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8 婚約破棄狙い?

 食器類を片付け、持参した茶葉やお菓子をバスケットに詰め直し、歩いて王城に戻ることを考えていたが、先に帰ったと思っていた王城の馬車が待機していて、中にはカーティスとデリックが乗っていた。

「先に戻られたのでは…」

「おまえを置いて帰るわけがないだろ」

 侍女の一人など放っておいてもいいのに、妙に義理堅いところに思わず笑みが漏れた。それなのに婚約者を放って部屋を出てしまう困った王子。

 ずいぶん待たせたことを謝り、軽く礼をすると、エディスは馬車に乗り込み、カーティスと向い合わせに座っているデリックの隣に座った。


「…アマンダ嬢は」

 カーティスも気にはなっていたらしい。

「へこんでましたよ。ご不満を伝えるのはともかく、令嬢を残して部屋を出るのはないですね」

 エディスの言葉に少し渋い顔をしながらも、カーティスは反論する気はないようだった。


「こんなところで聞くのも何ですが…、エイミー様? でしたっけ? お気に入りなんですか?」

 エディスの質問にデリックは眉間にしわを寄せ、

「お気に入りとか…」

と反論しかけたのを遮るように、カーティス自身が

「そうだな」

と、悪びれることなく答えた。

「にこやかで、裏表がなく、一方的にしゃべりたてることもない。一時間も自慢話や人の悪口を聞かされることもない」

 そこにあげられているのは、アマンダへの当てつけの言葉ばかりだった。もっとエイミーを褒める言葉が出て来るかと思っていたのだが、エディスの予想は外れた。

「ああいう貴族連中の受けが悪い令嬢と恋に落ち、婚約者の嫌がらせを糾弾すれば婚約破棄は可能だろうか」

 その目の色気のなさに、ああ、これは恋ではないな、とエディスは思った。


「まあ、無理でしょうね。…数年前、隣国で第三王子が婚約破棄をした事件、ご存知ですか? 真実の愛とやらで、王命で決まった婚約者を大衆の前で一方的につるし上げ、破棄した王子。お相手の方が有力な貴族だったこともあり、政変を恐れた王が王子を王家から追放、平民に格下げ。碌に働いたこともない元王子は市中では何の役にも立たず、真実の愛の相手からも捨てられたそうですよ」

「…そんな事件、ありましたね」

 デリックがエディスの語る事件を思い出し、こくこくと頷くと、

「そううまくはいかないか」

とカーティスは面白くなさそうにつぶやいた。

「平民になっても働けないことはないと思うが」

「平民をなめてますね。…まあ、働けるかどうかもありますが、追放されてもついて来てくれるほど愛されているかも大事ではないでしょうか。王子じゃなくても好き、なんて言ってる人間ほど、本当に王子でなくなると関心をなくすものです」

「王子でない俺には魅力がないと?」

 カーティスのことを言ったわけでもないのにずいぶんひねた物言いに、エディスはカーティスをじっと見た。

「そう思うような人を選んだなら、それはご自身の人を見る目がその程度ってことでは?」

「…相変わらず、きついな」

 ちょっとへこんだカーティスを見て、エディスはざまあみろ、と思った。別にアマンダに肩入れするわけでもないが、女を泣かせた男が何の罰も受けないのは少々気に入らなかった。


「アマンダ様がエイミー様の悪口を言うのは、嫉妬です。あなたに関心がある証拠です。少しは女心もご理解のうえ、婚約者に余計な心配をかけているご自身のことを反省してください」

 これには素直に返事することはなく、口を尖らせたままだ。

「あなたは王太子になる人です。軽々しく婚約破棄などという言葉を口に…」

「ならないよ。王になるのはジェレミーでいい。婚約破棄で王にならずに済むなら、そうありたいもんだ」

 それは王位を継ぐことも、アマンダと将来結婚することも逃れたいという、カーティスの本心だった。

 それに対してエディスは一言、

「ばかですね」

と告げた。

 その言葉にカーティスはエディスを睨み、聞いていたデリックはぎょっとした顔をした。


「ジェレミー殿下がよほど優秀なら押しますけど、私から見ればどっちが王になっても大差ありません。国民からすれば、国を潰すような人でなければ、どっちでもいいんです。ですが王太子になるか、王のスペアになるか。この二択は王家に生まれたあなたの宿命であり、逃れることはできません。本気で逃れたいなら、婚約破棄だなんてせこい罪より、いっそ凶悪なギロチンものの悪事を働いちゃえばどうです?」

 あ、ちょっと言い過ぎたかな、とエディスは少し焦った。自分こそ王子の機嫌を損ねればギロチンだってありえるかもしれないというのに。


 カーティスはしばらく固まっていたが、ぷっと噴き出すと、

「大差ない、か。…王子にギロチンものの凶悪犯になれと勧めるの、おまえくらいだぞ」

 そう言って窓の外に目をやった。ガラスには機嫌をよくしたカーティスの笑顔が映っていた。

 何故自分の失言で機嫌がよくなったのか、エディスにはわからなかった。


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