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婚約破棄の瞬間に「前世の記憶」が戻りまして。〜ヒロインの座は譲りますので、私は推しキャラの側仕えを目指します!〜  作者: 綾瀬蒼


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第33話 新婚初夜の攻防戦〜推しの顔が良すぎて直視できません!〜

 盛大な結婚式と、国を挙げた熱狂的な祝宴を終え、ようやく全ての喧騒から解放された頃には、夜もだいぶ深く更けていた。


 王都の大通りに満ちていた祝福の熱気も、大神殿を揺らした鐘の余韻も、今は遠い。

 窓の外には、静かな夜空と、眠りについた王都の穏やかな灯り。

 そのどこか夢みたいな静けさの中で。


 私は今。


「…………」


 新居として用意された屋敷の主寝室、その真ん中で、完全に石像のように固まっていた。


 広い。

 いや、部屋がではない。もちろん部屋も広いのだけれど、そうではなく。


 空気の『密度』が、違うのだ。


 昼間まであれほど大勢の騎士や貴族たちに囲まれて賑やかだったのに、今はこの密室に、私とクライス様しかいない。

 祝宴も終わった。挨拶も終わった。

 あの重い婚礼衣装から、少しだけ軽くて肌触りの良い夜着にも着替えた。


 つまり、何が言いたいかというと。


 正真正銘の、新婚初夜である。


「…………」


 無理ですわ。


 いや本当に。

 それ以外、限界オタクの語彙力で何を言えというのか。


 目の前には、黒に近い深紺の夜着へ着替えたクライス様がいる。

 カッチリとした礼装ではない。見慣れた騎士服でもない。

 もっと布地が柔らかくて、胸元が少しだけ開いていて、もっと私的プライベートで、もっと距離の近い『オフ』の服装。


 それが、マズい。


 何がマズいって、普段よりも圧倒的に“大人の雄”感、いや、“夫”感が強すぎるのだ。

 しかも昼間、あれだけ神聖な誓いを交わして、皆の前で口づけまでして、その上で今こうして防音の寝室で二人きり。


 心臓が。

 私のオタクの心臓が、本当にもちませんわ。


「ルシア」


 低く、甘く響く声で名を呼ばれ、私はビクゥッと肩を震わせた。


「は、はいッ」

 返事がカエルのように裏返った。情けない。だが致し方あるまい。


 クライス様は扉の近くから私を見つめていた。

 いつも通り、氷のように無表情に近い端正な顔。

 けれど、その蒼い瞳の奥にある『濃厚な熱(捕食者の目)』は、今日一日散々甘やかされた私には、もう見間違えようがなかった。


 それが余計に、逃げ場がなくて駄目なのである。


「どうした」

「い、いえ……」

「さっきから、そこから一歩も動かないな」

「そ、それは……」


 それは、何ですの? と自分に問い返したい。


 いや、理由は明白だ。

 結婚式の後の、このベッドのある部屋での二人きりという状況が、私の処理能力サーバーを完全にダウンさせているのである。


 しかもクライス様は、今日一日ずっと言葉の火力が異常に高かった。

 綺麗すぎる。可愛い。俺の妻だ。隣に来い。


 そこへ来て今、この静かな夜の寝室である。

 もう十分すぎるほど致死量のファンサを浴びたのに、この先(R指定の領域)へ進むなど。


(む、無理ですわ……!)


