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第17話 不機嫌なドワーフたち

「ここがあいつらの作業場。家はその隣にある」


 エカード先生が説明する。

 洞窟から左へ視線を向けた先に、積み上げた石でつくったようなお家があった。それはなんだか天井が低くて、人間が住むにはちょっと狭そう。

 しかも『あいつら』ってことは、複数人いるってことだよね。


 エカード先生は家の方へ移動し、自分の胸の位置にあるドアを叩いた。

 でも、しばらく待っても誰も出てこない。


「やっぱり今は工房にいるっぽいな」

「あの、ここはいったい、どんな職人さんがいるんですか?」


 気になって訊いてみると、エカード先生はそっけなく答えた。


「ドワーフだ」


 ドワーフ。それは人族とは違う、小さいながらも屈強で手先が器用な職人であり戦士でもある種族。


 このツァールロス国には、ドワーフのほかにケンタウルスやエルフ、精霊も住まうと言われている。ほかにもあらゆる種族がいるとされてるけど、そのほとんどは人と関わることが少ない。


 私が生まれる遥か昔、この国は種族同士の争いが絶えなかったそうで、ドワーフは最後まで戦っていたみたい。

 多くの血が流され、ドワーフ族は極端にその数が減ったそうで降伏した。

 やがて人は他国と戦争することとなり、お父様は何度も前線に立って勇敢に戦ったそうだけど、五年前の戦いで亡くなってしまった。


 そう言えば、お父様が大事にしていた魔剣は王様より賜ったものだった。あれは確か、伝説のドワーフが打った魔剣だったと聞いたような……。


 そんなことを考えている間に、エカード先生は工房とやらの洞窟へ顔を覗き込んだ。


「おーい、誰かいないかー?」


 先生、雑な掛け声、やめてください。


「……誰だ?」


 やがて、洞窟の奥からひょこひょこと青い帽子をかぶったドワーフが出てきた。

 思ったより筋肉がある感じではなく、ぽってりと柔らかそうなお腹と腕、足がふくふくしててかわいい。帽子とおそろいの青色の衣服を身に着けている。しっかりと太いボサボサの黒髪とたっぷりの顎髭、眠たそうな半眼をしたドワーフが私たちを見上げていた。


「なんだ、エアフォルクか」

「なんだとはなんだ、ショイ。久しぶりに足を運んだというのに」

「ついこの前会ったような気がするけどな」


 そのドワーフ、ショイは表情を崩さず、首をかしげた。

 たしかドワーフは長命なのよね。人よりも時間の感じ方が違うのかも。


「ヴェルデはいるか?」


 エカード先生は不躾に訊いた。

 それでもショイは気を悪くすることはなく、ただ面倒そうに洞窟を見やりながら答える。


「あぁ、うん、まぁいるにはいるけど」

「なんだ、お前ら。まだ喧嘩してんのか」

「だってヴェルデが悪いんだ。おいらのこと、ドジだの間抜けだの使えないだの言うから」


 ショイは鼻を鳴らして言った。その際、髭が揺れてむくれた口が見えた。


「それ、三年前にも聞いた気がするな……僕が家の近くに小川を引こうとしたとき、こいつらに手伝ってもらったんだ」


 エカード先生が私のほうを振り返って言う。


「僕はまぁ町ではあまり好かれてないからさ……それもあってわざわざこいつらに頼むことに」

「なるほど、そういう経緯があったんですね」


 ようやく私は先生の横に立ってショイの前に姿を表す。

 すると、ショイは目を真ん丸にして私を見上げた。


「はじめまして、ショイ。私はカトリーナ。よろしくね」


 礼儀正しくお辞儀しながら言うと、彼は目を丸くしたまま固まった。


「どうしたの?」


 腰をかがめて目線を合わせようとすると、ショイは慌てて洞窟の中へ駆け込んだ。


「え? えぇ? あれ? どうしちゃったんでしょう?」

「あいつ、重度の恥ずかしがり屋なんだ。忘れてた」


 エカード先生は悪びれずに言う。

 それはショイに悪いことをしてしまったかもしれないわね。


「んもう、先生、しっかりしてくださいよ!」

「三年前に会ったきりだからさ……そのときはあいつも僕に慣れてくれたから、さっきも話してくれたんだけど」


 エカード先生はバツが悪そうに頭をかいた。これは本当に忘れてたみたいね。


「ひとまず、中へ入ろう。ショイは今はどうだか知らないけど、あれでもまだ青年でな」

「先生よりも年上に見えましたけど」

「ドワーフ的には若い方らしい。多分、トーマンと同じくらいかな」

「それはなかなか若いですね」

「あぁ。だからそのボスのヴェルデに話を通さないといけない。ヴェルデもまぁドワーフの中では若者の位置らしいけど。僕と同じくらいか?」

「へぇぇ」


 そう話しながら、私たちは魔石ライトを使って洞窟の中へ入った。


 洞窟の中はランプの灯りが点々とあるけど、薄暗くて足元がよく見えない。

 しばらく歩いていくと、岩壁のあちこちに動物の骨や鉱石の原石なんかが埋まっているのがわかった。だんだん明るくなってきたのでライトを消す。


「わぁ……」


 そこは小さな工房だった。

 作業台の他に大量の木箱が積まれていて、その中には採掘された鉱石が入っている。

 無数の金属型や工具が並べられたその奥には、木材と鉄で作られた大きな採掘道具やトロッコがある。また赤々と燃えるかまどもあり、その前に赤い帽子をかぶった岩の塊みたいなドワーフがいた。


