5 カーティスの進学
エディスがカーティスの側付になって一年もしないうちに、カーティスは王立学校に進学することになった。
学校はさほど遠くなく、毎日城から通うが、昼間は同い年の側近デリックが同行し、カーティスが学校に行っている間することは多くなかった。
エドとイーデンは平日の昼間は騎士団兼務となり、エディスもカーティスの妹であるクレアの侍女になると聞かされていたのだが、何故か引き続きカーティス付の侍女のままで、昼間だけクレアの侍女の手伝いをすることになった。
クレアは四歳とまだ幼く、今の流行は「お馬さんごっこ」だった。
誕生日に木馬を与えられ、えらく気に入ったクレアが次に選んだのは、人間木馬だった。
四つん這いになった人間にまたがり、
「さあ、行くのよ、ハイヤー、ハイヤー!」
と部屋中を走らせる。若くない侍従は腰を痛め、クレア付の侍女達は四つん這いを嫌がり、一番若かったエディスは積極的に馬役を命じられた。絨毯があってまだ助かったが、侍女のお仕着せは埃だらけになり、追加で新品のお仕着せを三枚も支給してもらった。いろいろ試行錯誤し、王女を紐で括り付けて暴れ馬まで演じ、大うけではあったが、周りの者は皆ハラハラしていた。
三カ月もすると人間木馬に飽きてくれてハードな子守りではなくなったが、すっかりクレアに気に入られていた。
夕方になるとクレアの元を離れ、汚れがひどい時はお仕着せを着替えてからカーティスが戻る頃合いを見計らって玄関で待機した。
初日、
「お帰りなさいませ」
と礼をして、荷物を預るために手を伸ばしたが、カーティスは鞄を手渡すことなく、笑顔で
「ただいま」
と言って通り過ぎた。
あれ? 段取り、違ったっけ?
すぐ後ろにいたデリックに目で合図したが、ぶるぶると首を横に振る。気が付けば、鞄を預かる手を出したままだった。別にデリックの荷物を預かる気はなかったのですぐに手を引っ込めた。
「エディス、行くよ」
カーティスに呼ばれて慌てて後を追ったが、ただ挨拶をして手ぶらでついて行くだけ。もしかしたらお出迎えの必要はないのではないか、とふと疑問に思った。
制服の上着を預かりながら、
「明日はお部屋でお待ちした方がよろしいでしょうか」
と聞くと、
「迎えに来てくれた方が嬉しいな。忙しいなら任せるけど」
そう言われると、出迎えに行かないわけにはいかない。
荷物が多い時には小さな鞄や書類を渡され、時には街で買ったらしいお土産のお菓子やどこかでもらった花束、寒い季節にはつけていた手袋やマフラーを渡されることもあったが、自分ごときいてもいなくても大差ないように思え、主人を出迎える侍女の役割はエディスには不要かつ無駄なものに思えてならなかった。
学校には他国からの留学生もいて、王族の子女であればその世話役もしているようだった。休日に出かけることもあり、側近の三人のうちだれかが付いていくことが多かったが、時にエディスが呼ばれることもあった。とはいっても後ろで控えるくらいで、何か特別なことをするわけではなかったが、王子というのはなかなかに忙しく、いい服を着ていいものを食べてる分、ちゃんと働いていることに納得した。




