第62話 ルシアの体調不良? 激しく動揺する氷の騎士
平和で幸せすぎる日常というものは、えてして限界オタクの警戒心を鈍らせる。
……いえ。
正確には、日々の推し活の幸福度(供給)が高すぎると、自分の身体の多少の不調くらい「まあ、少し夜更かししてはしゃぎすぎた(疲れている)だけですわよね」で流してしまう、というべきかもしれない。
つまり、何が言いたいかというと。
私はここ数日、少々、身体が重かった。
「……ふわぁ、眠いですわね」
朝。
まだ身支度も完全には整っていない寝室で、私は鏡の前に座ったまま、ぼんやりと欠伸をして呟いた。
侍女が後ろで私の銀髪を梳いている。
窓の外はよく晴れていて、今日もフェルド辺境伯爵領は豊かで穏やかだ。
隣国からの賠償金第一便の予算振り分けも済み、老朽化した橋梁補修の大型発注も通り、大人気の温泉第二棟の初期設計案まで、私の頭の中ではかなり完璧にまとまっている。
それなのに、とにかく眠い。
「お嬢様」
侍女が、呆れたようにそっと言う。
「昨夜も、執務室で少々遅くまで起きておられたのでは」
「遅かったといっても、いつもより『少しだけ』ですわよ」
「そのお嬢様の“少し”の基準が、常人の労働基準法とは違うかと」
「失礼ですわね。適度な推し活(領地経営)ですわ」
「立派な過重労働(サビ残)でございます」
私は少しだけ唇を尖らせた。
だが、的確なツッコミに反論しきれないのも事実である。
王都への凱旋報告から戻って以来、平和な日常へ戻ったとはいえ、やることがなくなったわけではない。
むしろ、莫大な資金と安全を手に入れたことで『平和になったからこそ着手できる巨大プロジェクト』がどっと増え、私はそれらを前世の社畜スキルをフル稼働させて、大変楽しく処理していた。
脳内物質をドバドバ出しながら処理していたのだが。
(少し、だるいのは本当ですわね……)
知恵熱のような疲れ。
季節の変わり目の気候。
戦後処理の緊張の糸が切れた反動。
理由はいくらでも考えられる。
「まあ、今日は午後の視察を軽めにいたしましょう」
私は鏡の中の自分へ、そう言い聞かせた。
「愛するクライス様も最近、私が少しでも無理をすると、すぐ魔王のように過保護で厳しくなりますし」
そう。
最近のクライス様は、私の休養管理に関して、いよいよ1ミクロンの遠慮がなくなってきた。
以前なら“少し休め”程度だったのが、今では“座れ”“その紙を置け”“俺の淹れた茶を飲め”“大人しく俺の腕の中で寝ろ”まで、怒涛のコンボで一息で来る。
夫権限という無敵のカードを便利に使いすぎである。
けれど、その不器用な厳しさが、オタクとしては最高にキュンと来て嬉しいのだから、困ったものだった。
◇ ◇ ◇
問題が起きたのは、その直後、朝食の席である。
その日の朝食室は、いつも通り静かで穏やかだった。
窓から差すあたたかい光。
真っ白なテーブルクロス。
美しく整えられた銀の食器。
そして、向かい――ではなく、最近は当然のように私のすぐゼロ距離の隣へ座るクライス様。
「今日は、お前の分は少し軽めのメニューにした」
クライス様が、私の顔を覗き込んで言う。
「お前、朝からぼんやりして顔色が優れないからな」
「……あら、見抜かれておりましたか」
「当然だ。俺はお前の夫だぞ」
「さすがですわね」
「褒めていない。反省しろ」
「愛の言葉として受け取りますわ」
卓上には、焼きたてのふかふかのパン、野菜の薄いスープ、卵料理、それから新鮮な果実を添えた蜂蜜乳酪。
どれも胃に重くなく、朝にはちょうど良い。
私は、食前の紅茶のカップへ手を伸ばしかけて、ふとピタリと止まった。