 だが、このまま無言で棒立ちというわけにもいかない。

 私はどうにか公爵令嬢としての理性を呼び起こし、ジリッ……と一歩だけ後ろへ下がった。


「ええと、その……」

「何だ」

「温かいお茶を、淹れてまいりますわ」

「いらん」

「で、では湯浴みの支度の最終確認を」

「済んでいる」

「そう、ですの」

「ああ」

「でしたら、寝台のシーツの整えを」

「整っている」

「そ、それなら、窓の鍵を」

「閉まっている」

「…………」


 逃げ道が、すべて塞がれた。


 私はジリリ、ともう半歩下がった。

 するとクライス様が、少しだけ面白がるように眉を寄せる。


「ルシア」

「は、はい」

「逃げるな」

「に、逃げてなど」

「いる」

「おりますわね……」

「認めるな」

「だって事実ですもの!」


 思わず叫んでしまった。


 ああもう、本当に。

 結婚式のハッピーな余韻で多少は勢いがつくかと思ったのに、オタクの現実は甘くなかった。

 神殿での誓いの口づけまでは、何とか気力と極上の幸福感で押し切れた。

 だが、そのベッドは全くの別問題である。


 だって。だってですわよ?


 今日からこの方は、私の『夫』なのだ。

 推しで、最強の騎士で、恋人で、婚約者だった方が、ついに正真正銘の“夫”になってしまった。


 そんなの、尊すぎて直視できるわけがないではないか。


「ルシア」

 また、低い声で呼ばれる。

 先ほどより少しだけ距離が近い。

「こっちを見ろ」

「無理ですわ」

「なぜ」

「顔が良すぎるからです!」

「……」

「今夜は特に駄目ですわ!」

「今夜は特に?」

「そうですわ! 昼間からずっと格好よくて、しかも誓いの言葉だの口づけだの、もう心臓が何度止まりかけたか分かりませんのに、今この密室の距離で“こっちを見ろ”などと言われてごらんなさい! 限界オタクの命(残機)がいくつあっても足りませんわ!」


 一息で言い切ってから、ハッとした。


 しまった。

 パニックのあまり、全部そのまま口に出た。


 だが、クライス様は怒りも呆れもしなかった。

 ただ、少しだけ意地悪く目を細めて、こちらを見る。


「……限界オタク」

「今そこはスルーしてくださいまし!」

「難しいな」

「お願いですから……ッ」


 私はジワジワと後退りした。

 本当にジワジワと。淑女として見苦しくない程度の速度で。だが、必死に逃げていることは明白である。


 すると、クライス様がゆっくりと歩き出した。


「ひッ」

「何だその声は」

「だ、だって近づいてこられるから……」

「近づく」

「知っておりますわよ、見れば分かりますわ!」


 一歩。

 また一歩。


 ああもう、だめだ。

 この人、普段は無駄な動きがないくせに、こういう時だけ逃げ道を塞ぐのが上手すぎる。

 というか元々、戦場で相手の退路を断って殲滅する側の人間である。

 か弱い令嬢が逃げ切れるはずがなかった。


 私はそろそろとカニ歩きで横へ動こうとした。

 だが、その動きを完全に読んだみたいに、クライス様が先回りする。


「ど、どうして……」

「お前の考えそうなことくらい分かる」

「そんなところで無駄に高い観察眼を発揮しないでくださいまし!」


 トン、と。

 気づけば私の背中が、太い柱へ当たっていた。


 終わった。完全に追い詰められた。


 寝室の端、長い天蓋の陰。

 こんなに広いはずの部屋なのに、なぜこんなにも逃げ場がないのだろう。

 多分、目の前の人の圧倒的な存在感(雄み)のせいである。


 クライス様は、私の目の前でピタリと足を止めた。

 近い。

 昼間の丘の上より近い。

 しかも今は、祝宴の興奮も、神殿の厳かな空気もない。

 ただ静かで甘い夜と、二人分の呼吸音だけ。


「ルシア」

「……はい」

「俺に触れられるのは、本当に嫌か」


 その少しだけ不安そうな問いに、私は目を見開いた。


 嫌。

 そんなわけが、あるはずがない。


 ただ、恥ずかしくて、尊すぎて、嬉しすぎて、怖いくらい幸せで、脳の処理が追いつかないだけだ。

 嫌ではない。むしろ、今日一日どれだけこの人の言葉一つ一つに浮かれて昇天しそうになったと思っているのか。


 私はそろそろと、首を横に振った。


「……嫌では、ございません……」

「なら」

「ですが!」

 私は慌てて言い添える。

「心の準備というものが、オタクにはございますでしょう!?」

「していなかったのか」

「できるわけがございませんわ!」

「結婚式の時点で、少しは覚悟するものではないのか」

「覚悟した結果、ここまでキャパオーバーで無理になっておりますの!」


 すると、クライス様がほんの少しだけ口元を緩めた。

 今、絶対に笑いましたわね? こんな真剣な場面で?


