100年の恋をきみと。
__今日は、酷い雨だった。
「…ふぅ、ただいまーお母さん」
雨で濡れた制服に付いた水滴を、軽く振り払う。カッターシャツが肌にはりついた感覚と、毛先から落ちる水滴。
びしょ濡れで、ちゃんと折りたたみ持っていけばよかった。
リビングと玄関は1枚のドアで区切られていて、ドアにはすりガラスの加工が施されてある。そこから見える、キッチンの灯りで、お母さんが帰ってきているのが分かった。そのどあを開けてリビングに入ると、美味しそうなカレーの香りが鼻を突いた。
「お母さーん、ただいま…」
何度呼んでも返事は返ってこない。
「おかあさーん…おか、え」
知らない低い声が出た。急いでお母さんに駆け寄る。少し肩を揺するけど、お母さんに起きる気配は感じなかった。嫌な言葉が、一瞬だけ頭をよぎった。考えたくもないし、信じたくないこと。震える手で、急いで救急車を呼んで、ただただ救急車が少しでも早く到着することを願った。願うことしか、私にはできなかった。
病院につくと、お母さんはそのまま診察室へと連れて行かれて、私は診察室の外のソファーで待つことになった。診断結果はどうであれ、きっと入院することに変わりはないのだろうな。誰かの足音と酷い雨の音だけが聞こえて、それがさらに私を不安にさせる。自分でも分かるくらいに鼓動が早い。吐き気まで襲ってきそうだ。
「……お母さん、」
震える手をぎゅっと握りしめて、お母さんのことをただただ思うしかできなかった。惨めで仕方がなかった。どうすればいいのか、わからなかった。お父さんに連絡はしたけど、いつ来るのかも不安で仕方がなかった。
今日は、3ヶ月ほど付き合った彼氏と別れた。初めての彼氏で、毎日幸せだった。学校に行くのも楽しかったし、ずっと一緒にいれるって思ってた。現実はそう甘くはないけど、でもそう思うほど大好きだった。
「天路様、お母様の診断が終了いたしました」
「そ、それで!お母さんは…!」
「本日はひとまず入院することになりました。お父様に診断結果はお伝えしております」
お父さんはいま、来てないんじゃないの?
この病院にいるの?
娘を一人にさせて__?