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出会いの神様が現れたのは桜の花が舞う頃に

作者: タロ

本当は四月中に投稿したかった話です。

 人生何度目かの春。

 桜の花は、まだ蕾。

 十代で迎えることが出来る春は、もうすでに片手で数えられるくらいになった。

 指折り数えると、さすがに少し焦りも感じた。

 このままではいけない。

 そんな気がして、とりあえず神社に来た。

 困った時の神頼みだ。

 最寄りの、良く言えば自然の声が聞こえるような静けさのある、現実を見て言えば人がいなくて閑散としている、そんな神社に自転車をこいできた。

 鳥居をくぐり、真っ直ぐに進み、賽銭箱の前に立つ。

 そこで財布を開き、ボクは肩を落とすことになる。

 この神社には良縁を願う為に来た。ならば、お賽銭にはゲンを担いで五円玉が妥当だろうと、それしかないように思われる。それなのに、財布の中に五円玉はなかった。

 こういうところでも運が無いことを思い知らされているようだ。

 仕方が無いので、他の硬貨ですませることにした。さすがに一円玉は気が引けるし、百円はもったいないので、十円玉を一枚、賽銭箱に投げ入れた。

 パンパンと二回手を合わせ、神様にお願いする。

「どうか、良い出会いがありますように」



 ボクの願いは、叶うかどうか。

 それは、神のみぞ知る。

「賽銭ぐらいケチるなよ」

 というか、この神様次第だ。

 御参りを済ませ、帰ろうと踵を返したかけたボクの前に、どこからともなく二十歳前後の男が現れた。ジーパンにTシャツ、サンダル履きというラフな格好をした男。賽銭箱の上に座り、頬杖をついている。

 彼は、どうやら神様らしい。

「俺、神様」

 ボクの前に現れ、そう自己紹介してきた。

 どこからともなく現れた男が自分を神様だと言った。だからといって、はいそうですか、と簡単に納得できるものではない。

 だが、ただの不審者と断定するのは少々不気味である。

 この際、神様のような男が現れたということにしよう。

 そういうことにした。

 問題は、この予想外の出会いが、良いモノかどうかだ。



「よっと」

 神様のような男が、賽銭箱の上から飛び降りた。

 ボクの前に立つ男からは、神々しい感じがしない。どちらかというと、近所のお兄さん感の方が強い。

 だが、この人は自分を神様だという。

「出会いを望んでいるようだな、青年」

 ボクの願いを、言い当てた。

「ちゃんと聞いていてくれたのですね」

 やはり神様だ、そう信じかけたが、先程、自分で声に出していたことを思い出す。

「ああ、そこの陰からしっかり聞いた」

「他人の願いを盗み聞きするなんて…」

 非難しようと思ったが、

「だって、俺、神様だし。願いは聞かないと」

 と言われたら、何も言い返せない。

 しかし、

「ちゃんと願いを聞いてくれるのですか、神様として」

 そのことに気付くと、イヤな思いも吹き飛んだ。



 ボクの願い。

 それは『良い出会い』だ。

 人生を劇的に変えるほどで無くていい。

 マンガのような面白い展開も無くていい。

 ただ、今をすこし変えるような『良い出会い』がほしい。

 お願い、神様のような男。

「却下」



 ボクの願いは、即座に神様のような男に断られた。

「ちょ、待ってください!却下って…」

「言葉通りの意味だ」

「叶えてくれないのですか?」

「だって、なんか面白くない」

 まさかの理由だった。

「えっ、ちょっと…」神様ってそんないい加減なの?

 ボクが戸惑っていると、

「ちなみに経験上 言わせてもらうと、マンガのような出会いは危ないぞ」

 神様のような男が、そう言った。

 ポケットを探り、神様のような男は、数冊のマンガ本を取り出した。

 それは、すべてタイトルの異なる、しかしすべて一巻と書かれた本だった。

「見てみろ」手渡されたマンガ本を開いて見た。「それがマンガ的出会いだ」

 最初に見てみたマンガ本では、寝坊してしまい慌てて登校する主人公の男が、曲がり角で食パンをくわえた女の子とぶつかって、それがファーストコンタクトとなっていた。

「曲がり角でぶつかるのって、結構痛いぞ。それが互いに急いで走っていたら尚更だ。ドンとぶつかって『キャッ!』じゃ済まないって。それに食パンをくわえながら走るのも、俺的にはナイ。細かいようだけど、最低限のマナーは守ってほしいからさ」

 二冊目に見たマンガ本では、見知らぬ女の子と少しエッチなトラブルがあり、その場はビンタの一発で済んだのだが、あとで隣に引っ越してきたという始まりだった。

「ビンタされたくないよ。過失の割合がフィフティ・フィフティなら、ビンタされた分は納得できるものじゃない。というか、そうは言うけどビンタで済むのなら、まだいい方だよ。下手したら痴漢の容疑をかけられて、ブタ箱行きってこともあるから。痴漢で冤罪とか、ホントに避けたい」

 三冊目に見たマンガ本は少し特殊で、異なる星から地球にやってきた女の子との話だった。宇宙船の故障で空から降ってきた生身の女の子とぶつかって、話が始まる。

「降ってくるな、ってね。首とかやったらシャレにならないよ、ホント。徒歩ならもしかしたら被害は最小かもしれないけど、こっちが自転車や車だったら最悪。どんなに気をつけていても、こっちが悪いことにされるから」

