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1ー1

よろしくお願いします。

◇◆◇◆ 1ー1


 明人がライターで枯枝に火をつけるのを、横になったままぼうっと眺める。乾燥しきった枝ではないからか、少し手間取ったものの、すぐに炎になる。手のひらサイズのたき火であっても、安心できるものだと知る。

「アキって、サバイバル能力もあったんだ」

 声をかけると、驚いたようにみられた。

「起きたのか」

「うん」

 上半身を起こす。寝ている時より周囲の様子が目にはいってきた。


 ここはどこだろう。

 私たちがいるのは、石造りの建物の端だった。

 端、というのは、数歩先から土がむき出しになっているのと、背後には建物があったから。そのさらに向こうには森……まではいかなくても、林レベルの木々が見えた。たき火の元になった枝は、きっとそこから調達したのだろう。

 林があることからも、多分、ここは建物の正面ではない。

 段差があったので椅子がわりに腰掛ける。


「ここ、どこ?」

「さあ」

 だよねぇ。

「まあ俺の知ってる場所ではないかな」

 そりゃそうだ。

「美弥は?」

 おざなりに問われた。知ってるはずないんだけど、一応礼儀で聞いておくか、みたいな。

「私の知ってる場所でもないね」

 現代の標準的な日本人なので、石畳よりもアスファルトのほうが身近だし、自然はもっと人の手が入ったものが馴染みがある。

 感覚が、ここは私の知っている日本の都市ではないと告げていた。

 そんなところに、なんでいるんだろう。

 しかも、明人と一緒に。



 明人の名字は工藤という。

 そして私の名字も工藤だ。

 工藤明人と、工藤美弥。

 すごく多い訳じゃないけれど学年に二人ぐらいはいそうな、全国名字多いランキングでは二桁順位には入っているであろう(調べたことはない)『工藤』という姓を二人が持っているのは偶然じゃない。

 だからといって兄弟でも、ましてや夫婦でもない。

 父の兄が、明人の父親だという、つまり従兄妹の関係だ。



 明人の両親に、私は頭があがらない。

 なぜなら、私が中学の時に事故で両親が他界した後、私を引き取ってくれて(でも養子縁組はしていない)、育ててくれたからだ。

 元々家族ぐるみで仲良くしてもらっていたけれど、それでも子供一人を引き取るのは並大抵のことではない。金銭的にも、そのほかの面でも、たくさん迷惑をかけたことだろう。年頃の男女が一つ屋根の下で暮らすことにあれこれ言う外野だっていただろうに、何も心配することはないと笑顔で一蹴してくれた。

 高卒で就職すると言う私にいいから進学しろと説得して(今思えばあれば説得というよりは、懇願、泣き落としに近かった……)大学を卒業までさせてくれた。

 明人の両親だけれど、同時に私の第二の両親といえる。

 そんな訳で、私と明人の関係は従兄妹だけれど、ただの従兄妹というよりは関係が近い。何せ、大学卒業まで、一つ屋根の下で暮らしていたのだ。

 私たちは同い年で、今年、いわゆるアラフォーの仲間入りをした三五歳だ。明人は就職と同時に、私は就職して五年目に一人暮らしを始めたから今は同居ではないけどね。

 兄妹(残念なことに、明人は春生まれ、私は秋生まれなので、明人のほうが月上だ)といってもいいだろう。

 ただ世間様はそうは見てくれなかった。



 繰り返そう。

 明人の両親に、私は頭があがらない。

 第二の両親といっていいぐらい感謝してるし、慕ってもいる。

 だけど。

 明人に関しては別だ。

 なぜなら、明人のせいで、私の人生はハードモードになっているのだから。



「美弥が読んでる話だと、こういう展開もよくあるんじゃないか?」

 暇つぶしだろうか。話をふられた。揶揄する響きがほんの少しあったのには気付かないフリをする。

「そういうのは最近は読んでないけど……」

 でもまあ昔はよく読んでいた。最近は推理小説が多い。って今は関係ないか。

 目が覚めたら知らない場所にいました、というのは、ファンタジー小説ではわりと定番の展開だ。

 いくつか心当たりを思い浮かべる。

 私が読書好きなのは小さい頃からだけれど、大人になってからも読みふける原因の一つが明人にあるなんて知らないんだろうなぁと思いつつ。

「偶然か誰かの意図かは別にして、移動させられちゃったパターンよね」

 ドッキリでもない限りは。

「問題は移動先だけど、国内、海外、異世界、現在過去未来といろんなケースがあるかな」

「どれだと思う?」

「ああ、あと、夢の中、というのも」

 明人の問いを無視する。

「でも火は暖かいし、石畳は冷たくて固いし、あんまり夢って感じはしないよね」

 明人のほうを見ようともせずに淡々と言う私に、苛立った視線が向けられたのは分かった。

 うん。感じ悪いのは私だよね。

 会話続けようともせずに、顔もあげずに。

 でもさ、私は言いたい。声を大にして言いたい。


 何故そんなに色気がだだもれているのか。

 

 慣れて耐性がついているはずの私であっても、ちょっと、困るぐらいだ。

 疲労があるのだろう。ややくたびれた様子がいい感じに隙になっていて、うっかりときめいてしまいそうだ。

 さすが歩くフェロモン、歩く人たらし(どちらも命名は私)。

 他に誰もいないからって、従兄妹相手に発揮しないでほしい。


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