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36 …我慢?

 二人の王子の婚約の最終決定と、婚約者のお披露目も一段落し、カーティスはエディスの手を引いてテラスに出た。

 二人きりになり、もう既に婚約者になってしまったエディスに、カーティスはようやく自分の思いを伝えることができた。

「エディス、退路を塞いだ後で悪いが、俺はおまえを手放す気はないからな。…俺はずっとおまえのことが好きだった。あの庭園で会った時から、ずっとだ。…婚約者なんて余計なもんがいなければ、もっと早く伝えたいと思っていたんだ」

「ずっ…と…? どうして…、言ってくれなかったの?」

「おまえは俺に婚約者がいる限り、絶対に俺のことを受け入れないだろ? …変に覚悟を決めて俺から離れていくのが、…恐かったんだ」

 確かに、その心づもりはあった。思いを抑えきれないなら、予定より早く侍女を辞して王城を出ることだって考えていたところだ。

「大体、おまえが俺のことを好きなのなんか、バレバレなんだよ」

 エディスはその決めつけに目を見開き、絶句した。よもや、自分が隠し通していたと思っていた気持ちが、当の本人に見透かされているとは…。

「何でおまえはわかんないんだろうな、俺のことも、ジェレミーとアマンダのことも。少しはおかしいとか、怪しいとか、思うだろ?」

「お、…思わな…かった。でも、…気がつかないように、…してた…だけかも」

 エディスの答えに、カーティスの呆れ顔が次第にほころんでいった。

「そんなおまえだから、言えなかったんだよ。…ようやくだ。ようやく手に入れた。自分でもよく我慢したと思うよ。一生分我慢した。…やっと、俺のものになった」

 カーティスはエディスを引き寄せると、有無を言わせず唇を重ねた。息もつけないような口づけを受けて、目を潤ませ頬を赤く染めたエディスは、とろけるような熱い視線で自分を見つめるカーティスから少し視線をそらせ、心臓が落ち着くのを待った。しかしこの思いはなかなか静まりそうになかった。


 ずっと抱いていた背徳感も不要なものだったのかもしれない。エディスは思い切ってカーティスに聞いてみた。

「…初めてのキスも、浮気な気持ちじゃ、なかった…?」

 しかし、カーティスは少し気まずそうに目をそらせた。

「…それって、事件の後の、あれ、だよな」

「そう。お礼の、あれ」

「…」

 少しの沈黙の後、不安げなエディスを見て、カーティスは正直に白状することにした。

「あれ、…初めてじゃない」

「…。……、…はい??」

「初めては…、王城の図書室でレポートを書いて居眠りしてた時に…。寝顔があんまりかわいかったから、ちょっと」

「なっ、なな…」

「嬉しすぎて、エイミーを自主退学程度で許してしまったんだよなぁ。我ながら、あの時は浮かれすぎてたな。…その次は」


 聞けばそれだけでなく、公務で出かけた馬車の中で何度か、誘拐され救出された部屋で、更には王妃宮の客間に運ばれた時も、その翌日の夜も、自分が寝ている間に唇を奪われていたことを聞かされ、次々と暴露される事実にエディスはさっきまでのほんのりと染まっていた頬を真っ赤にして怒りだした。

「どういうことですか! 相手の了承もなく、まだ恋人でもない女にそんなに、何度も、く、く、くちづけしてっ!」

 エディスの説教を笑顔で聞きながら、全く悪びれない様子で、

「ほんと、よくキスだけで我慢したよなぁ…」

と自分を褒めるカーティスに、エディスは怒りを抑えられなかった。

「我慢できてないでしょっ! 何だと思ってるんですか! 王子なら何をやってもいいってもんじゃないんです! もうっ、反省してくださいっ!」

「反省? する訳がない。相手はおまえだけだし、むしろ目標達成に貢献したのを褒めてもらいたいな」

「??? …目標?」

 何のことを言っているのかわからず、首をかしげるエディスに、カーティスはにやりと笑いながらこう言った。

「一年以内に、婚約者を見つけられただろ?」

「!!」


 誰が自分の婚約者がこんな決まり方をするなんて思うだろう。あの頃にはもうこうなることが決まっていたとしたら…。

 あの賭けも、出来試合…だった?

「約束通り、婚約破棄は企てない。もう二度と…」

 全てがカーティスの目論見通りになっている。悔しいのに、その全てが自分に向けられていることに気が付いて、エディスはもう怒ることもできなくなった。


「エディス。これからもずっと俺のそばで、共に生きてくれるか?」

 じっと目を合わせ、穏やかに語り掛けるその問いかけに、エディスはカーティスの胸に額を押し付け、こくりと頷いた。


 反撃の言葉をやめ、プロポーズを受け入れたエディスを見て、カーティスはようやくエディスに勝ったと思った。


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