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転生したけどやっぱり死にたい…  作者: rab
旅の始まり
21/59

帰還

ようやく一区切り着きそうです。

「シャワー室はあちらですよ?」

「はい…………」

「…ん」




ギルドに入った途端、有無を言わさずにシャワー室へと案内された。俺は全身血塗れで真っ赤、ミオは真っ赤とまではいかないものの血が斑に付着していたので、シャワーで洗い流してこいという無言の要望は至極当然のものだった。ギルドに着くまでの間も、すれ違う人すれ違う人から異様な物を見る目で見られていたので、受付嬢さんの判断は真っ当だと思う。でも受付嬢さんの「こいつ、またかよ」みたいな目はとても辛かった。口元だけは愛想で笑っていただけに、その目はとんでもなく心に効いた。


俺とミオは並んでシャワー室への道を歩く。シャワー室のある区画には個室が幾つか用意されているので、複数人が同時にシャワーを使うことが出来るので安心だ。


「シャワー室の使い方分かる?」

「…ん」


本当かな…まあ仮にも一人で冒険者やっていたくらいだ。俺が少し心配性なだけで、ミオも一般常識は持っているだろう。


「じゃ、俺はこっちのシャワー室使うからね」

「…ん」


そう言って俺は一つのシャワー室に入る。扉を閉めようとすると、既に区画の廊下にはミオは居なかった。何処かのシャワー室に入ったのだろう、やはり俺が心配しすぎていただけだったようだ。


ホッと息を吐き、血塗れの服とリュック、ポーチを外す。これどうしようかな…今は水で洗うしかないんだけど、やっぱりメリッサさんの店で一度正しい洗い方とか聞いた方が良いよな。そんな事を考えながら下着まで全て脱ぎ、床へと降ろしていく。


そして全裸になっていざシャワーを浴びようと振り向くと、目の前にはミオがいた…何で?


「…?」


何故ミオが不思議そうな顔をしているんだろう。疑問に思ってるのはこっちだ。


「あの、ミオ。何でここにいるの?」

「…シャワーを浴びるから」


それは分かってる。ミオの後ろにシャワーがあるんだから。


「そうじゃなくて、普通は他の個室に行かない?」

「…そうなの?」


ミオは心做しか悲しそうな顔をする。無表情なんだけど、そう見えた。少しだけ血に濡れている白い尻尾も少し位置が下がっている。


「…でも、ノエルと一緒がいい」

「それはまた何で…」

「…友達だから」

「………」


うーん、それはずるい。ミオは尻尾を胸の前に抱き寄せて少し目を伏せている。並の男ならこれで落とせるんじゃないか…友達だから俺には効かない。平静だ。


だが、ミオは肝心な事を忘れている。


「ミオ、シャワーを浴びるなら服を脱がなきゃいけないんだよ?」

「…ん、分かってる」


本当か?俺の認識が間違ってなかったら、ミオは女の子の筈…いや、ボクって言ってるしもしかしたら男の娘なのか…そうか、その説があったな。男の俺が全裸だと言うのに動揺する様子も無いし、本当にそうなのかも知れない。不幸にも目に映してしまったリタさんなんか、泣き叫びながら殴ってきた程だし。それに比べるとミオは全く動じてない。




…なら問題無いか。男同士だもんな、何も間違っていない筈。よし。


「分かったよ、一緒にシャワー浴びよっか」

「…ん」

「じゃあ先にシャワー出しておくから、ミオは後ろで脱いじゃってよ」

「…ん」


そう答えるとミオと俺は場所を入れ替わり、俺は捻りを捻ってシャワーの水が出るかどうか確認する。間も無くシャワーの頭から分散して冷たい水が出る。こっちも問題無さそうだな…


後ろからゴソゴソと服を脱ぐ音が聞こえる。ミオの衣服だと脱ぐのに結構時間掛かりそうだし、先に軽く身体を流しておこうかな。


俺は頭から水を被り、こびり付いた血を溶かして洗い流していく。前回は獣の体液のミックスブレンドだったが、今回は純粋な俺の血だ。割と簡単に流れていく。あっという間に髪の毛は綺麗になり、全身に引っ付いていた血も洗い流された。そしてそのまま水流の心地良さを味わっていると、ポンポンと叩かれた。


尻を。


何故?


