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エッセイ

わたしは恋愛小説が書けない

作者: Fu



 やあやあ、私は少女漫画生まれにして異世界恋愛小説育ちの、しがない物書き一年生だ。『小説家になろう』に登録したのだ。今こそ満を持して恋愛小説を、




 書けない。頭が真っ白になる。一文字も進まない。恋愛小説って何だっけ。恋愛って何だっけ? 何が楽しくて恋愛小説読んでたんだっけ。そりゃあ、キュンとかギュッとなるあれよ。


 人生のキュンを総動員してみる。検索結果は0だ。インターネットの海を彷徨う。「恋愛小説 書けない」。なんとかなりそうな手掛かりを見つけた。書けないなら書けないなりに書けばいい、これだ。


 おそらく私は、キュンを読むのが好きで、それを書こうとして失敗している。いやいや、狙ってキュンを書けるならプロか天才か手練れだよ。そうだ、習い立てのピアノで情感豊かな演奏をしようというようなものだ。


 キュンは一日にしてならず。千里のキュンも一歩から。全ての道はキュンに通ず。ここがキュンだ、ここで飛べ! 最終的にはキュンに至りたいとしても、一旦脇にそっと除けておく。それじゃあ、今の私が書けそうな恋愛って何だ。


 人生の恋愛を総動員してみる。検索結果はいくらかある。大体が悲しい記憶だ。あまり思い出したくない。幸福の記憶だって抉れれば傷跡だ。さて唐突だが、私は素敵な言葉に対する耐性がものすごく低い。


「一緒に食べ歩きしたらすごく楽しいだろうな」


 人生経験豊富な諸氏ならばもうこのフリで察することだろう。しばしお付き合いいただきたい。その人は食通といおうか、料理に詳しい人だった。きっと専門用語を使えば一言で済むようなことでも、分かるように説明してくれるのを聞くのが好きだった。


 通話をしていて、行ったことのある旅行先についての話題のさなかだったと思う。そう言われた私は、嬉しかった。想像した。異国の町並み。どれが口に合っただの、まだ食べられるだの、ダイエットは明日からだの。こんなふうに言ってくれるということは、少しは可能性があるかもしれない。よし、頑張ってみよう。


 結果、惨敗。二人で会う気がない。


 既婚者だとか恋人がいるといったことはなかった。気になり始めた頃に確認済みだ。純然たる事実として、私に対して一切その気がない。ああそっか、と思った。


 そう、あれは社交辞令だ。全く実現したい気持ちなしにああ言える人もいるのだ。たぶん、一晩経ったら当人は言ったことも忘れているだろう。インターネットの海を彷徨った。類例を散見した。


 この一件で私は学んだ。本当にその気がある人は、普通はまずは食事に誘う。日程を詰める。ポイントは具体性だ。いつ実現されるかも分からないふわふわした未来の夢みたいなことは言わない。真に受けるのをやめよう。なんだ、ロマンス詐欺みたいなのに引っ掛かる前でよかったじゃないか、ちゃんと断ってくれる人で、とかなんとか言って自分を慰めた。


 私は学んだんだ。だから分かっているんだ。

「一緒に海辺デートしたら楽しそう。焼いたイカとか魚とか買って食べてさ」

「それじゃあ南の島で一緒に暮らそうか」


 分かってる。分かってる。これっぽっちも本気じゃない。明日になったら忘れてる。言葉になんて何のコストもない。ただ言うだけなら簡単に言える。感情が喜ぶ。理性が止める。私は理性のほうを信じることにしている。零れた感情で枕が冷える。


 こんなの、私がその人のことを好きでなかったら、またしょうもないことを言ってるな、で済む話だ。つまるところ、誰かのことを好きでいる状態というのは、弱点をその人に向けて丸出しにして無防備でいるということだ。


 ――ほうら、私の心臓はここだよ。ドキドキしているだろう?


 なんだか殺伐としてきたな。これはきっと、ハニートラップだとか閨で首を掻くみたいな話であって、キュンとはほど遠い。まあ、でも、何かしらは書けそうな気がしてきた。私が恋愛ジャンルに投稿していたら、「あの、枕冷やしてるやつ」とでも思ってご笑覧いただければ幸いだ。なお、まだ書けていない。


 素敵なキュンが書けますように。

食べ歩きの人と海辺・南の島の人は別人だ。Oh my gosh!

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