sideA-2 エカード・エアフォルク
※本作はカクヨムにも投稿しています。
【登場人物】
カトリーナ・ライデンシャフト…18歳。モノづくりが大好きな鍛冶スキル持ち。伯爵令嬢。
エカード・エアフォルク…29歳。元王立学術研究所の天才錬金術師。カトリーナから先生と呼ばれて慕われる。
グレル・ニーゼン…23歳。商人。くしゃみが止まらない持病持ち。お調子者。
トーマン・ライデンシャフト…15歳。カトリーナの腹違いの弟。重度のシスコンで素直な性格。
ハリエット・ライデンシャフト…カトリーナの継母で、トーマンの実母。
リタ・ゾイマー…18歳。カトリーナの侍女。ネコ耳と尻尾を持つ半獣人族。ドジっ娘。
パウラ・シュラーフ…おばあちゃんメイド。うさ耳と尻尾を持つ半獣人族。よく居眠りをしている。
ショイ…ドワーフ。鉱山に住む鍛冶職人。恥ずかしがり屋。人間で言うとトーマンくらいの年齢。
ヴェルデ…ドワーフ。鉱山に住む鍛冶職人。皮肉屋。人間で言うとエカードくらいの年齢。
ムンター…ドワーフ。ショイとヴェルデの兄貴分。十八年前に事故で亡くなった。カトリーナの前世?
カトリーナの侍女というパウラとリタが居候として加わった。
なぜそうなる。
どうも家事スキル皆無なお嬢様を心配してという二人だが、トーマンが僕を見張るために手配したのだと考える。
絶対そうだ。今、やつは僕をじっと睨んでいるから……。
ちなみに今は、カトリーナの発案でお祝いパーティ中。
魔石ライトが好調な滑り出しだったので、その金で食材と酒などを買い、外にテーブルを広げて豪勢に立食パーティを開いている。
カトリーナたちがテーブルを準備し、僕は料理担当。あのメイドたちは料理のスキルが一切なかった。つまり、お荷物が増えただけ……。
「ねぇ、トーマン。メイドが二人いなくなったら、さすがにお義母様も気づくと思うの。きっとこれから、あなたに見張りをつけると思うわ」
食事もだいぶ落ち着いたところで、カトリーナがトーマンに言う。
僕もそう思う。しかし、僕が口を出しても無視されるのでここはカトリーナに任せるしかない。
「見張りですか……そうですね。あの家では、僕や姉上を応援する人もいますが、そうじゃない人だっていますよね」
「えぇ。お義母様の侍従たちには要注意よ。それと、王様やウィルバート殿下もまだ繋がりがあるかもしれないし」
「はい、注意しておきます」
トーマンは神妙な顔でうなずいた。
心配だなぁ……。カトリーナも「心配だなぁ」といった顔をしている。
するとトーマンは何か思案げに宙を見上げ、ハッとしてテーブルを叩いた。
「ん? ちょっと待ってください。それじゃ僕、明日から姉上に会えないじゃないですか!」
「えぇ、そうよ。あなたはとくに私に会ってはいけない」
「それは嫌です!」
本当にわがままな弟だ。僕はもう呆れてしまい、そろそろアトリエに戻ろうかと考える。
「いいから聞き分けなさい!」
カトリーナも怒り、くわっといかめしい顔つきになる。
これにトーマンはしゅんとうなだれた。
この様子を見て、グレルが僕に耳打ちする。
「旦那、あのカトリーナ様って、なんか普通のご令嬢じゃないですよね」
「あぁ。彼女は普通じゃない。もうこの数日で散々わかっただろ」
「俺、あんな勇ましいご令嬢は初めてですよぉ。おっかねぇや。あの怒った顔もなんだか、いかついドワーフみたいでさぁ」
グレルは引きつった笑みを見せながら言った。
ドワーフって、お前……あの筋骨隆々な職人と一緒にするなよ。
だってカトリーナは子どもの頃から容姿に恵まれていた。
父親のライデンシャフト伯爵は無骨で勇ましい英雄で、顔つきもなかなか険しい御仁だったが前妻であるカトリーナの産みの母親は、透き通るような白肌に大きくはっきりとした目、高い鼻に小さな口といった可憐な容姿を備えていた。カトリーナは母親によく似ている。つまり、そこらの貴族令嬢よりも美しい顔立ちだ。
だが、グレルの言う通り怒ったときのカトリーナの気迫は、父親似なのかもしれない。それにしたって勇ましいにもほどがある。
こういう性格だから、純然たる貴族のハリエット夫人と反りが合わないんだろうな……。
実はハリエット夫人とも僕は面識がある。
彼女がライデンシャフト家に入る前から、大学と学術研究所で顔を合わせていた。彼女もまた錬金術師だが、僕ほどには及ばない。
当時は大人しく、いるかいないかわからないほど影が薄い女だと周囲もそう揶揄していたが、ライデンシャフト家の女当主になってからの彼女は、それまでの印象を一気に覆す勢いで権威を示していた。
むしろそちらのほうが性に合っていたのかもしれないな。
とにもかくにも、カトリーナの継母は要注意人物だ。
それにしても、カトリーナのスキルといい、性格といい、どうにも普通ではない。
そういう変わった人間もいるのだろうが……。
「カトリーナ様ぁ、またいろんなものを作ってくださいねぇ」
酒が入ったグレルがカトリーナたちに面倒な絡み方をしている。
すかさずトーマンが「姉上から離れろ!」とシスコンぶりを発揮し、それをメイドたちは和やかに見つめている。いや、パウラに至っては長旅で疲れているのか、居眠りを始めていた。
カトリーナが困ったようにオロオロするのを、僕はただ静かに見つめた。
ふと、思い立ってメガネをかけてみる。
この金縁の丸メガネは裸眼では見えない物質を見通すことも出来、物や人を鑑定するのにも使える。僕がライデンシャフト伯爵に初めて出会ったときに譲り受けたもので、長く愛用している。
なんとなく、メガネ越しにカトリーナを見た。
「あら、先生。メガネをかけてどうなさったんです?」
こちらの視線に気づいたカトリーナが僕を見る。
彼女の顔を捉えたメガネは、精密に鑑定を始めた。レンズにカトリーナの鑑定結果が出る。
「……いや、なんでもない」
僕は目をそらし、メガネを外した。
カトリーナが不思議そうに首をかしげるも、トーマンが剣を抜きだしたのですぐさま止めに入る。
僕はゆっくり立ち上がり、静かに平屋を出た。
アトリエに戻る足が早くなる。
ちょっと、これは自分でも動揺しているのがわかる。
彼女の鑑定結果に僕の繊細な頭脳が拒否反応を出していた。
だって──
「いや……いやいやいやいや……」
認めない。絶対に認めないぞ。
カトリーナの前世が、ドワーフだなんて。
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