表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界での新たな人生  作者: ミタニ
第一章 波乱万丈?学園生活
12/16

第十二話 金の代わり

 1433年5月20日 16:30 アルグラッド王国 学園


「な!?」


 外が暑くなりはじめた五月の終わり、研究室で私はらしからぬ大声で叫んだ。教授が、「予算はもう出ない」と言ったのだ。


 「な、なぜですか?」


 「……先日の教授会で、もう環境学部はいらないんじゃないかってね。そう言われたんだよ。そうなれば当然、予算も出ない」


 教授の声は、若干低かった。


 環境学部が、なくなる?


 「僕は、まだ入って半年もたっていないんですよ!?いくらなんでも、いきなりすぎます!それに、まだ顕微鏡だって……」


 できていないのに、と言おうとして、私は口をつぐんだ。教授にこれ以上言っても、仕方ないのだ。


 「……環境学部は、今の一年生が進学するまで、残すそうだ。だから君は、それまでに学部申請を出さなければならない。残念だが、仕方ないんだ」


 教授はうなだれて、ため息をついた。その姿は、私が知る教授とは違う。


 「……教授」


 「なんだい?」


 「何で……どうして、反対しなかったんですか!?」


 「……あの教授の爺さんたちは頑固者だ。何を言ったって無理さ」


 もはや教授にはなかった。希望も、勇気も、力も。そして、研究者としての好奇心も。ただひとつの失敗で。彼女は、もはや教授ではなく、彼女であった。


 私は何もいえなかった。見ていられなかった。まるで、過去の自分を見ているようで。自分もあんなだったのだろうか。一度の失敗で、簡単に諦めている。私の妻は、そんな私を見ていたのか。


 私はいたたまれなくなり、研究室を出て行った。






 講堂の廊下を歩きながら、私は考えていた。


 医学、工学、生物。どこの研究室でも、作ろうと思えば、顕微鏡を作れるだろう。しかし、とてもそんな気にはなれなかった。


 冷静に考えれば、言い訳がましい理由も思いつく。その顕微鏡と、微生物群の発見論文があれば、もしかしたら、環境学部は存続するかもしれない。


 しかし、今の私にはそんなことは問題ではなかった。ただ今わかることは、この燃え盛る激情が濁流のように私の理性を飲み込んで押し流し、私の足を首都へ、ヨーゼフの前へ推し進めているということだ。






 濁流は沈静化し、首都につくころには私の理性が再び息を吹き返していた。学園を飛び出し、ヨーゼフが経営している商会の前に来たまではいいが、さてどうするか。


 金の当てはない。実験的にいくつかつくるといっても、5か10は作らねばなるまい、そうなれば最大20000R、現代の価値にして200万円。


 親に頼めばどうにかなるかもしれないが、関係が冷え切っている今、それは無謀だ。


 そう考えていると、目の前に一人の男が現れた。ヨーゼフだ。


 「おやおや、どうされましたか、ジョン・ワーテルさん。そんなところにいないで、中に入られては?」


 彼はもともと好青年だったが、今はさらにまぶしく見えた。






 応接間に案内され、紅茶を飲んで一息つくと、私は状況を話し始めた。


 「そういうことでしたか……あなたも災難でしたね」


 「その、お願いがあります。どうか、お金を貸してくれないでしょうか」


 誠実な願いだった。彼は、少しも驚く様子はなかった。すでに予期していたようだった。そしてすました顔で、


 「……わたしは職人であり、商人です。この「顕微鏡」の価値、わからないわけじゃない。だから金は貸しましょう。しかし、ひとつだけ条件があります」


 「いったい、何でしょうか」


 一つの条件。私は緊張して聞く。


 「卒業後、うちの商会に入ってください」

 

2000PV、500UV、応援ありがとうございます!これからもがんばります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