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第3話 転校生

「え?あいつ、あと3日も入院するの?」

 菊池輝子は、半ば驚いた形で香夏子の報告を聞いた。

「うん!正義はぁ、後ぉ、3日も休むのです!」

 幼児語で喋る香夏子を見て、輝子は少し安心する。あの銃撃戦に巻き込まれたとは思えない。

「馬鹿は入院しないと思ってんだけど、あいつも人間だな」

「ううん、正義は、狂気の科学者ダグラス・ジキル博士だよ?」

 輝子はあきれた。この少女も、あの中二病発症者の哀れな妄想に付き合わされているんだ。

 すると、2人が道を進んでいるところ、小柄でボサボサの髪の毛、眼鏡をかけたお世辞にもカッコいいとは思えないオタク竹内耕哉が待っていた。別名ヒンディー。その名の通り、インド人に似ている。

 耕哉はニヤッと笑った。

「どうやら、あの博士はまだ入院らしいな」

「変わりに、あの怪物を迎えにいかなきゃならないんだ」

「お兄ちゃんと会えるんだ、楽しみ」

 あの怪物とは、香夏子の兄である坂本紘輝のことである。怪物と呼ばれている理由は後ほど。

 3人は、そのままバスに乗り、神奈川精神異常犯罪者用県立精神病院前に降りた。

「じゃ、行くわよ」

 そのまま病院に入った。


 最厳重監視病棟の鋼鉄扉が3人の後ろで閉まる。

 紘輝は午前中は熟睡していることは3人は承知だった。3人は廊下を見渡した。3人は廊下を見渡した。この角度では、紘輝の個室は見えないが、奥からただ寄らぬ殺気をピリピリ感じていた。

 紘輝の監房は他の監房と違って奥のあって、通路の反対側には戸棚しかなく、その他の点でも変わっていた。他の監房は鉄格子だが、紘輝のは最近開発された強化対衝撃防弾ガラスが床から天井に達し、両側の壁から壁まで張られている。その奥に、ボルトで固定されたテーブルがあり、本などの書物が積み重なっていた。

 そして、黒いロングコートを着込んで直立で立っていた紘輝が居た。

 香夏子はガラスから少し離れ、口を開いた。

「おっは~♪お兄ちゃん」

 小柄でほっそりしているのが分かった。顔は美少年ほどではないが、欠点もない。しかし、その瞳には狂気と殺意が満ちていた。

 紘輝は少し間を開けて口を開いた。歯並びが良い白い歯が見えた。

「おはよう」

 その声は、ぞっとするほど低かった。そして、目を合わせるたびに幸せを奪われているような気持ちになる。

 しかし、香夏子は嬉しそうだった。

「お兄ちゃん、退院だよ?」

「わかってる。遅かったな」

 紘輝は精神病院に入院しているのはわけがった。

 その昔、香夏子が5人の男子にいじめられ、それに怒った紘輝は、1人目は包丁で殺傷し、2人目は首をロープで切断し、3人目はホルマリン溶液で満たされた死体槽入れ、蓋を閉めて溺死させ、4人目はロープで首を吊らせ、腹を切って内臓を垂れさせ、5人目のリーダーは教会の十字架に磔して殺した。しかし、でれも紘輝がやったという証拠はなく、むしろ現場からはリーダーの指紋ばかり検出された。しかし精神鑑定で異常が出たため、入院が決定された。記録上は殺人を犯していないことになっている。

 それからというもの、香夏子は兄の退院をずっと心待ちにし、今日、数年ぶりの再会を果たした。

「博士からこの官房を開ける鍵を貰ってないか?」

「もらったよ」

 輝子はそう言って、博士からもらった鍵を使って、ガラスの扉を開けた。

 すると、紘輝は廊下に出て、呟いた。

「学校へ行こう」


 4人は学校に行くため、バスに乗り、4つのバス停を通過したころにバスから降り、学校へと続く下り坂を歩いた。

 香夏子はこれまでの人生を紘輝に報告し、紘輝は黙って聞いていた。

 やがて、1人の女性が4人を待っていた。

 それはグラビアアイドル並みのスタイルを誇り、長髪が似合う静かな女性、石井未来だった。静かなのは失声症(自称)のせいである。そのため、彼女との会話は携帯電話か手紙で行う。

