第二章 参戦
哨戒航宙に出ていたチェスター・アーサーは、シャルンホルスト級航宙戦艦旗艦「ヒマリア」の中で、父であるアルフレッド・アーサー軍事統括から、至急星系に戻る様命じられた。
星系外に出ていた為、五光時の行程を終え、第一軍事衛星に帰還したチェスターは、父のアルフレッドよりアンドリューが、リギルが勝手に始めたミルファク星系とのミールワッツをめぐる攻防戦に参戦するよう命じられた。
帰還したばかりであり、艦隊の収拾、整備等を急いで行っても、一ヶ月半は掛るとアルフレッドに言ったが、評議会代表アヤコ・ヤマモトより一ヶ月で出動するように命じられる。
チェスターは、哨戒活動に出ている第一艦隊を緊急で呼び集め、補給、整備の準備をしている第一軍事衛星で効率を無視して、帰還した分艦隊から順に整備と補給を始めた。そして補給と整備の済んだ分艦隊を、衛星軌道上に待機させて、最後の分艦隊が帰還後、すぐにミールワッツに向けて発進した。
チェスターは、ミールワッツの戦況を判断し、星系連合体「ユニオン」合同艦隊を勝利に導いた。
第二章 参戦
(1)
WGC3045/11/19
チェスター・アーサー中将率いる第一艦隊第一分艦隊七二隻は、第一軍事衛星“ミラン”の手前〇.五光時、資源惑星“バデス”と“カミュー”の中間点辺りを航宙している。
第四惑星“カミュー”は資源惑星であると共に“バデス”からの鉱物資源を原材料や加工品にする工業惑星でもある。スコープビジョンに映る“バデス”と“カミュー”を見ながらアーサーは、四年前・・首都星“オリオン”と“バデス”の間を往復する貨物輸送艦に副艦長として乗艦していた・・の事を思い出していた。
「アーサー副艦長、何をうれしそうな顔をしている」
艦長の問いかけに
「うれしそうな顔をしていますか」
「ああ、うれしそうな顔をしている」
「もしそう見えるなら、たぶん自分が、この仕事を楽しんでいるからでしょう」
「楽しい?そうか君はこの仕事が楽しいか」
「羨ましい限りだな。俺たち貨物乗りは、航宙艦教習学校出てから、“ずーっ”と貨物乗りだ。俺も輸送会社を何社か渡り歩いて、やっとこの大手輸送会社マクシミリアン・デリバリーに就職できた。お前さんみたいにコネで入って三年間お遊びで仕事している輩とは、ずいぶん違う世界だよ」
それだけ言うと艦長は、アーサーの顔も見ずにスクリーンに映る航路映像を見ていた。
艦長の言葉に一瞬“かっ”となったが確かにその通りだった。
アーサー家に生まれて何不自由無く生き、星系士官学校にも幼年課程からずっとだ。ロベルトの顔を見ると何も言わない親友の顔が自分自身を映し出していた。
「ロベルト、そんなに俺は世間知らずか」
交代時間にロベルト・ラーカイルと一緒にラウンジでコーヒーを飲みながら聞いたアーサーに
「お前、本当にその質問しているのか。もし冗談なら聞き流すが、真面目に聞いているなら怒るぞ」
真面目な顔で言う親友に黙ったまま壁に映る外の景色に視線を外さないでいると
「チェスター、お前には全てが手に有ったとは言わないが、少なくとも“生活の為に生きる”というものを感じたことが無いだろう。この世界のたぶん一握りの人間を除いて、生きるために仕事をしているんだ。お前みたいに明日ここを追い出されても食べる事も住む事も何も悩まない人間なっていないんだ」
そこまで言うと少し間をおいてロベルトはチェスターの顔を見た。
「チェスター、人は何故、上を目指すか解るか」
「それは、仕事で結果を出したからだろう」
ロベルトは、怒りがこみ上げてくる自分自身を感じた。思いっきり“バカヤロー”と言って目の前にいる男を殴ってここを立ち去れば、自分自身は済む事だ。
だがこいつはどうする。自分自身の感情と気持ちを整理するのに少しの時間が掛かったロベルトは、言葉を出さない親友を不思議そうに見る男に
「チェスター、はっきり言う。お前は世間知らず過ぎる。結果を出して上にあがれるなら一兵卒も星系評議会の代表になれるだろう。上にあがるということは、権力が手に入るんだ。収入も多くなる、生活も良くなる、周りからもその立場の目で見てもらえる。だから上に行きたいんだ。だがな、結果だけで上にあがれるのはお前の一族位なものだ。ほとんどの人間は、どんなにがんばっても努力して結果を出しても上にはいけない。何故だと思う。既得権を持っている人間が上に上がろうとするやつを蹴るからさ。そして同じ競争にいるやつは、足を引っ張ろうとする。そして自分が上がろうとする。既得権者は自分の立場の跡継ぎが、自分の都合の良い人間だけを引揚げようとする。それが世の中だ」
一呼吸置くと
「チェスター。人がお前に一目置くのは、お前の能力が人並み優れているからではない。お前の家系を見ているんだよ。それが解らない限り、引かれたレールの上を走っているだけだ」
ロベルトはチェスターの顔を見た。途中からロベルトの顔を見ながら話を聞き続ける親友は、話が区切れると
「そうか」
と言って、また壁に映る景色を見た。広大な宇宙、真っ暗な宇宙が光学分析によって輝く光となって現れている。
“おれは、理解できたのだろうか。見える将来を嫌って飛び出したものの、たった二年でこの世界に戻ってきた。結局先の見えるレールの上を一生懸命走るだけなのだろうか。あれからもう四年になる。そしてこの前の巡回監視の事も、あいつは俺の世間知らずが原因だと言った”ばらばらな思考の中でスコープビジョンに映る映像に視線を流していると
「司令官、第一軍事衛星“ミラン”まで二時間です」
タフト艦長の定時報告に司令官席をリクライニングにしていたアーサーは、シートを元に戻すとその切れ長の目をスコープビジョンに向けた。目の前にまだ小さい首都星“オリオン”と見えない“ミラン”が映っていた。
・・第一軍事衛星“ミラン”
基本的な構造と大きさは、リギル星系の軍事衛星と変わらない。直径八キロ、厚さ二キロの円盤形の軍事要塞である。一個艦隊が駐留できる。軍艦艇は円盤の上側から順に戦艦、航宙空母が第一層、巡航戦艦、重巡航艦が第二層、軽巡航艦、駆逐艦が第三層、そして第四層が哨戒艦、特設艦、工作艦、輸送艦、強襲揚陸艦のドックヤードになっている。
ドックヤードは円盤の外周部から二キロまでとなっており、その内側直系六キロを円盤の上部から居住地区、商用地区、工業地区、資材地区と順に中心部に向かっている。円盤の中心分にこの軍事衛星の心臓部とも呼ぶエネルギープラントとグラビティユニットがある。
更に円盤の上部外側は特殊軽合金クリスタルパネルで覆われておりこの中に住む人々の空気、水、食料をまかなっている。物理的な用件は同じだが、リギル星系との違いは軍事、経済、司法、警察の中枢部は首都星の衛星軌道上に浮かんでいる衛星ではなく、首都星“オリオン”にあるということだ。
そしてリギル星系からの戦闘艦技術供与と共に、以前の主力艦オルデベルン級航宙戦艦より一回り大きくなったシャルンホルスト級航宙戦艦のために宙港を大きくしている。
アンドリュー星系では、軍事要塞が四つ、商用衛星が三つ首都星“オリオン”の五〇〇キロ上空の衛星軌道上を回っている。各衛星とも“オリオン”との連絡は連絡艇による。
その第一軍事衛星“ミラン”に緊急帰還命令を受けたチェスター・アーサーは戻ってきた。
第一艦隊第一分艦隊は、第一軍事衛星“ミラン”の手前で衛星と相対軌道で停止すると
「第一軍事衛星宙港管制センター。こちら第一艦隊第一分艦隊司令官アーサー中将。入港の許可を申請する」
数秒後、
「こちら第一軍事衛星宙港管制センター。第一艦隊第一分艦隊の入港を許可。各艦は各宙港センターの指示に従い入港せよ」
第一分艦隊が、標準航行隊形を解き、各艦のゲートが待つ各層へ進み始めると第一層でも入港の準備が始まった。
「こちら第一層宙港管理センター。第一分艦隊は、各艦第一ゲートより第一五ゲートまで指定航路より誘導ビームに乗り入港せよ」
この指示に一五隻のシャルンホルスト級航宙戦艦が、前後の隊形を解き姿勢制御ノズルを噴射させながら横にスライドし始める。扇型の広いほうの辺が横に伸び自分が入港するゲート手前に展開し始めた。まるで巨大な生き物が横一直線に並んだようだ。
展開が終えると宙港の巨大なゲートの第一番から第一五番までの宇宙側ハッチが開いた。艦側から見ると巨大な真っ白い筒が空いているようだ。ゲートのスロープから赤色の誘導ビームが出される。
「第一艦隊第一分艦隊旗艦“ヒマリア”、第一ゲートリンク準備」
管制官の声に“ヒマリア”がゆっくりと前進する。第一番ゲートの一番宇宙側にあるスロープから出ている誘導ビームに艦のエッジがリンクすると
「誘導ビームリンク。入港します」
巨大な艦体がゆっくりとゲートの中に入っていく。高さ一五〇メートル、奥行き七〇〇メートルの巨大なゲートだ。ゲートの両側にある幅一〇メートルの通路の間を進みながら進んでいく。艦全体が全て入り終わると一旦停止しゆっくりと下がり始めた。