「笑わないでくださいまし……」

「笑っていない」

「笑っておりました」

「気のせいだ」

「今日はその台詞で押し通せませんわよ……」


 私はジトリと睨んだ。

 だが、その睨みも多分全く迫力はない。

 だって顔が茹でダコのように熱くて、視線は泳ぐし、呼吸も浅く乱れているのだから。


 その時、クライス様の大きな手が、そっと私の頬へ伸びてきた。


「……ッ」


 ピタリと動きが止まる。

 頬へ触れる直前で、その指先が一瞬ためらう。


 そのわずかな迷いが、この人も私と同じように平然ではない(緊張している)のだと教えてくれて、胸が少しだけ甘く痛んだ。


 そして、そっと優しく触れられる。


「……熱い」

「そ、それはそうですわ」

「顔が赤いぞ」

「あなたのせいです」

「そうか」

「そうですわ」

「なら、悪くない」


「…………」


 何ですの、それは。

 何ですのその大人の余裕は。ズルい。


 だが、その一方で。

 “あなたのせい”を受け止めて、悪くないと低く笑ってしまうこの人に、どうしようもなくときめいて心臓を撃ち抜かれている自分もいる。

 本当に困る。


「ルシア」

「はい……」

「今夜くらい、仕事の顔をするな」

「え?」

「茶も、寝台も、窓の鍵の確認も、全部どうでもいい」

「そ、そんな雑な」

「雑ではない」

 クライス様は、真っ直ぐに私を見つめて静かに言う。


「今日は、お前に側仕えとして何かをさせるつもりはない」

「……」

「俺の妻として、ただ俺に抱かれていればいい」


 そのストレートな言葉が、胸の真ん中へドスンと落ちた。


 妻として。

 抱かれていればいい。


 そんなの、もう。破壊力が高すぎるでしょう。


 私はギュッと目を閉じた。

 何か言わなければ。でも、何を。

 ありがとう? 嬉しい? 好きです? 全部足りない。


 結局、限界を迎えた口から出たのは。


「……無理ですわ」

「何がだ」

「甘すぎますもの……」

「そうか」

「しかも真顔で……」

「それがどうした」

「もっと手加減というものを!」

「難しいな」

「どうしてですの」

「お前が可愛すぎるからだ」


「ッ!?」


 私は本気でその場に沈み込むかと思った。


 今、何と?

 可愛い? 私が? この方に?

 そんな軽率に?

