表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/42

38 誕生日の晩餐

 エディスがカーティスの婚約者になって初めての誕生日。

 王と第一王妃の家族がそろう中、エディスはカーティスが一緒に席につくよう勧めても断り、相変わらず侍女として後ろに控えていた。


 和やかに食事が進む中、クレアが突然

「私、おにいさまとエディスの結婚に反対するわ」

と言って食卓に両手をついて立ち上がり、はずみでフォークが床に落ちた。

「クレア、はしたないわ」

とリディア妃がたしなめても席につこうとはせず、

「だって、おにいさまとエディスがお城からいなくなったら嫌だもの」

と言って、カーティスを睨むような目で見ていた。誰かから二人が結婚すると城を出ていくことを聞いたようだ。

 どう説得しようかカーティスが考えていると、エディスが新しいフォークをクレアの手元に置きながら、何の躊躇もなく

「わかりました。クレア様のおっしゃる通りにしましょう」

と言った。

 カーティスは目を見開いて動きを止め、手にしていたフォークが手から滑り落ちた。わかりやすいほどの動揺を見て、王もリディア妃も驚いた。


「ほんと? じゃ、ずっと一緒ね」

 エディスは機嫌を良くしたクレアの椅子を引き、席に座らせた。

「殿下は私の代わりが来るまでお城にいてくれますよ。ですが私は、もう侍女をやめることが決まってますので、お(いとま)させていただきます」

「えーーーっ、つまんない! エディスにもいてほしいのに」

 クレアは頬を膨らませてみせた。しかし、

「残念ながら、それはできません。殿下との婚約が解消になったら、お城を出て、次のお相手を探さないといけませんから」

 エディスは明らかに落胆を深めたカーティスを気にも留めず、淡々とクレアに告げた。

「じゃあ、次のお相手の方と一緒に遊びに来てくれる?」

「お相手が貴族の方でしたら、夜会のお呼びがかかれば伺うこともあるかと。…ですが残念ですね」

 ふう、とわざとらしいため息とともに、エディスは少し遠くを見た。

「クレア様が妹になったら素敵だと思ったんですが…」

「いもうと???」

 クレアはきょろきょろと目を動かし、母を見ると、リディア妃はにっこりと笑い、頷いた。

「私と殿下が結婚すれば、クレア様は私の妹になります。…でも、クレア様が反対されているのですから無理ですね」

 それを聞いて、クレアは息を飲んだ。

「新しいお相手の方の妹が意地悪だったら、どうしましょう。『エディス、おまえは家で働いていなさい。夜会へは私が行ってくるわ。私が王女様とお友達になるのよ』」

「ダメよ、そんな意地悪、許さないわ!」

 声を低くして悪役になるエディスと、本気で怒っているクレアを見て、王でさえこみ上げてくる笑いを止められなかった。


「…お城を出ても、会いに来てくれる?」

 クレアが泣きそうになっても、エディスは変わることなく淡々と答えた。

「侍女をやめて城を出れば、…無理でしょうね」

 クレアもわかっていない訳ではなかった。侍女をやめた者の多くは城を訪れることはない。気軽に来られる場所ではないのだ。年に数回しかない夜会でさえ、招かれるのは一部の貴族だけ。

 しかし、何かの拍子にふとひらめいた。

「…おにいさまと一緒になら、お城に来られる?」

 軽く頷いたエディスは、少し口元を緩ませていた。

「ここは殿下の『おうち』ですから」

「それなら、…おにいさまと結婚してもいいわ。お城を出ても会いに来てね」

「はい」

 こくりと頷き、大事な妹となる王女の可愛い甘えに、エディスは嬉しさを募らせながらも、

「ですが、お城を出るのはまだ日程も決まっていない先のことですよ」

と答えた。


 食後にはカスタードパイが用意され、それはクレアの好物だった。

 エディスはクレアの目の前に運びながらも、食卓に置く寸前でぴたりと手を止め、

「あ、お行儀の悪かったクレア様は、パイはなしでしょうか」

と言って皿を持ち上げた。

「だめ! おにいさま、エディスが意地悪を言うわ」

 エディスを叱って欲しそうにカーティスを見るクレアに、カーティスは

「おまえも充分意地悪を言っていたぞ」

と、笑いながら返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