艦の三分の一程下がると何本ものランチャーロックがゲートのスロープの下から伸び、しっかりと艦とホールドした。
「ヒマリア、ランチャーロックオン」
管制官の声が伝わってきた。やがて艦からでは見えないが、今まで開いていた宇宙側のゲートが両側から出てきた扉でクローズされると
「ゲートクローズ。エアーロック」
そして
「エアーリリース」
しばらくすると艦の前にあった巨大な衛星側の扉が開いた。タフト艦長が立ち上がって司令官席に振り向き、
「アーサー総司令官。旗艦“ヒマリア”第一軍事衛星“ミラン”に帰港しました」
敬礼をしながら報告するタフト艦長にアーサーは、アンドリュー星系軍式敬礼をすると
「ご苦労」
一言だけ言うと目元を緩ませた。
管制官フロアでは、帰港後の手続きが始まっている。それを耳にしながらアーサーは、敬礼をしているヘンドル主席参謀に目をやると着いて来いという目配せをして艦橋を後にした。
帰港後、その足で首都星“オリオン”まで降りたアーサーは、別方面の巡回監視から戻っていた第一艦隊左翼R2G司令官ロベルト・カーライル少将と共に星系軍本部ビルに向かった。
「アーサー提督、ご苦労様です」
軍事統括のオフィスには、父であるアルフレッド・アーサー軍事統括とアヤコ・ヤマモト星系評議会代表がいた。チェスター・アーサーがドアから入ってくるなり声をかけたヤマモトは、真剣はまなざしでチェスターを見た。
「いかがしたのですか」
「情報部からの報告です。現在、ミルファクで星系では、ミールワッツ星系を自星系とするため、現在行っている鉱床探査を中止するどころか、二個艦隊を向かわせるという情報が入りました」
一呼吸置くと
「同盟星系であるリギル星系とペルリオン星系そして我アンドリュー星系が、評議会を開き、ミルファクの横暴に対応すべく協議した結果、ミールワッツ星系に艦隊を派遣し、ミルファク星系の鉱床探査を阻止する事を決定しました。我星系としても一個艦隊を派遣する事で同意し、第一艦隊を派遣する事にしました。問題は、その派遣時期です。12/16には、出航しないといけません」
そこまで聞いたチェスターは、
「待って下さい。第一艦隊はほとんどが、巡回監視航宙に出ています。これから収集をかけ出動の為の補給と整備を行うには、最低一ヶ月は掛かります。それに何故我艦隊なのですか。第二、第三、第四艦隊もあるではないですか。現在航宙中の第一艦隊を使わなくても良いのではないですか」
チェスターの言葉に軍事統括であるアルフレッド・アーサーは、
「第一艦隊の他の分艦隊には、私の名前で帰還命令を出した。その交代として第二艦隊を
各巡回監視宙域に向かわせている」
そこまで言うとチェスターの顔をもう一度しっかり見て
「チェスター、第三艦隊と第四艦隊は、まだ編成したばかりで巡回監視もおぼつかない事はお前も知っているだろう。今この派遣に向えるのは、お前の第一艦隊だけだ。時間は無いが何とかするしかない」
少しの間、無言の時間が続いた。チェスターは、父であるアーサー軍事統括とヤマモト星系代表の顔をゆっくりと交互に見るとアンドリュー星系軍指揮敬礼をして
「解りました。最善の努力をします」
そう言ってテーブルに映し出されている星系間航路の映像を見た。
「チェスター。それとひとつ頼みがある。今回はリギル星系経由で言ってほしい。我星系が開拓したミールワッツ星系への直接航路は使わないでほしい。理由はわかるな」
軍事統括の言葉に“理解しています”と言葉でなく顎を引いて頷くとパッド式の命令書を受け取った。
チェスターは、軍事統括オフィスをエレベータで一階まで降りて、星系軍本部ビルのラウンジで待っているカーライルのところへ行った。カーライルに声を掛け、星系軍本部のビルを出ると自走エアカーを呼び航宙軍宿舎のある方向へ向った。
「ロベルト、また忙しくなる。“ミラン”へは明日戻るから家に戻ってもいいぞ。俺は、準備しなければいけないことがあるのでこのまま軍のオフィスへ行く」
「アーサー中将、どのような話だったのですか」
アーサーの問いに答えずに緊急帰還の理由を聞いたカーライルに
「ミールワッツ星系へ派遣される。目的はミルファク星系のミールワッツ星系鉱床探査阻止だ。“ユニオン同盟”として出動する。一ヵ月後だ」
「一ヵ月後」
カーライルは出動までの期間の短さに一瞬戸惑ったが、アーサーが引き受けたからには理由があるのだろうと思いそれ以上聞く事はしなかった。
結局、ミールワッツ派遣艦隊として出動する事に決まったのは、
シャルンホルスト級航宙戦艦四〇隻
テルマー級航宙巡洋戦艦四〇隻
ロックウッド級航宙重巡洋艦六四隻
ハインリヒ級航宙軽巡洋艦六四隻
ヘーメラー級航宙駆逐艦一九二隻
ビーンズ級哨戒艦一九二隻
ライト級高速補給艦二四隻
エリザベート級航宙母艦二〇隻
総艦艇数六三六である。通常この編成ならばエリザベート級航宙空母は三二隻を擁するが、アンドリュー星系軍は、航宙軍の必要性からあまり戦闘機を必要としない為、通常より少ない艦数となっている。
WGC 3045/12/16
アンドリュー星系軍第一艦隊は、第一軍事衛星“ミラン”を出航し、リギル星系経由でミールワッツ星系へ向った。
(2)
チェスター・アーサー率いるアンドリュー星系軍第一艦隊六三六隻は、リギル星系を廻してミールワッツ星系に到着した。リギル星系から技術供与を受け開発したシャルンホルスト級航宙戦艦四〇隻、テルマー級航宙巡航戦艦四〇隻、ロックウッド級航宙重巡航艦六四隻、ハインリヒ級航宙軽巡航艦六四隻、ヘーメラー級航宙駆逐艦一九二隻、ビーンズ級哨戒艦一九二隻、ライト級高速補給艦二四隻、エリザベート級航宙母艦二〇隻である。
「まだ戦闘は始まっていないようだ」
先行する哨戒艦の情報とスコープビジョンに映る状況を通して戦況が見えている。ミルファク星系軍は第二、三惑星のミルファク星系跳躍点方面四光時に布陣していた。リギル星系軍は、やはり第二、三惑星手前、一光時を航宙している。
「全艦に告ぐ、こちらアーサー司令官だ。第二級戦闘隊形にてリギル星系軍との合流地点に向かう。合流点一光時手前で戦闘隊形を変える。以上だ」
アーサーの命令に艦の両弦に円形の独特のレーダーを持つビーンズ級哨戒艦が前後左右の前面に展開すると細長いが両弦にレールキャノンとミサイル発射管を前後に付けたヘーメラー級航宙駆逐艦がその後に続いた。
哨戒艦が展開した中心点を三角形の頂点にして後方へ広がるように、艦型が同じでミサイル発射管を両腕でぶら提げるようにしたハインリヒ航宙軽巡航艦、ロックウッド級航宙重巡航艦が展開し、その後ろに丸みを持つが大型の重量感漂うテルマー級巡航戦艦が続く。そして守られるようにライト級高速輸送艦が後ろに付くと更にその後ろにエリザベート級航宙母艦とシャルンホルスト級航宙戦艦が着く。
哨戒艦の十文字に二枚の三角形になった戦闘艦がそろうとアーサーは、口元にあるコムに向かって
「全艦発進」と言った。
スクリーンビジョンに映る艦隊の先頭の艦のマーカーが順次グリーンからブルーに遷移するとやがて旗艦“ヒマリア”も進撃を開始した。
アンドリュー星系軍が、ミールワッツ星系内で航宙を開始してから一五時間が経過した頃
「総司令官、ペルリオン星系軍が到着しました。艦数三〇八隻、シャルンホルスト級航宙戦艦二〇隻、テルマー級航宙巡航戦艦二〇隻、ロックウッド級航宙重巡航艦三二隻、ハインリヒ級航宙軽巡航艦三二隻、ヘーメラー級航宙駆逐艦九六隻、ビーンズ級哨戒艦九六隻、ライト級高速補給艦一二隻です」
タフト艦長の報告に司令官席のリクライニングを基に戻しスクリーンビジョンの左前方を見ると
「思ったより艦数が少ないな。ヤマモト星系代表から話は聞いていたが、あれでは、足手まといになるだけだろう。編成も変則だ」
タフト艦長の報告を示すかのようにスクリーンビジョンのアンドリュー星系軍の下に表される艦型の数にアーサーは首をひねった。それからすぐに
「総司令官、リギル星系軍、ミルファク星系軍とも前進を始めました」
その報告に“いよいよ始まるか”宙賊との戦闘は経験しているが、星系軍の艦隊同士での戦闘経験のないアーサーは、胸の高鳴りを感じた。
それから一〇時間後、
「総司令官、ペルリオン星系軍が、ミルファク星系軍右翼に向け長距離ミサイルを発射しました」
「なんだと」
「どういうつもりだ。一光時手前で長距離ミサイルを慣性航法で発射しても全て撃ち落とされるのが関の山だろう。あれは秘匿に利用するから効果がある。アンドリュー星系軍の司令官はシュティール・アイゼル中将と言ったな。ヤマモト星系代表から温厚な性格だと聞いていたが、愚か者なのか」
それから更に一〇時間後、
