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第45話──商人は、港を見てから口を開く


高台へ続く道の先。

オルガ村の入口で、一行は静かに足を止められた。


剣を帯びた女が、半歩前に出る。

無駄のない動き。

肩口には、控えめながらも確かに刻まれた――ルーン商会の紋章。


「ここから先は、関係者以外立ち入り禁止です」


その視線は、威圧ではない。

だが、踏み込めば面倒になると直感させる冷静さがあった。


ラグスは、短く息を吐いてから一歩進み出る。


「王国商会だ。約束の上で来ている」


女――アステルは、ラグスの顔を一瞥し、すぐに頷いた。


「確認できました。どうぞ」


道が、静かに開く。


村の中へ進むと、以前とは明らかに違う空気があった。

整えられた動線。

作業と生活がぶつからない配置。

そして、港から上がってくる規則的な機械音。


――場が、動いている。


管理棟の前で、待っていたのは一人の女性だった。


銀髪をきちんとまとめ、柔らかな表情を浮かべている。

だが、その佇まいには、商談の場を支配するだけの落ち着きがあった。


「お待ちしておりました。ラグスさん」


ラグスは、彼女を見て、わずかに口角を上げる。


「正直に言う」


一拍、置く。


「前に来た時より――話が、早くなりそうだ」


その言葉には、値踏みではなく、評価があった。

リーネは、穏やかに微笑む。


「そう仰っていただけるなら、光栄ですわ」


視線が、自然と港の方へ向く。


荷は動いている。

人も、金も、止まっていない。


――これは、まだ途中だ。

だが、確実に“進んでいる場所”だった。


ラグスは、心の中で小さく呟く。


(……油断すると、喰われるな)


商人として。

その感覚が、はっきりと告げていた。


管理棟の扉を抜け、会議室へ。

窓の外には1隻の大型船が荷下ろしをしている。

ついこの前には、想像もしていなかった光景だ。

そして席に着く。

最初に口を開いたのは、ラグスだった。


「率直に言う」


視線を、真正面から向ける。


「この港を、王国商会の物流網に組み込みたい」


随行員が、わずかに身じろぎする。


だが、リーネは首を傾げただけだった。


「あら。 “組み込みたい”、ですか」

「対等な提携として、だ」


ラグスは引かなかった。


「陸路は、王国商会が最も得意とする分野だ。 内陸への流通速度、安定性、税務処理――それらは、海路だけでは補えない」

「確かに」


リーネは頷く。


「ですが……それは“貴方たちの強み”ですわね」


視線が鋭くなる。


「こちらの利点は?」


随行員が口を挟もうとするが、ラグスが手で制した。


「港は、まだ一つだ」

「ええ」

「だが、ここを起点にすれば、王国北方の物流は一変する」


ラグスは、地図を広げた。


「この港と、主要街道を結ぶ中継拠点を、王国商会が整備する」

「……なるほど」

「代わりに」


ラグスは、言葉を選ばなかった。


「オルガ村港を、“王国商会非排他的提携港”として認めてほしい」


沈黙。


リーネは、指先で算盤を軽く弾く。


「“非排他的”……」

「皇国商会を排除する気はない」


ラグスは、はっきり言った。


「むしろ、それを前提にした提携だ」


その一言で、空気が変わった。


「……分かっていらっしゃる」


リーネが、ゆっくりと微笑む。


「王国商会が、“皇国と並ぶ席”に座りたいのだと」

「そうだ」


ラグスは、初めて笑った。


「潰せないなら、横に並ぶしかない」


アジムが、低く呟く。


「賢いな」

「商人ですから」


ラグスは肩をすくめた。


リーネは、しばらく沈黙した後、口を開く。


「条件を、一つ追加します」

「聞こう」


「価格交渉は、後日」

「……ほう?」


「まずは、“使ってもらう”こと」


彼女は、港の方を指した。


「試験運用として、王国商会の陸路貨物を、ここへ」

「それで?」


「結果が良ければ、本契約に進みます」


随行員が驚いた顔をする。


「それは……こちらに不利では?」


リーネは、即座に返した。


「結果が悪ければ、お引き取りいただくだけですわ」


静かな圧だった。

ラグスは、深く息を吐き、頷いた。


「……いいだろう」


立ち上がり、一礼する。


「改めて言う」

「?」

「ここは、“選ばれる側”じゃない」


リーネは、楽しそうに笑った。


「ええ」

「“選ぶ側”ですわ」


管理棟の外では、今日も荷役橋が唸りを上げていた。


港は、すでに動いている。誰の許可も待たずに。


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