第5話 ──村の小さな前進と、迫る影
朝の光が差し込む頃、村の浜辺に人だかりができていた。
「おお……沈まんぞ!」
「ほんに、ちゃんと浮いちょる!」
昨日、アジムが作った鉄の釘で補修した船が、浅瀬でゆっくりと揺れている。
船大工のじいさんが、鼻の穴を膨らませて言った。
「見てみい! 水が一滴も入らん! こんなにしっかりした釘、何年ぶりじゃ!」
村人たちが拍手する。
アジムは少し離れた場所で、照れくさそうに立っていた。
(……本当に、役に立ったんだな)
バルじいが肩を叩く。
「アジム、おぬしのおかげじゃ。 村が少し明るうなったわい」
「いや、粒を集めただけですよ」
「その“粒を集める”がすごいんじゃ」
アジムは苦笑した。
◆芋虫の形を“練習する”
作業場に戻ったアジムは、黒い粒を手のひらに集めていた。
(……四角)(……丸)(……棒状)
鉄の粒が吸い寄せられ、命じた形に変わる。
だが、集中が甘いと──
「……なんだこの形は」
バルじいが笑う。
「芋虫が……三角になっちょるぞ」
「すみません、集中が切れると変な形になるんです」
「はっはっは! まあ、練習じゃな」
アジムは苦笑しながら、再び意図を向けた。
(もっと……精度を上げないと)
形が整うたびに、胸の奥が少し熱くなる。
(もっと……役に立てるはずだ)
◆村の女性たちの依頼
昼前、網を繕っていた女性たちがアジムを呼んだ。
「アジムさん、ちょっとええ?」
「はい?」
「網の錘が足りんのよ。 鉄の粒で……丸いの、作れん?」
アジムは頷き、黒い粒を集める。
(丸くなれ)
鉄の粒が吸い寄せられ、小さな鉄の丸い錘ができあがる。
女性たちが目を丸くした。
「キモッ!でもすごい……!」
「これで網が沈むわ……助かる!」
アジムは照れながら渡した。
その横で、子どもたちが覗き込む。
「アジムー! なに作っちょるん?」
「錘ですよ」
子どもたちが丸い鉄を見た瞬間──
ちょっとだけ動かす。
「キモッ!!」「ギャー、黒い黒い!?」「やだやだやだ!!」
逃げていった。
トラウマにならなければと一応心配はする。
バルじい
「はっはっは! 子どもは正直じゃのう!」
アジム
「いや、俺も最初はそう思いましたよ」
◆土地神の“失敗談”
夕方、アジムは洞窟へ向かった。
やれたことを話すためだ。
土地神は、静かに目を開けた。
『……鉄は大地の骨じゃ。 扱いを誤れば、村を壊すこともあるぞ』
アジム
「壊す……?」
土地神
『昔な、別の浜で、鉄を欲しがりすぎて村を沈めたやつがおった』
アジム
「沈めた……?」
土地神
『善意じゃったよ。 “村を救うため”に鉄を集めすぎたんじゃ。 大地の骨を抜けば、地は沈む』
アジム
「……気をつけます」
土地神
『おぬしは悪い子ではない。 じゃが、善意は時に“欲”に変わる。 忘れるなよ』
アジムは胸の奥がざわつくのを感じた。
(……俺は、そんなつもりじゃ……)
だが、否定しきれない自分もいた。
◆魔獣の痕跡
その夜、海岸で村人が叫んだ。
「おい! また破片が流れ着いちょる!」
アジムとバルじいが駆けつけると、波打ち際に“船の破片”が打ち上げられていた。
木材には、巨大な“噛み跡”。
村人
「……昨日より浅瀬じゃ」
「潮の流れが変わっちょる……?」
「杭で止まるんか、これ……」
アジムは破片を見つめた。
(……杭じゃ足りないかもしれない)
胸の奥が、また熱くなる。
(もっと……何とかしないと)
◆鉄杭
バルじいが言った。
「アジム。おぬし……鉄で“杭”を作れんか?」
「杭……ですか?」
「魔獣が浅瀬に来るなら、せめて“柵”でも作らんといかん」
アジムは拳を握った。
(鉄の杭……大量の鉄の粒が必要だ)
「……やってみます」
その声は、昨日より少し強かった。