「総司令官、ペルリオン星系軍、ミルファク星系軍戦闘機隊により全艦行き足止まりました」
タフト艦長の報告に
「当たり前だ。何をしている。あれではミルファク星系軍に戦端を開く口実を与えたようなものではないか。それに戦闘機群を持っていなければ、こうなるのは見えている」
アーサーは、あることを思い親友であり左翼艦隊R2G司令官カーライル少将を呼び出し
「ロベルト、どう思う」
「アンドリュー星系軍シュティール・アイゼル中将の目的はこの状態に置かれる事が目的で、慣性航法で長距離ミサイルを発射したのではないでしょうか。慣性航法の長距離ミサイルは、遠距離からでは迎撃がされやすいのは航宙艦乗りならば誰でも解っています。そして自らの軍は、航宙母艦を持っていないこともペルリオン星系軍は解っています。更にミルファク星系とペルリオン星系との間には何の問題がないことも。つまり自軍を今回の戦闘に巻き込まさせない為の演技ではないでしょうか」
「やはり、お前もそう思うか。しかしあれでは、リギル星系軍が釣り出されるぞ」
「それは、リギル星系軍の器量です」
親友の考えに顎を引いて頷くとスクリーンビジョンを見つめなおした。
それから五時間後
「総司令官、リギル星系軍、ペルリオン星系軍に艦隊を向けた中央、左翼が、ミルファク星系軍の中央、右翼の攻撃にさらされています」続いて
「リギル星系軍右翼左側面、ミルファク星系軍左翼の猛攻を受けています」
戦場まで後一光時、このまま当初の合流地点に行っても効果がないと考えたアーサーは、自身の考えをまとめた後、
「ヘンドル主席参謀、どう思う」
と聞いた。主席参謀マクシミリアン・ヘンドル大佐は、自分の右後ろに座る声の主の方を振り向くと
「このまま戦場に急行してもリギル軍の戦力が激減している中で我軍が到着しても相応の被害を被るだけです」
一度言葉を切ると
「ミルファク星系軍左翼が、リギル星系軍の右翼に対する攻勢が強く、あのままでは、右翼を破られ、横から中央、左翼と攻撃を受け、リギル星系軍は、敗退を余儀なくされます。ここは、あのミルファク星系軍左翼を攻撃し、全体の状況を変えることが得策だと思いますが」
「やはりそう思うか。敵左翼は、リギル星系軍の右翼を左舷一〇時方向から攻撃を加えている。彼らの進行方向はおのずと明確だ」
そこまで言うとコムを口元にして
「第一艦隊全艦に告ぐ。こちら総司令官チェスター・アーサー中将だ。第一級戦闘隊形をとる。但し戦場まで、まだ一光時ある。戦闘はすぐに始まらない。各艦長は三時間ずつ乗員の休憩を交代で取るようにしろ」
戦場が見えると兵士は、次に何をするのか、上官からの指示がいつ来るかと待って緊張する。戦う前に疲れていてはどうしようもない。ここは総司令官自ら各艦長に乗員を休ませるように指示を出せば、少しでも緊張をほぐすことが出来ると考えた。
「我軍のほとんどの兵士は、艦隊戦を経験していない。少しでも気持ちを楽にしてやらないと疲れるだろうからな」
アーサーは、タフト艦長とヘンドル主席参謀の顔を見ながら言うと二人とも目元を少し緩ませた。
「総司令官も少しお休みになったらどうですか」
タフト艦長は、自らの命令を実践して下さいと目で言うと、アーサーは、すこし笑って
「そうだな、少し休んでくるとするか。変化があったらすぐに教えてくれ」
そう言って司令官席を立つと艦橋の外へ出た。それを見ていたタフト艦長はコムを口にして
「全員に告ぐ、これから交代で休憩に入る。各部署は三時間ずつの交代をするように」
艦長の声に管制官フロアでも管制官が立ち始めた。
ミールワッツ星系にアンドリュー星系軍が現れてから既に四〇時間が経っていた。
「タフト艦長、上手く迂回で来たようだな」
アンドリュー星系軍は、左舷一一時方向にミルファク星系軍左翼を一光分手前で捉えていた。
「総司令官、そろそろ先行させた長距離ミサイル第一陣がミルファク星系軍左翼に届きます」
アーサーは、一光時手前で全艦をミルファク星系軍左翼一〇時方向に進ませた後、三〇光分手前でパッシブモードの慣性航法で長距離ミサイルを発射した。それを一〇分差で二度発射した。戦闘中、レーダーをアクティブモードで周辺警戒している艦隊を自身が知られずに攻撃する手段だ。しかし注意していれば気が付くはずであった。
しかしミルファク星系軍左翼艦隊は、リギル星系軍右翼の攻撃に夢中で気がつかないでいた。
「ミサイル第一波、到着」
言うが早いか、スクリーンビジョンの左前方が真っ白に輝いた。
攻撃を受けたのは、ミルファク星系軍チャン・ギヨン中将率いる第一八艦隊で有った。更に一〇分後、第一八艦隊を長距離ミサイル第二波が襲った。
「敵、被害甚大。混乱しています」
レーダー管制官からの報告に
「全艦、左舷一一時方向の敵を撃つ。全艦主砲斉射」
アーサーはコムに向って冷静な声で命令すると、攻撃管制官の指示に攻撃管制システムは、各艦一斉に主砲を斉射した。
シャルンホルスト級航宙戦艦とテルマー級航宙巡航戦艦が持つ口径一六メートルメガ粒子砲、ロックウッド級航宙重巡航艦、ハインリヒ級航宙軽巡航艦、ヘーメラー級航宙駆逐艦が持つレールキャノンが一斉に主砲を斉射した。
前方にシールドエネルギーを全開していたミルファク星系軍は、左舷後方から攻撃をまともに受けた。後方にはアガメムノン級航宙戦艦、アルテミス級航宙空母、ポセイドン級航宙巡航戦艦が配置されている。一撃で破壊される事は無いが、突然の後方からの攻撃にミルファク星系軍第一八艦隊は混乱を極めた。
「全艦、このまま直進、敵左翼の後方を進みつつリギル軍中央と右翼の間を通り、第二、第三惑星の地上設備を叩く」
アーサーは命令すると自分の作戦が上手く行き、リギル星系軍が不利になっていた戦況を自分が変れると信じて疑わなかった。既にミルファク星系軍第一八艦隊の真後ろに位置し攻撃軸がそれている。左舷前方に敵艦隊を見ながら前進している。
「リギル星系軍はボロボロだが、何とか挽回出来そうだな」そう思っていた時、
「左舷エネルギー波接近」
「なにっ」
アンドリュー星系軍の左翼先頭にいたヘーメラー級航宙駆逐艦の側面のシールドが、いとも簡単に破られ装甲に当ったと思った瞬間、眩いばかりの光を発し粒子エネルギーは、一気に反対側の装甲も貫いた。一瞬だけ何事もなかったように漂った後、爆発を起こした。
そのすぐ後ろにいたハインリヒ航宙軽巡航艦は、シールドの効果も無く粒子エネルギーが装甲に当った瞬間、大爆発を起こした。内部の核融合炉を直撃したのだ。
更に後方のロックウッド級航宙重巡航艦のミサイル発射管を支える腕の少し前の部分に粒子エネルギーがぶつかった。シールドが眩い光を発した後、装甲にエネルギーがぶつかった。一瞬耐えたかのように思えた装甲は、真っ赤に焼けた鉄の棒をスチロールの塊に押しつけられるように溶けていくと反対側の装甲を破り、艦前方に大穴をあけた。そのまま前進を続けている。しかし攻撃はもう不可能だろう。
今の一撃で一〇隻の艦が破壊され、一五隻の艦が攻撃不能になった。
「第二射きます」
アンドリュー星系軍は最大艦速で進行していた為、一射目で開いた穴の後方の艦隊、テルマー級航宙巡航戦艦、エリザベート級航宙空母に衝撃が走った。巡航戦艦のシールドは重巡航艦等から比べれば強力だが、側面は前方ほど強くない。更に前面シールドにエネルギーを集中した為、側面シールドが弱くなっていた。
そこにリギル星系軍のシャルンホルスト級航宙戦艦の後部にある一六メートルメガ粒子砲から発射された荷電陽電子の束が突き刺さったのである。全長五〇〇メートルを誇るテルマー級航宙巡航戦艦もこのエネルギーは、防ぎきれなかった。
側面シールドに当った粒子エネルギーは、少しだけ耐えていたシールドを破ると巡航戦艦の側面装甲下部に当った。中距離ミサイル発射管が、解けるように破壊され、そのまま一気に反対側に突き抜けた。まるで艦底をナイフで削られたかの様である。航行には支障がないが、戦力のほとんどを削り取られた。
エリザベート級航宙空母は、側面シールドを破られると“ミレニアン”発着ゲートを覆う様にしている側面装甲に粒子エネルギーが当った。強烈な光を発して少しだけ耐えていた側面装甲は、カッターで引き裂かれた様に破られ、発進準備をしていた戦闘機群を一瞬にして溶かし、反対側の装甲側面を内側から突き破って抜けていった。“ミレニアン”の発着格納庫は、緊急ガードが起き上がり空気の流出を防いでいるはずだ。
修復しても大半が不可能だろう。
アンドリュー星系軍を攻撃したのは、ミルファク星系軍チャン・ギヨン中将率いる第一八艦隊だ。アンドリュー星系軍が、後方からの攻撃は出来ないと考え、後方一〇万キロの至近で通過しようとしたため、戦艦レベルのメガ粒子をもろに浴びさせられたのだ。
