到着、冒険者ギルド
何だか進みが遅い気がしてきました。。もう少し文量多くしても良いかもしれない。。?
「やっと着いた…」
ギルドらしき建物に着いた頃には、既に日は暮れかかっていた。ケーキ屋を出た後もミオは勝手に色んな店に入ろうとするし、その癖すぐに飽きて出ようとする。途中で置いていこうかとも思ったのだが、その話をすると何だか寂しそうな顔をするので結局一緒に店を回るしか無かった。
周りから見たらデートにでも見えたのか、何店かはサービスまでしてくれた。子守りの間違いじゃないのか。前世でもし死なずにそれなりの歳で結婚出来ていたら、今頃はこれ位の子供だって居たかも知れない…少し歳は盛ったけど、子供が居たらこんな感じなのかな…とは思った。
それはそれとしてしかし、何故初対面の少女にこうも振り回されなければならないのか…めちゃくちゃ疲れたよ、身体と心。まだ本来の目的も達成してないのに。
当の本人はというと、
「…………」
…凄く眠そうな顔をしてギルドを見上げている。大丈夫なのか?今からこの中を案内して貰う約束なんだけど…
「あの、ミオ?」
「……………ん」
「案内、宜しくね」
「………………」
黙り込んでしまった。本当に大丈夫か、返事をしてくれないと不安になる。
「……………これ」
「え?」
ポン、と俺の手の平にニワトリが渡される。おい、まさか、嘘でしょ。
「……………疲れた」
そう言うとミオはギルドとは反対側の方へと歩き出した。
「ミオ!?案内してくれるんじゃなかったの!?」
「……………また今度」
ミオはそのまま道を渡り、ギルドの真正面の大きな建物に入っていった。建物には『宿屋コトニ』と書かれている。ミオはあそこに泊まっているのだろう。ええ、マジか…見渡す限りではこの辺りで一番豪華な建物だぞ。扉の前には用心棒らしき冒険者が立っているし、入口から入ってすぐの床は絨毯だし、何より窓ガラス越しに見える中の柱が大理石っぽい。ミオはもしかしなくても金持ちか…
しかしケーキ屋に入った時点で薄々感じていたが、西の街って発展し過ぎていないか。シレン村と余りに違いすぎる。この辺りの道は石畳だし、街灯も有って日が暮れかけているのに通り行く人々の顔がはっきりと見えるくらいに明るい。前世の世界も技術はそこそこ進んでいたのだが、それに負けないくらい発展している気がする…クロエ達、こんな所に住んでいたのによくシレン村に戻ってきてくれたな。
そしてどうしよう。まさかここで一人残されるとは思わなかった。いや、元々一人で来るつもりだったから良いんだけど…もう勢いで入っちゃうか、どうせ死ぬんだし、今緊張してても仕方が無い。
「お邪魔します」
俺は看板に鷹のようなシンボルの付いた建物の開け放たれている両開きの扉を潜り、ギルドの中へと入る。
ここまで長かった。ギルドの冒険者になり、地の底に行き、海を渡り、世界を旅し、この世の絶対強者を探し当て、そしてその果てに死ぬ。その一歩を今、踏み出した。
地獄へと落ちる為に。
この身を無へと帰す為に。
二度と絶望で苦しまぬ為に。
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ギルドに入った途端、熱気と活気が雪崩込んでくる…と思っていたのだが、予想に反して中は静かだった。活気はあるのだが、男達が肩を組んで酒を飲み交わしたりどんちゃん騒ぎしたり殴り合いの喧嘩をしたり等、そういう様子は全く見られなかった。
扉から正面には道が開けており、真っ直ぐとカウンターへ向かっている。その脇には幾つものテーブルと椅子が並んでおり、そこでいくつかの冒険者のグループが座っていた。皆、賑やかに談笑している。右、左の壁際にもカウンターがあり、ギルドの従業員らしき人と冒険者がカウンター越しにやり取りをしていた。
何だかフードコートみたいだな…
思ってたのと違う…
