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第22話 親愛なる姉上へ愛を込めて

※本作はカクヨムにも投稿しています。


【登場人物】

カトリーナ・ライデンシャフト…18歳。モノづくりが大好きな鍛冶スキル持ち。伯爵令嬢。

エカード・エアフォルク…29歳。元王立学術研究所の天才錬金術師。カトリーナから先生と呼ばれて慕われる。

グレル・ニーゼン…23歳。商人。くしゃみが止まらない持病持ち。お調子者。

トーマン・ライデンシャフト…15歳。カトリーナの腹違いの弟。重度のシスコンで素直な性格。

リタ・ゾイマー…18歳。カトリーナの侍女。ネコ耳と尻尾を持つ半獣人族。ドジっ娘。

パウラ・シュラーフ…おばあちゃんメイド。うさ耳と尻尾を持つ半獣人族。よく居眠りをしている。

ショイ…ドワーフ。鉱山に住む鍛冶職人。恥ずかしがり屋。

ヴェルデ…ドワーフ。鉱山に住む鍛冶職人。皮肉屋。

ムンター…ドワーフ。ショイとヴェルデの兄貴分。カトリーナの前世。

 ドワーフたちとの出会いから二週間が過ぎた。


 あれから私は魔石ライトから派生した防犯グッズをいくつか考案し、安価なものから高価なものまで多種多様そろえた。

 目くらましライトつき指輪、音が鳴るブローチ、防犯用ドアノッカーなどなど。とくに小型化を求められ、繊細な作業を要した。

 従来にもこうしたアイテムは売られているし作られてもいるけれど、大量生産できる業者がおらず、貴族御用達のお店に置かれるばかりで、市場に出回ることはなかなかないのよね。


「まぁ、防犯グッズは平民にとってそれほど重要じゃなかったからな……」

「どうしてですか?」


 新作商品を考える中、私とエカード先生は雑談をしていた。


「貴族のお嬢様にとって防犯グッズは重要かもしれないが、平民は日中働き、陽が落ちたら外に出ないからな」

「それだけですか?」

「あぁ。そりゃたまに悪質な連中が強盗に入ることもあるが、あんまりないな。よほど裕福な家じゃないと意味がないから」


 そっか。私が泥棒の立場だったら、大きなお家を狙うかも。きっと泥棒はお金とか高価なものを欲しがるものね。


「冒険者や魔法使いなんかは自分の身は自分で守るしな」

「なるほど?」


 じゃあどうして次から次へと発注がくるのかしら?


 首をかしげていると、エカード先生は苦い顔つきになって腕を組んだ。


「ほら、最近何かと物騒だろ」

「あぁ……妙な人たちがうろついてましたものね」


 それこそ、私がこの町にやってきた際に出くわしたあの悪漢たち。

 ああいう人たちがたまに出るようになったから、町の人たちの防犯意識が高まったのかもしれないわね。


「ちょうどいい時に君が開発したから、おかげでうちはかなり潤ってる。今では、いい素材も買えるようになったし、そのおかげでいろんな実験もできるし」


 そういえば、ここ最近のエカード先生はアトリエに入り浸っていて、熱心に何かを研究している。アトリエで寝ている私としては複雑な気分ではあるんだけども。


 お金に困らなくなってからは、私も自分の住環境を整えようと、アトリエの二階を改造した。

 今ではしっかりとした二階の部屋が出来上がり、ベッドのほか文机や洋服タンス、簡単なドレッサーまで揃っている。

 それも、あの『シェーデル・ミュートス』のディアナさんから使わなくなったお古の家具をいただき、自分でリメイクしたの。


「先生はいつもなんの実験を?」

「いろいろだよ。薬もそうだけど、何か新しいことができないか考えてる……」


 エカード先生はゴニョゴニョと言葉を濁した。


「ふぅん? そうですか……私には早く寝ろって言いながら、そちらは夜ふかしばかりでいいご身分ですね!」


 私だって先生と一緒に何か考えたり、新しいものを考えたりしたいのに!


