4.VSストーム部隊
「ゼスターさん、人数が集まった。
お前は…アカツキか。懐かしい名前だ。模擬戦では勝てた試しがない。だが、今回は人数有利。負ける訳にはいかないな」
エーシーズ保管庫に機体を見に来ていたリコル。
そこに来たのは、本部長に対しゼスターさんと話しかける一人の男。
「空いていたのは貴官か、ストーム」
「ストーム、ガンベルク…」
彼はコード:ストーム。リコルがまだヴェスパーに所属していた時、彼女と別の戦場で通り名持ちとなった。
無口だが仲間思いで、その角刈りが印象的。堅実な男である。
ガンベルクの通り名、中距離戦を主体とする彼に対し相応しい通り名である。その硬さと迫力、的確に広げられる弾幕は正に山。
「私の事など忘れていると思っていたが。元気か、後輩」
リコルにとってストームは、大きく印象に残っているようだ。
それもそのはず。珍しい女性のパイロットだったにも関わらず、色眼鏡を付けずに接してくれる一人。
そして体のいい模擬戦の相手をこなしてくれていたからである。
「事情は聞いている。ソレイユのことは残念だったな。
だがしかし、いや、だからこそか。今のお前を戦場に出すのは危険が過ぎる。一人死んだ戦場というのは、皆後を追うように死に行くものだ。今回は負けてもらうぞ」
「さっき自分で言った。あなたは私に勝てたことが無い。
足手まといが何人いても、同じこと」
リコルの歯に衣着せぬ発言に対し、彼の後ろにいる六人のパイロットは苛立ちを見せた。
「相変わらずだな。お前ら、訓練で命を落とすのは洒落にならん。安易に挑発に乗るなよ。よし、準備に入れ。作戦は分かっているな」
ストームのその発言で、久方振りの会話は終わる。何も言えなかったパイロット達は舌打ちをして戻って行った。
「貴官、機体は決まったか」
会話が終わったのを見て本部長が話しかけてきた。
「これにする。装備は…」
――――――
[エーシーズ、準備完了。展開まで五秒前。五、四…]
「相手は一機。しかし、決して油断するな!」
[[[了解]]]
訓練に使われる荒野。地面に埋まったカタパルトが顔を上げる。
ストーム部隊の編成は中距離型が七機。ゴツゴツと角張った重みのある見た目。太さと細さを必要な分だけ確保した、まさに玄人好みの機体が並ぶ。
頭部にある、視野を広く確保するため横に長いメインカメラは、人の目と言うには多少長い。
ストームの乗る機体は、それらよりも更に大きな装甲を着けたものだ。重さに耐えるため太くなっている関節部、より細かい動作をする為取り付けられたサブブースターは丁寧に手入れされており、エースである事がひと目でわかる。
人ならば、鍛え抜かれた体を持つ豪傑と例えられるだろう。
(アカツキ、彼女は近距離戦を主体とする典型的なアタッカーだ。距離を詰められずに戦えば人数有利の分大きな差がある。ブランクもあるはずだ。さぁ、詰められるものなら詰めてみろ!)
[三、二、一。展開。]
展開と同時に、カタパルトより斜めに射出される七機。
エーシーズの基本は空中戦だ。初めにカタパルトより射出。その後制御は機体の各方向に取り付けられたブースターを使用し、それらは基本的に自動制御に頼る。
アサルトライフルを模した銃を揃えているストーム部隊。作戦通り前四機、後三機に別れて展開した。
部隊長であるストーム自身は後の中心、戦況を見ながら指示を出していく。
[ん〜ん〜んん〜♪]
近距離戦を主体とする。つまり、距離を詰めなくては真価が発揮出来ないということ。アカツキの初動は中距離戦主体の彼らに比べて遥かに重要である。
それなのに、あろうことか彼女は、わざわざ鼻歌を無線に送ってきていた。
(舐められているのか?挑発にしてもやりすぎだ。位置も丸わかりだぞ。奴は何を考えている)
「各員、正面だ。正面に対し射撃準備」
(狂気に魅入られたか)
全くと言っていい程、警戒が無いように思える敵機体の前進。
量産機の中でもスピード重視で打たれ弱い細身のそれは、じわじわと、しかしなんの対策もなく進み続けた。
(七機相手に全て避け切るつもりか?)