今までの“うっぷん”を晴らすかのように航宙戦艦、航宙巡航戦艦の後部からメガ粒子砲を発射している。至近の為、シャルンホルスト級航宙戦艦の側面シールドでも防ぎきれない。まるで左舷にいる艦隊が、攻撃が出来ないまま一方的に削り取られて行くようだ。
更に、前方には、第一八艦隊の無傷な右翼が右舷回頭し、正面から迫って来た。
アーサーは、自軍の不利を悟ると既に口元にあったコムに向かって
「全艦、俯角三〇度。全速」コムが飛びそうな勢いで叫ぶと、いつの間にか握りしめていた手の中に生温かいものを感じた。
三時間後、第一八艦隊の反撃を振り切ったアンドリュー星系軍は、リギル星系軍中央、デリル・シャイン中将率いる第二艦隊の後方へと位置していた。
スコープビジョンで戦況を見ていたアーサーは、“三個艦隊戦同士の戦闘で必死の様だな。惑星上空を防御する艦隊はいないようだ”そう考えると
「全艦に告ぐ、これから、第二、第三惑星衛星軌道上まで降下し、ミルファク星系軍の地上設備を叩く。重巡航艦を衛星周回軌道上に展開させ、その周りを戦艦と巡航戦艦を含む他に艦で守る。以上だ」
アーサーの命令に、重巡航艦が先行し、その後に他の艦が続いた。
「重巡航艦、地上からの反撃に注意しろ。全て破壊して構わない」
その考えにヘンドル主席参謀は、司令官席を振向いたが、顔をみるなり
「構わん、必要なら作ればいい。今はミルファク星系軍の交戦理由をなくすことが先決だ」
アーサーの考えに“解りました”と目で答えた主席参謀は、正面を向き直し、先行する重巡航艦の推進ノズルから出る光を見た。
衛星周回軌道上に展開した重巡航艦は、その両腕にぶら下げている片弦一六門のミサイル発射管から二艦合計六四発の長距離ミサイルを発射した。大気がない為、ミサイルに抵抗はない。きれい放物線を描いて長距離ミサイルが落下していく。
「ミサイル着弾します」
ミサイル管制官の声にスクープビジョンを見ているとミルファク星系軍が鉱床探査用に作った簡易施設と機材、周辺倉庫が爆発で一瞬見えなくなった後、煙と塵の中から高く舞い上がった破片が四方に散らばった。
やがて舞い上がった爆発の塵が鎮まると施設があった辺り一面にいくつもの大きなクレーターが出来、元はそこに何があったのか、全く解らないほど破壊されていた。
“これからだな。どうこの始末をつけるのか。リギルとアンドリューは”そう一人思っていた。
「総司令官、ミルファク星系軍が反航戦を行いながらリギル星系軍の間を抜けて行きます。我軍も応戦しますか」
タフト艦長からの報告に
「止めておこう。我軍に攻撃して来るならともかく、あれは撤退の為の強行策だ。これ以上要らぬ犠牲を出す必要ない」
そう言ってアーサーは、先ほどまで関わっていたスコープビジョンに映る戦闘をまるで他人事のように見ていた。
「総司令官。リギル星系軍司令官デリル・シャイン中将から連絡が入っています」
既に戦闘が終結し、ポッドの回収に当っていたアンドリュー星系軍にリギル星系軍から連絡が入った。
「デリル・シャイン中将から」
アーサーは、リギル星系軍に名のある司令官がいると聞いていた。その名前が確かデリル・シャインだという事を思い出すと
「すぐにつないでくれ」
と指示を出した。
数秒後、目の前のスクリーンにデリル・シャインとユアン・ファイツアーの映像が現れた。
「アーサー提督。まずはお礼を言います。この度の派遣と貴官の機転の利いた行動により敵の目的を砕く事が出来ました。ありがとうございます」
そう言うとアーサーは、
「ファイツアー提督、シャイン提督初めてお目にかかります。アンドリュー星系軍司令官チェスター・アーサーです。間に合ってよかった。本来は、後五日後の予定でしたが、ヤマモト評議会代表の強い意向で急行したのが功を奏したようです」
そう言うと一旦言葉を切り、
「我艦隊の救命ポッドも救出したいので、挨拶は救出後にしたいのですが、よろしいですか」
アーサーの依頼にファイツアーは、自星系軍が先に救命ポッドを回収している事を思い出し、
「まずは回収を優先して下さい。その後、再度お会いしましょう」
そう言って短い会話が切れた。
(3)
「アーサー、よく帰ってきた」
敬礼をするチェスター・アーサーに父の軍事統括アルフレッド・アーサー大将は、声を掛けた。軍人としての結果より前に、人の父親として戦いから無事に帰ってきた我が息子への言葉であった。
「申し訳ありません。自分の思慮の無さに要らぬ犠牲を出しました」
華々しい成果を横にして自身の反省を先にする息子に心を感じた父は、
「チェスター、しかたない。報告書を見たが、ミルファク星系の航宙戦艦の後部に我軍の主砲に匹敵する粒子砲を装備しているとは、情報部もつかんでいなかった事だ」
「しかし」
「気にするな。全てを背負ってはならぬ」
孫の言葉に言うまいと思っていた祖父のウイリアム・アーサー軍事顧問の声をチェスターは、自身の足元を見つめながら聞いていた。
第一軍事衛星“ミラン”にある第一艦隊本部ビルを後にしたアーサーは、親友のロベルト・カーライルと共に上級士官クラブに居た。
「チェスター、悔しいか」
「ああ、悔しい。俺があそこでミルファク星系軍左翼の後ろを通らず、敵の左舷を同航戦をしながら進めば徹底的叩きのめせた。敵の右舷の攻撃も後方に装備されていた粒子砲も食らう事が無かった。要らぬ犠牲も出す必要が無かった。全ては、俺のせいだ」
ワイングラスの中の黒すぐりとラズベリーそして野いちごを合わせたような魅惑な色合いを見ながら赤ワインの表面のほんの少し透明な液体の部分に自分の瞳を映し、チェスターは隣に座る親友に他の人には言えない心の悔しさを表した。
「チェスター、君の祖父、ウイリアム・アーサー軍事顧問もおっしゃられていた。全てを背負うなと。俺もそう思う」
ロベルトは、ワインを少し口に含み口の中に漂わせた後、ゆっくりと喉の中に流れさす。
「今回のお前の作戦は、正しかった。あそこで敵左翼の後ろを通って、敵左翼右舷を攻撃しながら第二、第三惑星に進攻し、攻撃するのは誰だって考える事だ。相手の装備を知らない状況であの選択は正しい」
「・・・・・」
チェスターは、自分の中の完璧さ・・生まれて初めて知る失敗という言葉の現実に・・何かが崩れていくのを感じていた。
「ロベルト、今回の被害は技術的常識しかなかった俺に対する戒めだ。星系軍航宙戦艦技術部に俺の考えを伝えて新しい発想による戦艦を作らせたい」
「アーサー、しかし大変だぞ。あの堅物どもの頭を動かすのは。そもそも我星系は独自開発による戦艦を持たない。全てリギル星系からの技術供与によるものだ」
「だからこそ、そろそろアンドリュー星系独自の新型艦の開発技術力を高める時期が来ているんだ。今のままでは、いつまで経ってもリギルの後塵を拝したままだ。情報では、リギル星系軍は新たな航宙戦艦と航宙巡航戦艦を開発中というではないか。我アンドリュー星系軍が、いつもリギル星系軍より一世代古い戦艦を持たせられる時代を断ち切らないといけない。来るべき時の為にも」
「お前、まさか・・・・・」
アーサーは、片手に持っているワインを飲み干すとロベルトにこれから到来するであろう時代の先見を話した。
「アーサー提督、これが提督からのご意見を参考に設計し開発したシャルンホルスト級航宙戦艦とテルマー級航宙巡航戦艦の改良型です。主砲以外の変更はない為、艦型に変更はありませんが、主砲の機構は大幅に変更されています」
開発部長は、一呼吸置いた後、別の映像に変えた。
「これをご覧下さい。従来は陽電子荷電ユニットから射出された粒子は直線的に加速器の中を通り集束レンズにて前部砲塔より発射されましたが、今回開発した回転型メガ粒子砲は、陽電子荷電ユニットから加速器を通った後、反射プレートにより二重屈折され、砲塔内の集束レンズを通って発射されます。構造上口径は一二メートルになり従来より小型になりますが、小型化になった分、回転型砲塔に主砲を二門装備できます。これを前部に二つ背負い式に装備し、後部に一つ装備しています。前方のみの攻撃では、四門となりますが、艦進行方向のみの射線軸だった従来艦では出来ない横方向六門、後方二門の攻撃が可能になります」
アーサーは、第一次ミールワッツ星系攻防戦で悔しい思いをした経験を基に前方一辺倒だった主砲射線軸を艦進行方向とは関係ないものに出来ないか航宙戦艦技術部に依頼した。
当初技術部では、何を無理な事を言っていると相手にしなかったが、航宙軍作戦本部勤務のランドルフ・オクスウエル中将が航宙軍艦制本部に掛け合い実現したものだ。
自分自身の失敗を元に次の作戦では新たな戦術で望みたかったアーサーは、技術部が開発した回転式メガ粒子砲“アーメッド”に満足していた。
「技術部長、これを装備した艦の航宙試験はいつ可能だ」
「閣下、静止状態での試験は終わっています。航宙試験は、来週、第五惑星“バデス”宙域にて行うことになっています」