 さっそく、未来は携帯電話を取り出し、凄まじい速さでメールを送った。

 輝子の携帯が電話を受信した。

〝紘輝君、退院したの?〟

「そうだけど?」

 今度は紘輝が受信した。

〝退院おめでとう!歓迎するよ♥〟

「おお、ありがとう」

 今度は香夏子が受信する。

〝お兄ちゃん戻ってよかったね☺〟

「うん♪嬉しいよ」

 今度は耕哉が受信しなかった。

「俺には?!」

 未来は無表情で、4人に合流した。

 さらに進むと、1人で歩く女子を見つけた。

 それはショートヘアが似合う可愛らしい大人しそうな女子森田真奈だった。

 真奈は礼儀正しく、常識も知っている。しかし、いい意味でも悪い意味でも、個性豊かなハンニバルズ(ハンニバルのファンである正義のチーム名称、香夏子はニャンニャンズ、紘輝はクレイジーズ、耕哉はAチーム、未来はSS、輝子は馬鹿軍団と呼称)の中では無個性地味な存在だったが、正義曰く無個性キャラもチームに必要だとのこと。

「佐藤さんは休みですか?」

「セーギは、あと3日間、休みなのです」

「そうですか、今度のお見舞いでお大事にと伝えておいてください」

「わかった☆」

 6人はそれぞれ気の合う相手と会話しながら、学校へ着いた。

「それじゃ部活で」

 そう言って輝子と紘輝は3年の自分の教室に向かった。紘輝と輝子と正義はクラスメイトだった。

 クラスメイトは紘輝の登校に驚きつつ、歓迎した。紘輝が殺したとされる5人はあまりの身勝手かついじめっぷりにこの街では嫌われ者だった。それを消した紘輝は未成年たちには英雄視された。皮肉な世の中である。

 HRの時間、担任の教師が口を開いた。

「皆、今日は転入生が来るぞ」

 クラス中が盛り上がった。

「どんな子かな?」

「可愛い子だ」

「いえイケメンっしょ」

「裏をかいてブス」

「静かにしろ!入れ」

 すると、スライドドアが開き、転入生が入る。全員一瞬黙る。

 転入生は女子だった。

 ブロンドの髪は長く、肌は白い。無造作に垂れ下った髪が優しそうな顔立ちを引き立てる。奇麗な青い目をしていた。外国人だろうか?とにかく、まるで天使だ。

「ラウラ・ソニエールです。旧姓はラウラ・パッツィ。よろしくお願いします」

 クラス中で歓声が上がった。男子は一目ぼれ、女子は憧れを抱いた。

「それじゃ、ソニエールの席は紘輝の隣な」

 そう言って、ラウラは窓側に座る紘輝の隣に座った。

「いいな、坂本」

「変わってくれ!」

「羨ましい」

 ラウラは紘輝に微笑んだ。

「よろしくね」

 紘輝はラウラは観察し、頷いた。

「よろしく」

 日頃、その美貌を称賛されることに慣れているラウラは、紘輝が次に何をするか好奇心を感じた。

「ラウラは確か、ヨーロッパ系の女性名で英語名のローラ(同綴り)に対応する名前だっけ?」

「ええ、そうよ」

 意外と詳しいわね。そう思った。

 すると、今度は匂いを嗅ぐ仕草をした。距離はかなりある。

「香水の匂い、高級だな。バルマン ド バルマン オーデトワレ。バルマンが表現する究極のエレガントと、洗練された女性像を象徴した香り、1997年に発表されたバルマン ド バルマンは「究極の洗練」のグリーン調の香りがスタイリッシュな魅力を放つシプレ・グリーン調の香り。オフィスでもフォーマルなシーンでも女性らしさを表現できるTPOを選ばない、定番にもなる逸品だな」

 ラウラは驚いた。どうしてわかったんだろうか?

「しかしたかが学校で高級な香水だとは。何かかき消したい匂いでもあるのか?」

 すこし動揺するが、平然とする。

「何も。あなたこそ、詳しいわね」

「俺を研究しようと来た女性が同じ香水をつけていた」

 ラウラは紘輝の動物的嗅覚に驚いたが、関心する。きっと軍人憧れのオタクさんね。

 紘輝はそれ以後、ラウラに興味を示せず、授業は全て終わった。



 


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