 すると、むくれた私にエカード先生はため息をついた。


「僕はもうあとは枯れるだけの人生だからいいんだよ。でも君は魔力消費が多い体質だし、何より徹夜は美貌の大敵だ。しっかり休んでしっかり働いてもらわないと困る。君はここの稼ぎ頭なんだから」


 そう真剣に言われると黙るしかない。

 我を忘れて作業に没頭しちゃうのは私も同じだし、そのたびに先生に迷惑かけるのはよくないものね……でも、先生は特別に良いというのはどうにも納得がいかないわ。


「とにかく分かったら、さっさと今日の納品分終わらせろ」

「もう終わってますー!」


 私は、いーっと威嚇して席を立った。

 お茶でも飲んで休憩しましょう。


 ***


 平屋へ行くと、パウラとリタがのんびりとくつろいでいた。

 ふたりともすでに今日の家事は終わっており、つかの間の休息中のようだった。


「あら、お嬢様! 休憩ですか?」


 リタがすぐに気が付き、読んでいた本を閉じる。

 パウラは編み物をしている最中に居眠りをしているようだった。


「えぇ、お茶でも飲もうかなって」

「では、私が淹れますね!」


 リタは嬉しそうに椅子から飛び降りると、キッチンへ入った。彼女たちが使いやすいようにキッチンもかなり改装した。

 この改装に関して、エカード先生はとくに気にしてはいないようで、むしろ便利になったと驚いていたほどだった。


 平らで頑丈、熱にも強い天板の上にヤカンを置き、その中にお水と魔法で出した火を何個か投入。沸き立ったお湯に、エカード先生愛用の薬草と茶葉を入れてお茶を抽出する。

 この天板の上でお茶を沸かすとかなり早く出来上がるの。天板はヤカンの回りしか熱くならないから、そそっかしいリタでも簡単に使える。


「お嬢様ぁ、できました」

「ありがとう。あなたもどうぞ」

「わぁい! いただきます!」


 リタも椅子に座り、カップに注いだお茶を一緒に飲む。

 ほっと一息。


 はぁ……快適。

 リタとパウラも私とドワーフたちで作った魔道掃除道具で、スムーズな家事ができているようだし、メイドとしてのアイデンティティも保たれているみたい。


 すごく便利で快適で、なんの驚異もない。

 平和な日々に感謝しないとね。


 それからはエカード先生も平屋に戻ってきて、一緒にお茶をいただくことになった。

 私、リタ、パウラ、エカード先生がそれぞれテーブルにつき、一緒にお茶を飲む。お茶請けにはクッキーを広げていた。

 ちなみにメイドの二人も一緒に座っているのは、エカード先生が『主人が座るたびに横に立っていると気が散る』と言って、基本的に休憩時間は一緒にとるというルールができたからだ。