「……」
「どうした。熱いか」
クライス様がすぐに気づいて問う。
「いえ、その」
私は小さく首を傾げる。
「少し、香りが」
「茶か。淹れ方が悪かったか」
「ええ」
いつも飲んでいる、最高級の茶葉だ。
実際、淹れ方も香りも決しておかしくはない。
変ではないのだが、今日はなぜかその匂いを『少しだけ強く』感じる。
鼻へつく、というほどではない。
でも、妙に、ムッとする。胃の奥が跳ねるような、不思議な違和感。
「違う茶葉へ替えるか」
クライス様が、すぐに侍女に目配せして言う。
「そういうほどではございませんわ」
「だが、顔がそうは見えない。少し青いぞ」
「……」
「替えろ」
「では、少しだけ薄くして、白湯を多めにしていただけるかしら」
侍女へ頼むと、彼女はすぐに新しいお湯を用意しに足早に下がった。
私はその間に、スプーンを取ってスープへ手を伸ばす。
一口。
「あら」
「何だ」
「いえ……」
私はスプーンを持ったまま、少しだけ眉を寄せた。
「いつも通り美味しいのですけれど」
「けれど、何だ」
「少し、味が濃く(脂っこく)感じますわね」
クライス様がジッとこちらを見る。
その蒼い目が、もうすでに『妻の異常事態』の警戒モードへ入りかけているのが分かる。
いけない。
ここで“大丈夫ですわ”を雑な言い訳に使うと、今朝の私は間違いなくベッドへ強制送還(捕縛)される。
「ただの疲れかもしれませんわ」
私はなるべく穏やかに、笑顔を取り繕って言った。
「少し寝不足で、感覚が変に鋭くなっているだけかもしれませんし」
「……」
「それに、朝から空腹すぎると、時々胃酸でそのようなことも」
「あるのか。俺はないが」
「多分、ありますわ」
「多分」
「……ございますわよ?」
「全く信用できん」
「でしょうね」
私は苦笑した。
だが、本当に少し妙だった。
スープの湯気。
焼いた卵のバターの香り。
普段なら食欲をそそる気にならない程度のものが、今日はやけにハッキリと鼻へ届いて、胸の奥をムカムカさせる。
「パンは食えるか」
クライス様が、小さくちぎった白いパンを私の小皿へ寄せる。
私はそれを受け取り、口へ運ぶ。
大丈夫。
匂いのないこれは平気。
ホッとして、少しだけ笑う。
「これは大丈夫ですわ」
「そうか」
「ええ」
「なら、無理せずそっちだけを食べろ」
「はい」
クライス様は自分の皿には全く手をつけず、腕を組んでずっと私の様子を観察していた。
本当に、この方はこういう非常時だけでなく、普段から私をよく見ている。
少しだけ気恥ずかしくなって、私は話題を変えることにした。
「そういえば」
「何だ」
「北側橋梁の補修工事、予定より早く来週には着工へ入りそうですわよ」
「……今その仕事の話をするのか」
「だって、気になっておりますもの」
「気になるのは分かる」
「でしょう?」
「だが、今は朝食中だ。仕事のスイッチは切れ」
「でも」
「食べてからにしろ」
「はい……」
その時だった。
侍女が、湯気を立てる淹れ直した薄めの紅茶を持って戻ってくる。
私は「ありがとう」と受け取り、その湯気へ顔を寄せ――
「ッ」
急に、胸の奥から強烈な『吐き気』が込み上げてきた。
ただのムカムカではない。
胃袋がひっくり返るような、ハッキリとした気持ち悪さ。
私は反射でカップを落としかけ、慌ててガシャン! と音を立ててソーサーへ戻し、口元を両手で強く押さえた。
「ルシアッ!?」
クライス様の声が、緊迫して一段低くなる。
「顔が真っ白だぞ!」
「だ、だいじょうぶ、ですわ……ウッ」
「大丈夫ではない! 吐きそうなのか!?」
「少し、匂いが……」
