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第12話 終わり良ければすべて良し

 翌日、私とエカード先生は朝食後、素材集めをしたあとアトリエで仕事を始めた。


 先生はいつものように薬を作る。

 私は素材を使って家のあちこちを修繕することにした。


 その前に。


「カトリーナ」


 エカード先生が真剣な表情で言う。


「この際だからはっきり言うが、僕は君の力を利用して自分の夢を叶えたい」

「かなりはっきり言いますね」


 ズバッと言い切られちゃ、潔ささえ感じるわ。


「そういうつもりで君に優しく言ったんだ」

「なるほど、そんな下心がおありだったんですね。納得です」

「幻滅しただろ。僕はそういうやつだ」


 幻滅……うーん、実はそうでもなかったりする。

 多分、これは先生が勝手に感じている罪悪感によるものだと思う。

 でもこれを言ったところで、彼は首をかしげるに違いないわ。

 だって先生って、昔からコミュニケーション能力がゼロなんだもの。


「まぁ、それでもいいです。だったら私も先生のこの環境を利用して、自分の好きなことを思い切りやりますから」


 あっさり言ってみると、エカード先生は目をしばたたかせた。


「君は、本当にご令嬢なのか?」

「だから、らしくない令嬢なんですってば。私がおてんばだったの、よくご存じでしょう?」

「あぁ、まぁ……注意してもいつも外に出てはしゃいで、熱を出すアホな令嬢だった」

「うっ、辛辣すぎる。でもまぁ、そんな感じです。そのまま大きくなったんですよ」


 たびたび挟み込まれる毒舌に怯みそうになるけど、だんだんこのエカード先生の開き直りモードにも慣れてきたかも。

 私は素材のカゴとハンマーを持ち、アトリエを出ようとした。

 それでも先生は話を続ける。


「植物で冠を作ったり、木の棒で剣を作ったり、毎日楽しそうだったな」

「そうですよ。その様子を見て先生が言ったんです。『君はクラフトの才があるんだな』って」


 当時を思い出す。四歳の私と十二歳のエカード先生。

 私がお屋敷のお庭へ先生を連れて行って、かなり困らせちゃったけど、それまでつまらなそうな顔をしていた先生が私の能力を見て目を輝かせていたのを覚えている。


 すっかり懐かしくなり、私はドアを開けて振り返った。


「お金も大事ですけど、先生だってモノづくりは好きでしょう?」


 すると、エカード先生は小さく笑って「あぁ」と返事した。


 ***


 まずは平家の中のキッチンかな。居間も先生のベッドもボロボロ。というか、手作業でやったとわかるほど、すべてが不格好なのよ。


 多分、ランクの低い素材で何回か錬金術を使ったんだろうけど、やっぱりできなくて諦めて手作りした。そういったとこかしらね。


 テーブルも椅子もすり減ってるし、何度か修繕を繰り返したように、つぎはぎだらけ。


「よし」


 私は腕まくりし、ハンマーを叩いて家具や内装を修繕した。

 ひとまず木材や石、鉄鉱石などの素材で補える部分を中心にスキルを発動させる。

 頑丈なテーブルができたら、次は椅子、窓、棚、キッチンのシンク、ポンプ。どんどんきれいになっていく。


 壁のシミは素材不足で修繕できないけど、ひとまず上出来でしょう。


 それまで陰気だった部屋が、なんだか明るさを取り戻したよう。窓を開け放てばそよ風が吹き、爽やかな気持ちよさを感じる。


 やっぱり楽しいなぁ!


 ハンマーを抱えて自分の仕事に酔っていると、玄関からノックがした。


「ん? 誰かしら」


 エカード先生だったら勝手に入ってきそうだけどね。


「はーい、どなた……」

「姉上!」


 すぐに閉じた。

 よく知った顔が間近にあったんだけど……。


「ちょっと姉上? 姉上ー?」


 トーマンが戸をドンドン叩く。私は戸に背中をくっつけて動揺した。

 なんでまたここに来ちゃったの、あの子は!

