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27 偽金貨

 その日の夜、エディスはカーティスの部屋で事件の真相を聞いた。


 ここ一年ほど、ルーべニア王国で純度の低い金貨が見つかるようになり、既に王都にまで流通していた。調べを進めているうちに南西部の地域に多く偽物が出回り、出所を探るうちにソンダース伯爵が絡んでいる疑いが出た。

 王はソンダース伯爵の支払いには徹底して金貨を調べるよう秘かに通達を出し、偽金貨を見分ける方法をいくつかの信頼できる取引先に伝授した。鉄の混じる金貨は磁石に反応し、すぐに見分けがついた。偽物の疑いのある金貨を選り分けると支払いの半分は偽金貨を使っており、今まで偽物を掴まされていた商人達はさらに警戒を強め、伯爵との取引をやめる者もいた。


 偽金貨はコンラード国でも広まっていて、刻印の特徴から同じところで鋳造されたものであることは明らかだった。

 ソンダース伯爵はコンラード国のドゥプレー侯爵と親戚関係にあり、ドゥプレー侯爵が用意した偽金貨をルーべニア王国に持ち込み、支払いに混ぜて利益を得ていた。

 しかし思いのほかルーべニア王国の対応が早く、ソンダース伯爵は持て余した偽金貨を他国に運び出すことにした。

 偽金貨に警戒が薄い国は多い。しかし金貨の持ち出し量は規制されており、表立って運び出すことはできない。


 ドゥプレー侯爵の次男シャルルは自国で何人かの貴族の娘と関係を持ち、援助やプレゼントとして隠し荷室のある馬車を提供し、盗難品や武器、薬や規制されている作物の種など、様々な密輸に利用していた。ルーベニア王国内に偽金貨を運んだのもこの方法だった。

 同じ方法でルーベニア王国から他国に偽金貨を運び出せばいい。

 シャルルは父の命を受け従妹のコリンヌの侍従に扮してルーベニア王国に入国し、世間知らずな令嬢に言葉巧みに近づき、さっそく一人の男爵令嬢を恋人にすると、援助という名で馬車を提供した。


 アマンダはコリンヌが初めて「仕事」をした相手だったが、色仕掛けと違ってはかどらず、上位貴族であることからどういうきっかけで馬車を屋敷に納めてもらうかも決まらなかった。とりあえず旅行を計画し、用意した馬車を使ってもらうことを考えていたが、密輸品をより安全に運べる侯爵家を味方につけようとシャルルが手を出してきた。

 そしてコリンヌに誘導させて侯爵令嬢を路地裏に導き、誘拐に至った。

 本物の侯爵令嬢と面識がなかったために令嬢が入れ替わっていたことにも気付かず、元の計画通りに話は進んでいった。今後の脅迫のために令嬢を襲うのも計画のうちで、酒を飲みながら片手間のカードゲームの賞品として側近の男がその役を手に入れた。しかし犯行は未遂に終わったうえ、誰よりも深い痛手を負うことになった。


 シャルルと二人の側近と下働きの男二人、そしてコリンヌとその侍女は女子学生誘拐の罪で捕えられ、それをきっかけに偽金貨事件の解明が進んだ。


 屋敷には進呈を待つ馬車が置いてあり、これから運ぶ予定だったと思われる偽金貨も見つかった。馬車はシャルルの新たな恋人に送られる予定のものだった。他国で盗難された絵画や宝飾品なども見つかり、ここを拠点に盗品を捌いていたと思われた。


 ソンダース伯爵家もその日のうちに捜索を受け、偽金貨はもちろん、盗品の売買に関わる書類も押収され、伯爵は騎士団に身柄を確保された。翌日には領の屋敷も捜索を受け、大量の偽金貨が見つかった。


 シャルルの恋人となった男爵令嬢の自宅にあった馬車からも、偽金貨と異国の薬物が見つかった。もちろん令嬢もその家族も捜索から逃れることはできなかった


 シャルルは父の名を出し、冤罪だ、国際問題だ、早く解放しろと大騒ぎしているが、ドゥプレー侯爵もシャルルのことは早々に足切りし、偽金貨事件との関与を否定するのではないかとみられている。シャルルは一介の侍従としてルーベニア王国の法で裁かれる予定だ。

 残念ながらドゥプレー侯爵を捜査する権利はルーベニア王国にはなかったが、コンラード国にも今回の事件は報告され、ドゥプレー侯爵への対応はコンラード国に一任した。


 ルーべニア王国ではより複雑な刻印の新しい金貨を鋳造することになっている。エディスは新しい鋳造所を建てた記念にデザインを変更したくらいにしか聞いておらず、自分には縁の薄い金貨の話などすっかり忘れていたが、裏には今回のような偽金貨への対策もあるのだろう。

 今回の事件で見つかった偽金貨はすべて没収。後日精製され、新しい金貨に作り替えられる予定だ。

 


 アマンダが自ら囮役のつもりでコリンヌと接触していたことも聞かされた。

 囮役どころか、完全に騙されて友情を深めており、たまたまとはいえ自分がいなければアマンダの身が危うかったのだ。自分が捕まってよかったとは思えないが、アマンダでは窮鼠の反撃など繰り出すことはできなかったに違いない。エディスは今後アマンダがこんな無茶を思い立たないことを切に願った。



 数日後、カーティスのもとにクライトン侯爵が訪ねて来た。

 本当の用件はカーティスではなく、そのそばに仕えているエディスへの礼だった。

 表向きには今回の事件と侯爵家は無関係となっているが、どうしても感謝を伝えたいという侯爵の気持ちを受け取り、礼としてスタンレー領への援助を打診されれば、断ることはできなかった。


 その上でも、アマンダを事件に関わらせたことについては、侯爵に一言言わずにはいられなかった。

「アマンダ様は時に思わぬ才能を見せる方なのです。今後、このような事件に関わらせるようなことはお控えください」

 エディスの忠言を不快に思うことなく、クライトン侯爵は娘を思い出したのか苦笑いを見せた。

「私の役に、ひいては殿下の役に立ちたいと言われては無下にできず…。まさか、あれに護衛をまく才能があろうとは思わなくてな。…以後気を付けよう」

 それは家の外では滅多に見せない素の顔で、カーティスは侯爵が立ち去ってから

「あのおやじ、あんな顔もするんだな」

とつぶやいていた。


 王子の役に立ちたいというアマンダの気持ちを知り、エディスはアマンダは将来きっといい王妃になるだろうと思うと同時に、心の奥が罪の痛みにうずいた。


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