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異世界での新たな人生  作者: ミタニ
第一章 波乱万丈?学園生活
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第十六話 新しい考え



 この本を書いたデイナンド・ヒューリーは、ただの元軍医であるにもかかわらず、医学界に強い権力を持っている。それは、彼が開発した「マード」によるものが大きい。


 そもそも、魔法を使いすぎると、体内の魔法を使うための魔素……現代風に言うならMPだが、それが異常に低下する。魔素が極端に減ると気絶し、最悪の場合死に至る。するとこれを感知した脳が異常事態と判断し、魔素の放出をできるだけ抑えようとする。つまり体が「セーブモード」に入るわけだ。これ自体に問題はない。しばらくすれば自然に体内の魔素量が増えていくからだ。


 ところが稀に、この異常事態を脳が感知せず、セーブモードに入らないときがある。これは脳の魔法を司る分野が未発達であるからとされているが、この状態が長く続くと、体は魔素欠乏状態になり、呼吸困難・昏睡・多機能障害などの病気を併発する。すると、重大な後遺症や死に至るケースもある。これを「魔素欠乏症候群」という。世界中の魔法医学者、医学者たちがこの問題に頭を悩ませてきた。もはや魔法は生活と一体化していて、切り離せない問題だったのだ。


 1401年、バルベリア戦役にてデイナンド・ヒューリーは出征先のノーベリで、現地のチャルコネという草を使った料理が魔素欠乏症候群の兵士の症状を緩和したことに目をつけ、チャルコネの葉から「MEM」という物質を取り出すのに成功した。ヒューリーはその物質とまたいくつかの薬を混ぜた「MERD」、マードを開発。これにより当時の魔法医学界、医学界を震え上がらせた。軍医が大発見をしでかしたのである。


 そんな彼はこの本を書いた後引退し、今は医学の研究をしていると聞く。


 これは、もしかしなくてもチャンスなんじゃないか?


 彼らがなぜ私を探していたかはともかく、この研究成果をデイナンド・ヒューリーにみてもらうのは、十分に価値あることだと思われた。






 で、だ。その結果どうなったか。


 「うーん。これは……見てくれダントン、どう思う?」


 「あまりよろしくないな……」


 二人の反応は芳しくない。ヒューリー氏は私にしゃべり始めた。


 「ワーテル君、君が知らなかっただけだと思うが……この論文は出さないほうがいいよ、君のためにもね」


 ……どういうことだ?


 「まず、だが……君の言うところの「感染症」、今までわれわれ医者が原因不明の病気として扱ってきたこの病だが、この論文によると君は、それは目には見えない「微生物」の影響によるものだとしている。そうだね?」


 「そのとおりです」


 「問題はそこさ。微生物に対しての魔法による抵抗手段は「抗化」しかない。つまり、魔法医学でなく医学で挑まなければならないんだ」


 「……どういう意味です?」


 「世界中の医学者をかき集めても、この国の魔法医学者(魔法によって医学を研究している人たち)の数には届かないっていったらわかるかい?……不足しているんだよ、圧倒的に、医学者がね。まあ無理もない。多くの人は、魔法が万能だと信じている。新しい魔法を作れば、疫病が駆逐されると思っているんだ。かく言う私も、これを見るまではそうだったよ」


 そんなに医学者は少ないのか。


 「新しい魔法を使えば、駆逐できるのでは?」


 「無理だよ。魔法は微生物みたいな小さいものを相手にできない。少なくとも目に見えるものの全体にしか効力を発揮しない。もしそんな魔法ができたとしたら、一緒に患者も死んでしまう」


 この世界で全体観的病理学が進歩しているのは、魔法の特性によるものなのか。


 「……待ってください。そうだとしても、なぜそれが出さないほうがいい理由になるんですか?」


 「魔法は教会と国によって保護されている。学園なんてそのもっともたる例だ。あそこで国の魔法医学者たちが研究しているんだよ?絶対不可能なものを見つけようとしているんだ。多額な国民の税金を使ってね。もしそれが、一介の学生に「魔法医学では問題を解決することは不可能です」なんていわれたら、魔法医学者の地位は極端に低下する。とんでもないバッシングがくるのは確実だ。最悪、君を亡き者にしようとするものもいるかもしれない。」


 なんということだ。既存の価値観を変化させるのには、とんでもない努力が必要なのだ。

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