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数日前に婚約破棄されることを知った場合の正しい対処方法

掲載日:2026/05/03

「カラバリー!お前との婚約を破棄する!お前がメリンダをいじめていた犯人だったんだな!」


 学園の大広間で、ガルレイド第一王子が声高らかに、私に向かって宣言した。彼の右腕には同じクラスのメリンダ令嬢が、装備品のようにがっしりとくっついている。腕を振るぐらいでは外れない、呪いの装備なのだろう。

 周りのクラスメイトはざわつきながら、私とガルレイド王子を遠巻きに眺めている。婚約破棄などそうそう拝める物ではない。私も当事者じゃなければ、おつまみでも食べながら、行く末を酒と共に味わっていたかもしれない。……残念な事に婚約破棄される本人なので、そんなことは出来ないのだけれど。


「なんとか言ったらどうなんだ!」


 そんなどうでも良いことを考えていたら、痺れを切らしたガルレイド王子が顔を真っ赤にしていた。右腕の呪いの装備も、信じられないと言った顔をしている。

 確かに急に婚約破棄を宣言されれば、普通、絶望に打ちひしがれるのかもしれない。相手がどんな性格であろうと、長いこと尽くしてきた相手に振られるなんて、ショッキングな出来事であるに違いない。

 ただ、今回はわけが違う。私は事前に婚約破棄されることを知っていたのだ。


「うわーん。とてもかなしいですー。まさか婚約破棄されるなんて夢にもおもっていませんでしたー」


 とりあえず華麗な演技で、悲しい事をアピールしておく。ガルレイド王子の眉がピクリとつり上がったように見えたが、まあ気のせいだろう。

 話を戻そう。私が婚約破棄されることを知った大きな理由は、現在ガルレイド王子の右腕に取り憑いている、呪いの装備ことメリンダ令嬢のおかげである。彼女は数日前、何を血迷ったか、数人の仲が良いクラスメイトとのお茶会中、ガルレイド第一王子が婚約者のカラバリーと婚約破棄しようとしている事を口走った。

 一番の敵は無能な味方とはよく言ったものだ。もちろんその場で口止めはしたらしいが、そんなことで止まる物ではない。瞬く間に噂話は学園中を駆け巡り、私の元にも飛び込んできた。たかが数日前に知ったところで出来ることは限られているが、とりあえず心の準備をすることは出来た。ありがとう呪いの装備。


「お前!おちょくっているな!例え学園内でもここは公的な場だ。発言には責任が伴うぞ!――メリンダをいじめていた証拠もあるんだ!言い逃れはできんからな!」

「おちょくってはおりません、ガルレイド様。――証拠……というと、一体どのような物でしょうか?」

「複数の証言があるんだ。メリンダはもちろん、うちの従者達もお前が嫌がらせをした現場を目撃してるんだ!」


 ガルレイド王子は勝ち誇ったようにこちらを見る。右腕の装備も、私を見下したようにこちらを睨みつける。なんだか似たもの同士だ。案外この二人、お似合いかもしれない。

 しかし、やった記憶の無い嫌がらせの証拠は、証言だけらしい。なんとも適当なものだ。


「なるほど。どういった現場を目撃されたか知りませんが、私が善意でやったことが裏目に出てしまった――という可能性もあるのではないでしょうか?」

「やられた本人がいじめられたと感じたら、それはいじめだ!お前がどう思おうと関係ないんだよ!」


 ガルレイド王子は正論を展開する。確かにその通りだ。


「分かりました。……しかし罰が重すぎませんか?婚約破棄するレベルの事なのでしょうか?」

「何を言っているのだ!一人の人間を傷つけたのだぞ!お前が王族なら、死刑されても文句は言えんからな!」


 ありがとうガルレイド王子。

 自分で自分の首を絞めてくれて。


「わかりました。確かにその通りですね。本件は間違いなく私に非がございます。婚約破棄の申し出、後悔と反省と共に受けさせていただきます」

「ふん!わかれば良いのだ!」

「ありがとうございます、ガルレイド様。――ところで、一つ私からもよろしいでしょうか?」

「何だ」


 明らかに怪訝そうな顔をするガルレイド王子から目をそらし、周囲にいる観客の一人に手招きをする。観客の中から、一人の男子、同じクラスのレイブン子爵令息が登場した。


「ガルレイド様もご存じの通り、クラスメイトのレイブン様です。彼は……ガルレイド様による暴行といったいじめを受けていると証言されております」

「なっ!何を言っているのだそのような事はしておらん!」

「証拠がございます。いじめの現場を見た者はこちらに」


 私がそう言うと、観客の中からさらに数人ほどこちらに来る。

 数日前、自分が婚約破棄されることを知った私は、立場や安全を保障する事を約束した上で、ガルレイド王子から悪質ないじめを受けていた者達を保護したのだ。


「複数人の証言がございます。先ほどのガルレイド様の主張同様、これは証拠となり得ますよね?」

「だ、だが……そ、そうだ。確かに稽古の一環として、何かあったかもしれん。しかしあくまでそれは稽古だ。いじめなど断じてしておらん!」

「なるほど。しかし、私の記憶では、『やられた本人がいじめられたと感じたら、それはいじめ』なのではないでしょうか?だとするとこれはいじめという事になりますね。――あらいけない。ガルレイド様は一人の人間を傷つけてしまったのですね!?確か……王族なら死刑にされても文句は言えないのでしたっけ?」


 私の発言に、ガルレイド王子はワナワナと体を震わせる。右腕にくっついていたはずのメリンダ令嬢は、いつの間にか手を離し、苦々しい表情で地面を見つめている。呪いの装備も外れることがあるのね。


「そ、そんなの、つい口から出てしまっただけで、本心ではない!揚げ足を取るような事を言うな!」

「あら。先ほど、例え学園内でもここは公的な場だから発言に責任が伴う、と言っておられたではないですか?この会場にいる全員が証人ですよ」


 私の発言に、がっくりと膝をつくガルレイド王子。下を向いたまま動かないメリンダ令嬢。どうやら決着がついたようだ。




 それから、婚約破棄の件は大事になり、国を挙げての調査が開始された。

 結果として、私のいじめの疑いは晴れ、逆にガルレイド王子暴行の件が正式に明るみに出ることとなった。当たり前だが、ガルレイド王子が死刑になる事はなかったが、現在は実質的な軟禁状態となっている。王位継承権はとりあげられ、学園に通うことは出来なくなった。

 メリンダ令嬢については、最終的に、子爵家が解体されることとなった。今回の件を受けて子爵家に調査が入り、その結果、税をちょろまかしている事が発覚したのだ。この子にしてこの親あり、という奴だ。


 私はと言うと、王家から正式に婚約解消の申し出があり、謝罪とお金と共に独り身となった。現在婚約者募集中である。次の婚約者には是非とも、婚約破棄する一月前には申し出て欲しいものである。

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