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鑑定

「ノエル、ミオ。この後時間があればで良いんだが、能力の鑑定をしに行かないか?」


昼食後、ロルフがそんな事を言った。


「鑑定って、俺達の?」

「ああ、パーティを組むにあたってお互いの能力はある程度把握しておいた方が良いと思ってな。二人も俺達の能力を知っておけば立ち回りやすいだろ?」


それは最もな話だ。仲間の力量をある程度分かっているかどうかでお互いのフォローのしやすさも違うとか何とか…いや、やっぱり分からん。俺は銀級とは名ばかりの冒険者になってまだ一月も経ってないビギナーもいい所だ。何も分からん。


「…ん、鑑定する」

「よし、決まりだな。じゃあギルドの鑑定室を一室借りて、そこでする事にしよう」


ミオの返事で決まってしまった。だがまあ、少なくとも俺よりは経験のあるミオが了承するのだから大丈夫だろう。エルトリアでは他のパーティと一緒にダンジョンへ潜っていた程だ、俺の判断よりは信頼出来る。


「あたし、受付で借りてくるわね!」

「おう、頼んだ」


ルシアが受付へと駆けて行く。その間に俺達は空になった食器類をギルドの売店に返し、その後ルシアを追って受付へと向かうと、丁度ルシアは受付で鑑定室を借りる為の書類に記入しているところだった。


「鑑定前になんだが、二人のレベルってどれくらいなんだ?」


待っている間、ロルフと雑談をする。

レベル…幾つだったっけ。確か、前に川の底でニワトリのステータス画面を確認した時は21だったような。あれから身体が成長したような感じは特にしないのだが、成長の目安として表示されるレベルもそんなに変わっていないような気がする。


「最後に確認した時は21だったよ。ミオはどう?」

「…23」


やっぱり俺よりも高いな。指標は分からないけど、俺よりも経験を積んでいる事だけは分かる。


「そうか、流石は二人とも銀級冒険者と言った所だな」


これで流石なのか…成程、今後はこれを参考にしようか。銀級のレベルは20前後辺りが相場なのかな。


「ロルフはどれくらいなの?」

「俺は20だ。ちなみにルシアも同じだった筈だぞ。ステータスまでは覚えてないが、確かそうだ」

「ちょっと、何勝手にバラしてんのよ!」


バシッ、とルシアが丸められた紙の筒でロルフの背中を叩いた。


「お前、貸出書を丸めるなよ!」

「うるさい!さっさと行くわよ、場所は一番奥の右の部屋!」


そう言ってルシアは怒るロルフを無視してずんずんと歩きだした。仕方なく俺達も受付の横にある通路に入り、並んで歩いていく。


「…ノエルのステータス、楽しみ」

「え、何で?」

「…今後の参考にする」


あれ、今一瞬だけこちらを見るミオの目が少し変だったような…気のせいか?しかも今後の参考とは、一体何の事だろうか…




鑑定室に入るとそこは薄暗く、真ん中に黒い台が置かれているだけの殺風景な部屋だった。あの黒い台は見覚えがある。確かシレン村での鑑定でも使った、鑑定台とかいう物だ。あれに魔力を流しながら手をかざすと、ニワトリの能力で出した時と同じような青いステータスの画面が出る。


「さて、誰から鑑定するか…」


鑑定台の前に四人並び、鑑定する順番を決める。


「言い出しっぺのあんたがしなさいよ、ロルフ」

「…そうだな。よし、横並びでやっていこう。俺、ルシア、ミオ、ノエルの順だ」

「…ん」

「分かった」


ロルフは鑑定台の前に踏み出し、鑑定台に向けて手をかざした。すると鑑定台が少しだけ黒く光り、その上に青い四角を映し出した。


───────────────────

Lv.21

生命:201/201

魔素:108/109

持久力:147

筋力:302

耐久力:147

魔力:45


固有スキル: 【魔将】【剛力】

───────────────────


「どうだ見ろルシア!前に比べてレベルが上がってるぞ!」

「たったの1じゃない!そんなので自慢しないでよ、ザコ!」


レベルの欄に記されている数字は先程聞いたよりも高い…が、それよりも気になるのは他の表記だ。


「…名前と、コモンスキルが無い」

「ん?…ああ」


ミオが言った通り、このステータス画面には鑑定者の名前とコモンスキルが書かれていなかった。俺が昔、シレン村で同じように鑑定した時はその二つもきちんと表示されていたのだが…


