第二話 出産現場にいる冷静な赤ちゃん
年月日不明 時刻不明 場所不明
……意識を刈り取られてから、ずいぶんと長い時間が経ったことと思う。 どういっていいのかわからないが、なんというか、海に包まれるようだ。
決して不快感はない。だが、暖かいとか、冷たいとか、そういう感覚がまるでなく、何の感情も浮かんでこない。あくまで静かで、私は流されていた。
しばらくすると、急に理性と感情が芽生えた。そして、急に息苦しくなる。
いままでの安定は突如として崩れ去り、生への欲求が高まり、欲望へと昇華する。そして私は、大きく息を吸い……
「オギャァァッ!オギャァァッ!」
「xx、xxxxxxxx!」
------何ということだろうか。
1日もたつと、私はこの身に起こっている奇怪な状況に狼狽え、恐怖していた。
果たして、40を過ぎた中年が瞬時にして赤ん坊になるなど、考えられることなのだろうか?
「xxxxxx!xx、xxxxxxx!」
「xxxxx、xxxxxxx!」
周りにいるのは、誰だろうか。聞いたこともない言語をしゃべっている。
目も霞む。
黒髪で、黒髭のなかなか顔の渋い、それでいて人をひきつけるような魅力ある男性。
もう一人、母親になるのか、彼女は荒い息を吐いてはいるが、私のほうを見て、笑顔になっている。
手前には、使用人、だろうか。背の高い女性と、対照的に背の低い女性二人が、親同様微笑を浮かべている。
私はふと、この異様な状況に適応しようとしている自分に気がついた。
そもそも、ここはどこだろうか。
私は、アメリカに向かうべく飛行機に乗っていたはずだ。いったい……
輪廻転生、というものだろうか?
仏教の考え方では、キリスト教とは違い、魂に終わりがなく、生物の種類関係なしに、その魂が引き継がれていく、と考えられている。ということは、また人間に転生できた自分は、相当運がいいのかもしれない。
いや、待てよ。確か輪廻転生って、転生するときに記憶は消去されるのではなかったのか。なぜ自分は過去の記憶を持っているんだ?
まったく持って意味不明だ。
と、ここまで考えて、私は重要なことに気がつく。
(私は、何で死んだんだ?……)
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