「第五惑星“バデス”宙域」
どうしてそこまで行くのかと疑問に思っているとそれを察したように
「新型砲塔は回転式です。静止状態で撃てたからと行って航宙しながら撃った時、どのような事が起こるかわかりません。民間艦が無い状況でかつ他星系の情報員が知り得ない宙域で行うのが良いと考えた次第です」
開発部長の言葉に確かにその通りだと思ったアーサーは、開発部長の少し自慢げな顔を見ながら軽く頷いた。
WGC3046/04
アンドリュー星系評議会代表兼星系連合体“ユニオン”評議委員アヤコ・ヤマモトは、リギル星系の星系連合体“ユニオン”のオフィスにいた。
「ファイツアー議長、もう一度言って頂けますか」
「ヤマモト評議委員、ミルファク星系が再度ミールワッツに進攻するという情報を我星系情報部が入手しました。三個艦隊と聞いています。我軍は先の第一次ミールワッツ攻防戦で損害が大きく二個艦隊を出すのがやっとです。そこでミールワッツ星系防衛のためにアンドリュー星系に一個艦隊を出して頂きたい。もちろん星系連合体としてです」
星系連合体“ユニオン”議長タミル・ファイツアーは、あえて“星系連合体”という言葉を出すことにより、アンドリュー星系に派遣は義務だという事を伝えたかった。
「ミールワッツ星系をミルファク星系に奪取されたとなれば、我リギル星系だけでなく、アンドリュー星系、ペルリオン星系の今後にも影響が出ます。ここは星系連合体としてミルファク星系を打ち破り、ミールワッツ星系の取得をするのは無理だという事を教えさせなければなりません」
「我アンドリュー星系でも、先の戦闘では被害を出しています。それの修復には時間が掛かります。直ぐに一個艦隊を出せと言われて出せるものではありません」
ヤマモトは、あることが頭にあり、ここは時間稼ぎが得策だと考えていた。
「ご存知のように我アンドリュー星系軍は、リギル星系軍のように常設戦闘艦隊ではありません。通常は輸送艦の護衛や巡回監視を主な任務としています。早々に一個艦隊を戦闘部隊として出すわけには行かないのです」
「しかし、全開のミールワッツ攻防戦では、すばやい対応をしてくれたではないですか」
食い下がるファイツアーに
「あの時はすでにミルファク星系軍がミールワッツ星系にいて鉱床探査を行っていました。更に増援が来るとあっては、ミールワッツを自星系とするのを黙ってみている訳には行かなかったのです。しかし、今回は、情報だけです。ミールワッツ星系にミルファク軍がいる訳でもありません」
一呼吸置くと
「ペルリオン星系軍はどうなんですか」
ミールワッツ攻防戦の時、戦術の失敗の責任を取らされ、罷免されたマイク・ランドルに変わり、新たにペルリオン星系の星系代表兼星系連合体“ユニオン”の評議議員となったバリー・ゴンザレスの顔を見ながらヤマモトは意見を促した。
まだ、立場になれていないゴンザレスは、ファイツアー議長とヤマモト議員の会話を自分の世界と無縁と思って聞いていた。いきなりヤマモトに振られたゴンザレスは、紅潮した顔で
「我星系は、ご存知の様にとても艦隊を派遣できる状況ではありません。先の戦闘でも足手まといになっただけだと報告を受けています。賠償金の件もあります。今は星系の建て直しが急務の状況です」
艦隊の派遣などとんでもないという表情で語るゴンザレスに“聞くだけ無駄だな”と思っていたヤマモトは、予想通りの言葉に皮肉な嘲笑を浮かべながら“仕方ないでしょう”という顔でファイツアーの方を振り向くと
「いずれにしろ私の一存では決めかねます。アンドリュー星系に戻り、検討のうえ再度ご連絡しましょう」
ヤマモトの言葉にファイツアーは
「よろしいでしょう。しかしご返事は早くお願いします。必ず派遣して頂かなくてはいけません。これは、星系連合体としての危機と受け取ってください」
首都星“オリオン”に戻ったヤマモトは、星系評議会センタービルの自分のオフィスに軍事統括アルフレッド・アーサー大将、チェスター・アーサー中将、ランドルフ・オクスウエル中将、ロベルト・カーライル少将等主だった軍関係者と他の評議議員を向い入れ、今回のミールワッツ星系への派遣の件について話していた。
「ヤマモト代表、リギル星系は、我星系より一個艦隊を出せといってきたのですね」
「はい、一個艦隊です」
「リギル星系が二個艦隊を出すというのは、戦闘後のことも考えての事でしょう。我星系から同数の二個艦隊を出せば、勝ったとしてもミールワッツ星系のその後について話を進め辛くなりますからな」
軍事統括の意見に
「いえ、一個艦隊を出す事で我星系はリギル星系に対して非常に優位な立場になります。もし、我星系が艦隊の派遣を断れば、リギル星系は二個艦隊しか出せない。ミルファク星系は三個艦隊です。それも正規艦数の。いくらシャイン中将とマーブル中将が優れているといっても正面から向かえれば勝ったとしても相当の損害がでます。勝てない場合、ミールワッツ星系を奪取され、リギル星系にとっては、ナイフをのど元に置かれたのと同じです。その上主力艦隊も失う。そうならない為には、我星系から一個艦隊を派遣してもらわなければならない」
一度言葉を切り、出席者の顔を見ると
「今回の派遣の条件としてわが星系は、ミールワッツ星系の鉱床探査優先権と資源確保を要求します。リギル星系は、ペルリオン星系がミールワッツの鉱床を発見しても一五年もの間何もしなかったのです。彼らにとってミールワッツ星系の資源には興味がないが、ミルファク星系領になるのは困るというところでしょう。しかし我星系にとってミールワッツ星系の資源は魅力的です。既にリギル星系経由でない航路も発見してある。リギルにはまだ秘密ですが。我星系の資源確保の為にも今回は事を優位に運びます」
出席者が、目を大きく開け関心した顔をすると
「アーサー軍事統括、至急派遣する艦隊を決めてください。私は、リギル星系に今回の要求を連絡します。断ることは出来ないでしょう」
ヤマモトの考えにアーサー軍事統括は
「よろしいでしょう。今回の派遣には一度ミルファク星系軍と戦いを交えた事のあるアーサー中将率いる第一艦隊を派遣したいと考えています」
そう言って自分の息子を見た。アーサー中将は目を輝かせ、
「オクスウエル中将、早くも新型艦の能力を発揮させることができます。出撃までにどの位艦数をそろえる事ができますか。」
「アーサー中将、シャルンホルスト級航宙戦艦四〇隻、テルマー級航宙巡航戦艦四〇隻を用意できます」
自分の息子のような年齢でありながら既に戦闘も経験しているアーサーに、にこやかな顔をして言った。本来ならばチェスター・アーサーの年齢では士官学校卒業してもせいぜい重巡航戦艦の艦長、中佐クラスが出世頭というところだ。
「オクスウエル中将ありがとうございます。これでミルファクのやつらに思い知らせてやります」
高揚した感じで言う息子に
「そんなに意気込むな。積極的な思考は良いが、冷静な判断をしなければならない時に意気込むと視野が狭くなる」
親が逸る気持ちの息子を労わる様に言うと
「解っております。軍事統括」
そう言って少しだけわざとむくれた顔をした。
二人の会話を聞いていたヤマモトは、
「それでは皆さん、本日の会議はこれにて終了します」
そう言って出席者を見回した。
WGC4046/05/12
出撃を一週間前に控えたチェスターは、ロベルトと第一軍事衛星“ミラン”の士官ラウンジでグラスを交わしていた。
「アーサー、そろそろうるさいだろう」
「何が」
「何って、“妻を貰いなさい”という言葉だよ」
「ずいぶん前から言われているよ。特に祖父は、“曾孫見れないうちは死ねん”とか言っている。勘弁してほしいよ。俺はアーサー家の種馬かと思ったよ。お前こそどうなんだ」
「すごいものだ。お前について来たおかげで親よりはるかに早い出世だ。親父が准将だというのに俺は少将だ。なんともいえない気分だよ。おかげでこうだ。“いくら早く出世したからと言って妻を取れなければ一人前とはいえない”だってさ。勘弁してほしいよ」
既に二人とも三六歳になっている。星系士官学校を卒業してから既に一四年が過ぎた。
目を合わせながら笑うと
「そういえば士官学校同期卒の仲間は半分以上が結婚している。式に呼ばれる毎に、周りの見る目が違ってくる」
グラスに映る琥珀色の柔らかいとろみのような液体が氷の肌を緩やかに触っては離れていく姿を見ながら軽く指で氷を触る。
「我が家はアーサー家と違って普通の軍人一家だ。目線が同じなのだろう。お前を除くと出世頭だ。この前結婚したやつなんか出世は早いほうだが、中佐で重巡航艦の艦長だ。確か新設された第四艦隊配属だそうだ。当分戦闘にも縁が無いだろう」
琥珀の液体を少し口に含みゆっくりと喉に通すと
