第五話 櫻の決心
ちょっと早めに更新。
ヒット数が少なくて寂しいとです……。
「櫻。ちょっと話があるんだけどさ」
丁度やってきた櫻に話しかけた。
「は、はい」
「……」
さて、どう言ったものか。
『いやー、君の前世って猫だよねー。しかも柳生の飼い猫で。彼女に感謝の気持ちと謝罪の気持ちを伝えたいんだよねー』
…………これはさすがにアレな気がする。
軽すぎ薄すぎ。
次。
『なあ、感謝と謝罪は紙一重なんだ。ひとつ間違えれば違う意味にもなる。お前はどっちを伝えたいんだ?』
何がやねん!!
何がしたいのかわからん!!
却下!!
次!!
『お前、感謝とかそういうのはな、口にしなきゃ、分からないんだ。……手伝ってやるよ、言えないならな』
なんという臭いセリフ!!
なんか嫌だ!!
次!!
…………やっべー、なんも思いつかない。
ま、普通でいいか。
……。
…………。
……話題からして普通じゃねーし。
ああっ!!
もう『当たって砕けろ!!』って奴だ!!
「なあ、櫻。……お前、ずっと昔から柳生と一緒だっただろ」
「あ、はい。そうですけど……」
「お前がここに生まれる前から、……つまり、柳生の飼い猫の時からずっと、な」
「…………」
驚いたような表情を浮かべてきた。
「前、言ってたオモチャの話から、なんとなくだけど、なんか分かったんだ」
「……」
黙ったまま何もアクションを起こさない櫻を、俺は見つめる。
「柳生を悲しませてしまったことを悔いてはいるけど、自分を世話して愛してくれたことには感謝している。でも、それを伝えられずにいる」
シーン、という効果音ではこの静寂は伝えられないくらい、静かだ。
「……なんてな。忘れてくれ、ただの妄想だ」
俺は後ろに向く。
櫻の表情は見ない。
なぜなら……。
いや、だって妄言を吐いちゃったんだよ、俺。
『何言っちゃってんの? コイツ』的な感じの視線が凄くいたたまれないじゃないか。
しかし、予想に反して櫻は意外な反応を示した。
「……えー、と。わ、わたしは……」
あれ? なんか動揺してる?
「ん? どうした?」
「…………はい、そうです。わたしは、芳子さんの飼い猫でした」
「……そ、そうなのか」
本当だったのか。
弓弦の発明品も伊達じゃないな……。
「で、お前はどうすんだよ?」
「ど、どうするって言われても……」
戸惑いを隠せない櫻。
まあ、俺もそんなことを言われてもどうすりゃいいかなんて分からない。
「……柳沢に、言わなくていいのか?」
「いいんです。わたしはこのままで……」
「いや、嘘だな」
「…………」
少し震える猫だった少女。
「せっかく人間に転生して、言葉が喋れるようになったんだ。しかも、すぐ近くにいるんだぞ。今言わなくて、いつ言うんだよ?」
「そ、それは……」
「まあ、無理にとは言わない。一人でできないなら俺も手伝うからさ。な?」
「……ズルいです。旅人さんは」
桜は泣いていた、……のかもしれない。
顔を伏せていたから分からない。
悔しさによるのか、やるせなさなのか、……それとも嬉しさなのか、俺には生憎分からない。
桜はすぐに目元を拭い答える。
「……でも、何て言えばいいんでしょうか? 普通に言っても信じてもらえないんじゃ……」
「………………あ」
……やっべー、考えてなかった。
「……考えていなかったみたいですね」
「い、いや!! そんなこったぁないぞ!!」
いぶかしげに見つめてくる櫻の視線から逃れるように、俺は視線わ逸らす。
「…………旅人さん?」
考えろ!!
考えるんだ!!
この状況から一発逆転出来るようなセリフを!!
櫻を納得させることのできるセリフを!!
考えるのを止めるな!!
「あ、あのー……?」
考えるのを止めてはいけない!!
考えるのを止めたら、そこで負け組になる!!
とにかく考えるんだ!!
そうすれば道が開かれる!!
「よし!! これから考えよう!!」
「今までの時間は何だったんですか!? ……それ以前に考えていなかったんですね……」
「……で、結局どうすんだよ?」
「やっぱり、わたしは言います」
「そうか」
さて、どう考えようか。
……もう一度、あの友人に頼んでみるか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「もしもし。弓弦か?」
「ん、そうだよ。どうかした〜? ……僕の予想では、その美咲ちゃんって子に言ってみたはいいものの、芳子さんって人にはどう言えば分からない、ってところだね」
「…………」
「? どうしたの?」
「お前さ、もうカウンセラーになっちまえ」
「だが断る!!」
「何故!?」
「だって、読めるのは君の心だけだもん」
「なんか今のセリフ気持ち悪い!! キモイってレベルじゃない!!」
キモイとかじゃないの。
気 持 ち 悪 い !!
そんなやりとりを数十分。
「まあ、僕に任せてよ。いい発明品があるんだ〜」
「またかよ」
「その名も、『前世映写機』!!」
「また怪しげなもの発明しやがった!!」
本当に弓弦はおかしい!!
人として危ない気がする!!
「その映写機から出る光を当てるとあら不思議!! その人の前世が浮かび上がって見えるんだよ!!」
「怪しげを通り越してぶっ飛んでる発明だな、おい!!」
「ちなみに今それは君のリュックの中に……、ふふ」
「うわっ、マジっすか……!! 何で入ってんだよ……」
うん、何か入ってた。
え、何これ?
……あ、映写機か。
いや、映写機って映画を映す奴だったような…?
人に当てる物では無い気がする。
いや、気にしないでおこう。
気にしたら負けだ。
「上手く活用してね〜」
「……ああ。分かった」
そして、通話が切れた。
あとは柳生にどう何て説明するか、だ。
まあ、それは櫻と相談しよう。
窓を開ける。
桜の花びらはだいぶ散ってしまっていたが、ひらりと一片、部屋に入ってきた。
摘んで眺めてみる。
……まあ、なるようになるさ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一晩、櫻と話し合ってようやく決まった方法。
とりあえず、柳生の目の前で例の映写機を使い、櫻を映す。
後はなるようになる、ということだ。
……いやいや無理があるなんて言わないでほしい。
とにかくだ。
計画執行は、明日だ。
なんという展開。