食事処と間違えたか?と思ったが、正面のカウンターには『エルトリア冒険者ギルド受付』と書かれた、白い四角柱のオブジェが置いてあった。取り敢えず、ギルドで間違いないようだ。エルトリアって何だっけ…あ、この街の名前だ。
俺は正面のカウンターに向かった。受付には如何にも受付嬢って感じの女性が、にこやかにこちらを見て待っている。
「こんばんは、エルトリア冒険者ギルドへようこそ!」
「今晩は…あの、冒険者になりたいのですが」
俺は早速本題を切り出した。ポーチからローナさんの紹介状を取り出し、受付嬢さんに渡す。一度お金の底に埋まってしまったせいで随分クシャクシャになってしまったが、紹介状として扱ってくれるだろうか。
「あら、これは………ちょっと待っててくださいね!」
「あ、はい」
受付嬢さんは紹介状を受け取ると、背後にある扉を開けて入っていった。受け取ってはくれたな…問題は冒険者になれるかどうかだけど。
そしてポーチが空になったので、代わりにニワトリを突っ込んだ。丁度良く入るサイズで良かった。
「お待たせしました!」
暫く待つと、再び扉が開いて受付嬢さんが出てきた…後ろに大男を連れて。またかよ、今日は大男ばっかりだ。
「あ?まだ少年じゃねえか…ローナの奴、まーた見込みがあるだとか言って若者を唆したな…」
白い髪に白い髭、しかし袖の下から覗く筋肉は伊達では無さそうだ。額に傷があり、左目に眼帯を付けている。如何にも歴戦の冒険者って感じの人だ。声は低く、若干しわがれている。
「ったく、ローナもローナだが最近の若いもんは命を大切にしなくていけねえな…」
「あの、此方の方は…」
「この人はこのギルドの副支部長です」
「副支部長のモルガンだ。宜しくな、少年」
そう言ってモルガンさんは微笑み、大きな右手を差し出した。顔は厳ついが、意外と優しそうな人だ。
「ノエルです。こちらこそ宜しくお願いします」
俺も右手を出し、握手をする。握力強っ…腕でかっ…宜しくとは言ったものの、副支部長なんて如何にも偉そうな人が出てくるなんて一体どういう事なんだろうか。
「少年、紹介状を持ってきたんだってな」
「はい、先程受付さんにお渡ししましたが…」
「ああ、更に俺が受け取った。ローナから貰ったんだろう?何処で知り合った?」
モルガンさんはあの二人とは知り合いのようだ。当たり前か…森で会った時、ローナさん達はこのギルド直々の依頼だと言っていた。副支部長みたいな偉い人と面識があってもおかしくない。
「この街に来る途中の森で会いました」
「そうか…ふむ、今の所は順調そうだな」
「龍なんて居なければ良いですけどね…もし本当だったら…」
「その為に金級のローナ達を派遣したんだろ。何かあっても大丈夫なようにな」
やはりこの人達が依頼したようだ。どうもローナさん達は余程信頼されているらしい。
「…で、だ。話を戻そう。少年、望み通り冒険者にしてやる」
「本当ですか!良かっ───」
「ただし」
そう言ってモルガンさんは俺の言葉を遮った。続く言葉は大体予想がついている。
「ただし、君には試験を受けてもらう。その試験に合格してみろ、それが条件だ」
やはりそうか、聞いていた通りだ。
「もし、合格出来なかったら…?」
「試験に合格出来なければ、その時は残念だが冒険者になる事は諦めろ」
紹介状、無意味じゃないか。試験はあるにしても、それはギルド側で冒険者の実力を管理するためだと思っていた。これ、普通に冒険者を志願した時と何か違うのだろうか。
合格出来なかったらどうしよう…まあ、その時はその時で、ギルドの力を借りずに自力で強者を見つけ出すしかない。
でも、出来れば冒険者にはなっておきたいな…
「あの、試験ってどんな内容なんですか?」
「歩きながら説明してやる。着いてこい」
そう言ってモルガンさんはカウンターを離れて左の方にある扉へと向かうので、俺もそれに続く。モルガンさんの巨体に比べて扉は小さく、潜るようにして扉の先へと抜けた。扉の先は廊下になっており、更に左右に幾つかと突き当たりに扉が見える。
