sideB-1 ハリエット・ライデンシャフト
まったく、次から次へと問題が起きる。
「ハリエット様。侍女が二人、行方不明との報告がありました」
執事のモーリッツが蓄えた口髭の下からボソボソと言う。
無表情の彼には焦りが一切感じられない。
「侍女の名は?」
「はい、パウラ・シュラーフとリタ・ゾイマーでございます」
「カトリーナの侍女ね。きっとトーマンがやったんでしょう。あのバカ息子、本当に何も考えてないんだから」
私は結い上げていた黒髪をほどいた。
自室の執務机につき、椅子にもたれる。
「本当に使えないわね、どいつもこいつも」
「申し訳ございません。カトリーナ様は現在捜索中ですが、依然としてどこへいらっしゃるのかまだわかっておりません」
モーリッツは顔を上げずに淡々と言う。
信用できないわ。きっと彼も他の使用人たちも、カトリーナの居場所はとっくにわかっているはず。それでもあの娘の肩を持つために、わざとこうして虚偽の報告を寄越しているのよ。
「わかってるでしょうね。カトリーナを見つけるまでは誰も寝ずに探すのよ」
「承知しております」
「とにかく、トーマンを見張りなさい。あの子もすでにカトリーナの居場所を掴んでいるから」
でなきゃ、カトリーナの侍女を連れて出かけるなんてことはしない。
あの子は昨夜、遅くに帰ってきたけれど『姉上は見つかりませんでした』なんて誇らしげに言うんだもの。顔に出てるのよ。すぐわかったわ。
モーリッツは深々とお辞儀し、部屋を出て行った。
一人になる。いえ、私はいつも一人だわ。
どこへ行ってもそう。この屋敷でも、亡き夫が私を本当に必要としていたことはない。
私は誰からも愛されない。
でもカトリーナは違う。
あの娘は誰からも愛される。憎らしいほどに。
ライデンシャフトの名を穢すものは何人たりとも許さない。
私の目が黒いうちは、地の果てでも追いかけて捕まえてやる。
そして、この家を守るためには何を犠牲にしても構わない。
「逃さないわよ、カトリーナ」
ペンを持つ手が強くなり、インクが滲む。
上質な紙がゆっくりと黒く染まっていき、それだけで苛立ちが増す。
紙をくしゃくしゃに丸め、暖炉に放り投げると、新しい紙を出して文字をしたためた。
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次回は第三章です。




