第三話 写真に写る過去
さっき分かったことだか、この病院と柳生の家は別々に存在する。と言ってもすぐ近くにあるが。
だったらここに住めばいいのにな。
まあ、暮らしにくいだろうけどさ。
医療器具ばっかりで落ち着かないし。
「もう寝よう……」
柳生が用意してくれた寝床に入る。
ふっかふかで、気持ちいい。
とはいっても簡易な奴だが。
ま、嬉しいんだけどさ。
瞳を閉じると、一気に眠気が襲ってきた。
俺は一切抗うこと無く、眠りについた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…………ふぁああ」
よく眠れた。
今は……、だいたい七時。
そろそろあの二人がくる頃だ。
さて、支度するか。
「……何だコレ?」
机の上にあった一枚の写真。
そこには一人の少女と、一匹の猫が写っていた。
昔からあるのか、少しだけ色褪せている。
そんなことより支度だ、支度。
早々と着替えをし、置いてあった朝食を暖めなおして食べる。
「ウマいな。……また櫻が作ったのか?」
きっと櫻は家庭科の成績がいいんだろうな。
そんなことを考えていると、インターフォンが鳴った。
「ん、もう来たのか」
食パンをくわえて、玄関に向かう。
鍵を開ける。
「おはよう。旅人くん」
「ああ、おはよ」
柳生だった。
「掃除してくれた?」
「今からするところだ」
「……パンくわえてるけど?」
「……気にすんな」
パンを一口で飲み込む。
そして、身近にあったモップを手に取り、戦闘体勢に入る。
……戦闘といっても、掃除だが。
「じゃ、お願いね」
「オッケー」
一日が始まった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
柳生という人物は思った以上に大物だった。
なんと、バイト代まで出してくれるのだ。
メシ付き、宿付き、お金付き。
なんという三拍子。
なんという心の持ち主。
俺には真似できないな……。
ま、お世話になる分、働くけどさ。
そんなことを思いつつ。
「バテるなんて……、最近の若いモンは……」
「…………」
一日中、パシリにされました。
し、死ぬわ……。
「一日、ご苦労様」
「ああ……」
ここにきて、力尽きるのか……。俺は……。
「いやいや、死なないからね」
「ZZZ……」
「寝ちゃったし……。ま、いいわ。おやすみなさい」
淀んでいく意識の中、俺は眠りについた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…………危なかった」
危うく落とすところだった。
昨日見た写真を、だ。
じっと見つめてみる。少女は猫を抱きしめていて、笑っていた。
ってことは、この猫は……少女の飼い猫か。
へぇ、なかなか可愛い猫じゃんか。
「あ、おはようございます」
「ん。おはよ、櫻」
今日も手伝いに来たみたいだ。
箒を持っている櫻は、俺の持ってる写真を指差した。
「それ、何ですか?」
「あ、コレ? さっき見つけた奴」
「へぇ……。あ、この人芳子さんですよ」
「え、マジ?」
全然分からんかった。
ってことは、この猫は柳生の……。
そういや、この猫見かけないな。どこにいるんだろうか?
「なあ、この猫ってさ……」
「……死んでしまいましたよ」
「そうか……」
まあ、今から十年以上のことみたいだし、仕方ないよな……。
「…………」
やべ、変な空気になった。
「……私、芳子さんのところに行きます」
「え、ああ」
そそくさと奥に引っ込んでしまった櫻。
俺も何かしないと……。
とりあえず、柳生に頼まれた買い物をすることにした。
が、またひょっこり姿を現した。
「旅人さん」
「ん、何だ?」
櫻の方から話しかけてきた。
「例えば、ですよ」
「ああ」
「……昔から、よく使っていたオモチャがあったとします」
「それで?」
「でも、壊れてしまって捨てなければいけなくなりました」
なんの話だが分からないが、とりあえず頷く。
「そして何年も経って、別なオモチャが来たとします」
「それで?」
「そして、そのオモチャは、昔使っていたオモチャを再利用して作ったオモチャです」
「環境に優しくてよろしい」
「そういう話ではありません……」
小さくため息をつく櫻。
「……そのことは自分は知りません。これ、どう思いますか?」
「心理テスト、か?」
「…………まあ、そんな感じです」
うーん。
どう答えるものか。
まあ、難しく考えることは無いか。
「……いいんじゃないか、それでも。形が変わってしまっても、自分の所にあるんだからさ。そのオモチャにもし感情があったとしたら、そいつもきっと嬉しいだろうしな」
「そうですか……」
櫻は微小し、身を翻した。
「……そうなら、いいですね」
そう言い残し、部屋から去ろうとした。
「ちょっと待て」
すかさず、俺は彼女を止める。
「な、何ですか?」
「で、結果はなんなんだ?」
心理テストなんだから、どうなるんだか知りたい。
「……神のみぞ知ることですね」
「うぉいこら」
さっさとどこかへ言ってしまった。
……アイツもだいぶ俺に慣れてきたような気がする。
ま、恥ずかしがり屋が治ってきてるし、いい傾向だ。
俺は櫻の後を追いかけ、心理テストの結果を聞きに行った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「結局見つかんなかったし……」
ソファーに背中を預け、ため息をつく。
「どうしたのよ、旅人くん」
「柳生」
俺はいきさつを話した。
「心理テストね……」
「ああ、妙に気になってさ」
「分からなくてもいいんじゃないかしら? それはそれで面白いし」
「そうかぁ?」
そんな会話をしていると、途中から櫻も参加してきた。
他愛も無い話で時間を潰した。
……結局、結局は聞けなかった。もういいや、何だか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あ、旅人さん。そこのトレイを取ってください」
「あいよ。……はい」
「ありがとうございます」
「どーも」
……櫻の奴、だいぶ俺に慣れてきたな。
出会った当初はあんなんだったのに。
彼女なりに頑張ったんだろうな。ま、そこまで酷い恥ずかしがり屋ではなかったな。
ごっちゃになった医療器具の入ったトレイを運びながら、そんなことを思った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
泊めてもらってから十日は経った。
もうだいぶ金が貯まってきた。
そろそろ離れないとな、この場所から。
そんなことを思っていた。
……柳生からあの言葉を聞くまでは。
感想とかあったらよろしくお願いします(^-^)/