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18 自分の縁談

 カーティスの学生生活も残すところあと一年となった。

 アマンダは留学生との交流会に積極的に顔を出すようになり、特に自分のクラスに転入してきたコンラード国の留学生コリンヌと懇意にしていた。

 コリンヌはコンラード国の侯爵家の親戚筋の令嬢で、一年間の予定でルーべニア王国に留学に来ていた。親元を離れるのは初めてらしく、親戚に当たるソンダース伯爵の王都の屋敷から学校に通っていた。


 いつものお茶会でコリンヌのことを楽しそうに話していたアマンダだったが、アマンダの侍女から

「最近、お忍びで出歩くことを覚えてしまわれて、時々私たちの目を盗んでコリンヌ様と街を散策されることもあるのです。侯爵家の令嬢で、王家に嫁がれる身なのですから、そのようなことはお控えいただきたいのですが…」

と相談を受けた。それを聞いていたアマンダは

「学生生活はあと二年ですもの。少しくらい自由にさせてもらいたいわ。コリンヌの侍女もついているから大丈夫よ」

と笑いながら語り、街歩きに慣れて自信をつけているように見えた。

「商家のご令嬢でも、侍女くらいは連れて歩くものですよ。何かあってからでは遅いのですから」

 エディスも気になって声をかけてみたが

「気を付けるわ」

と返事はするものの、街歩きをやめそうには見えなかった。


 この国の王都は比較的治安はよく、街には警備隊が配置されているとはいえ、全く安全なわけではない。路地裏に行けば怪しい者がたむろする場所だってあり、街のはずれには貧民街だってある。貴族の令嬢には見せていない世界だってあるのだ。

 陰で護衛がついてはいるようだが、侯爵に相談することを侍女に提案した。アマンダからいろいろな秘密を打ち明けられている侍女にとって、侯爵に告げ口をすることでアマンダが警戒し、口を閉ざすようになるのも避けたいようだ。



 王城ではエディスより後から採用されたクレアの侍女が寿退職した。これで何人目だろう。

 どこにそんな縁があるんだろうなぁ、と疑問に思いながら、今日もクレアとカーティスの侍女を掛け持ち、時々新人侍女の指導もするようになっていた。侍女の中では若い方だが、職歴は着実に積んでいる。


 父や兄からは、これからは稼いだお金は自分で使いなさい、と言われている。

 今までの仕送りも半分はエディスのために貯金してくれていた。充分とは言えないまでも持参金にはなるだろう。

 意中の人がいるわけでなく、特に結婚願望があるわけでもないが、ちょっと前には父から縁談をほのめかされたことがあり、以前ほど条件は悪くなかった。覚悟を決めたエディスは縁談があるなら進めてもらっても構わない、と手紙を書いた。

 しかし、書き忘れたかと思うほどに、何の話も持ち込まれなかった。


 借金という負の材料も順調になくなり、あえて避けられるような理由は解消されたと思っていた。家の借金のせいで若ければ誰でもいい程度の相手以外からは敬遠されていたと思っていたのだが、実は自分に魅力がなかったのか、と多少なりとも落ち込まずにはいられなかった。


 そういう時に限って、カーティスはエディスの変化に気が付き、余計なことを言ってきた。

「珍しく元気がないな。腹でも壊したか?」

「うら若き女性に、腹を壊したかなんて聞くもんじゃないです」

「うら若き、ねえ…」

 この国での結婚適齢期から見れば、決して呑気にしていられる年ではない。それはわかってはいたが、今、年を突かれるのはちょっと腹立たしかった。しかし、あえて怒りを抑え、

「クレア様の侍女のアイリスが結婚退職したので、そろそろ私も真面目に縁談を受けようかと思っていたところです」

 正直に語ったが、カーティスの反応は微妙だった。

「結婚、したいのか? おまえが?」

「…笑うつもりなら、やめてください。自分でももてないことはわかってますから。父にも縁談があればと聞いてるんですけど音沙汰がなく、どうも苦戦しているようです。…一年くらい頑張ってみて、駄目ならすっぱりと諦めて、仕事に生きてもいいかもしれませんが」

「一年もあれば、婚約者くらい見つかるだろう」

 あまりにも簡単に言われて、エディスは眉をひそめた。それが世界の標準と言われているような気がしたが、生まれてこの方男っ気はなく、王城で仲のいいものは多くいても恋愛対象にはならず、むしろ人の縁をつないでいた方だ。あまりにも自分のことをなおざりにしてきたことを反省した。


「おまえが一年以内に婚約者を見つけたら、俺も婚約破棄を企むの、やめるよ」

「まだ企んでたんですか!」

 卒業まで一年を切り、もう落ち着いただろうと思っていたのに、この期に及んでまだ婚約破棄を狙ってようとは。

 片や、十一歳から婚約に抵抗し続けている王子。片や未だ彼氏いない歴が実年齢の侍女。

「わかりました」

 こうなったら、自分の幸せのためにも、主人である王子の平和のためにも、そして友達に近い王子の婚約者アマンダのためにも、

「一年以内に婚約者を見つけてみせようじゃないですか」

 怒りを力に変え、にやーっと笑うエディスに、カーティスは

「朗報、楽しみに待ってるよ」

と恐いくらいに優しい笑みを見せた。


 その後、兄のアルバートに会う機会があり、自分の縁談がどうなっているかそれとなく聞いてみたが、今のところ釣書は一通も来ていないらしい。

 王城の仲のいい騎士や文官に、どこかにいい話はないか聞いてみても、

「誰の相手?」

「私」

と言ったとたん、

「それは難しいなあ…」

と、紹介もしてもらえない。

 自分が相手だとこうまでも拒否されるものなのか。今さらながら結婚する気がどんどん失せていく自分に気が付いた。


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