作ったんだろうか。資材を運ぶのだって大変だっただろうに。
「移動をする自信はないわね」
部活をやっていた頃の明人ならともかく、インドア人間の私の体力なんて虚しいものだ。
「とりあえず林で何か食べれるものあるか探してくる」
「……まあそれが現実的かしら……」
食料が手に入れば移動に踏み切れるかもしれない。
「二人で探せば何か見つかるかもね」
一日過ごした感想だけど、季節としては春か秋だ。ここに四季があれば、だけど。陽が落ちると少し肌寒さを感じるものの、極端に冷え込む訳でもない。だから何かしら果実が実ってることは期待出来る……ような気がする。
「いや、俺が探してくるからここで待っててくれないか」
「え……」
明人の言葉は、想定外だった。
どうしてと、自分でも驚くほど動揺する。
「嫌よ……私も行く」
「だってお前、虫とか苦手だろ。だったら」
気遣いゆえの言葉と分かって、ほんの少し安心した。でも……。
「一人にしないって言ったばかりじゃない」
滑稽なほど動揺した原因は、これだ。
明人が、目の届かないところに行ってしまうことへの不安。
怖いのだ。
明人は大丈夫だろうかと、一人で待つことの不安。それに耐えるよりは、多少の苦手のほうがマシだ。
それにここは知らない世界だ。そんなところで、一人でいるのは怖い。
「ちょっとのぞくだけだから、大丈夫だよ」
明人は安心させるように笑みを浮かべる。
「でも……」
明人が大丈夫というのなら、大丈夫なんだろう。
「まずは様子見だけですぐ帰ってくるから。な? それに荷物持って行くのも大変だから、美弥がここで荷物番しててくれると助かる」
頭を撫でられる。子供扱いしないでと思ったけど、今私が言ってるのは子供じみたワガママだから仕方ないのか。
「俺が美弥とした約束をやぶったことはないだろう」
「……うん」
中身アラフォーとしては、聞き分けるべきだろう。
「お願いだから無茶はしないでね」
「勿論」
明人はニヤリと笑って……え、ニヤリ?
「アキ? ……え、な……」
問いは封じられた。
唇に柔らかいものがふれている。目の前には明人のアップが。
この状況が何を示すかぐらい、私にだって分かる。
明人に、キスされている。
「これだけ心配されると嬉しいもんだな」
あっという間だったのか、そうじゃないのかは、呆然としていたので分からない。
はなれた明人はしれっと、平然と、そう言った。
「美弥から元気もらったから、行ってくる」
「あ……えっと……行ってらっしゃい」
明人の姿が見えなくなってから、体中の力が抜けて長椅子に座り込む。いや、へたりこむ。
え、何? なんだったの今の。
「アキと……キス?」
まだ感触の残る唇を指でなぞる。
「なんで……」
どうして明人があんな事をしたのかさっぱり分からない。でも口づけられたのは事実だ。
どう捉えたらいいのだろうか。さっぱり訳が分からない。
どうしよう……。
ようやくここまで……。あらすじ詐欺状態だったので早くここまで辿りつきたかったです。良かった…!