「この廊下の一番奥だ。今、別の奴が試験を受けている最中だからな、扉の前で少し待つ事になる」
「分かりました」
歩幅でかっ…モルガンさんは普通に歩いているようだが、俺は少し小走りだ。
「試験の内容だがな、やる事は簡単だ」
「そうなんですか?」
「ああ、合格の基準はただ一つ。『生き残れ』」
それはどういう意味で言ってるんだろう。最後まで勝ち残れという意味での『生き残れ』なのか、それとも命の危険があるから死なずに残って見せろという意味なのか…
「何とも厳しそうな試験ですね」
「ギルドはただ冒険者に依頼を渡したり未知の場所の探索へ派遣している訳じゃない。冒険者の管理をする事がギルドの仕事だからな、その管理ってのは物資だったり、時間だったり、人命だったりする。実力ある冒険者に紹介されたからって、生半可な奴を簡単に冒険者にする訳にはいかねえのさ」
ギルドも大変だなぁ…どうやら冒険者の管理っていうのは想像以上に責任が重いようだ。にしても、逆に紹介状以外だとどうやって冒険者になるんだろうか。こんな事を聞くとめちゃくちゃ大変そうに思えるのだが…
話している内に突き当たりの扉の前に着くと、中から複数人の話し声が聞こえた。何を話しているのかは分からないけど…と、一瞬の沈黙の後、バタン!と何かが倒れるような音がした。
「おい、少年。扉から離れた方がいいぞ」
「え?…うわっ!」
勢いよく扉が開き、両脇から支えるように一人にに肩を貸した状態の三人組が飛び出してきた。支えられている男性の顔は真っ青で、しかし口元からはどす黒い血が溢れている。目も固く閉じられていて…これ、大分危険な状態じゃないのか?
「あっ、副支部長!お疲れ様です!」
挨拶してる場合か。その人、今にも死にそうだぞ。
「おう、挨拶はいいから早く連れて行きな」
「はい!」
どうやらギルドの職員だったようだ。死にかけの男性を抱えたまま、職員達は廊下の左にある扉の一つへと入っていった。
あの人達が飛び出してきた部屋には一体何があるんだ。開かれた扉から中を覗くと、木製の床に木製の壁、俺達が歩いてきた廊下と余り変わらない様子の部屋だった。
中心に大きな血溜まりがあることと、部屋中に血飛沫が飛び散っていること以外は。拷問部屋かな…
「あの、今のは…」
「試験に失格した者の末路だ。少年も頑張らないとああなるぞ」
まさか命に危険がある方だとは…いや、これは好都合かもしれない。もしかしたら俺を殺せる可能性を秘めた何かが待っているかも。
「因みに失格したとしても、死なないようにだけはしてやるから安心していい」
「本当ですか?さっきの人、黒い血を吐いてましたけど…」
「ああ、先程の奴らが入っていった部屋は治療室だ。あの部屋ではギルド精鋭の治療師達が待機しているからな、死にはしない」
治療師…そんな人達も抱えているんだ。あの状態から死なない所まで持っていく事が出来るなんて、医療技術…医療魔術か?詳細は分からないけどなんて言うか、凄いんだな。うん。
寧ろ死にたい俺には、余り関係無さそうだ。
「少年、空いたようだから入るぞ」
「え?掃除しないんですか、あの血溜まり」
「毎度の事だからな。片付けるだけ無駄だ」
「…」
ギルド怖…
ローナさん、あの紹介状って絶対に気軽に渡しちゃダメなやつだと思う。さっきの男性、死にはしないって言っていたけど生き残ったとしてもその後は大丈夫なんだろうか、後遺症とか。
「いいから入れ、俺も時間が無いんだ」
「はい…」
時間が無いのに何故副支部長がわざわざ俺の試験なんか見るんだろうか。そんな疑問を胸に、俺は血だらけの部屋へと入っていった。
取り敢えずは大人しく試験を受けよう。恐らくそうはならないが、もしかしたらここで死ねるかも知れない。苦しいのは嫌だが、我慢しよう。
どちらにせよ、この試験を受けることが俺の目標に近づく一歩となるのは間違いない。
どんな試験だろうとドンと来い、だ。
追記:一部描写を忘れていたので書き足しました。ニワトリの扱いに困ってます。。