最終話 家出令嬢の楽しい鍛冶工房生活
後日、ウィルバート殿下が辺境へ送られたというニュースが王国全体をかけめぐった。
王位継承をめぐる争いが発端だったという今回の事件は、名もなき者たちの尽力で最小限に抑え込まれたという。
その名もなき者たちのことについてはあまり触れられず、ただなぜか新聞の広告にヴェルデたちの看板と、私たちの看板、ニーゼン商会が載っていた。
この手配をしたのは、誰なのかきちんと知らされてはいない。
「まったく、勝手にこんなことを。ていうか、全然ざまぁな展開にならなかったな。あの色ボケクソ王子、平然と生きてやがるのかよ。さすが王族は待遇がようございますなぁ」
エカード先生は新聞を読んでからずっとこの調子。
でもまぁ辺境にほぼ幽閉も同然で生きていくわけで、これから政務には一切関与できないことになるわけだし、王位継承権も剥奪。まぁまぁな処分だと思うわ。
ちなみに利用されていただけのシュリヒト子爵はこの件が明るみになったことで、爵位剥奪は免れたそうだし。
それに今回の件でざまぁな展開はなくてもいいのよ。みんな無事で、みんな楽しく生きていたらそれでいい!
さて、私は仕事をするわよ。
工房に戻った瞬間から仕事の発注でてんてこ舞いよ。おちおち休んでいられないわね!
「うぉぉぉぉっ! 仕事がいっぱいだあああっ!」
作業台に溢れんばかりの注文書。ふふふっ、これは俄然燃えるわ。
「その謎の雄叫び、やめてくれないか。心臓に悪い」
工房でハンマーを振るっていると、エカード先生が定位置の作業台で不満そうに言った。
彼は今回の件でかなり減った薬の補充をしている。これはしばらくこっちの作業には介入できなさそうね。
「だって燃えませんか!? この大量の注文書、見てくださいよ! 一枚、二枚、三枚……十枚、うわ、まだまだあるぅ!」
「あまりの仕事量で完全に目がキマってるな……カトリーナ、やっぱり少し休め」
そう言って先生は私からハンマーを奪おうとする。
「やーだー! 仕事しますぅ!」
「じゃあせめてこの栄養剤だけでも飲んでくれ!」
今や仕事に飢えすぎてゾンビとなりそうになった私の目を見て、エカード先生は恐ろしいものでも見るかのように顔を引きつらせた。
作りかけていた薬を急いで完成させ、私の口につっこむ。
んぅ、おいしい。
「あら、シュリヒト子爵から正式な注文書もありますよ、先生」
栄養剤を飲み干し、持っていた注文書の名前を見て言う。
エカード先生は呆れた様子だった。
「休めって言ってもダメだな……やれやれ」
「ほら、見てください! 掃除用魔道具を新しく開発してほしいそうです! やったぁ!」
注文書の一枚を先生の目の前にヒラヒラと掲げて見せる。
「あー、はいはい。わかったから、大人しく仕事してくれ」
先生は面倒くさそうに言うと、もう取り合ってくれない。
それでもいいわ。私は目の前の仕事に取り掛かる。
どんなものがいいかしらね。考えるだけでワクワクしちゃう。
注文書にサラサラと看板名を書き、私は設計図を書くため紙を広げた。
「そうだ、カトリーナ」
「はい、先生」
やにわにエカード先生が話しかけるのですぐに反応する。
何かを思いついたのか、彼は少し顔をほころばせながら言った。
「手が空いた時でいいから、看板を作ってくれないか」
「あら、工房の名前はすでにできたじゃないですか」
「違う。この工房に掲げるためのやつだよ。今回の騒動で、なんだか有耶無耶になってたからな」
そうだったわね。
グランツシュミーデ。それが私たちの工房の名前。
私は胸の奥が熱くなり、看板作成に思いを馳せた。
「いいですね! 作ります! このお仕事、今日中に全部やっちゃおう!」
「いや頼むから、適度に休憩してくれ! 納期が遅いやつは後ろに回せ!」
エカード先生の注意が飛ぶ。私はワクワクが止まらない。
こんな日がいつまでも続けばいいな。
壁に飾ったお父様の魔剣には、伝説の鍛冶職人の名を刻んでいる。
刃も柄もすべて輝きが褪せることはなく、私たちのドタバタな日常を見守っているようだった。
家出した伯爵令嬢の楽しい鍛冶工房生活〜前世はドワーフだったようです〜 了
ここまでのご高覧、ありがとうございました。お疲れ様です。
本作は初めて異世界令嬢ものに挑戦した作品です。とても楽しく書いておりました。
至らぬところあるかと思いますが、皆様が少しでも楽しんでくださいましたら幸いです!
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