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転生したけどやっぱり死にたい…  作者: rab
旅の始まり
20/59

古代洞窟、脱出

この話で20話目で約10万文字らしいです。何かすごい。。

目が覚めると、辺り一面が血の海だった。まるで人を一人絞ったようなおびただしい程の量の血だ。何だこれ…血の海は俺を中心に広がっている。どうやら絞られたのは俺のようだった。ええ…これ全部俺の血?凄いな。人体の80%は水分だなんて聞いた事あるけど、これを見ると納得だ。あれ?じゃあ今の俺は何が何%位で出来て…




「…………生きてる…?」


と、隣から声が掛けられる。声の主の方を見ると、深紅の瞳が俺を捉えていた。ミオが膝立ちで俺の隣にいた。


そう言えばそうだった、勝ったと思って浮かれていたら倒れてきた巨体に潰されて圧死したんだった。普通に恥ずかしい。本当に何で生きてるんだろう。


「一応、生きてる…のかな」

「…本当…?頭も、無事?」


後頭部や頭頂部を触ってみるも、特に傷や痛みは無い。


「少なくとも外側は無事だよ。中身は分からないけど…どうして頭?」

「…だって、赤とピンクのドロドロが出てた…」


うわ…脳漿じゃないかそれ。少なくとも意識を失っていた間は脳ごと頭蓋骨を潰されていたようだ。周りの血溜まりに沈んで散らばっている機械の残骸を見るに、ホワイトゴーレムは俺の身体を潰した後に爆発したのだろう。


「…手も足もぐちゃぐちゃだった」

「…………」


本当によく生きてるな…そんな気はしていたが、この身体は細切れになっても再生する。


「うーん、死ねるなら死んだ方が良かったかも…」

「…っ」


小声でそう呟くと、聞こえてしまったのかミオは猫耳の毛を逆立てた。無表情なのだが、心做しか目が少し潤んでいる気がする。


「…なんで」

「え?」


ミオは少し震えている。あ、これは間違えたか。


「…なんで、そんなこと言うの…」


そう言うとミオの目尻から水滴が零れ落ちた。うわ、しまった。間違いどころじゃ無かった。まさか泣いてしまうとは。


「ご、ごめん!ミオ!嘘嘘!生きてて良かった!この世サイコー!」

「…ぐすっ…」


ああ、ダメだ。本格的に泣き始めてしまった。ミオは本気で心配してくれていたのだ。俺が抱えている事情や感情なんか関係無い。余りにも無遠慮な物言いだった。


「み、ミオ!ほら、元気!元気だから電流流しても良いよ!」

「…やだぁ…けほっ…ぐすん…」


手を差し出したが篭手でパシンと払われてしまった。逆効果だ、全然泣き止んでくれない。どうしよう…もう打つ手が無い、元から殆ど無いけど…あ、そうだ。


上着の下に閉まっていたポーチから白いぬいぐるみを取り出す。


「ほら、ニワトリ!…あっやば」


潰された時に全身から吹き出したためか、手にもべっとりと赤い血が付着していた。その手で掴んだものだからニワトリも赤く染まってしまった…うーん、エグい。真っ赤な表面につぶらな黒い瞳が浮かんでいる。


やはりニワトリは止めておこうと血塗れのニワトリをポーチへ仕舞おうとした時、手元からニワトリがひったくられる。


「………ん」

「あ、良かった、泣き止ん───」


ちーん、とニワトリの残った白い背面で鼻をかんだ。そいつ一応、意思があるんだぞ。後で呪われても知らないからな。気の所為か既に俺の方を睨んでいる気がする…毎度毎度、何故矛先が俺に向くんだ。


「…ん」


ニワトリが返される。うわぁ、更にベトベトになった…後で洗ってやるから呪うのは勘弁して欲しい。そう祈りながら俺はニワトリをポーチへとしまい直した。そして何とか泣き止んだミオに上半身を向ける。


「…もう、あんな事言わないで」

「はい…言いません…」

「…ん」


そう言うとようやくミオは落ち着いたようだった。猫耳は立ってこちらに向けられ、白い尻尾も地面を叩いている。そしてミオは此方へと距離を詰め、抱き締めてきた。


「あの、ミオ?」

「…生きてて、よかった…」

「あ…」




『生きてて良かった』だなんて、初めて言われた。


シレン村が滅んでからというもの、ずっと死ぬことを考えてきた。村が滅んだ原因は自分にあるのだと、大切な幼馴染や家族が不幸な目にあったのは自分のせいだと思っていた。この先はもう絶望しか無い、俺は死ぬべきで、死にたい…その気持ちは今でも変わらない…が、その言葉は何故か、心にスっと馴染むような心地がする。


俺もミオを抱き締め返す。すると、腕の中には温かく柔らかなものを感じた。何日も前に感じたあの冷たい感覚とは違う。あの時に失ったものは、命はもう戻らない。しかし、今この腕の中にあるものは、確かな温かさを俺に伝えてくれている。