「自分の子供を嫁がせたいという親と俺の妻になればいい生活が出来るかもしれないと思っている女性たちの好奇の目に晒されているよ。お前はどうだ」
「久々に家に帰れば、写真の山だ。ところでなぜ俺のところに結婚式の招待状が来ないんだ」
せっかく口に含んだ琥珀色の液体が噴出しそうになるを堪えるとロベルトはアーサーを見て
「お前はほんとやっぱり世間知らずだ。解らんのか。同じ同期と言ってもお前が少将になった時、大佐である俺を除けは出世頭で少佐だ。理由はどうあれ自分の結婚式に少将になった同期をよべるか。それにアーサー家の長男だ。出席者がお前に気兼ねしてしまう」
「そんなものか。では何故お前は呼ばれるんだ」
「俺か。・・・・まあ、こんな性格だからな」
ロベルト・カーライルは、軍人の家系と言っても星系軍士官学校に入ってくる人間は多かれ少なかれ軍人の家庭に生まれ育った者ばかりだ。途中から入る者もいるが多くは幼年学校から入っている。
ロベルトもそんな一人だが、彼の明るさが多くの友人を作ったのも理由のひとつだ。アーサーとは、ほんのちょっとしたきっかけで知り合って以来の仲だ。
なんとも言えない会話の中でアーサーは、目の高さまでグラスを上げるとグラスの中で漂う琥珀色の液体と氷の交わりを通して見える向こうの景色を見ていた。
「いずれにしろ、次の作戦が終わってからだ。少し考えるか。ロベルトもな」
そう言ってグラスを差し出すアーサーに、ロベルトはわがままな奴だと心の中で思いながらグラスを差し出すと軽く“カチッ”と触れさせて一気に飲み干した。
WGC3046/05/19
第一軍事衛星“ミラン”では第一艦隊の出航の喧騒の中にあった。
第一層の航宙戦艦が出航する場所では、多くの兵士が家族との一時の別れに賑わっていた。
「アーサー軍事統括、第一艦隊出撃します」
アンドリュー星系航宙軍式敬礼をしている息子・・第一艦隊司令官アーサー中将・・の顔を見ながら期待と心配を胸に仕舞い込んで父である軍事統括アルフレッド・アーサー大将は、作りこんだ厳しい目をしながら
「よろしく頼む」
それだけ言うと答礼をした。
周りには、ウイリアム・アーサー軍事顧問、アヤコ・ヤマモト星系代表、ロベルト・カーライル少将の他、主だった星系評議会の面々がいた。
母親のマーガレットは息子の出撃を見るのはつらいといつも来ない。妹のシェリルは、母親思いながら兄には勝手気ままで“ミラン”まで行くのが面倒だから“オリオンから見てるわ”と兄の仕事に何も興味を示さない。
挨拶が終わるとロベルト・カーライルは、アーサーに敬礼をして第一艦隊左翼の指揮を取る為、少将付武官と共に自分が乗艦する“ベルンツエン”に行く為のエアカーに乗った。“ベルンツエン”は、第一艦隊左翼R2Gの旗艦で、二一番ゲートから出航する。アーサーの旗艦“ヒマリア”とは外円周にして四キロ離れている。
アーサーは、ロベルトの姿を見送ると関係者が見守る中、旗艦“ヒマリア”が係留されている一番ゲートに行く為、エアカーの走路を高架で渡る誘導路に入るともう後ろを見ずに旗艦“ヒマリア”の後ろ姿を見続けた。
「今回は、先の戦闘と違い、正面からの戦闘だ。それも三艦隊同士の」
独り言のようにアルフレッド・アーサー軍事統括はつぶやくと振返らないわが子を見て心の中に不安が募っていった。
「チェスターは、運の強い子だ。きっと大丈夫だ」
自分に言い聞かせるようにウイリアム・アーサー軍事顧問は、何も言わない孫の後姿を
見送っていた。
アンドリュー星系始まって以来の本格的な航宙戦艦同士の戦闘だ。只では済むまいと思いながら、無事に帰って来てほしいとの思いが全員の顔に表れていた。
アーサーは、ゲート脇にある誘導路に乗り一五〇メートル程行くと、誘導路から降りて艦内に通じるエスカレータに乗った。
エスカレータはちょうど推進エンジンノズルの上部装甲まで通じている。そこで一度降りてから艦橋に上がる為のエレベータに乗るのである。エスカレータを降り、一〇メートル程艦内に入ると左手にあるエレベータに乗る。
このエレベータは、艦橋司令フロアに席のある士官のみが乗るエレベータでそれ以外の者はパスが通らない。
パスをエレベータ左横のプレートに近づけるとエレベータのドアが開いた。エレベータのドアが閉じると押し下げられるような感じが続く。
実際には三〇メートルほど上層に上がる。更にエレベータを降り右手に折れて五メートルほど行くと艦橋司令フロアのドアがある。ドアは開いたままになっていた。
艦橋と言っても外に窓がついているわけではない。実際には艦の中央部一番強固な部分に置かれている。
アーサーが、入ると艦長ウイリアム・タフト大佐、主席参謀マクシミリアン・ヘンドル大佐、副参謀ハロルド・ハーランド中佐が航宙軍指揮敬礼をして総司令官を待っていた。
アーサーは答礼を行った後、司令フロア後部にある総司令官席に座ると他の士官も敬礼を止めて自分の席に座り、直ぐに自席のパネルスクリーンに指示を入力し始めた。
それから三〇分後、
「第一軍事衛星宙港管制センター。こちら第一艦隊総司令官チェスター・アーサー中将。第一艦隊の出航の許可を申請する」
しばらくすると
「こちら第一軍事衛星宙港管制センター。第一艦隊の出航を許可する。各艦は各層宙港管制センターの指示に従い出航せよ」
そう言い終わると管制官フロアが急ににぎやかになった。管制センターとのやり取り始まったのだ。
「こちら第一層宙港管制センター、第一ゲートから第四〇番ゲートまで指示に従い出航して下さい」
「こちら旗艦“ヒマリア”出港準備完了」
「こちら第一層宙港管制センター。“ヒマリア”の出港準備完了を確認。ゲートクローズ」
今まで軍事衛星側で開いていた巨大な扉が両脇から閉まってきた。少しの時間をおいて
「ゲートクローズ確認。エアロック解除。誘導ビームに乗り一番航路を使用」
航宙管制センターの声の後、今度は宇宙側の巨大な扉が左右にゆっくり開き始める。
「ランチャーロック解除。ファイヤープレイスロック解除」
航宙管制センターからの最終指示の後、
“ヒマリア”の巨体に接続されていたランチャーロックが艦の下側から離れる。同時に、今まで真っ白になっていた巨大な多元スペクトルスコープビジョン(通称スコープビジョン)が華やかに外の景色を映し出していく。
既に各層からも航宙重巡航艦や航宙駆逐艦が出航し始めていた。ゆっくりとシャルンホルスト級航宙戦艦、全長五五〇メートル、全幅一八〇メートル、全高一〇〇メートルの巨体が動き始めた。全奇数番ゲートからも同型艦の出航が始まっている。
出向時の接触を避ける為、奇数番ゲート、偶数番ゲートの順で出て行くのである。やがて奥行き七〇〇メートルのゲートを出終わると誘導ビームが先まで伸びている。一番航路まで誘導する為だ。
各艦はゲートを出ると誘導ビームに従い、自分が進むことの出来る航路を使い艦隊が隊形を整える所定の位置まで移動する。こうしないとゲート直後から混乱が始まってしまうからだ。
“ヒマリア”が出てきた反対側の宙港でも航宙空母に同じ光景が出来ている。
一時間後、アンドリュー星系軍第一艦隊六四八隻は、標準航宙隊形を取った。
アーサーは、タフト艦長と目配せをするとヘッドセットから口元にコムを降ろし
「第一艦隊発進する」
と告げた。
(4)
WGC4046、06/26
ミールワッツ星系のアンドリュー星系方面跳躍点が揺らいだ。光点が少しずつ現れるとやがておびただしい数の艦艇が現れた。チェスター・アーサー中将率いるアンドリュー星系軍第一艦隊である。
最初に現れたビーンズ級哨戒艦一九二隻は、跳躍点から出現するとすぐに十字の方向に広がった。その後にヘーメラー級航宙駆逐艦一九二隻が続く。そして中央に太く厚く艦艇が布陣しはじめる。
艦の胴体部から両弦に腕を伸ばし手で掴むようにミサイル発射管を持つハインリヒ級航宙軽巡洋艦六四隻、ロックウッド級航宙重巡洋艦六四隻だ。
その後ろに重厚な装備を持つテルマー級航宙巡洋戦艦改良型四〇隻、シャルンホルスト級航宙戦艦改良型四〇隻。そしてエリザベート級航宙母艦三二隻と続くと最後にライト級高速補給艦二四隻が現れた。
アーサーは、自艦のレーダーと哨戒艦から送られてくる情報を元にスコープビジョンに映し出される映像を見て
「ミルファク星系軍は、情報通り三個艦隊か。第三惑星まで三光時の位置にいるな」
独り言の様につぶやくと
「タフト艦長、リギル星系軍は、到着しているか」
後ろから聞こえる声の主に艦長ウイリアム・タフト大佐は振り向くと
「はっ、まだ到着していません」
と答えた。
「リギル軍は、まだか」
独り言の様に言うとまだ想定戦場となる第二、第三惑星まで三光時有る為、アーサーはのんびりと構えていた。
それから一〇時間後、
「アーサー総司令官、リギル星系方面跳躍点よりリギル星系軍が現れました」
艦長からの報告にリクライニングにしていたシートを戻すとスコープビジョンに視線を移した。