 心臓のバクバクを抑え、息を整えて笑顔をつくる。


「トーマン、あなたどうしてまた来たの? お屋敷からここまで、馬で五時間はかかるのよ。昨日、ちゃんと帰ったんでしょうね?」


 あ、ダメだ。笑顔でも言葉がお説教モードになっちゃう。

 それでもトーマンはあっけらかんとしており、余裕の微笑みを見せた。


「ちゃんと帰りましたよ! 母上には『姉上は見つからなかった』と言いました!」

「うぅーん……そうなのね」

「そうですよ。それに今日は姉上に土産があるんですから」


 トーマンはそう言って、わずかに後ろへ下がった。

 私は玄関を出て外を見てみる。そこには、垂れたウサ耳と、ピンと三角に立った猫耳の女性が二人。

 ウサ耳の半獣人で、おっとりと優しそうなおばあちゃんのパウラ。

 ネコ耳の半獣人で、小柄だけど活発そうな女の子のリタ。

 どちらも私専属の侍女で、黒いメイド服を着ている。


「お嬢様!」


 すぐにリタが両手を広げて近づく。今年で私と同じ歳なのに、見た目は十歳程度の童顔。小さな衝撃が私に飛びついた。


「カトリーナ様、よくぞご無事で」


 パウラもゆっくり近づき、私の手を取った。


「パウラ、リタ。二人とも、どうして?」

「お嬢様が家出なされたと知って、私どもはとても心配しておりました!」


 リタが私に抱きついたまま言う。そのフワフワなオレンジの髪の毛を優しく撫でると、リタはゴロゴロと喉を鳴らすように目をつむった。


「トーマン坊っちゃまから事情は聞きました。やはりお嬢様の身の回りのお世話は、私どもがやらねばと」

「トーマン、あなた何をどう言ったのよ……」


 私をやわらかく包む二人のメイドを慰めつつ、私はトーマンをじっとりと見た。


「姉上は鍛冶スキルで生きていこうとしていると。ついでにお皿を割った話もしたら、二人がアワアワしたので連れてきました」

「それはお義母様は……」

「もちろん、内密にやりましたとも」


 自信たっぷりに言うトーマン。

 うーん……本当に大丈夫かしら。でも遅かれ早かれ、二人の侍女までお屋敷から消えたらお義母様も黙ってないだろうな。あーあ、大丈夫かなー。いつまで安全に暮らせるかなぁ。


 でも、二人に心配をかけちゃったことは申し訳ない。


「ごめんね、二人とも」

「とんでもございません! お嬢様が今まで窮屈な暮らしをしていたことは私もよくわかってますから!」

「リタの言う通り、私なんてカトリーナ様が赤子の頃から見ておりますから、よくわかっておりますよ。いずれこうなるだろうと予感してました」


 パウラはにっこり微笑んだ。リタも安心したように笑う。

 それを見ていると、もうお屋敷に帰れだなんて言えない。


「ありがとうね」


 しばらく私たちは再会を喜んだ。

 そんなことをしていたら、今度はグレルが走ってやってきた。


「おーい、カトリーナ様ぁ!」

「どうしたの、グレル。そんなに慌てて」

「どうしたもこうしたもないですよ! あんたが作った魔石ライト、町でかなり評判ですよ! うちの伯父が気にいっちゃって、ほら!」


 そう言って彼は抱えてきた袋を見せてきた。ゴツゴツとした膨らみを見るに、それはどうも売上金だとわかる。


「いやー、金貨十枚ではさすがに取引は難しかったですけど、金貨七枚で売れましたよ」

「金貨七枚ですって? それは、ええと、どうなのかしら。不当な取引じゃないの?」

「俺の伯父はちゃんとしてる人です。この伯父がそれくらいの値打ちがあると言ってくれたんで大丈夫です! ひとまず画期的な発明品として最初は高く売って、あとは手ごろな価格で大量に売れば儲けはバッチリです!」


 グレルの嬉しそうな報告が、一歩遅れて私の脳に届く。

 ということは、私が作ったものはそれほどの価値があるということ……どうしよう! どうしよう! 嬉しい! すっごく嬉しい!


「お、その笑顔はようやく実感した感じですかね?」

「えぇ、もう、あぁどうしよう! 飛び上がって踊りたい気分よ!」


 喜ぶ私とグレル。何がなんだかわかってないトーマンたち。でも、私たちの喜びようを見て、リタが「ばんざーい!」と手を挙げたので、みんなで両手を挙げて万歳をした。


「わーい! やったやったー!」


「おい、うるさいぞ! カトリーナ、何やってんだ!」


 アトリエからバタンと勢いよく出てきたエカード先生の不機嫌な顔が近づく。

 でも、この大人数を見て先生の足がピタリと止まった。


「なんか人が増えてる……」

「あ、旦那! 昨日の売り上げですぅ!」

「え、あぁ、そうなの……? ていうか、人が増えてるんだが」


 大勢で万歳している姿は異様に見えたのかも。でも浮かれ調子な私は、戸惑うエカード先生の背中を押して平屋へ入る。


「まぁまぁ、その説明はあとにして。とにかくお昼も近いことですし、パァっとパーティしちゃいましょう!」


 いろいろあるけど、今だけはこの大成功を心からお祝いしよう!

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