「侍女、今すぐ食事をすべて下げろ!! 窓を開けて換気しろ!!」
「か、かしこまりました!!」
朝食がすぐに遠ざけられる。
だが、空中に立ち上った食べ物の香りの残りだけで、妙に頭がクラクラと回る。
おかしい。
本当に、明らかにおかしい。
私は耐えきれず、椅子の背へ深く寄りかかった。
その瞬間、視界がグラリと、激しく揺れた。
「あら……?」
「ルシア!!」
クライス様の切羽詰まった声が、ひどく近くなった。
気づけば、私は意識が遠のき、椅子ごと身体が横に傾きかけていた。
だが冷たい床へ落ちる前に、強靭な腕にガシッと引かれ、抱き留められる。
「ッ、すみま――」
「喋るな」
低い声。
でも、その低さの裏に、心臓が凍りつくような『明確な動揺と恐怖』があった。
私はクライス様の太い腕の中で、どうにか浅い呼吸を整えようとした。
視界は白く弾けている。
ひどい眩暈ではない。身体の痛みもない。
ただ、全身の力がフゥッと抜けていく、抗えない強制シャットダウンのような感覚。
「……少し、休めば、すぐに」
「少しじゃない。喋るなと言っただろう」
「クライス様」
「目を閉じるな。俺を見ろ」
「閉じては、おりませんわ」
「閉じるな」
ああ。
これは、かなり、いや『尋常ではないほど』慌てていらっしゃる。
その事実だけは、薄れる意識の中でも分かった。
だが、分かったところで自分の身体が全く言うことをきかない。
「誰か、今すぐ医師を呼べェェッ!!」
クライス様の悲痛な怒号が、朝食室全体へ叩きつけられた。
それは、私が今まで戦場でも聞いたことのないような、彼が本気で『大切なものを失う恐怖』に直面した時の、魂が裂けるような声音だった。
室内の空気がビリビリと震える。
侍女たちが血の気を引いて青ざめ、近習が転がるように飛んで駆け出していく。
「領都中の医師をすべて集めろ!」
クライス様が、私を強く抱きしめたまま矢継ぎ早に喚く。
「いや、違う。腕の立つ治癒術師を全部だ。金に糸目はつけるな! 今すぐここに呼べ!!」
「は、はいッ!」
「王都にも早馬と魔法通信を出せ!」
「ク、クライス様」
私はどうにか、彼の胸ぐらを掴んで小さな声を出す。
「そこまで、王都まで巻き込むような大事では……」
「ある。お前の命がかかっている」
「でも、少し、眩暈がしただけで」
「少しで、俺の妻がこんな顔色で倒れるはずがないだろうが!!」
「……」
はい。
正論ですわね。ぐうの音も出ませんわ。
クライス様は私を軽々と抱き上げたまま、ためらいなく立ち上がる。
その顔を下から見上げて、私は思わず息を止めた。
青ざめている。
あの絶対零度のクライス様が。
どんな絶望的な戦場でも表情一つ崩さない、あの無敵の『氷の騎士』が。
今、明らかに恐怖で顔色を失い、泣きそうな顔をしている。
「クライス様」
「黙っていろ。すぐに治してやるから」
「ですが」
「頼むから」
その一言だけ、ひどく、ひどく掠れて震えていた。
頼むから、俺を置いていかないでくれ。
その言葉にならない懇願の声音に、私は胸が締め付けられ、大人しく口をつぐんだ。
◇ ◇ ◇
その後の屋敷は、ちょっとした『国家存亡の災害レベル』の大騒ぎみたいになった。
私は寝室の広い寝台へ運ばれ、有能な侍女たちに囲まれ、クライス様はその私の手を握ったまま、傍を1ミクロンも離れない。
いや、離れないどころではない。
医師が屋敷に到着するまでの数十分の間に、ありとあらゆる最悪の可能性をパニック状態で考え始めていた。
「毒の可能性は」
「100パーセントございません、朝の食事は全て私が事前確認と毒見済みです!」
「俺の見ていないところで、昨日の外出で無理を」