「こいつは簡易版だからな。細かい所までは読み取れないようになっているんだ」

「…簡易版?」

「そうだ。必要最低限の情報の読み取りしか出来ず、新たなコモンスキルの取得も行えないように調整された鑑定台をそう呼ぶんだ」


鑑定台に手をかざしたまま、ロルフがそう答える。


「ちょっと前までは普通のも借りられたんだけどね…どっかのバカが鑑定室で盗み見した他の冒険者の情報を闇市で売り捌いたのよ。それがギルドにバレたせいで、ちゃんとした手続きを踏まないと普通のは借りられなくなっちゃったの…ホント迷惑な話!」

「そうなんだ…知らなかった」

「つい最近の事件だからまだあんまり話が広がってないのよ。いずれギルドの掲示板にも張り出されると思うわ」


冒険者の情報を売るとは、考えてみれば相当に悪どい事だ。ある冒険者を憎む者がその冒険者の情報を買えてしまえば、その情報を元に冒険者がどんな名前でどのようなコモンスキルを持っているかどうかまで把握出来てしまう訳だし、わざわざ金を出してまで憎い敵の情報を得た者がその後どんな行動に移るかだなんて火を見るより明らかだ。


「俺の名前とコモンスキルがここに載っていないのはそういう事だ。だが、ステータスや固有スキルで判断出来る事も多少はあるだろ?」


ロルフが話を戻す。

確かにロルフのステータス画面には、他にも気になる点がある。


「固有スキルが二つあるね」

「それは魔族の特徴だな。俺達は生まれつき固有スキルが二つあるんだ」


何だって、固有スキルは一人につき一つじゃなかったのか…まさか種族によって差があるとは。俺が複数個の固有スキルを持っているのは場合が違う。少なくとも生まれた時は一つだったし、俺の周りの人達もそうだった。魔族は違うんだ。


「それよりも俺が見て欲しいのは固有スキルの方なんだが…」


ロルフは少し困ったような顔で空いている方の手で頭をかいた。だがロルフの言う通り、固有スキルについても聞くべきだろう。


「『頑健』と…『魔将』。これって確かかなり珍しい固有スキルじゃなかった?」

「知っていたかノエル、その通りだ」


指摘すると、ロルフはニヤリと笑った。『頑健』は俺もジャックから受け継いでいるものと同じで普遍的な部類に入る固有スキルだが、『魔将』を持った子供は相当な確率でしか生まれないという話だ。


「『魔将』は俺が自慢出来る事の一つだ。俺も自分以外でこの固有スキルを持っている奴は見た事が無い」

「…すごい」


ロルフが得意気な顔をするのも分かる。『魔将』の効果も中々強力で、何でも身体能力や魔力の恒常的な強化に加えて任意で発動出来る特殊な能力もあるらしい。更にステータスも近接向きと言えるだろう…分からないけど、多分そう。


「固有スキルが幾ら凄くても戦えなきゃ意味無いでしょ!見てよ、魔力なんて45よ45!ザコじゃない!」

「俺は魔法を使わないからこれで良いんだよ!というかルシア、お前だって固有スキル頼りな戦い方してんの知ってんだぞ!」

「うるさい!そんなこと言うならあたしの成長したステータスも見せてやるわよ!どきなさい!」


ルシアがロルフを強引に押し退け、鑑定台の前に立つ。ロルフが鑑定台から手を離したために青い画面は消えたが、ルシアが手をかざした事で再びステータスが映し出された。


───────────────────

Lv.21

生命:135/135

魔素:321/322

持久力:103

筋力:45

耐久力:103

魔力:308


固有スキル:【魔女】【魔晄炉】

───────────────────


「お前も同じじゃねえか!筋力が45しか無えよ!」

「うるさいうるさいうるさい!あたしは剣持ったりしないから良いの!」

「45じゃ杖だって持てねえだろうが!」

「持ってるでしょうが!今まで一緒に居て何見てきたのよ!」


ルシアは片手を鑑定台にかざしたままもう片方の手で背中に背負っていた杖を持ち、ブンブンと振り回した。器用だな…しかしルシアも魔族だから固有スキルが二つか。そして『魔女』と『魔晄炉』…


「魔法を使うにはかなり相性の良い固有スキルだね」

「そう!ノエル、そうなの!」

「…そうなの?」


どうやらミオはこの二つは知らなかったようで首を傾げている。


「『魔女』は魔法を使う際に消費する魔素の効率が良くなったり攻撃魔法全般の威力が強まったりする固有スキルだね。コモンスキルによくある『精霊の加護』の上位互換みたいなものかな」

