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1.出発点

「ん〜ん〜んん〜♪ただいまー!いやー疲れた疲れた。愛しのリコルちゃんはどこかなー?」


「おかえりなさい」


 軍服を着こなした女性がだらしない笑顔で玄関を開けた。


(セレナが帰ってきた。セレナはいつも騒がしい)


「そんな嫌そうな顔しないの!私達の仲でしょ!」


 そう言ってセレナは小指を立てた。

 リコルは少し嫌そうな顔をするものの、それが好意の裏返しだということを彼女は理解している。


「素直じゃないなぁ〜全く〜!この〜?」


「…そういうこと言うならご飯食べないで」


「これは手厳しい。愛情がたっぷり詰まった今日のお昼ご飯は何かな?」


 リコルはムスッとしながら皿に盛った昼食を出した。

 バランスの整えられた食事で、肉、野菜、ジャガイモとスープが丁寧に盛り付けられてある。家庭料理にしてはしっかりとした献立だ。


「これがあるから今日も頑張れる。ありがとね、リコル」


「…」


 相変わらずリコルは物静かにしているが、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべている。

 それを見たセレナは満足そうな笑みを浮かべたあと、真面目な表情で語り始めた。


「明日からまた、作戦に出ることになったの。大丈夫、絶対に帰ってくるから」


「…そう」


 穏やかだった昼食に緊張感が走る。


「どこまでいくの」


「今回は守秘義務があって、あなたには伝えられない。家族でも、もちろん。」


「それなら本来は私が出る戦場。そんな危険な任務なら私が代わりに行く」


 ”守秘義務”。それを、「はいそうですか」とそのまま受け取るほどリコルは無知ではなかった。守秘義務の内容は大半が特別任務であり大きな危険を伴うからだ。


(どういうこと。今戦線は落ち着いているはずだし、傭兵達もなりを潜めていた。そのなかで特別任務なんてきな臭いにも程がある)


「私はリコルを守るために軍人になったんだから当然でしょ?結局リコルが出ちゃったら意味ないの」


「でもセレナは私より弱い。特別任務なんて任せられるはずない」


「あのねー!?これでも最近は戦果を挙げてエース候補なんだから!」


「そんなことなら戦果なんて挙げてくれなくて良かった。早死したら目も当てられない」


 棘のあるセリフを吐くリコルは明らかに焦っていた。


「あなたの代わりを務めるってことは一騎当千が義務なのよ!?私みたいな凡人が、リコルみたいな天才と同じ働きをするってのは大変なのよ。私の努力をちょっとは認めて!」


「そんなの、セレナが弱いからいけない。私が強くても、セレナが強かったら関係ない。本当に強かったら、安心して送り出せる。セレナはもう少し身の程をわきまえた方が…」


 そこまで言ってリコルは口を閉じる。言いすぎた。そう思った時には既にセレナから悔しさと悲しさ故の涙がこぼれ落ちていた。

 震える声で彼女はまた話し出す。


「女性のパイロットであなた程の強さを持つ人は居ない。それでもあなたに追いつきたくて、リコルを守りたくて選んだ道だった。

 身の程なら私が一番知ってる。一生あなたに追いつくことが出来ない事も、この任務で命を落とす確率が低くないことも。

 それでも、私は行かなきゃいけない。それはあなたの為に、あなたを守りたい私の為に」


 リコルは反論しようとしたが、その糸口すら見つからずに顔を俯かせた。


「私、行ってくる。この家で待ってて」


「あ…」


 覚悟を決めたような表情でそう言い、セレナは出ていってしまった。

 喧嘩して送り出した事を悔やんでも悔やみきれない。本当に最後になる可能性のある会話が、口喧嘩という結果に終わった。




 後日、リコルの元にセレナが所属する軍、ヴェスパーより一通の手紙が届く。


「セレナ・ナギ消息不明」


 約束を放り出す。リコルは手紙を手に、ヴェスパー本部へと走り出した。

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