「報告通り二個艦隊です」
「やっと来たか」
リギル星系軍が現れたのを見て、
「タフト艦長。各艦の艦長宛てにメッセージを出したい。用意してくれ」
アーサーの依頼にタフト艦長は、自身のスクリーンパネルに何か打ち込むと数秒後、後ろを振り向き、総司令官を見ると
「準備が出来ました」
と告げた。アーサーは、おもむろに口元にコムを置き、
「第一艦隊全艦長に告ぐ。こちら総司令官アーサー中将だ。戦場の準備が整った様だ。だが、すぐに戦闘は始まらない。四時間交替で乗組員を休ませてくれ。十時間後、戦闘隊形を連絡する」
そう言うとコムを口元から離し、
「艦長、私も少し休んでくる」
そう言って艦橋を出た。それを見たタフト艦長は、コムを口元にして
「乗組員に告ぐ。こちらタフト艦長だ。これから四時間ずつ交代で休憩に入る。以上だ」
艦長の指示に管制官フロア以外でも最小の登板要員を残してザワザワと立ち始めた。
それを聞いた主席参謀マクシミリアン・ヘンドル大佐が
「艦長は休まれないのですか」
階級は同じだが、“ヒマリア”では、先任であるウイリアム・タフト大佐に敬意をもって言うと
「ヘンドル主席参謀。艦長は、早々には休憩に入れんよ。まあ、その内、少し休むがね」
と言うと少し目元を緩ませて笑顔を見せた。ヘンドルは、副参謀のハロルド・ハーランド中佐に
「先に休んでくれ。私はもう少しここですることがある」
と言うと自席の前にあるスクリーンパネルに何か打ち込み始めた。
アーサーは、司令官公室に戻るとすぐに執務席にあるスクリーンパネルに左翼艦隊R2G司令官ロベルト・カーライル少将を呼出す様、指示を打ち込むとシートにゆっくりと座った。やがてカーライルの敬礼をした姿が3Dスクリーンで現れると
「ロベルト。今度の戦いには、“アーメッド”の効果を十分に発揮させる。日頃の艦隊演習の成果を見せる時が来た」
心の高揚を表に出しながら言うと
「はい、今回は正面からの決戦です。日頃の成果を見せることが出来ましょう」
「ところでロベルト。呼び出したのは、伝えたい事があってだ」
ロベルト・カーライルは、“伝えたい事”と改まって言う親友に心当たりを探せないまま無言でアーサーの顔を見ているとスクリーンの映る相手の口から出た言葉に目を見開いた。
二日後、ミルファク星系軍とアンドリュー星系軍、リギル星系軍は、対峙した。
第一次ミールワッツ星系攻防戦と違い、今度はミルファク星系軍が第二、第三惑星を背にした布陣だ。
アンドリュー星系軍は、アーサー中将率いる中央の艦隊R1Gと左翼を構成するカーライル少将率いるR2Gが少し上下にずれた形で第一級戦闘隊形を取っている。
リギル星系軍はデリル・シャイン中将率いる第一艦隊とヤン・マーブル中将率いる第二艦隊が双方少し離れそれぞれ三角形の戦闘隊形を取っている。
ミルファク星系軍は、左翼が少し前に出て中央と右翼が横に並ぶL字型の隊形だ。双方接触まで後六〇光秒。双方が〇.一光速で前進する。相対速度は〇.二光速。レーダーによる攻撃可能限界だ。
接触まで四〇光秒まで迫った時、アンドリュー星系軍は、予めプログラムされた攻撃管制システムが中距離ミサイルを発射した。通常より一〇光秒早い発射である。
ミサイルが発射されたことを知るとアーサーは、コムを口元にして
「第一艦隊全艦、右舷一〇時方向に回頭せよ」
命令を出したアーサーは、ミルファク星系軍左翼がこれにどうしてくるか、半分楽しみな気持ちで見ていた。
ミルファク星系軍左翼に布陣しているのはモンティ・ゴンザレス中将率いる第七艦隊である。
「アンドリュー星系軍のやつら、どういうつもりだ。怖気づいて逃げ出すには少しはやいのではないか」
独り言をつぶやいたゴンザレスの耳に
「敵右翼艦隊、ミサイルを発射しました」
「よし、こちらも応戦しろ。三〇光秒になったらアンチミサイル発射、5光秒でmk271c(アンチミサイルレーダー網)発射」
アンドリュー星系軍から発射された三五四八発の中距離ミサイルは、ミルファク星系軍第七艦隊が発射したそれに匹敵するアンチミサイルで迎撃される。
慣性航法からアクティブモードに切り替わった中距離ミサイルはパッシブモードで相手を認識するアンチミサイルによって捕らえられると華やかな光となって散る。
スコープビジョンに映る数え切れないほどの輝きが目を覆うほどに光り輝いた。やがてアンチミサイルをすり抜けたミサイルは、mk271に捉えられる。
グリッドに触れた瞬間、瞬時に爆発と輝きとなって消滅した。しかし、mk271cは一度ミサイルが当ってしまうと回復能力がない為、その後に続くミサイルが、開いたグリッドを通り抜ける。
「ミサイルきます」
言うが早いか、第七艦隊の前方に位置する航宙駆逐艦のシールドがものすごい光と共に輝いた。衝撃波が、ヘルメース級航宙駆逐艦、全長二五〇メートル、全幅五〇メートル、全高五〇メートルの細身の艦本体を襲う。
大きな力で急ブレーキを掛けられたように艦内の乗組員が吹っ飛んだ。同じ光景が、前方に位置しているワイナー級航宙軽巡航艦でも起こっていた。
「ゴンザレス司令。左舷の敵艦隊発砲しました」
「なんだと」
正面からのミサイル攻撃に気を取られていたモンティ・ゴンザレスは、左舷方向に突き進むアンドリュー星系軍から主砲を発射できるなど夢にも思っていなかった。従来の艦に装備されているメガ粒子砲は、構造上前方のみにしか発射することが出来ないと思っていたのであまり気に留めていなかった。
アンドリュー星系軍が開発した回転型砲塔“アーメッド”を装備するシャルンホルスト級航宙戦艦四〇隻とテルマー級航宙巡航戦艦四〇隻から発射された合計四八〇本の荷電粒子が、ミルファク星系軍左翼に布陣する第七艦隊に襲い掛かったのだ。
前面にシールドエネルギーを集中していた艦隊は、航宙駆逐艦だけでなくその後方にいる軽巡航艦、重巡航艦の側面を攻撃した。
口径一二メートルの荷電粒子の四本の束と二本の束が全長三五〇メートル、全幅六〇メートル、全高六〇メートルの軽巡航戦艦の側面装甲に当ると一瞬だけ耐えたかのように見えた装甲がやがて、じわじわと艦の内部に入り込み、やがて一気に突き抜けた。
乗組員は痛みも苦しみも無いまま一瞬にして消えたに違いない。横から見ると前方二箇所と中央一箇所に大穴が開いている。爆発はしないものの、当たった衝撃のエネルギーですでに漂うだけになっている。
運悪く後部装甲に荷電粒子の束が当たったアテナ級航宙重巡航艦全長四五〇メートル、全幅六〇メートル、全高六〇メートルの巨体は、主要防御区画であるにも関わらず、戦艦からのメガ粒子砲は防げず、装甲をじりじりと溶かされると核融合炉まで達した。一瞬膨れ上がったと思った瞬間、大爆発を起こして艦体の後ろ半分がなくなった。
「エネルギー波、第二射きます」
アンドリュー星系軍は、第七艦隊の左舷一〇時方向から斜めに攻撃しているため、第七艦隊は何度も同じ位置に攻撃が行われる。艦体の左舷側を削り取られていくようだ。
当初、艦体の外側を守っていた重巡航艦や巡航戦艦も傷付いて漂い隊形の位置に穴が開くと荷電粒子のエネルギーは航宙空母まで達するようになった。
さすがのアルテミス級航宙空母も、戦艦のメガ粒子砲を艦の側面から受けたらたまらない。スパルタカス戦闘機が発着するゲートを覆うように両側に盾のように出ていた装甲が破られるとゲートで発進の準備をしていたスパルタカスがまるで棒でえぐり取られるように消えていった。
航行には支障は無いものの、戦闘には参加できない。攻撃を受けた発着艦フロアは、急激な減圧で混乱しているだろう。この状況は一隻、二隻ではなかった。同じ光景が回りに広がっている。
「そんなばかな。何故粒子砲が横方向に発射できる」
反撃も何も出来ないまま一方的に攻撃される自分の艦隊を旗艦“カリスト”の艦橋から見ていたゴンザレスは、頭に血が上るような思いでコムに向って
「第三、第五、第九部隊。時計回りに艦隊の後ろを回りアンドリューの正面を叩け」
「残り全艦、全速前進し、反時計回りにアンドリュー星系軍の後ろにつけ」
「スパルタカスを発進させろ」
第七艦隊の右翼に布陣していた部隊が、時計回り方向に動いた。三角形の戦闘隊形を取っていた攻撃を受けていない右半分が時計回りの展開をしたのである。
第七艦隊を指揮するゴンザレス中将がアンドリュー星系軍の頭を抑える形に自艦隊の右翼を振り向けた。
スコープビジョンで第七艦隊の動きを見ていたアーサーは、
“もう遅い”頭の中でつぶやくと、コムを口元にして
「前方の駆逐艦、軽巡航艦、重巡航艦は、前方から来る敵を向い撃て」
アンドリュー星系軍が第七艦隊を攻撃していたのは巡航戦艦と航宙戦艦だけである。他の艦はエネルギーを温存したまま、見ていただけだ。