「そこまではしておりません!」
「水か、空気か、過労か。それとも、あの隣国の残党の呪いか!?」
「呪いではございませんわ。結界は正常です」
私が小さく言うと、
「素人が断定するな! 呪いかもしれないだろうが!」
とガチギレ気味に返ってくる。
いつもの氷の冷静さが、完全に宇宙の彼方へ飛んでいた。
「領都の医師はまだか!」
「最速の馬車で向かっております!」
「遅い! 俺が直接迎えに行く!」
「旦那様、落ち着いてください! もう王都にも連絡を」
「遅い! 第一騎士団の治癒術師は何をしている!」
「国王陛下へも報せを」
「そこまでは、さすがにやめてくださいまし」
「却下だ」
「どうしてですの。国が傾きますわよ」
「お前に何かあってからでは遅い。俺の人生が終わる」
「……」
この人、本当に、私のために国中から名医を首根っこ掴んで引きずってくる気ですわね。
私は寝台へ横になったまま、少しだけパチパチと目を瞬いた。
眩暈はもう、横になったおかげでだいぶ落ち着いている。
気持ち悪さ(吐き気)も、食べ物の匂いがなくなった今はそれほどではない。
ただ身体が妙にだるいのと、まだ少し頭がフワフワとぼうっとするだけだ。
(ううん……)
自分では、そこまで深刻な死に至る病という感じは全くしない。
だが、クライス様の『今にも世界が終わる』みたいな顔を見ると、“大丈夫ですわ”などと軽く言える雰囲気でもない。
「ルシア」
「はい」
クライス様が、私の手を両手で強く握りしめたまま、すがるように言う。
「今、どこがつらい。隠さず言え」
「どこが、と言われますと」
「全部答えろ」
「全部」
「そうだ」
「……」
私は小さく息を吸う。
「朝から少し、身体がだるくて」
「……」
「眠くて」
「……」
「紅茶やバターの香りが、少し強く不快に感じて」
「……」
「あと、スープと卵も少し脂っこく感じて、吐き気が」
クライス様の顔が、さらに絶望的な病を疑うように険しくなる。
ああ、いけませんわ。
情報が増えるたびに、私の知らない奇病や猛毒の線へ、悪い方へと考えておられる。
「でも」
私は慌てて、安心させるように付け加えた。
「今は、横になったらかなり落ち着いておりますのよ」
「……」
「本当ですわ。ただの胃腸炎か何かですわ」
「そうか」
「ええ」
「それでも、絶対に最高の医師に診せる。お前を失うわけにはいかない」
「はい……」
そこへ、ようやくバタン! と勢いよく扉が開いた。
「し、失礼いたします!!」
息を切らして汗だくの医師が三人、転がるように入ってくる。
一人は領都の優秀な常駐医。
一人は屋敷の薬師長。
そしてもう一人は、ついさっき近くの村から馬で無理やり引っ張ってきたらしい、経験豊富そうな年配の女医だった。
「すぐに診せてください」
年配の女医が真っ先に、私の寝台へ寄る。
クライス様は、心配のあまり一瞬だけ動かなかった。
だが、私がそっと手を伸ばして彼の袖をつかむと、ようやくハッとして半歩だけ下がった。
「俺はここから離れないぞ」
「そこまでは言っておりませんわ」
「ここにいる。お前の傍に」
「ええ」
「……」
「どうぞ、そのままで。私の手を握っていてくださいまし」
私は少しだけ笑った。
すると、クライス様の手がすぐに私の手を、壊れ物を扱うように優しく、けれど強く握りしめる。
強い。
でも震えているほどではない。
ただ、ひどく硬く、私の命を繋ぎ止めようと必死な手だ。
女医は私の顔色を鋭く見、手首の脈を取り、瞼の裏を確認し、腹部へ軽く触れ、次にいくつか質問をした。
「食欲はございますか」
「……なくはないですわ。ただ匂いが」
