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第18話 職人の心得

「ここまで来て門前払いは痛いな。どうしたものか」

「先生、事前に話を通してからお伺いしたほうが良かったのでは」


 そんな話をしていると、エカード先生は足元をチラリと見た。

 見ると、先生のローブを引っ張るショイがいた。


「ひとまずあっちで待っとけ」


 ショイはぶっきらぼうに言うと、石のお家へ案内してくれた。

 中は洞窟のように薄暗く、かろうじて窓から差し込むわずかな灯りで様子が窺える。

 小さなテーブルと椅子、棚が三つずつ。奥には寝室があるようで、これもまた小さなベッドがあった。

 まるで小人の世界みたい。脚の短い椅子に座ると、ショイはジョッキにお茶を注いで持ってきてくれた。


「悪いな。いつもは暇なのに、今日に限って納期がかぶった仕事があって」


 ショイはどうやら話が分かるタイプみたい。それにしても、ドワーフ的にはトーマンと同じくらいと分かればショイがかわいく思えてくる。


「ありがとうね、ショイ」


 笑顔で言うと彼は困ったように目を伏せた。


「それにしても、その嬢ちゃんのハンマーを作るって妙な依頼だな、エアフォルクよ」

「妙だとは思うだろうが、さっき言ったことがすべてだ。そして僕と彼女でいろんなものを発明して世に知らしめる予定だ」


 エカード先生が淡々と言う。これにショイは呆れたように笑った。


「そんなことされちゃ、こっちの商売上がったりだなぁ」

「なんなら、お前たちにも仕事を分けてやってもいい。こっちがもう少し儲かったらな」

「それ、おいらの前だからいいけどヴェルデの兄貴には言うなよ」


 ショイはどうも本気に捉えている様子ではなさそう。

 まぁよく考えてみれば、彼らと私たちは同業者でありライバルみたいなものよね。


「大体、看板登録はしてるのかよ」


 ショイが不審そうに訊くと、エカード先生は急に言いよどんだ。


「いいや、少し事情があってまだだ」

「ふぅん。じゃあ、まだ同業者でもないな」


 ショイは軽口を叩いた。二人の会話にピンとこない私は、話を変えようと割って入る。


「ショイたちはどんなものを作ってるの?」


 訊いてみると、ショイはドキッとしたように肩をビクつかせて目をそらした。

 うーん、まだ慣れてくれないー……。


「えぇっと、いろんなものさ」


 あ、喋ってくれた。全然こっち見てくれないけど。


「食器から大工道具、精密機械も割と得意。魔道具も作るけど、とにかく日用品といったとこかな」

「あら、武器は作らないの?」


 確かにそれらの道具も大事だろうし、きっとドワーフ製は高級だと思う。

 でも彼らが得意とするのは武器制作だと聞いたことがある。

 すると、ショイは項垂れるようにうつむいた。


「武器は、作りたくない」


 どうも込み入った事情があるように察した。


「でも、魔剣はもう一度作ってみたいな。そういうものならお安い御用さ。もともとムンターが得意としていた分野だし、おいらたちの仕事の原点はそこだ」


 一転してショイは早口でそう言った。


「ムンターって?」

「おいらの恩人で、凄腕のドワーフさ」


 ショイの目には恥じらいがなく、キラキラとした輝きがあった。

 なるほど、ムンターというドワーフがいるのね。だから部屋にある物がそれぞれ三つずつあるんだわ。


「でもムンターなんてドワーフ、初めて聞くぞ。そんなやつがいたのか」


 エカード先生が意外そうに言う。

 すると、ショイは輝いていた目を急に伏せた。まるでしぼむように肩を落として小さくつぶやく。


「ムンターは十数年前に死んだからな」


 そっか……。


 いくらドワーフと言えど、生あるものはいつかは死んでしまう。

 ショイの憂いげな目に私はいたたまれなくなった。急に空気が重くなり、私も亡くなったお父様のことを思い出す。


「おいらはドワーフの戦争で親を失ってな。それでムンターが拾ってくれて、おいらを育ててくれたんだ。ヴェルデもそうさ。ムンターがいなけりゃ、おいらたちはきっと戦争に巻き込まれて死んでたから。それでおいらたちは戦争が終わったあと、武器は作らないと決めたんだ。こんなことは繰り返しちゃならんって」

