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第14話 ドジ×2(+挙動不審)

 平屋に入ると大惨事だった。

 リタが粉まみれになっており、パウラが花瓶の水をひっくり返して転んでいる。


「おい、お前ら……」


 すぐさまエカード先生の低い怒り声が飛び出す。


「ひぃっ! すみません!」


 すぐさま謝るリタ。対し、腰を打ったらしいパウラが「リタ、リタ、助けてぇ〜」と床でジタバタもがいている。


 私はすぐにエカード先生の前に立った。


「あの先生、ごめんなさい。彼女たちは悪くない……」

「いや、もうこの際だからはっきり言うが、こいつら本当にメイドなのか? 何一つできやしないじゃないか」

「うっ、それは……その、私のお世話を中心にやっていたので、こう、全体的なお仕事は向いてないといいますか」


 私はどうにか穏便に済むよう、メイド二人の前に立ちふさがって弁明した。

 お屋敷ではパウラもリタも私のお世話が中心で、主に洗濯物を片付けたり、ベッドメイクをしたり、物が少ないお部屋の掃除をしたり。

 それも魔道具があったから快適にお仕事ができていたのであって、魔道具がないこの家で家事をやるのは至難の業のようだった。

 それにしたって、彼女たちのこの不出来は私もかばいきれないかも。


「お屋敷のメイドにはそれぞれ役割があって、そのお仕事を真剣にやるんです。これはたまたま二人には合わない家事だったということで、ここはどうか怒りを鎮めて……」


 エカード先生のつり上がった眉がだんだん諦めたように下がっていく。

 やがて彼はジタバタするパウラを助け起こし、リタをチラッと見た。


「リタ、お前はキッチンに入るな」

「うぐっ! うぅ……」


 目をうるませて泣くリタのネコ耳がシュンと垂れる。


「パウラ婆さん、あんたはそこの椅子で編み物でもやっててくれ」

「はぁい、それならできますよ」

「あぁ、とにかく何もしないでくれ。これ以上、面倒な仕事を増やすんじゃない」


 そう言ってエカード先生は、リタを立たせて私に任せた。


「うあぁーん、お嬢様ぁぁ」

「はいはい、リタ。小川できれいにしましょうね」


 しゃくりあげて泣くリタを連れて私は外へ出る。

 エカード先生が湖から引っ張ってきた水路から流れる小川で、リタを洗ってあげた。


「服もびしょ濡れになっちゃうわね。あーあ、こんなに粉をかぶっちゃって。リタ、あなた何をしようとしたの?」

「キッチンのお掃除をしようとしたんですよぅ。でも手が届かなくて、土嚢みたいなのがあったので乗っかったら破けちゃって、粉まみれに」

「お掃除ね……お屋敷なら、魔道具で済ませるのよね?」

「うぅ、はいぃ……でもこのお家にはただの箒とちりとりしかないです」


 リタは服を脱ぎ、下着姿になって小川に入る。尻尾まで落ち込んだようにシュンとしてるので、本当にかわいそう。


 魔道具で掃除する場合は、箒やはたきなんかの柄に魔力を注ぐ。魔力が十分に浸透した道具を汚れ部分に触れるだけできれいになる。

 私は使ったことがないけど、うちのメイドたちはこれをありがたがって使っていた。

 なんでも、お父様が贔屓にしていた職人に作らせたというものなんだとか。

 だから道具が壊れたり新調する際は、その職人に発注するの。


「でもその職人のこと、私はよく知らないのよね……そうだ、私が作ってあげるわよ!」


 すると、小川にちょこんと座ったリタがようやく顔を上げた。


「お嬢様が作ってくださるんです?」

「えぇ。あなたたちにピッタリの家事魔道具を作ってあげるわ。そうしたら、もうこんな大惨事にならないでしょう?」

「ほんとですかぁ!? お嬢様ぁぁ! ありがとうございますぅぅ!」


 リタはびしょ濡れのまま私に抱きついてきた。

 耳がピンと立ち、尻尾もご機嫌になってゆらゆら揺れる。

 私はもふもふなリタのケモ耳を掻き、頭を撫でた。


 はぁ〜、同い年なのに、どうしてこの子はこんなに愛らしいのかしら。

 半獣人の種族はみんな愛らしくて本当にかわいいのよね。素直だしよく働くし、真面目で努力家で一途な子たちが多い。


「よしよしよし」

「えへへっ、お嬢様にこうしてかわいがってもらえるの、幸せですぅ」

「それは良かったわ」


 でも、びしょ濡れのリタを抱き寄せたせいで今度は私の服が濡れたわ。

 ま、いっか。ひとまずリタを着替えさせよう。


 私はリタと手をつないで部屋に戻った。


 中では、エカード先生が箒とちりとりで粉を掃いている最中だった。

 その脇をすり抜け、元物置だった部屋へ行く。

 メイド二人の部屋はここで、まだベッドはないのだけど、なんとか二人が寝られるスペースは確保している。また、壊れかけていたタンスを私が修繕したので、着替えは全部ここに入れている。

 リタにメイド服を着せて、頭を撫でてやると彼女は「わーい」とすっかり機嫌を取り戻した。


「エカード先生に謝ってきなさいね」

「はぁい!」


 パタパタ駆けていくリタの後ろから私も部屋を出ようとする。

 その瞬間、鼻がムズムズしてしまい──


「はっくしょん!」


 大きなくしゃみが出てしまった。


「カトリーナ、風邪か?」


 ごめんなさいのポーズをするリタの前でエカード先生が私を見る。

 先生、私よりリタを見てあげてくださいよ……。


「いいえ、平気です。ちょっと服が濡れちゃって」

「まぁ、それはいけませんわ」


 パウラが椅子から立ち上がり、私の服を脱がそうとする。


「ここでやるな!」


 すかさずエカード先生が注意し、パウラは「あぁ、そうですわね」と手を止める。

 私は首をかしげ、着ていたベストを脱いだ。


「別にここで着替えてもいいですよ」

「僕の前で着替えるなと言ってるんだよ!」

「昔は私の下着も平気で見てたじゃないですか」

「それは君が子どもだったからだろ。いや、違う、故意に見たわけじゃない!」


 そう言って先生は「はー!」と強めのため息をつき、私に向けて手のひらをかざした。

 風魔法が発動され、私の服があっという間に乾く。


「わあ、先生ありが」

「でも体は冷えてるだろ。ちょっと待ってなさい」


 言葉を遮られる。エカード先生は持っていたちりとりをその場に置き、キッチンへ入った。

 ポットに水を入れ、指先から赤い光を出して水の中へ放る。

 すぐさまお湯が沸き立ち、その中に栄養補強剤とハーブを入れて素早くお茶を作ってくれる。

 カップに注ぐと、私の手元に置いた。


「それを飲んで。午後から買い物に行くんだから」

「ありがとうございます!」


 最近妙な態度をとってくる先生だけど、私のことを気遣ってくれるところは変わらない。

 私が貴族だからと遠慮していたのとは、ちょっと違うんだよね……。

 なんだか、私を観察するように見てはふいっと目をそらしたり。顔を赤くしたり。と思えば真っ青になるし。

 うーん、とても気になる。お茶はとてもおいしい。

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