弁当
コトンコトンと列車が揺れる。北海道の雄大な大地が窓から見え景観を楽しみながら、ようやく弁当の蓋を開けた。本来ならば一人で楽しみたかったが
向かいにはお婆さんとお孫さんが座っている。蓋を開けると鮭と卵、そして昆布等が乗っている。これをご飯と交互に食べる事で口の中にドラマが生まれる訳だ。いざ、箸を動かし口の中に入れようとすると
「お婆ちゃん、お腹へったね」
とお孫さんが一言漏らした。
自分の箸もぴたりと止まる。
お婆さんとお孫さんが羨ましそうにこっちを見ている。申し訳ないが、こちらも腹ペコで弁当を楽しみにしていたのだ。いざ、と口に運ぼうとすると、じーっ・・・と物欲しそうな顔で見つめられる。
超・・・・・・食いづらい。
それでも食べようとするとお婆さんが話し掛けてきた。
「すんませんけんども、この子に一口、どうか一口おねげぇできませんか」
「いや売店で売ってると思いますけども」
「それがですね....」
家が火事になり、この子の両親は他界殆ど無一文になったという。今まさに叔父のとこにいき預けにいくところだという。
「すみませんが何卒お恵みくださいませんか。この子に最後の人の優しさ見てえなもんに触れてあったかくなってほしいんだ。むこうでいびられっかもしれんし」
「僕ハリーポッターになっちゃうの?」
「叔父さんいい人かもしれませんよね」
と言って箸を進めると
「タカシは悪でそらもう学校1の悪童だったぁ」
自分の箸がピタリと止まる。
「今は更正されてるかもしれませんね」
そういって食べようとすると
「こないだも学校のガラス全部割ってただぁ」
嘘って分かってるけど....しょうがない
「じゃあ一口....僕、何がいい?」
「鮭と卵と昆布!!」
しばくぞ、と胸内で突っ込みながらもお孫さんに
おかずを口に運んだ。美味しそうに食べる所を見て
いざ自分もという所で横槍が入る。
「お婆ちゃんも、お腹減ってるよね?」
「いいんよ私は」
そうそう 大人なんだし
「ご飯だけで」
なんでやねん そこは引いてくれやお婆さん
と思いつつもご飯を口に運ぶ。
「ありがとうござーーーーーーーーックション!!」
やりやがったなババァ。
口からジェット噴射。
吹き飛ぶご飯粒。
俺の顔面にダイレクトアタックして口から出た唾が弁当に降り注ぐ。
婆さんと目が合う。
目が泳ぎ流石にマズイと思ったのか
弁当にもういいですどうぞとジェスチャーしてきた。
「いえもういいんであげますよ」
結局ご飯を食べる事は出来なかったが二人の話でお腹が一杯になった。
そういうことにしておこう
後日レストランでお孫さんとお婆さんそれから両親とおぼしき
4人を見かけそのレストランで注文する事なく立ち去った。