8.戦場
カスケイド上空、カタパルトを搭載する空中戦艦にリコルは乗り込んでいた。
経験から、戦場に向かう実感が大きくなった彼女に無線が届く。
[もうすぐ戦場です。出撃の用意を]
「了解」
足取りも軽やかに。戦場に向かうというのに彼女は、セレナに会える可能性が高まったことに喜びを感じていた。
あわよくば、この任務で彼女が見つかってしまえ。セレナは生きている。そう言わんばかりだ。
カタパルトの手前にある機体置き場に向かう。
途中すれ違うクルーから怪訝そうな視線を向けられるが、まるで気にしてはいないようだ。
(所属不明機なら通り名持ちが居ることはまずありえない。運がいい。本部長に感謝)
事前情報で敵は十機。よくよく考えれば簡単な任務のはずは無いのだが、彼女にとってはそうではないらしい。結局、機体に乗り込むまで笑顔を絶やさなかった。
ヴェスパー製の量産型エーシーズ近距離戦仕様に乗り込んだ彼女は、自動操縦でカタパルトの射出地点へ向かう。
[準備はいいですか?]
「アイハブコントロ〜」
あまりにも適当な返事にオペ美が苦笑いしているのが分かる。リコルはそんなことにも気が付かないようだ。
[エーシーズ準備完了。展開まで五秒前。五、四、三、二、一。展開]
リコルは再び、戦場に舞い戻った。
――――――
「ん〜ん〜んん〜♪」
[ご機嫌ですね、ヨイナギ。そろそろ接敵です]
早速鼻歌を実戦投入していた所で、無線に届いたオペ美の皮肉は効果がない様子。多少なんだかなぁ、といったところではあるが、リコルの実力をよく知っている彼女が他に言うことは無かった。
[二時の方向、レーダーに十機確認しました]
「こちらヨイナギ。敵部隊を確認。構成は近距離二、中距離六、遠距離二。相手は移動中」
[思ったよりもバランスが良いですね。気を付けてください]
「これからは返答が少なくなると思うから、なにかあれば言って」
[…了解。]
鼻歌にかまけて報告を怠るようなことはないとオペ美は分かっているが、自分や任務を軽視されていると感じた為か、声色が不機嫌になった。
そんなやり取りを交わしつつもリコルは戦場に近づいていく。
だが突然、彼女は部隊の方向から距離をとるよう大きくブーストを吹かした。オペ美はすかさず無線で問いかけた。
[どうしました?]
「…違和感。何故かこちらを認識出来ていない。こんな戦場のど真ん中で鼻歌を流している私に、気付かないわけが無い」
ブースト、レーダー、無線。あらゆる方向から認識されてもおかしくない位置にいるリコル。しかし敵部隊は彼女の方に武器を構えないどころか、依然どこかを目指して移動している。
[分かりました。オペレーター権限により、任務を一部変更します。敵部隊の目的地を探ってください。何か理由が見付かるかもしれません。
もし何か非常事態があった場合はコード:ヨイナギ、あなたの判断に委ねます。]
「了解。鼻歌を続行しつつ向かう」
[…]
(本部長、人選ミスが過ぎます…)
追跡なのにも関わらず隠密行動を捨て去った彼女を、オペ美は酷く嘆いた。
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