32 王妃の占い2
庭園の隅にある東屋の影に隠れ、カーティスはただ会が終わるのを待っていた。
そのそばに近づいてきたのは、パーティに退屈し、人気のない場所で時間を潰している気楽な令嬢。しかし着ているのは古びたドレスを直したものだ。それでも呼ばれればこうした会に出向き、王家と縁をつなぐ機会を狙っている。家令はいても親がいない会場では、子供たちはいつも以上に本来の姿を見せていた。この令嬢もまたすぐに本性を現すだろう。
ふと目と目が合い、すり寄って来るかと思えば、そこに人などいないそぶりを見せた。
隠れていることを悟り、見逃してくれるのか。
「おまえも王子を見に来たのか」
どんな反応をするのか、見極めてやろうと思った。恐らく下位貴族の令嬢、それも大して裕福でもない、今まで目通りしたこともない家の者だろう。
しかし、その口から出てきたのは、王家への関心の薄さ。明らかにこのパーティに興味なく、周囲にいる者たちを「たかる」と表現し、この婚約決定を「出来試合」と見抜いていた。
ケーキを見て村人へのパンを思い、王子に周りに感謝しろという。そして、
「お誕生日、おめでとうございます、殿下。…と言っても、先週でしたっけね、殿下のお誕生日は。日程を弟に合わせたからって、拗ねてちゃだめですよ」
自分の誕生日を知っていた。逃げていた一番の理由を「拗ねている」と言われて、しっくりきた。
そうだ、自分は拗ねていたのだ。
ついでの誕生日など誰も関心がないことに。会場からいなくなっても誕生会が成り立つほどに、周囲から認められていない自分に。自分の価値は第一王子、先に生まれたということ以外何もないことに。
次の誕生のパーティであなたが逃げる道を選んだなら、
種は遠く飛ばされ、
あなたの大地に根付くことはないでしょう
母の占いの言葉が、今聞いたかのように甦ってきた。
この子が自分の運命の種だ。そう思った。
決して裕福ではない子爵家の令嬢。スタンレー領が水害から多くの借金を抱えていることは有名だった。下手すれば好色爺に目を付けられ、借金の肩代わりに無理な婚姻を結ばされるかもしれない。
ここを出て会場に行けば、自分には婚約者があてがわれてしまう。母が占いで決め、弟のついでに選ばれた婚約者が。しかし、
そばに根付かせることが、できるだろうか。
カーティスは覚悟を決め、運命の種の手を引いて、パーティの会場へ向かった。
ずっとカーティスを探していた侍従達が安堵の表情を見せ、リディアはカーティスに挨拶をして去って行った令嬢を見て、何か確信を持った目で笑っていた。