「…ノエル、脱いだ…シャワー、早く」

「あ、うん。俺はもう流しきっちゃったから自由に使って良いよ。それより何でお───!?」


振り向くと、ミオが一糸まとわぬ姿で待機していた。何故尻を叩いたのか聞きたかったのに、それを上回る情報が目に飛び込んできた。




「やっぱり女の子じゃん…………」


服を着ていると分からなかったが、ミオには小さくとも俺に無いものがあったし、俺にあるものが無かった。つまり、見たまんまだった。誰だ男の娘とかほざいたの…


「…?」

「ミオ、恥ずかしくないの…?」

「…ん、何が」


何故キョトンとしているんだこの自由少女。羞恥心が無いのだろうか。少なくともこの世界での年齢は俺とミオでそう違わないように思うんだけど…いや、もしかして見た目に反して年齢が低いとかで精神的にはあまり成長していないのかも知れない。それはそれでどうなんだ。


「ミオ、今って何歳?」

「…十五」


同い年かよ。あ、ダメだ、気の所為か?誰かが何処からか俺を睨んでいる気がする。ヤバい、何か分からないけど悪寒が凄い。すぐにでもミオを追い出そう。そうしないと何かが手遅れになる気がする。


「ミ、ミオ!今すぐに出て───」

「…え………」


出てくれ、と言いかけたところで、ミオは凄く悲しそうな声を出した。ぐ…そんな目で見ないで欲しい。俺はただお互いに気まずい関係になりたくないだけなんだ…あとこの悪寒を何とかしたい。


「い、いや!じゃあ俺がここを出て他の個室に───」

「…ダメ」


バチッ!


「痛っだ!」


ミオの隣を抜けて扉へと向かおうとした所、尻に電撃が走る。ああもう、どうしろと言うんだ。悪寒が止まらない。


「…何で、出ようとするの?」

「いや、だってミオ!女の子じゃん!俺、男!」

「…だから?」


話が通じていない。ミオは男女の違いなんて全く気にしていないようだ…友情に性差無しと。嬉しいような今はそういう事は止めて欲しいような、何だか複雑な気分だ。


ああもういいや。なるべくミオを見ないようにしよう。後は服を軽く洗うだけだし、それくらいなら悪寒に耐えながらでも出来る。俺は諦めて全てを受け入れることにした。


「ミオ、身体を洗い流したら教えてね」

「…ん、ノエル、流して」

「それくらい自分で出来るでしょ………」


我侭か。こっちはミオの身体に目を向けないようにするので必死なんだぞ。


「…仲良くしてくれるって、言ったのに」

「限度があるって…」


再びミオは悲しそうな雰囲気を醸し出す。


「…友達なのに」

「…………」


友達って単語を出せば何でもやってくれると思ってるな、ミオ。幾らこっちの傷心を無自覚に和らげてくれたとは言え、俺には常識と理性が存在する。このシャワーで最後だからな。血を洗い流したらそれで終わりだ。それ以上は本当にしないからな。それ以上って何?




「ほら、そっち向いて。そう、そのまま」


流石に正面から流すのはダメだ。シャワーの勢いを調節し、後ろを向かせたミオの背中から体表の血を洗い流していく。白い肌を透明な水流が蛇行して伝う。


「…ん、気持ちいい」

「良かったね…」


ミオは身体をリラックスさせて気持ち良さそうに水流を感じているが、その背中を流している俺はより一層酷くなった悪寒に背筋を凍えさせられていた。何だ?俺が何をしたと言うんだ。ただ友達の無垢な少女とお互い全裸で水浴びをしているだけ…字面からしてまずいか。まずいな。


それにしてもミオの肌は綺麗だな…白くて染みひとつ無い。何処かで似たような光景を見た気がするが、あれは何時の事だったか…


「あっ寒い!」


考えを巡らせていたら更に悪寒が増した。誰だ、何が気に食わないんだ。なるべく早く終わらせるから勘弁してくれ。


「…ノエル、前も」

「それは本当に無理!!!!」


こちらを向こうとするミオを制止し、何とか自分で流すように説得する。このままミオの言いなりになっているとこの謎の悪寒が魂まで届きそうだ。




この後、不満そうな態度を取るミオを宥めながらも何とか衣類を綺麗に洗ったのだった。




────────────────────────




「はい、こちら確かに受け取りました!こちらは本日が期限の依頼ですね…ギルド内で確認の後、本日中に正式に依頼達成となりますので暫くお待ちください!」




依頼書と壊血草を受付嬢さんに提出し、確認待ちの間はフードコートの窓際の一席で一息つくことにした。何とか依頼の期限内に提出する事が出来たので、これでようやく正式な冒険者として登録される。