 いや、軽率ではないのだろう。むしろものすごく真面目に、心底そう思っている顔だ。

 それが余計にマズい。


「クライス様……!」

「何だ」

「いけませんわ」

「何が」

「それ以上甘やかされると、私、本当に駄目になりますわ」

「そうか」

「そうです」

「だが」

「だが、ではありません」

「まだ、何もしていない」

「それが問題なのです! 何もしていない(触れてもいない)のにこの破壊力なのですから、この先の行為など!」

「この先?」

「言わせないでくださいまし!!」


 ああもう、本当に。

 この人は最近、私をからかって照れさせる楽しさを完全に覚え始めた気がする。大変よろしくない。


 するとクライス様は小さく息を吐き、頬に触れていた手を滑らせるように耳の後ろへ移した。

 そのまま、私の銀の髪をひと房すくうようにして、長い指へ絡める。


「ひゃ……」

 また情けない声が出た。


「副団長」

「クライスだ」

「クライス様」

「何だ」

「その、あまり」

「何だ」

「優しく、されると……」

「……」

「余計に、理性でお断りするのが、無理になりますわ……」


 言い切る頃には、声がほとんど消え入りそうだった。

 けれど、クライス様はちゃんと聞いていたらしい。

 目を細め、ひどく静かに、甘く言う。


「優しくしたい」

「……」

「駄目か」

「駄目では、ございません」

「なら、する」

「そういうところですわ……!」


 私はとうとう片手で顔を覆った。

 もう見られたくない。こんな真っ赤に染まった顔。こんなにグズグズでだらしない反応。

 でも、完全に隠すのも惜しい。

 だって、この人は今、熱を帯びた瞳で私だけを見ているのだから。


 そんなぐちゃぐちゃな感情のまま硬直していると。

 クライス様が、顔を覆っていた私の手首を、そっと、だが力強く取った。


「隠すな」

「……見せられませんわ」

「俺が見たい」

「ッ」


 直球。また逃げ場のない直球である。


 私は完全に降参した気分で、そろそろと手を下ろした。

 視線を上げる。

 するとクライス様の目が、ほんの少しだけ優しくやわらいだ。


「……その顔だ」

「どの顔ですの……」

「俺の愛を受けて、困っている顔」

「困っておりますわ」

「知っている」

「分かっていて、意地悪でやっていらっしゃるのです?」

「ああ」

「ひどい方」


 文句を言ったつもりだった。

 だが多分、全然迫力はなかった。むしろ甘えて拗ねたみたいな響きになってしまった気がする。

 そのことに自分で気づいて、さらに恥ずかしくなった。


「ルシア」

「はい」

「もう少し、こっちへ来い」

「これ以上ですの!?」

「そうだ」


 十分近いのに。いや本当に鼻先が触れるくらい十分近いのに。

 けれど、クライス様は待っている。無理に力で引き寄せはしない。

 私が自分で、覚悟を決めて一歩踏み出すのを。


 ……ズルい。


 その待ち方が、ひどくズルい。

 そんな風に甘やかされたら、こちらだって応えたくなるではないか。


 私はギュッと唇を噛み、それから意を決して、ほんの少しだけ、彼の方へ前へ出た。


 その瞬間。

 クライス様の腕が、スルリと私の背中へ回る。


「きゃ……ッ」

「今のは、俺からだ」

「そうですわね!?」

「お前の一歩だけでは、待ちきれずに足りなかった」


「…………」


 もう駄目ですわ、この人。完全にタガが外れている。


 だが、そのまま深く抱き寄せられる。

 強引ではない。でも、絶対に逃がさないという形で。

 あたたかくて、大きくて、心臓の重い音が直接伝わる距離。


 前世でどれだけ願っても、絶対に届かなかった場所だ。

 この胸の中。この腕の中。

 それが今、完全に『自分のもの』になっている。


 そう思うと、恥ずかしさと一緒に、ひどくやわらかくて泣きたくなるような幸福が広がった。


「……どうだ」

 耳元で、甘く問われる。

「何が、ですの」

「こうして触れられても、平気か」

「平気では、ございませんわ」

「そうか」

「でも」

 私は恐る恐る、彼の広い胸元へ額を預けた。

「嫌では、ございません……」

「……ああ」


 その短く掠れた返事が、嬉しかった。


 しばらく、どちらも動かなかった。

 外は静かで、部屋の中には、二人分の少し早い呼吸だけが満ちる。


 やがて、クライス様の大きな手が、私の背をゆっくりと撫でた。