「撃て!」
統率の取れた弾幕が飛び、平面上に高さを出した射撃は、言葉にするならば絶望そのものだった。
――――――
「ん〜ん〜んん〜♪」
(ストームは堅実。恐らく前四、後三の陣を敷いてくる。分かっていても厳しい戦い。そこから放たれる分厚い射撃、もろに喰らえば私は負ける)
近接仕様は距離を詰めねば不利。それを理解しながらも射出を敢えて弱めるように出撃する。
彼女の機体は、ストーム機と比べればあまりにも細い。所々丸みを帯び、求められた最低限の装甲と関節。その設計はブースターの効力を最大限活かすためである。
それで弾幕に突っ込んでくるのだから、彼が狂気だと感じるのも仕方ないだろう。
しかし、彼女には当然考えがあった。
(私が分かりやすい場所に居たら、必ず撃ってくる。撃つということは弾が切れるということ。そのタイミングこそ、狙い目)
まずは弾切れ。それを狙う事で隊長機以外を落とす。だがそれを狙うためには厚み十分にも程がある弾幕を避けきらなければならない。
(大丈夫。何度も、やった)
数々の激戦を生き残ったあくる日。それらは彼女にとって大きな力となっている。
(本当に気を付けるべきなのは、ストームただ一人!)
敵機体の構えから刹那、統率の取れた射撃が襲いかかる。
(避け切る!)
量産機に特別な性能などない。それを避け切るには考えられないほどの技量が必要なのは当然として、運も絡む。
彼女の機体は頭から、弾幕に対して突っ込んでいった。
――――――
アカツキの機体はグルグルと横に回転しながら、まるで竜巻に飲まれたかのような軌道をしこちらに迫ってくる。
(旧時代の戦闘機にでもなったつもりかッッ!)
その動きは、一般兵が捉えられるはずは無かった。
それは、今目の前に居る機体の動きは、エースパイロット、名前持ちにしか許されていないものだった。
[専用機じゃないんだぞ!なんなんだあの動きは!]
ストーム部隊に動揺が伝播する。
偏差射撃など忘れ、ただそれを追うような迎撃は避けられるばかり。
「各員偏差射撃をしろ!止めなければ殺られるぞ!」
ストームの声が無線に届くが、その瞬間、虚しくも空気を撃つ音が響く。
[た、弾切れです!]
「リロードを!」
[ぐわぁぁぁぁぁ!]
機を待ちながら旋回していた彼女は、その隙を逃すはずも無く突撃。アサルトライフルの先に付いた短剣で応戦するものの、彼女の両手の剣はそれをいなす。
[んん〜ん〜ん〜♪]
実力差は歴然。しかし人数有利は彼女から、手加減という概念を奪った。無惨にもコックピットから両断される。
[い、一機破そ…]
[リロードまだで…]
あまりにも短い時間、三機。物質は地上へ、魂は天空へと送られた。
(ブランクなど無いに等しい、まさに戦場に身を委ねるものの戦い方だ!言った私が一番油断していたのだ!)
「各員孤立するな!互いにカバーしろ!」
[や、やめろ!来るなァァ…]
「纏まれ!纏まれぇぇぇ!」
[うわぁぁぁ…]
(こいつらには荷が重すぎる!)
[ん〜ん〜♪]
[まだ死にたく…]
統率を失い、鳴り響く鼻歌のせいもあってか、士気に壊滅的な打撃を受けたストーム部隊。一機落とされてからはあからさまに動きが悪くなり、更にその隙を突かれる。残る機体はストーム専用機のみとなる。
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