第65話 理由のない技術
■王城内・技術会議室
翌日
文官が形式的に告げる。
「本日は、技術内容についての確認のみを行う」
ここで王国側の意図が明確になる。
「答えを聞けば再現できる」と思っている。
技術顧問、率直に聞く。
「まず聞こう。あのサスペンションの発想の原点は何だ?」
アジム、少し考えてから答える。
「……弓矢だ」
一同、ざわつく。
「弓を見て、思いついた」
顧問は興味を示すが、まだ余裕がある。
■ 計算について
顧問、次の段階に進む。
「では、その反発力や耐荷重は、どう計算した?」
アジム、即答。
「してない」
「ありあわせの板を加工しただけだ」
記録官の筆が止まる。
■ 再現条件について
顧問、少しだけ声を強める。
「材料は? 特殊な合金か? 処理工程は?」
アジム、肩をすくめる。
「普通に鉄の板を重ねただけだ」
「村にあった分でな」
■ 技術顧問の告白
ここで顧問が、カードを切る。
「……我々も、試した」
「似た構造のものは作れた」
「だが――」
顧問の表情が硬くなる。
「君のものほど、しならない」
「耐久性も劣る」
「壊れ方が、違う」
ここが核心。
■本当の質問
顧問、真正面から聞く。
「なぜだ?」
「何が違う?」
「どこに差がある?」
王国側はここで初めて、本音をさらす。
「なぜ同じものを作っても同じ結果にならないのか」
アジムは眉をひそめた。
「……そんなの、俺が知るわけないだろ」
顧問、絶句。
「ありあわせで作っただけだ」
「たまたまだ」
「しなるかどうかなんて、使ってみないと分からない」
■ 顧問、理解してしまう
ここで技術顧問が、ようやく気づく。
(この男は―― “成功した理由”を持っていない)
設計理論もない。再現手順もない。
成功条件すら言語化していない。
ただ、手で触り、叩き、曲げ、「これでいい」と思っただけ。
顧問、文官に向き直る。
「君たちは、何を聞き出すつもりだった?」
「彼から“理由”を奪えば、同じものが作れると?」
文官は答えられない。
顧問、声を荒げる。
「無理だ」
「これは技術ではない」
「結果だ」
「工程を真似しても、同じ“感触”は再現できない」
「彼は、作ってから考えている」
「我々は、考えてから作ろうとしている」
ここで完全に、制度と技術の齟齬が露呈する。
騒がしい空気の中で、アジムがぽつりと言う。
「だから、教えようがない」
「俺にも、分からないんだから」
■ 静かな終幕
会議室が静まり返る。
技術顧問は、深く息を吐く。
「……再現できないわけだ」
リーネは理解する。
王国は、知識を欲しがっていたが、相手は“知識を持っていなかった”。




