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第17話 ── 波を遮る壁、外から来た声


朝の海は、まだ冷たかった。

滝の水煙が朝日を受けて虹を作り、その横で、村人たちが船着場のロープを引き直している。


「おい、もっと張れ! 波で寄ってくるぞ!」


「わかってるって!」


船は、港の“土台”に並んでいるだけだ。

港内はまだ存在せず、外はすぐ海。

波がそのまま押し寄せ、船体が軋む音が響く。


アジムはその光景を見つめながら、胸の奥に小さな焦りを覚えていた。


(……このままじゃ、船を守れない)


滝の右側三十メートルの位置に、村人が削って均した平地が広がっている。

そこが、これから港になる場所だ。


だが、まだ“港”とは呼べない。

波を遮るものが何もないからだ。


バルじいがアジムの横に立った。


「アジム。

 やっぱり……壁がいるな」


アジム

「……ああ。 波がそのまま入ってくる。 このままじゃ、船が落ち着かない」


バルじい

「どう作る?」


アジムは海を見つめた。

滝からの流れと海の波がぶつかり、船着場にそのまま叩きつけられている。


アジム

「滝の横から海へ二十メートル。 そこから右に二十メートル。 “壁”を作る。

 それで波が弱まる」


バルじい

「芋虫鉄で土台を作れるな」


アジム

「ええ。やるしかない」


村人

「よし、石を運ぶぞ!」


それだけで十分だった。

村人たちはすぐに動き始めた。


アジムは海を見つめた。

波はまだ荒い。

だが、ここに“壁”ができれば、港は初めて“内側”になる。


(……まずはこれだ)


■ 不気味な影

「アジム! 沖に……変なのが来る!」


その声に、アジムは顔を上げた。


海面に、黒い影が揺れていた。

波に乗って近づいてくるが、その動きには“生きている気配”がなかった。


アジム

「……船だ」


だが、普通の船ではなかった。


帆は裂け、船体は黒ずみ、ところどころに焦げたような跡がある。

波に揺られているのに、どこか“沈みきらない死体”のような不気味さがあった。


ヨラン

「……あれ、動いてねぇぞ」


アジム

「風を受けてない。 流されてるだけだ」


近づくにつれ、船体の傷がはっきり見えた。


何かに噛まれたような痕。

だが、ソードザラシの牙とは形が違う。

もっと細く、深く、まるで“引き裂かれた”ような跡。


アジム

(……これは、あいつじゃない)


小舟で近づくと、船内は静まり返っていた。


人の気配はない。

だが、“何かがいた痕跡”だけが残っている。


倒れた樽。濡れた足跡。

途中で途切れた血の跡。


アジム

「……誰か、生きてるか!」


その時、船の奥から、かすかな息の音がした。


アジムが駆け寄ると、数名の人影が倒れていた。


そして──

ひとりの女性が、ゆっくりと目を開けた。


濡れた髪が頬に張りつき、上質な布のシャツとズボンが泥にまみれている。

だが、その身なりは明らかに“村人のものではない”。


女性

「……たすけ……て……」


アジム

「言葉が……通じるのか?」


女性は息を整えながら、片言の共通語を話した。


「……あらし……おそわれ…… みな……きえ……た……」


“消えた”。


その言葉に、アジムの背筋が冷たくなった。


ヨラン

「……消えた、だと?」


女性は震えながら続けた。


「なにか……くろい……もの…… ふね……ひっぱる…… ひと……おとす…… みな……きえ……」


アジム

(……この海には、まだ何かいる)


アジムは女性を抱え、小舟に乗せた。


村に戻ると、村人たちが息を呑んだ。


「外の人間だ……!」


「言葉、通じるのか?」


アジム

「少しだけだ。 嵐に遭ったらしい。 ……いや、嵐だけじゃない」


女性は震える声で言った。


「……ここ……どこ……?」


アジム

「オルガ村だ。 安心しろ。 助ける」


女性は安堵の表情を浮かべ、そのまま意識を失った。


ヨランがアジムの横に立つ。


「アジム…… 港ができたら、外の連中も来る。 良いこともあるが…… 悪いことも来る」


アジムは海を見つめた。


(……外の世界が動き始めている。 この海には、まだ“影”がいる)


アジム

「……まずは防波堤だ。 村を守るためにも」


潮風が吹き抜け、難破船の残骸が夕暮れの海に揺れていた。


アジム

「やることは、まだ山ほどある。 逃げるわけにはいかない」


港の土台に立つアジムの背に、冷たい風が吹きつけた。




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