「ヴェルデ」


 エカード先生が声をかける。

 その声をかき消すように、ヴェルデはハンマーで鉄を打っていた。ガンガンと大きな音が洞窟内に響く。

 一方、ショイは木箱の裏に隠れていた。


「ショイ! お前、何やってんだよ! 仕事しろ! これだからお前はいつになっても半人前なんだ!」


 鉄を打つ音の中、ヴェルデの野太く深い怒声が轟く。

 これにショイはノロノロと動き、私たちを一切見ずに工具を取って作業台に立った。

 すると、エカード先生が息を吸って声を張り上げる。


「おい無視するなよ、ヴェルデ! 僕だ! エカード・エアフォルクだ!」


 それでも聞こえてなさそうだったので、先生はヴェルデの横に立って大声を出した。


「ヴェルデ!」

「うるせぇな! 仕事の邪魔だ!」


 そう言ってヴェルデはエカード先生のお腹を殴った。

 それを受け止めようとした先生だけど、勢いには勝てずにそのまま倒れた。


「先生ぇぇーっ!」


 慌てて駆け寄るとエカード先生は今にも死にそうな顔をしていた。慌てて抱き起こすと、彼は震える声で言う。


「か、カトリー、ナ……ごめん」

「いいえ、そんな謝らないでください! 私のせいで、先生が……」

「いや、そんなのいいから……僕のローブから、薬、出して」


 そう言われてハッとし、急いでローブの中を探す。

 回復薬がいいかしら。確か黄色の瓶。


「先生、これですか!?」

「うん……」


 いつもよりも弱々しい。体だけでなくメンタルまで砕けたようだわ。

 エカード先生は瓶のコルクを抜くと、黄色の回復薬を飲んだ。すぐに先生の体が黄色の光に包まれ、回復したことが分かる。


「ふぅ……久しぶりだな、ヴェルデ」


 エカード先生は瓶をローブのポケットに仕舞い、調子を取り戻したように立つとヴェルデを見下ろした。

 ヴェルデは鉄の様子を見ながら「はぁ?」と大声で返事する。

 これが日常なのかしら。


「誰だ、お前は」

「エカード・エアフォルクだって言ってるだろ。三年前に小川を作った」

「あぁ、あのいけすかねぇ錬金術師か。なんの用だ」

「ハンマーをオーダーメイドしたい。この娘が使う」


 単刀直入に言うと、ヴェルデがようやく顔を上げた。

 見た目は確かにショイとあまり変わらない。鼻はショイよりも大きいかな。そして目つきが悪い。頑固な職人って感じ。


 ヴェルデがじろりと私を見る。そして、不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「バカめ。女がハンマーなんか持って何すんだ?」

「この娘は鍛冶スキルを持っている。彼女も職人だ」


 エカード先生が私の背中を叩きながら言う。その温かさに、私の緊張がほぐれる。


「はじめまして、ヴェルデ。私はカトリーナ……」

「気に入らねぇな! 女が鍛冶スキル? 見たところただの町娘ってわけでもなさそうな品の良さだぜ。そんなお嬢様に何ができるっていうんだ?」


 私の話を遮るように言うヴェルデ。これには私もムッとしてしまう。


「できるわよ! 私だってこういうものを作ったんだから!」


 そう言って魔石ライトを見せる。でも、ヴェルデは鼻で笑うだけで取り合わない。


「そんなちんちくりんを作って威張ってやがるのか? 舐めてんじゃねぇぞ!」

「舐めてない! ヴェルデ、あなた失礼だわ! 人の話はきちんとしっかり聞きなさい!」


 すると、ヴェルデはわずかに目を見開かせた。でもすぐに眉をひそめて私を睨む。

 その際、作業台で工具を落とす音が聞こえてきた。ショイだった。


「ショイ! お前はまた工具を落としやがって!」


 怒りの矛先がショイに向かう。

 うーん、これじゃあ埒が明かないわ。


「先生、本当に彼らに任せて大丈夫ですか?」

「うーん……なんだって今日はこんなに不機嫌なんだろうな」


 どうも先生にも皆目見当がつかないらしい。


「とにかく、今は忙しいんだ! 話はあとにしろ!」


 ヴェルデの怒号に私たちはどうにもならず、一旦出直すことにした。

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