 私がどんなに言っても聞かない二人だったので、エカード先生にルール化してもらえてよかった。


「そういえば、カトリーナ」

「はい?」


 サクサクの果実クッキーを食べていると、エカード先生が思い出したように言った。


「君、手紙がきていなかったか?」

「あぁ、そういえばトーマンから手紙が届いてたんです」


 昨夜、グレルが私宛に手紙を渡してくれたのをすっかり忘れていた。


「どうりで、君の作業台にずっと置きっぱなしだと思った」


 そう呆れたように言うエカード先生は、白く上等な封筒を私に差し出した。


「さっさと読んでやれ。もしかしたら、君の身辺に関わる話かもしれないんだから」

「そうですね……」


 私は先生から手紙を受け取り、残っていたクッキーを口に放り込んで封筒を開けた。


 以下、トーマンの手紙。


『親愛なるカトリーナ姉様へ

 麗かな春風が舞う今日この頃、姉上はいかがお過ごしでしょうか。

 僕は日々鍛錬に励み、一刻も早く爵位を継げるよう努力しております。

 しかし、姉上のことをかたときも忘れることはありません。

 あぁ、姉上。今日もその麗しく愛らしいご尊顔を拝みたい。

 姉上と過ごした日々を思い出し、枕を濡らす夜もありますが、姉上のお言いつけを守るべく我慢している所存です。

 しかし、姉上が僕を必要とすることがあれば、すぐにご連絡ください。

 あのやさぐれ錬金術師をすぐにでも罪人として処罰するよう手を回しますので』


「おい、なんで僕が罪人扱いされてるんだ!?」


 横から見ていたのか、エカード先生が声をあげる。

 私は苦笑を漏らしながら、先生から手紙が見えないようにした。


 以下、手紙の続き。


『このところ、母上はあまり姉上のお話をしなくなりました。

 姉上の捜索に当たっていた使用人たちも引き上げてまいりました。きっと諦めてくださったのでしょう。

 僕が何度も姉上のことは心配するなと言い含めておりましたので、きっと分かってくださったのかと思います。ご心配なく!

 それに母上は何度も王城へ足を運び、ウィルバート殿下とお会いしているようです。そこで正式に婚約破棄となり、貴族籍の除籍については保留となりました。

 ただ、ウィルバート殿下は後ろ暗いお噂があるお方です。引き続き、動きがないかこちらから探りますので、姉上もどうかお気をつけください。

 それでは、今回はこのへんで筆を置かせていただきます。

 親愛なる姉上へ、愛を込めて。あなたのたった一人の弟、トーマンより』


「胃もたれする文章だな……こいつ、成人して妻を娶ったとき、これを恥ずかしく感じて黒歴史化するんじゃないか?」

「だから先生、見ないでくださいよ!」


 私は手紙を折りたたみ、ベストのポケットにつっこんだ。

 まぁ、先生の言う通り確かに端々で私への愛を込めている手紙だったので、彼の今後が心配になってしまうけれど。


 すると、エカード先生が肩をすくめながら言った。


「しかし、その手紙を見る限り、用心した方がいいだろうな」

「そうですね……トーマンは心配ないって言うけど」


 私も神妙になって頷く。


「どうしてですか?」


 リタが不思議そうに尋ねる。


「トーマンの『心配ない』は信用ならないからよ」


 彼は弟として、とてもかわいいし信頼してる。でも良くも悪くも楽天家というか、見たものをそのまま捉えてしまう傾向がある。

 信頼はしてるけど信用はできない。そんな矛盾が生じるのは、トーマンの素直な性格が災いしているからなのよね。


「お父様が生きていたら、トーマンへ慎重に物事を考える手ほどきをしてくださったのかしら……」


 そんなことを嘆いていると、エカード先生はお茶を飲み、澄まして言った。


「君の父上も楽天家ではあったけどな。戦場での戦闘センスがずば抜けていたから、カリスマと呼ばれていたんだが」

「あぁ、そういえばそうでした。お父様、よくお義母様に怒られていましたもの」


 教養や躾を施される私たちの邪魔をしては、突然お出かけを決行したり雑談したりね。そのたびに怒られては『まぁまぁいいではないか』と笑って私たちを連れ出すの。

 滅多にお屋敷にいらっしゃらないから、私たちといる時は常に一緒に遊びたがる自由な方だったわ。


 そんな思い出話に花を咲かせていると、いつの間にか休憩時間が過ぎていた。


「僕は日課の昼寝をする。君たちも休むように」


 そう言ってエカード先生は、いつものようにベッドへごろんと横になる。

 私たちは「はーい」と手を挙げて、各々好きなようにする。パウラも居眠りをはじめ、リタは折り紙で遊ぶ。

 私は何をしようかな。久しぶりに本でも読もうかしら。インプットは大事だものね……。


 その時、突然平屋のドアがバタンと風をまとうように開いた。


「旦那! 大変だ!」


 血相を変えたグレルが入ってきた。


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