 落ち着かせるように。安心させるように。愛を確かめるように。


「今夜は、朝まで逃がさない」

「……」

「だが、お前が痛がるような無理はさせない」

「……ッ」

「だから、ちゃんとこっちを見ろ」


 私はそろそろと顔を上げた。


 近い。近くて、でももうさっきほど怖くはない。

 いや、怖いというより、胸が苦しいほど嬉しい。


 クライス様は私の顔を見つめ、指先で頬の熱を確かめるみたいに優しく触れた。


「まだ赤い」

「ずっと赤いですわ」

「そうだな」

「誰のせいだと……」

「俺だろう」

「自覚はおありですのね」

「ある。そして誇らしい」


 そこは即答でドヤ顔なのですわね。


 そのまま、私の額へ口づけが落ちる。

 次に瞼。

 熱い頬。

 ひどく大事な宝物へ触れるみたいに、一つずつ、丁寧に。


 私はそのたびにビクビクしてしまって、もうどうにもならなかった。

 けれど、クライス様はその私の初々しい反応さえ愛おしむみたいに、時々小さく、甘い息を吐くだけだ。


「クライス様……」

「何だ」

「もう、十分に、尊いですわ……お腹いっぱいです」

「まだ足りん」

「どうしてですの……」

「夫婦の夜は、これからだからだ」


 また、それだ。

 その『夫婦』という単語を出されるたびに、私は新鮮に撃ち抜かれてやられてしまう。


 そして最後に、唇が重なる。

 昼間の神殿での誓いの口づけより、ずっと深く、少しだけ長く。

 問いかけるみたいに、でも確実に所有権を確かめるように。


 私は一瞬息を止めて、それからそっと目を閉じた。


 受け入れる。逃げない。

 恥ずかしいけれど、嬉しくて、幸せで。

 この人のものになれたことが、たまらなく甘い。


 やがて唇が離れた時、私はもう、最初のように逃げようとは思わなかった。


 思わなかったのだけれど。


「……寝台へ行くぞ」

「…………」


 その決定的な一言で、またしても思考が飛んだ。


 ああ。そうだった。

 ここから先が、本来のR指定の意味での“初夜”なのだ。


 私は完全に石像のように固まり直した。

 だが、クライス様はそんな私を見て、今度こそハッキリと、雄の顔で笑った。


「今さらだな」

「今さらではありませんわ……!」

「そうか」

「そうです!」

「なら、抱えて行くか」

「なッ」


 本気だった。


 次の瞬間には、私はフワリと宙に浮き、本当に抱き上げられていた。

 横抱きである。いわゆるお姫様抱っこである。


「クライス様ーーーッ!?」

「暴れるな。落ちるぞ」

「暴れておりませんわよ、声が出ただけですわ!」

「同じことだ」

「違います!!」


 文句を言いながらも、私は反射的に彼の首へ腕を回してしまう。

 だって落ちたくない。

 そして、それをされてクライス様が満足げにわずかに目を細めたので、私はまた赤くなるしかなかった。


「……可愛い」

「お願いですから今日はもうそれ以上火力を上げないでくださいまし……」

「善処する」

「絶対にしない時の返事ですわよね、それ!」


 そんな私の抗議もどこ吹く風で、クライス様は悠々と寝台へ向かう。

 天蓋のかかった、広くて柔らかい大きな寝台。

 白い布が揺れて、月光が薄く落ちるその場所へ。


 いよいよ、逃げ場はない。


 けれど。

 不思議と、もう怖さはなかった。


 恥ずかしくて。胸が苦しくて。

 今すぐ布団へ潜って芋虫のように転げ回りたいくらいにはオタクの限界だったけれど。


 それでも。

 この人になら、全部委ねていいと思えた。


「……クライス様」

「何だ」

「その」

 私は顔を赤くしたまま、でもちゃんと彼を見る。

「優しく、してくださいましね」

「言われるまでもない。大切に愛す」


 その真っ直ぐすぎる答えに、私は小さく幸せに笑った。


 そして、その夜。

 ようやく真の意味で夫婦となった私たちは、長い攻防戦の末に、ちゃんと同じ寝台へ辿り着くことになる。


 月は静かに窓辺へ光を落とし、夜は甘く、ゆっくりと更けていった。


 限界オタク令嬢ルシア・フォン・グランツは、

 推しであり、愛する夫となった氷の騎士クライス・フェルドに。


 もう逃げなくていいのだと。お前は俺のものだと。

 何度も何度も、朝まで優しく、そして情熱的に教え込まれることになるのである。



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