「…ん」

「で、『魔晄炉』は恒常的に体内で魔素を生成する事が出来るようになるスキル…簡単に言えば、この二つが合わされば強い魔法が唱え放題って訳だよ」

「…すごい」


ミオは相変わらず無表情で反応するけど凄いんだよ、本当に。風魔法限定だけど同じような事が出来る俺だから分かる。そしてミオにした説明も間違ってなかったようで、端で聞いていたルシア本人は目をキラキラさせて嬉しそうにしている。


「ノエル、あんた流石あたしと同じ魔道士ね!そこの脳まで筋肉のバカとは違うわ!」

「誰が脳筋だ、誰が!」


ロルフと対称的にルシアのステータスも魔法を使う事に長けているし、二人のバランスは本当に良いんだけどな…もしかしてこの二人、戦闘中も口喧嘩しているのだろうか。


「ったく…次だ次!ミオの番だ」

「…ん」


ルシアが鑑定台から離れ、代わりにミオが鑑定台の前に立つ。そして二人と同じように手をかざした。


───────────────────

Lv.25

生命:175/175

魔素:149/150

持久力:225

筋力:250

耐久力:200

魔力:200


固有スキル:【白猫】

───────────────────


「凄いな…全ての値が高水準だ」

「流石、獣人ね…やっぱりステータスは適う気がしないわ」

「…ん」


二人の口振りからするに、獣人は耳や尻尾だけでなくステータスが高い事が特徴らしい。そして数値を見ると確かに、二人の最高値には及ばないものの平均値は圧倒的に上だ。そして固有スキルの『白猫』…これが多分、いつもミオが使っている紫電の正体なんだろう。


「しかも『白猫』なんてスキル、初めて見たぜ」

「ミオ、これはどういうスキルなの?」

「…ノエル」


画面からミオに目を移すと、ミオは鑑定台に手をかざしたままこちらを期待した目で見ている。


「…スキル、説明して」

「え、俺が?」

「…ん」


成程な…ロルフとルシアのスキルを俺が知っていた所を見て、ならばと自分のスキルも二人に説明して欲しいんだな。だが、正直言うとよく分からない…スキルの知識だけは豊富な俺も、このスキルは初めて見た。

なので、正直にそう言うことにした。、


「ごめん、分からない」

「……………………………」


バチッ!


