表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/42

13 宿題を一緒に

 馬車が王城に着くと、

「着替えたら、その鞄を持って部屋に来い」

 そう言うとカーティスはエディスより先に馬車を降り、一人でさっさと自室に向かった。その、と言って指さされた鞄は、カーティスのものではなく、エディスのものだった。


 すぐにお仕着せに着替えてカーティスの部屋に行くと、カーティスはすでに着替えを済ませていた。言われるままソファの上に自分の鞄を置き、いつもの仕事に戻った。

 今日のカーティスの夕食は早めで、カーティスは部屋に戻るとすぐに自分の鞄とエディスの鞄を手にして

「ついて来い」

と、どこに行くとも言わず部屋を出た。

「鞄、お持ちします」

と伸ばした手は、いつものように無視された。


 着いた先は王城の図書室だった。学校の図書館の比ではない、貴重かつ滅多に触れることもできない資料がつまっており、侍女の身では頼まれた本の受け渡しはできても、許可なく借りることなどできないものだ。

「こ、ここ、…あの、」

「俺がいる間、好きにしてろ」

 そう言ってカーティスが広げたのは、例の歴史の講義のレポートだった。見たところ半分はできていて、少し調べ物をするのか、数冊の本を手にして席に着いた。


 今まで目の前で宿題をしているのを見たことがなかった。学校には学友と交流を持つためのサロンはあるが、王族だからといって特別な学習室があるわけでもない。いつもどこでこなしているのだろう。自分が仕事を終え、退室した後か、今日のように城の図書室を使っているのか。

 せっかく調べ物をするための環境を与えてもらったのだ。エディスは数冊の本を持ってくるとカーティスの隣に座り、時々王城の職員が出入りするのも気にすることなく、期限の近いレポートを一から完成させるべく、ペンを走らせた。


 気が付けば、こりもせずまた居眠りをしていた。

 完成させたはずのレポート。夢でなければここに、まさかまた…

 昼間学校で盗まれたことを思い出し、飛び起きると、ちゃんと手元に完成したレポートがあった。

 肩がひゅっと寒くなり、見ると自分にかけられていた上着が落ちていた。

 カーティスのものだ。侍女でありながら主人をほったらかして居眠りをし、あろうことか主人の上着を借りるとは。

 隣を見ると、カーティスもまた腕を組んだまま椅子にもたれて眠っていた。

 こちらもレポートは完成したようだ。

 友達と一緒に宿題を仕上げる。ささやかなあこがれが達成されて、あれほど募っていたレポート盗難犯への憎悪がさらさらと溶けていくような気がした。


 自分とカーティスが持ち出した本を棚に戻し、それでもまだ眠っているカーティスを起こすのを少し可哀想だと思いながらも、

「殿下、起きてください。殿下」

と声をかけ、軽く肩に触れると、機械仕掛けのように両目がぱっと見開かれ、驚いたようにエディスを見つめていたが、急にふんわりと優し気な笑みを浮かべた。

「…? 殿下?」

 再度エディスに呼ばれて我に返ると、急に笑みを消し、

「…できたか?」

と問いかけてきた。レポートのことを聞いているのだろう。

「はい、おかげさまで。ありがとうございます」

と答えると、大きな手でさわりと頭を軽くなでられた。

「よくやったな。…明日は休みでいい。ちゃんと寝ろよ」

 明日休んでいいなら、明日レポートを仕上げたのに。そう思いつつも、こんな一等地で、一流の資料を使ってレポートを仕上げられたことには感謝しかなかった。


 図書室を出て、部屋までついて行こうとしたが、

「城の図書室くらい何度も一人で来ている。大丈夫だ」

 そう言って、送らせてはもらえなかった。



 レポートを提出し、無事合格点をもらい、エディスのにわか学校生活は終わった。



 学校での王子たちの様子については、

「学校でも皆さん楽しそうにしていました」

とだけ伝えると、リディア妃はにこやかに

「そう、良かったわ」

と言い、それ以上の報告を求められることはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