 四冊目を開こうとすると、

「それは面白くない」

 読む前から神様のような男は、否定した。

 まるで恨みでもあるかのように、神様のような男は、マンガにケチをつけていた。

 全部に目を通すと、

「これらの出会いはオススメしない」

 と言われた。

 別にそうなってほしいと期待したワケではないが、なんか釈然としなかった。

 たぶん、嫌いではないラブコメというジャンルを全否定された気がしたからだろう。

 だが、

「俺もこういう展開 嫌いじゃないけどな」

 と神様のような男は、言った。

 いよいよワケが分からない。



 ボクが混乱していると、「こういう出会いは現実的じゃないし、お前には向いていない」と神様のような男が言った。

「というか、そもそもお前は、出会いに向いていない」

「えっ?」

 ボクは、唖然とした。

『良い出会い』を神様にお願いしようとしたら、出会いに向いていないと言われた。

 そんな、出会いに向き不向きがあるのか、そう問おうとしたら、

「だってお前、世界に無関心だろ」

 と言われた。

 その言葉は、チクリとボクの胸に突き刺さった。

 たしかに、そう心の中で頷いた。

 世界にというと大袈裟な気はするが、たしかに『外』に対する関心は薄い。

 出会いがないと言うボクは、まだ十代、機会なんてあちこちにある。部活をやるなりバイトをするなり、授業のとき隣に座った人に話しかけてみるだけでも、じゅうぶんなきっかけとなるはずだ。少なくとも、神社に神頼みしに来るよりは。

 ほんとは、わかっている。

 出会いがほしいけど、出会いが怖いだけだって。

 彼女がいなくても、友達がいる。

 友達がいなくても、飯は食える。

 一人でも、生きるだけなら不自由ない。

 誰かと一緒だと面倒くさいことも多いからとか、自分を曲げないといけないこともあってそれがイヤだとか、どうでもいい理由をつけて、ボクは一人を選んだ。

 でも、たまに寂しくなる。

 一人がツライというかイヤというか、よくわからないけど心が誰かを求めている。

 だから、ボクは願った。

『良い出会い』を。

 ボクにとって都合の良い、そんな出会いを。

 そんなボクに、神様のような男が言った。

「お前は、出会いに向いていない」

「……そうかも、しれません」

 何か言い返そうとしたら、肯定の言葉が口をついて出た。

 やはり、ボク自身、気付いているのだ。

 気付いているのに知らないでいるフリしている事を、神様のような男に言われた。

「お前が無関心でいようとする世界は、お前よりももっとお前に無関心だ」

「……はい…」

「窓も扉もない部屋に閉じこもったヤツに、誰が会いに来る? そんな状態で、どんな出会いが起こる?」

 遠慮のない神様のような男の言葉が、ズキズキと胸に刺さった。

 見て見ぬフリをしていた現実を、眼前に突き付けられた気分だ。

 ボクはなんて甘いことを言っていたのだろうと気付かされ、自分で自分が嫌になる。

 なんならもう、この安っぽい自己嫌悪も不快に感じる。

 わかっているよ、わかっているけど…。

 どうしたらいいかわからない。

 全部がぜんぶ、嫌になる

「不貞腐れるなって」

 神様のような男にそう言われ、ボクは口をヘの字に曲げ「なってません」と返した。

 そんなボクに呆れたように溜め息を一つつくと、神様のような男が言った。

「人は、変われるし、変われないし、変わらない」

「……え?」

「とりあえず俺が言える事として、お前は、お前らしくあればいいってことだ」

 そう言われ、ボクは神様のような男を睨むような眼つきで見た。

 そうやって見た顔は、冗談を言っているようではなく、だからといって変に真面目でもなく、どこか笑っているように見えた。

「今のお前に出来ることは何だ? ケチった賽銭を出すことじゃないだろ。たった一歩の、勇気を出すことだ」

「…勇気」

「気安く頑張れとは言わない。そんな頑張れるヤツじゃないだろ。だから、ほんのちょっとでいい、ちょっと頑張れ」

「ちょっと、頑張る…」

「ちょっとだけなら、出会いらしいシチュエーションも作ってやるからさ」

 フッと微笑しながらそう言うと、指をパチンと鳴らし、神様のような男は消えた。



 不思議な体験をしたなと思い、帰ろうとすると、空から何か降ってくるのに気付いた。

 手を伸ばすと、桜の花びらが手に乗った。

 上を見上げると、来た時にまだ蕾だった桜の花が満開に咲いている。

 ボクも頑張れるかな、そう空に問い掛け、ボクは歩き出した。


『出会い』をテーマにしてみました。

私も『出会い』は苦手なタイプで、ちゃんとできれば、という個人的な想いが入っているかもしれません。

でも、『ちゃんと』ってどういうことなのと悩むから、こういう話になったのだと思います。

とりあえず、気まぐれで起こしたものでもいいから勇気を持って『外』と触れあえよ、的な。一種の自己啓発もあるかも、みたいな。


きっかけがほしいとか思う、軟弱思考の私でした。

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