「痛っだ!!!!!!」


腕に紫電を飛ばされた。何日か振りに食らったけど、神経まで焼けるような感じがやっぱり痛い。どこまでも痛い。痛った………


「うわ、え、ちょっとミオ、あんた…」


俺の腕から煙が出ているのを見て二人がドン引きしている。だが二人に説明している暇は無い、ミオが先だ。


「…なんでボクのだけ、知らないの」

「いや…その…弁明の余地も無いです」


そう答えると、ミオは無表情のまま尻尾で鑑定台をペシッと叩いた。不機嫌な証拠だ。ヤバい…追撃が来る前に宥めないと。


「み、ミオのスキルが余りに珍しくて分からなかったんだよ、本当だよ」

「………………」

「割と色々なスキルを知ってる自信が有ったんだけど、その上を往くスキルだなんて、ミオのスキルはきっと凄いスキルなんだろうなぁ…なんて…」

「………」

「み、ミオ?」

「…」


ミオの周りに出ていた不機嫌オーラが収まる…何とか鎮まったか。


「…ん、凄いスキル」

「やっぱりそうなんだね…『白虎』ってどんなスキルなの?」


そう聞くと、ミオは数秒間黙った後に口を開いた。


「………………知らない」


知らないのかよ。口に出したら二撃目が飛んでくるから言わないけど、ミオ本人も分からないまま使っていたのか。


「…あ」

「お?」

「…電気が出る」


それは知ってる。ていうか今使ったでしょ。


「お、おいノエル…大丈夫か?今、ミオに攻撃されたように見えたが…」


ロルフが心配そうに聞く。心做しか少し冷や汗をかいているようだ。


「あ、うん…大丈夫だよ」

「本当か?凄い音がしたが…回復ポーションでも使った方が良いんじゃないか」

「本当に大丈夫だよ、回復スキルを持ってるから、ほら」


紫電を流された腕を捲り、焼け跡一つ無い肌を見せた。既に肌は再生した後だ。傷が無いのを確認するとロルフはホッと息を吐いた。


「そうか…なあミオ、出会って間も無い俺が口を出すのも何なんだが…幾ら回復が出来るからって、パーティの仲間に攻撃したらダメだろ?」


恐る恐ると言った感じでロルフがミオに提言する。俺もそう思う。もっと言ってやれ。頑張れロルフ。


「…大丈夫。ノエルにしかしない」

「そ、そうか…それなら良いんだが」


いや、ダメでしょ…全く大丈夫じゃないしロルフ、そこは折れないで欲しい。エルトリア冒険者ギルドの副支部長と言いロルフと言い、何故か巨漢は皆ミオを恐れるんだよな…何だろう、もしかして俺が間違っているのだろうか。


「いや、ダメでしょ…」


俺と全く同じ感想を持っているルシアが居た。良かった、俺は独りじゃなかった…




取り敢えずその場が何とか治まった後、ミオは元の位置に戻った。


「よし、最後にノエルだ」

「うん」


促されて俺は鑑定台の前に立つ。それにしても鑑定台で自分のステータスを見るのは久しぶりだな…シレン村での鑑定の儀以来だ。その時は固有スキルが正常に表示されず、ニワトリの事も誰にも知られる事は無かった。今回はあの時とは状況が大分違うのだが、どうなんだろう。確かあの災厄の日から固有スキルが10個位に増えていた筈… あれ、よく考えたらこの状況はまずいんじゃないか。魔族でさえ2つが限度なのにただの人間が10個も固有スキルを持っているなんて、どう見られたものか分からない。


「おいノエル、どうした?」

「あ、いや…何でもないよ」


ここまで来て俺だけ鑑定を拒否だなんて出来ないよな…三人は固有スキルどころか自分のステータスまで見せてくれた訳だし。いいやもう、もしそのまま表示されてしまったらその時はその時だ。何とでもなれ。

そう思いながら鑑定台に手をかざした。


───────────────────

Lv.23

生命:90/90

魔素:254/255

持久力:48

筋力:45

耐久力:66

魔力:510


固有スキル:【不明】

───────────────────


『不明』、前回もそう表示された。結果としては取り敢えず一番無難だろう、よし…


「これはまた凄いな…他のステータスは兎も角、魔力が500超えだとよ、ルシア」

「うっ…悔しいけど、初めて同年代に魔力の数値で負けた…」


ステータスに目を向けると確かに、魔力の数値が飛び抜けている。前回ニワトリで見た時よりも100以上増えているのだが、それに比べて他のステータスは大分ひどい。筋力なんか2しか増えていない…2って何だよ、杖が持てないぞ。


「…ノエル、『不明』って何?」

「そうだ、俺もそこは気になった。これって確か、固有スキルがまだ成長途中の時に出る表示だよな」


ロルフの言う通り、スキルが未だ形成されている途中の段階で鑑定を行った時にこう表示されると鑑定士が言っていた。だが、ニワトリで確認出来る通り俺は固有スキルをしっかりと持っているし、俺の意思に関わらずその効果の恩恵を受けている。流石に形成途中という事では無いだろう。


「俺もよく分からないんだよね…固有スキル自体は既に使えるんだけど、いつもこう出るんだ」

「そうなのか、謎だな…ちなみにどんなスキルか聞いても良いか?」

「鑑定だよ。対象は自分限定だけど、新しくコモンスキルも取得出来るんだ」

「えっ鑑定!?良いなぁ…」


ルシアが鑑定スキルに食いつく。


「コモンスキルって普通は鑑定士がいないと取れないから、自分で取れる鑑定スキルって羨ましいのよね…」

「お前は鑑定士が居てもロクなスキル取れないだろ」

「はぁ!?取れるわよ!何を根拠にそんなこと言ってんの!」

「魔族だからな」


どうやら魔族は固有スキルを複数持てる代わりに、コモンスキルは取りづらいようだ。


ともあれ、『不明』の表示から話題が逸れて良かった。そしてひとまず四人の鑑定は終わった訳だが、これでお互いの基礎的な能力は把握出来た。ダンジョン攻略も少しは円滑に進むだろう。




「じゃあノエル、ミオ。明日からよろしく頼む」

「お願いね!」

「…ん」

「こちらこそ」


その日は取り敢えず、お互いに分かれてダンジョンに向けて各自準備を進め、明日の朝に改めてギルド前に集合という話になった。


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