「…疲れた」

「うん…」


テーブルを挟んで対面に座るミオは、少し眠そうな顔だ。先程から度々、軽く欠伸を繰り返している。シャワーを浴びてこびり付いていた血も溶かし綺麗になったからか、白に銀が混じった猫っ毛の髪は本来の柔らかさを取り戻していた。血塗れだった衣類と装備一式は、シャワー室をそのまま借りて俺の服とまとめてその場で干している。


ミオの服はシャワーを浴びる前と同じデザインの服を着ているが、胸のプレートと替えの篭手は外している。今日はもう休む気分なんだろう。因みに俺は替えの服を買い足していなかったので当然の如く全裸コートだった。とてもつらい。




ギルド内は賑やかだ。俺達の周りのテーブルは何処も依頼帰りの冒険者達で埋まっている。皆、今回の依頼はどうだっただの、金が有る無いだの様々な話題で花を咲かせている。カウンターで買ってきたであろう酒や料理をツマミに楽しそうだ。喧騒と言ってもいいかもしれない。それとなく古代洞窟で出会った剣士さん達のパーティを探してみたが、どうやらここには居ないようだ。彼らは脱出出来たのだろうか。


「無事だと良いな…」


受付嬢さんに怪我をしたパーティがギルドを訪れていないかどうか確認したのだが、傷を負って帰還する冒険者は数多く、更に時間によっては受付を担当する職員も違うらしく簡単に特定は出来ないと言われた。パーティ名を教えてくれれば職員の間で確認が出来るとも言われたのだが、如何せんパーティ名どころか剣士さんの名前すら聞いていなかったので、そこで諦めた。




窓からギルドの外を覗くと既に日は落ちていて空は真っ暗だ。しかしエルトリアの街は街頭のお陰で夜でも昼のように明るく、人通りもまだ少なくない。


「おう、少年。ここにいたか」


ボーッと外を眺めていると、不意に上から声がかかった。声の主を見上げると、立派な白い髭を蓄えた巨漢がそこにいた。


「モルガンさん!」


副支部長のモルガンさんは人の良さそうな笑顔を浮かべ、テーブルの前で腕を組んで立っていた。


「…モルガン」

「っと、自由少女もいるじゃねえか…お前らやはり知り合いだったのか」


ミオの事を自由少女と呼んでいたのは俺だけじゃ無かったようだ。


「…友達」

「友達…?ってまさか、こいつの約束を放ってったのは少年、お前か!」


あっ…まずい、バレた。


「…そう、ノエル、ひどい」

「少年…気を付けてくれよな、この自由少女を野放しにしていたら危険だぞ?俺ですらこのザマだ、放っておいたら一般人に被害が出かねないんだからな」


そう言って包帯を巻いた腕を擦る。ミオの保護者が俺であるかのように言われても困る…それはギルドが管理すべきなんじゃないか。とは言え、ミオの電撃は本当に痛いからな…古代洞窟で散々な目に遭ったから、その痛みは文字通り痛い程分かる。一応俺にも非がある…のか?


「すみません…」

「まあ、所構わずにビリビリする自由少女も自由少女だからな」


モルガンさんが目を向けるとミオはサッと目を逸らした。その様子を見てモルガンさんは額を抑えてため息を吐く。そして何かを思い出したようにこちらへ顔を向けた。


「っとそうだ、そんな話をしに来たんじゃない。少年達、ちょいと時間貰っても良いか?」

「はい、大丈夫ですけど…何か用事ですか?」

「用事って程でもねえが、少し話を聞きたくてな。自由少女も居るなら丁度良い…少年、隣に失礼するぞ」


そう言うとモルガンさんは俺の隣へドカッと座った。副支部長がわざわざ出向く程の話とは、一体何の事だろうか。


「さて、大した話じゃ無いんだが…」


テーブルの上で手を組むと、モルガンさんは早速話始めた。


「少年と自由少女が一緒に帰ってきたと聞いてな。色々気になったんだ」

「気になった?」

「ああ、まず少年についてだが───っておい、自由少女!寝るな!まだ話し始めたばっかりだろうが!」

「………ん…」


ミオは完全に船を漕いでいた。先程から眠そうではあったが、モルガンさんが話し始めた途端に意識を保てなくなったようだ。


「………寝て…ない……ぐぅ…」

「寝てんじゃねえか!」

「………ん…寝て…寝てな………………おやすみ…」


最後にそう呟くとミオは力尽き、テーブルに突っ伏して寝息を立て始めてしまった。しかもミオの身体の周囲には小さく紫電が発生し始めている。ああ…こうなるともう駄目だ。無理に起こそうとすれば、紫電で攻撃される。


