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25 救出

 明かりの漏れる居間は廊下の先にある。シメオンとギルバートが頷いて居間へと向かった。

 カーティスはウォレスが下働きの男を拘束し終えるのを待たず、先に二階に駆けあがった。


 エディスとは限らない。アマンダの見間違いの可能性もある。そう思うのに心がざわつき、気持ちが焦った。早く確認しなければ。エディスでなくとも捕まった女子学生を解放してやり、これをきっかけにこの事件が少しでも解決すれば。


 ドアが半開きになった部屋から聞こえる乱闘の音に、迷わず部屋に駆けこんだ。

 床に膝をついた男の足の間に女がいた。制服のスカートがめくれ上がり、足で激しく抵抗している。男は一撃を食らったらしく、股間を抑えてやや内またになりながらも、何とか押さえつけようと反対の手を伸ばしていた。

 すぐさま男の頭に膝蹴りを食らわせると、抵抗なくぶっ飛んだ。隙を与えず襟元を掴んで顔を数回殴り、ぐったりとしたところで腹にとどめの一撃を食らわせて床に放り投げた。


 震えながら後ずさる、それがエディスだとわかり、駆け寄って抱きしめた。しかしパニックを起こしていたエディスは声は出ないが頭や足、自由になる部分を使って自分を捕らえようとする者を振り払い、逃れようと必死に暴れた。蹴られ、踏まれた足は痛く、振り回す頭が鼻や顎に当たったが、決して痛いとは口に出さず、怒りも見せず、ただひたすら我慢しながら

「エディス、…エディス、」

と何度も名を呼び続けた。

 必死に抵抗を続けていたエディスが動きを止め、力が抜けて身を預けてきたのがわかった。手が自由にならないエディスに代わり、抱きしめる力を少しだけ強めた。

「エディス…、もう大丈夫だ」

 震えながら、漏れ出す嗚咽と共に、ボロボロと涙があふれ出てきた。自分の胸に顔をうずめて、肩を震わせる姿に、もう少し早く来てやればよかったと、外で頃合いを測っていた時間さえもが口惜しく感じられた。


 エディスが落ち着くのを待っている間に、ウォレスが倒れている男を縛り、後から来たダニエルと共に部屋の外へ運び出した。小さく頷くと、二人は相槌で返した。

 一階もにぎやかになっている。残りの男たちも捕らえられ、引き続き屋敷の中を捜索するのだろう。


「これからロープを切るからな」

 カーティスは左手でエディスを支え、腰につけているダガーを抜いた。

「動くなよ。怪我するぞ」

 そしてエディスの手首を縛るロープを怪我をさせないよう慎重に切ると、エディスは自由になった腕をゆっくりと動かし、自分の服を掴んでしがみついてきた。まだ震えが残る体をもう一度両手で抱きしめ、熱を帯びた頬に自分の頬をそっと当てて、何度となくエディスの名を呼んだ。耳のそばでつぶやくように名を唱え、その唇を頬に当てた。涙のしょっぱい味がした。


 徐々にエディスの重みが増し、気が付けば目を閉じてぐったりとしていた。気を失っているのか、眠っているのかもわからない。

 カーティスはエディスの唇に指でそっと触れ、目覚めないエディスに触れるだけの口づけをした。

 部屋から連れ出そうとして目を見開いた。エディスの服は胸元が大きく裂け、胸が顕になりそうなほどはだけていた。白い胸にうっすらとついた切り傷の赤い線が痛々しく、本当によく無事だったと、改めて思った。ほんの数分の差で取り返しのつかない傷を負わせるところだった。本当に大丈夫だったのか、全身を確かめてみたかったが、意識がないとはいえ傷ついたエディスに追い打ちをかけるような卑劣なことはできなかった。

 自分の上着を脱いで背を前にしてエディスにかけ、抱きかかえるともう一度軽く唇を合わせ、二度とエディスに見せることのないだろう忌まわしい部屋から立ち去った。



 一階に行くと、レイモンド第一小隊長が声をかけてきた。

「ご無事でしたか」

「危うく襲われるところだったが、間に合った。あちこち怪我をしていて、気を失っている」

「殿下は、ご無事で?」

 カーティスがエディスのことしか語らないので、レイモンドは王族であるカーティスの無事を再度聞き返した。型通りだとわかってはいたが、白けたように細めた目で冷ややかな視線を向けた。

「見ての通り何ともない。そっちはどうだ」

「家の中にいた者は全員捕らえています。偽金貨も屋敷内から見つかりました。欲を言えば商会の連中も一緒にしょっ引きたかったところですが、そちらは追々外堀を埋めていけばいいでしょう」

「…あとで報告を頼む。俺は先に帰る」

 レイモンドは礼をして、捜査の指揮に戻った。


 エディスを抱えて歩くカーティスを呼び止める者はおらず、側近のエドも来ていたが、騎士団の仕事を手伝うよう命じた。エドが寄越したであろう王城の馬車に乗り込むと、カーティスはエディスを抱えたまま王城へと戻った。



 王城内にあるエディスの部屋ではなく、第一王妃宮の客間を用意させ、侍医を呼んで様子を見させたが、あちこち打撲や切り傷があるものの命に関わるような深刻な怪我はなく、男に襲われていないことも確認された。

 しかし、当面心の傷は残るだろうから、男であるカーティスは例え見知った仲であっても徐々に接し、負担にならないようにするよう言われた。

 カーティスはやむを得ないと思いつつも、せっかく自分が助けたのに、とちょっと面白くなさそうな顔で眠るエディスを見つめていた。


 部屋付きとなった侍女が小用で部屋を離れたすきに、額と、続けて唇にも軽く口づけをし、侍女が戻るのを待って部屋を出て行った。


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