「最近、異常な眠気やだるさは」
「少し、ありますわね」
「月のものは」
「……」
そこで、私は一瞬だけ、思考がフリーズして言葉を失った。
あら。
そういえば。
頭の中でカレンダーを数える。
先月。その前。
王都での凱旋報告。
怒涛の戦後処理。
領地の拡張計画。温泉。工房。
義両親との対面。
あの混浴でのぼせて倒れた件まで、妙に鮮明に覚えているのに、その辺りの『周期』だけが、スッポンと完全に抜けている。
「……ルシア?」
クライス様が、私の不自然な沈黙に、ひどく低い声で名を呼んだ。
いけない。
今の沈黙は、オタクとして不穏すぎましたわね。
「ええと」
私は目を泳がせながら正直に答える。
「少し、記憶が定かではなくて」
「……」
「色々と領地経営が忙しかったものですから」
「……」
「うッ」
クライス様の顔が、さらに『不治の病で記憶障害まで起きたのか』と青ざめる。
ちがいます。
そういう意味ではなくて。
ただ、社畜特有の日付感覚が少々飛んで(生理不順に気づいていなかった)だけで。
女医は、私の脈と反応、そしてクライス様のパニック具合を交互に見てから、何かを確信したように静かに言った。
「……少し、奥様のお身体を詳しく拝見いたします」
「重大な病気なのか!?」
クライス様が、すがりつくように食い気味に問う。
女医は慎重に、言葉を選んで優しく微笑んだ。
「いいえ。今すぐ命に関わるような、悪い病気の様子では決してございません」
その一言で、部屋の張り詰めていた空気が一気に、少しだけフゥッと緩む。
だが次の言葉で、また別の意味で張り詰めた。
「ですが、原因はきちんと見極める必要がございます。とても大切なことですので」
「……」
「ご主人様」
女医はクライス様へ向き直り、キッパリと言う。
「少しだけ、奥様を我々にお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ここで診ろ」
「女性特有の、細かい確認が必要です。男性は一旦外へ」
「なら俺も妻と一緒に」
「クライス様」
私は、自分自身の身体の予感に少しだけドキドキしながら、そっと彼を呼んだ。
「大丈夫ですわ」
「……」
「本当に」
「……だが」
「少しだけ、扉の外で待っていてくださいまし」
クライス様は、しばらく私の手を握ったまま何も言わなかった。
それから、ようやく、苦しいものを無理やり腹に押し込むみたいに頷く。
「……分かった」
その声は、まだ不安で掠れていた。
私はその大きな手を、もう一度だけ安心させるようにギュッと握り返した。
ああ。
この人、本当に、私のことになると全く駄目なのだ。
氷の騎士の面影もないくらい、駄目なくらいに取り乱して、なりふり構わず私を優先する。
それが少し申し訳なくて、でも同時に、どうしようもなく限界オタクの胸の奥に甘く沁みた。
女医たちに囲まれ、私は隣室へ移る。
扉が閉まる直前、振り返ると、クライス様は寝室の真ん中で、まるで迷子の子どものように一人で立ち尽くしていた。
その顔は、数千の大軍を相手に戦場で剣を振るう時よりも、ずっと脆く危うく見えた。
(……そんな、世界が終わるみたいな絶望のお顔をなさらなくても)
そう思ったのに、声にはできなかった。
だって、まだ私にも確定のところは分からない。
この妙な眠気も、匂いへの過敏さも、突然の眩暈も。
一体、何が原因なのか。
ただ一つだけ確かなのは。
次に女医が扉を開けて、彼に向かって口にする言葉で、きっと。
私たちの尊い二人の日常が、また少し、この上なく幸福な方向へと『大きく変わる』のだろうということだけだった。