「お休み…じゃねえよ、おい!ああ、くそっ…またバチバチしてやがる!本当に自由だなこの少女は…」


どうやら紫電が少しトラウマになっているようで、モルガンさんはミオを無理に起こそうとはしなかった。心做しか少し身体を後ろに引いている。


必要になれば俺がミオを起こそうか…あの電撃に耐えながらミオを起こすなんて飛んでもなく痛い思いをするだろうが、最終的に怪我を負わない俺が率先してやるしか無いだろう。でもやっぱり嫌だな…痛いものは痛い。


「仕方無えな…取り敢えず二人だけで話そう。話を戻すが、まずは少年についての話だ」

「はい」

「少年、試験の合格おめでとう。少年は明日から正式にギルド所属の冒険者だ」


モルガンさんは笑顔でそう言った。


「えっと…もう確認は終わったんですか?」


依頼書に記載されている採取物と実物の比較と確認が終われば、ギルドの職員が呼びに来てくれると言っていたのだが…モルガンさんがそうなのだろうか。


「ああ、依頼通り壊血草10本。完璧な納品だったぞ。状態も良かったからな、今は早速試験用の団子に加工してる所だ」

「そうでしたか…それは何よりです」

「おう、丁度在庫が無くなった所だったからな。助かったぞ」


やはりあの猛毒団子のための壊血草だったのか…しかし壊血草の話で思い出した。


「モルガンさん、壊血草が古代洞窟の外に生えているならそう言ってくださいよ…てっきり内部に生えているものだと思って最奥まで探索したんですよ」

「ん?ああ、依頼書の話か?書き方が雑だってクレームが最近多いんだよな…こりゃ一度、依頼書の見直しが───」


不意にモルガンさんが言い留まる。




「…少年、最奥まで行ったのか?」


先程より真剣な目で俺の顔を覗き込んだ。近い。髭が当たる。チクチクする…


「い、行きましたよ、そこで寝てるミオと一緒に…」

「そうか…最奥まで辿り着いたという証拠はあるか?」


証拠…何かあったかな。そうだ、ミオが最奥から持ち帰ったあの青い立方体とかは証拠足り得るかも知れない。


「『青晶の証』だとか言う箱をミオが持っている筈なんですけど…証拠になりますか?」

「『青晶の証』か…それは確かに古代洞窟の最奥で入手出来る魔道具だな。だが出来れば今すぐこの場で見られる物が良い…他にはあるか?」


他…?


「え、ならミオを起こせば───」

「いや、無理に起こすと可哀想だ。他にはあるか?」


他って何だよ。何だかモルガンさんはミオを起こしたく無いように見えるが、『青晶の証』が証拠になるならミオを起こした方が早い筈だ…そう思った俺は椅子から腰を浮かし、ミオの肩に手を伸ばす。だがその瞬間、紫電がバチッと指の先を焦がした。


「うわっ、痛い!」

「おい少年!やめろ!刺激するんじゃない!俺の方にも飛んでくるだろうが!」


振り返るとモルガンさんは椅子から飛び退いていた。何してるの副支部長?


「ミオが持ってるんですから、起こしたら早いですって!」

「んな事言ったって近づくだけでバチバチ言ってんだぞ、危ないだろうが!見ろ、今ので少年の指が焦げてるじゃねえか!おい、治療班呼べ!」

「これくらいなら自分のスキルで治りますから大丈夫です!落ち着いてください!」


どれだけ電撃がトラウマになっているんだこの人。その巨体と筋肉は伊達か…?


「少年は平気かもしれんが俺は電撃が苦手なんだよ!」

「分かりました!ミオは刺激しませんから一度座り直しましょう!周りに見られてますよ!」

「っ!…あ、ああ」


副支部長が騒いでいるからか、周りのテーブル席に座っている冒険者の目が少し集まっている。指摘されて気が付いたのか、モルガンさんは周りを見渡すと気まずそうな顔をした。どうやら冷静になったようだ。


「…騒いで済まなかったな」

「いえ…こちらも軽率な行動でしたから。隣、どうぞ」

「ああ…いや…うん…」


着席を促すが、モルガンさんは中々座ろうとしない。


「どうしたんですか?」

「…少年、出来ればそこの自由少女を抑えておいてくれ」


ミオの隣の席を指さしてそう言った。え、何?まさかミオの電撃の避雷針になれと…?


「…」


疑問が顔に出ていたのか、モルガンさんは深く頷いた。マジかよ副支部長…


※追記:他の話と呼称が統一されていない箇所があったので修正しました。


※更に追記:描写が足りない箇所があったのでそこも修正しました。

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