17 誕生日
マジェリーの旅立ちよりも以前。
その年の誕生日は、父と母が出かけていたこともあり、カーティスは特別な祝いはしなくてもいいと自ら申し出た。
妹のクレアも夕方から少し体調が悪く、一人で食事をしたがふと寂しく感じ、そんな自分を自覚して少し驚いた。
祝う者も、祝われる者も元気でいるからこそ祝ってもらえる。
昔そう言われたことを思い出し、確かにその通りだと小さく頷いた。
今日はクレアについていると言っていたエディスが部屋に来て、
「クレア様からです」
と箱に入ったものを持ってきた。
そこにはクッキーが入っていて、うさぎのような熊のような、不格好な形から妹が作ったものなのだろうと思われた。
「直接お渡ししたかったようなのですが、ちょっとお熱がありますので代わりにお届けしました」
「ありがとう」
箱の中には
おにいさま、おたんじょうび おめでとう
と書かれたメッセージカードが添えられていた。
「感傷に浸っているところをすみません、ご感想をいただけますか?」
差し出された紙を見ると、
まるをつけてください
おいしかった おいしくなかった
てんすう てん
かんそう
と書かれていた。
「クレア様がお聞きしたいそうです」
何となく、妹が目の前の誰かに似てきたように思えた。
カーティスは一つかじると、おいしかったに丸を付け、95点 元気になったら100点 と書き添えた。
エディスはそれを受け取ってポケットに入れると、飲み終わっていた茶器を引き、部屋を出て行こうとしたが、急にカーティスにエプロンを引っ張られた。
「何か持ってるな」
ポケットが膨らんでいるのを目ざとく見つけたらしい。
「私のです。…あげませんよ」
はっきりと断ったのだが、いつまで経ってもエプロンを離してくれないので、
「…仕方ないですね」
そう言うと、エディスは片腕でトレイを支え、ポケットから自分用にしてはきれいに包んでいたクッキーを取り出した。
クレアの急な体調不良で、今日のカーティスの誕生日のお祝いを用意できなかった。自分用に作ったクッキーを包んではみたものの、所詮は余った生地で作った半端ものの再利用品。渡すつもりはなかったのだが。
「余った生地で作ったので、クレア様のと味は同じですよ」
きれいな丸に形作られた小ぶりのクッキー。カーティスは中の一つをつまんで自分の口に入れ、もう一つつまむと、
「ほら」
とエディスの口元に差し出してきた。
勤務中なので食べる訳に行かず口を閉じていると、ぐりぐりと唇に押し付けられ、むっとしたエディスは口をとんがらせた後、クッキーごと指にかじりついた。
「いてっ!」
手を引っ込めたカーティスにべーっと舌を出して部屋から出て行った。
その年のエディスの誕生日は非番で、久々に王都の自宅に帰っていた。
その日遅くに王城に戻って来たエディスは、いつものように部屋に届けられていた花を見つけ、しおれていないのに安心し、急ぎ花瓶に入れてしばらくじっと花を眺めていた。