第七艦隊の後ろから時計回りに進む分艦隊は、アンドリュー星系軍の前に出ると、一斉にメガ粒子砲を放った。
今までの鬱憤を晴らすかのよう巨大な束になった荷電粒子が、アンドリュー星系軍の正面に殺到した。最初の一撃は有効だった。しかし、
チェスター・アーサーが、コムに向って
「全艦、隊形アルファ2」と言った後、
大きな二つのデルタ型で少しずれた形をしていた隊形が、位置を上下で一致させたと思うと、今度は底辺の軸にそれぞれ反対側に弧を描くようになった。そしてデルタの頂点側が少し開くと一斉に主砲を発射した。
ゴンザレスもアンドリュー星系軍の後に着こうと直進と半時計周りに動いていた為、全く攻撃が出来ないでいた。頭の中では、分離した三つの分艦隊が敵の行く先を足止めしてくれると思っていた。そして後ろにまわり挟撃する。
その図を描いていたゴンザレスは、敵の理解できない動きに解らないでいたが、アンドリュー星系軍が隊形を整え終わった直後だった。いきなり三つの分艦隊に荷電粒子の巨大な束が突き刺さった。ものすごい光の数と爆発でスコープビジョンの輝度が下がった。更に二回目の爆発と光が三つの分艦隊で起きると
旗艦“カリスト”の艦橋にいた全員が息を呑んだ。
「そんなばかな」
信じられない映像に自分の目疑った。レーダー管制官が、
「第三、第五、第九部隊全滅」
「たった三射でか。たった主砲三斉射で三つの部隊が全滅したというのか」
信じられない映像に我を忘れていると
「司令官、指示を」
艦長の声が遠くに聞こえているような気がした。
ちょうど、第七艦隊がアンドリュー星系軍の後ろに着こうとした矢先だった。
「敵エネルギー波来ます」
“アーメッド”は、シャルンホルスト級航宙戦艦とテルマー級巡航戦艦に前部に背負い式に二砲塔四門、後ろに一砲塔二門を装備している。その後ろに装備された一隻二門のメガ粒子砲合計八〇門が一斉に発射されたのであった。
数が減らされ、ぼろぼろになっていた第七艦隊の正面に戦艦の主砲から発射された荷電粒子エネルギーが殺到したのだ。
ぼろぼろなっていた隊形の正面にエネルギーの束が突き刺さると、戦艦レベルの攻撃を防げない航宙駆逐艦や軽巡航艦は、シールドを簡単に破られ正面装甲に到達すると艦の中央付近まで破壊し消滅した。二射目が放たれると更に艦隊内部に到達する。
この攻撃は、ゴンザレスの指揮能力を混乱に陥れるのには十分であった。
「全艦、二時方向へ」
ゴンザレスのいきなりの指示に
「司令、まだスパルタカスが出たままです」艦長の声に顔を真っ赤にして
「解っている。直ぐに回収しろ」
その時であった。第九艦隊司令でミルファク星系軍ミールワッツ攻略部隊の総司令官であるアンデ・ボルティモア中将がいきなりゴンザレスの目の前のスクリーン躍り出た。疲れ切った顔で
「一時撤退し体制を立て直す」
と言うと直ぐに消えた。
「アーサー司令官。敵が逃げて行きます」
スコープビジョンに映る敵の動きに無言のまま見つめていたアーサーは、左舷側に映るリギル星系軍第二艦隊デリル・シャイン中将の戦法に感心していた。
「シャイン中将はやるな。あれは日々の訓練の賜物だ」
シャイン中将は“F4D隊形”を取り、四つの花びらを彷彿させる隊形で正面に対峙していたミルファク星系軍第九艦隊を攻撃していた。
第九艦隊の正面、上下、左右に位置している艦が削り取られるように攻撃力がそがれていく。
やがて、限界点に来た第九艦隊は、俯角三〇度で逃げると、それを見ていたミルファク星系軍第一〇艦隊のカルビン・コーレッジ中将もここまでと判断して、リギル星系軍第一艦と反抗戦を取りながら撤退した。
旗艦“ヒマリア”の艦橋と管制官フロアで歓声が上がった。
「完勝だ。ばんざい」
その声にアーサーは少し、目元を緩ませるとコムを口元にして
「第二駆逐艦隊と第三駆逐艦隊は、攻撃を受けた艦の乗組員の回収に当たれ」
「補給艦隊は、中破以下の艦艇の修復とミサイルの補給を行え」
素早く、指示を出した。若き司令官の対応にタフトは目元を少し緩ますと敬礼をして
「おめでとうございます」
と言った。
リギル星系軍も体制を建て直しつつある。レーダーの映像でしか捉えれなくなったミルファク星系軍を見てアーサーは、全艦に休息を指示した。
二光時まで敗走に近い撤退をしたミルファク星系軍は、混乱を極めていた。
コーレッジは、このまま撤退を提言したが、被害の大きかったゴンザレスは、このままでは帰れないと再戦を提言した。このまま帰っては良くて予備役編入か解任だ。自分の立場がないとわかっているボルティモアは、次は同じ目に合わないと言って総司令官として再度の進攻を決めた。
一日を使って整備と体制を整えたミルファク星系軍は再度アンドリュー、リギル連合軍に向って行った。
レーダーに敵の進攻が見えると
「まだやる気か」
アーサーは、半分あきれたように言うとコムに向って
「隊形アルファ2だ。今度は正面から攻撃する」
「ミレニアンを発進させろ」
アーサーは敵艦隊の奥にいる航宙空母にも攻撃を加える作戦でいた。
三角柱の前方が開いたような体系になるとアーサーは、コムに向って
「全艦。主砲斉射」
攻撃管制官が攻撃管制システムに指示を出すとそれを待っていたかのように航宙空母を除く六一六隻の主砲をもつ攻撃艦が一斉に主砲を発射した。
荷電粒子の束が正面に布陣するヘルメース級航宙駆逐艦、ワイナー級航宙軽巡航艦、アテナ級航宙重巡航艦の前面シールドに衝突する。瞬時に光量を落としたスコープビジョンでも眩しいくらいの輝きを放った。
シールドが溶解し、駆逐艦の前部装甲に衝突すると荷電粒子は、強烈な勢いで装甲を溶かし艦の内部に突入した後、荷電粒子のエネルギー消滅の代償に駆逐艦は漂うだけになった。
重巡航艦のシールドを溶解した荷電粒子は、衰えを見せることなく重巡航艦の前部装甲に当り一〇メートルメガ粒子砲六門を一瞬にして使用不能にした。
そこにおびただしい数の雷撃型ミレニアンが突入してきた。
“ミレニアン”の両弦に粒子砲の代わりに装備している、片弦二門の近距離対艦ミサイル四本が、雨のように駆逐艦、重巡航艦だけでなく、巡航戦艦や航宙空母にまで襲いかかった。
戦闘機の対艦ミサイル程度では、航行不能になることはないが、確実に戦闘能力が削がれていく。
ミルファク星系軍からも攻撃型“スパルタカス”が発進した。それをレーダーで感知した攻撃型“ミレニアン”が応戦する。彼我共に至近の交戦である為、瞬時の判断が生死を分ける。
アルテミス級航宙空母から発艦した“スパルタカス”が運悪く、“ミレニアン”の粒子砲に捉えられる。至近と言っても数百キロから数千キロの距離だ。人間の目で目視する訳でも、古代戦闘機のようにパイロットが操縦桿を動かしたり、バルカン砲の発射ボタンを押す訳でもない。
レーダーを通してヘッドアップディスプレイに移ったに敵味方識別マークに攻撃指示を出した瞬間に機の位置を遷移させる。
一瞬でもこの動作を怠れば、痛みも感じないままに瞬時にガスとなって宇宙に漂うことになる。既に一回目の戦闘で航宙空母の数が減らされているミルファク星系軍は不利であった。徐々に“スパルタカス”が少なくなっていく。
「司令官。我軍の戦闘機軍が不利です」
艦長の声にゴンザレスは、
「解った。スパルタカスを戻して、艦砲で対応しろ」
と言ったときであった。
スコープビジョンが強烈な光で何も見えなくなると、ゴンザレスの体は、横に吹き飛んだ。
ゴンザレスの意識が遠くなる中、旗艦“カリスト”が粒子砲の直撃を受けたのを知った。
「司令官」
そう言った直後、艦長は、背中から巨大な力で打たれたかのように体が激しい勢いで壁にぶつかった。朦朧とする意識の中で艦橋の揺らぐの見たのが最後であった。
旗艦“カリスト”と司令官を失った第七艦隊は、誰の命令も無いままにアンドリュー星系軍に突き進んでいった。
そして衝突かと思ったその時、アンドリュー星系軍は、二つのデルタ型の中央を開いた。その間に第七艦隊は入ってしまったのである。第七艦隊にとっては最悪であった。何も攻撃が出来ないまま、敵の巡航戦艦と航宙戦艦の“アーメッド”から攻撃を受けたのである。
進行方向に艦隊の先頭から後ろまで綺麗に攻撃を受けた。最後尾にいたホタル級哨戒艦一九二隻は、艦数を三分の一にまで減らされタイタン級高速補給艦二四隻は全滅した。
アーサーは、後方に去った敵艦隊が壊滅状態に陥った状態を見ると左側のスコープビジョンに映る映像を見た。
「シャイン中将に助けは要らないな」
リギル星系軍第二艦隊もミルファク星系軍第九艦隊を半壊状態に陥らせていた。艦隊としては全滅と判断される状況である。
結局、ミルファク星系軍は第一〇艦隊カルビン・コーレッジ中将の機転で撤退したが、撤退時もアンドリュー星系軍とリギル星系軍の追撃を受け、装甲の厚い戦艦、巡航戦艦を盾にして逃げたが、三個艦隊の攻撃を受けその被害は甚大であった。