「うっ……そうだったのね……」


 私はもう我慢できず、涙を流した。

 これにエカード先生がギョッとして驚く。


「おいおい、カトリーナ。今の話でよくそこまで感情移入できたな」

「だってぇ……両親が亡くなって大変だったでしょうに、その育ての親まで亡くなって、それなのに……こうして健気に頑張ってて」


 私、こういう話には弱いのよぉ。

 それに、自分も同じような境遇だから。


「今もまだたまに思い出して悲しくなるよ。ヴェルデも昔より元気ないし」

「そうなのか? そうは見えなかったけどな」

「お前さんは共感性ってやつが欠けてるんだなぁ」

「余計な世話だ」


 泣いてる私をよそに二人はそんな会話をしている。

 私は涙を拭い、呆れて笑った。


 ***


 しばらく談笑したあと、エカード先生はもう一度ヴェルデと話をつけるために洞窟へ向かった。

 私とショイはハンマーの材料を探すため、鉱山まで一緒に歩いていくことになった。

 どうも私が彼の生い立ちを聞いて泣いてからは、なついてくれたみたい。


 相変わらず無口なんだけど、私が話しかけたら話してくれる。


「ハンマーの材料ってどんなものがあるの?」

「用途によってはいろんな素材で作れるよ。鉱石だったり、木材だったり。前者なら頑丈だけど重たい、後者なら軽いけど壊れやすい、かも」

「なるほどね」

「でも同じ鉱石でも魔力がこもっているものなら調節がきくし、木材もおんなじことさ。その素材のランクが高ければ、より強力で長持ちするものになる」

「とても為になるわ」


 この心得はモノづくり職人としては大事なことね。


 鉱山に入ると、そこはあらゆる鉱石が眠る宝の山だった。

 きらびやかな鉱石の原石がいたるところに埋まっており、なんだか神秘的で力がみなぎってくるようだった。


「ここ、なんだかすごくパワーを感じるわ」

「そりゃそうさ。ここは魔石の原石があるんだから」


 ショイが鼻で笑いながら言う。

 どうりで魔力を感じる気がしたわ。体に浸透するというより、付着するような感覚。そして私の気分はかなり高揚する。


「え、じゃあ、魔石でハンマーを作ることも可能なのかしら?」

「できなくはないけど、魔道具になっちまうよ。そいつはもはや武器の域さ」

「そっか。えへへ。でもパワー増幅の魔石で作ったハンマーなら、鍛冶仕事もかなり効率的にできそうじゃない? ほら、魔導掃除用具みたいに」

「へぇぇ。あんた、魔導掃除用具、知ってんだな。そいつはおいらたちが受けてた仕事さ」


 その言葉に、私の脳が急激に冴えた。


「もしかして、あなたたちってライデンシャフト家お抱えの職人さん?」

「たまげたな。それも知ってるのかい」

「えぇ。だって、私はそこの娘ですもの」


 すると、魔石を採掘しようとツルハシを構えていたショイが驚いて、別の場所へ振り下ろす。

 ガシャンと大きな音がしてもショイは構うことなく私を見上げた。


「えぇ? そうだったのかい?」

「うん。あれ? 最初に名乗らなかったかしら……」


 言いかけたその時、落としたツルハシの下からボウっと赤い炎が噴出した。


「え? どうしたの?」

「しまった、火の魔石にツルハシ落としちまった」

「えぇーっ!?」


 ショイがツルハシを引っ張り上げ、その場から離れていく。


「ちょっと、どこに行くの!?」

「水の魔石を探さないと!」

「分かったわ、私も探す!」


 火の魔石は炎の柱となり、暴走していく。この狭い鉱山の採掘スペースで火が回り始めたら大変だもの。


 水の魔石は水色……暗い場所だとなかなか見つからない。魔石ライトを使って探す。

 けれど、火はどんどん他の魔石にも飛び火し、作用しあってまばゆい光を放つ。


 途端に大きな風の渦が巻き起こり、鉱山自体が歪むような地響きがした。

 大きな横揺れが私たちを襲う。ショイの頭に岩が落ちようとしたので、私は咄嗟に飛び込んで彼に覆いかぶさった。


「危ない!」


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