これが友達か…全てを失ったと思っていた俺が、新たに手に入れる事が出来た…


俺は生きていても良いのだろうか。いずれまた災いを呼び寄せ、折角手に入れたこの友達を不幸にしてしまうのでは無いか。そう考えるととても恐ろしい…しかし今の俺ならば龍位なら返り討ちに出来てしまう。ならば、もう少しだけなら許されるかもしれない、もう少しだけなら生きて見ようかな…なんて気持ちまで生まれてくる。


最後まで綺麗な碧眼をしていた大切な幼馴染も呟いていた。『ノエル、生きて』と。




最終目標は変わらない。俺を殺すことの出来る存在を探し出し、そして命の終わりを迎えること。しかしその時が来るまではもう少しだけ、楽しんでも良いんじゃないか…もしかしたら、何処かで自分の生まれた意味も見つかるんじゃないか…


そんなことを考えながら、俺は腕の中の感触を記憶に刻むように、強く抱き締めた。




────────────────────────




あまり抱き締めない方が良かったかもしれない。


「ミオ、ごめん…」

「…?…なにが?」

「いや、その…」


ミオは可愛らしく小首を傾げているが、その外見は恐ろしいことになっている。何が恐ろしいって頭からお腹まで真っ赤な所だ、俺の血で。白かった髪は真っ赤に染まり、所々血が乾いて固まっている。顔やおヘソなんかはもう肌に直接血が付いたものだから、もう何処かの民族のように全面が真っ赤だ。


「その、抱きしめちゃったから…俺の血塗れだよ」

「…ん」


ミオは手を頬に当てた後に血の着いた手の平を見て頷いた。いや、ミオから抱き締めてきた時にその手にも血が付いてしまっているから余り意味無いけど…


「…お揃い」


ポジティブすぎる。


「ミオが気にしないなら良いけど…」

「…ん、気にしない」


俺は気になる。ギルドに帰ったらシャワーさせて貰おう…また血を流すのかと文句を言われないことを祈る。


「と、そうだ。出口を探さないと」

「…あれ、出口」


ミオが指さした先には、確かに出口らしき穴があった。ダイヤモンドゴーレム程の高さで、上部が丸い扉型にくり抜かれている。


「あんな穴、あった?」

「…爆発して、開いた」


ホワイトゴーレムが爆発した後に開いたってことか。やはりホワイトゴーレムがボスで、ボスを倒したから新たな扉が出現したということなんだろう。ダンジョンっぽい。


「よし、行こうか」

「…ん」


俺とミオは血溜まりから立ち上がる。俺は勿論の事だが、ミオも膝を血溜まりに突っ込んでいたので下半身から血が滴り落ちる。


立ち上がった時、懐から見覚えの無い玉が血溜まりに転がり落ちた。手の平サイズのそれを拾い上げると、血の隙間から淡く白い光をぼんやりと放っている。更によく見ると玉の中は薄く透き通っていて、中心には光源らしき光の球がある。綺麗だな…こんな玉、何処から出てきたんだろう。状況から考えるとホワイトゴーレムの一部だろうか?


「…ノエル、それ」

「拾ったんだけど…ミオ、これ何だか分かる?」


手の平に乗せた光玉をミオに見せる。


「…知らない」

「そっか…一体何だろうこれ」

「…でも、綺麗」


ミオはまじまじと光玉を覗き込んでいる。気に入ったのだろうか。


「いる?」

「…いらない」


いらないのかよ。

しょうがない…取り敢えずこの光玉は俺が持って帰ろうかな。ミオの言う通りかなり綺麗だし、高値で売れるかもしれない…借金も返せるかも。俺はポーチを開き、ニワトリの横に光玉を強引に突っ込んだ。少し圧縮されたニワトリが俺を睨んでいる気がする。




そこら中に散らかっているホワイトゴーレムの残骸を避けて歩き、部屋の出口へと辿り着く。出口の内部は、部屋へ転がり込んだ時の道と同じく光源が無い。しかし奥の方から光が漏れ出ていて、道はハッキリと見えた。


「…行こ」

「あ、うん」


ミオにいつの間にか掴まれた手を引かれて道を進む。光はどんどんと大きくなり、そして新しい部屋へと出た。


「ここは…?」


その部屋は先程の部屋に比べて遥かに小さいドーム状の部屋だった。部屋の中心には青色の金属で出来た三角の台座が有り、その上には淡く光る立方体が少し傾いて浮いている。立方体には複雑な模様が描かれており、その線は金色に輝いている。更に台座の奥の床には、同じく光る円形の模様が書かれていた。何だこの部屋…


「…ん、あの箱」


ミオは台座へと近づき、躊躇無く立方体に触れた。すると立方体から放たれていた光は薄くなり、金色の光が完全に消えると立方体はみるみる内に小さくなり、賽子のような大きさになった。そしてミオはその立方体をハーフパンツのポケットに入れると、そのまま床の円形の模様へと向かおうとする。


「え?ち、ちょっとミオ」

「…ん」

「あの、今の立方体って何?」

「…『蒼晶の証』」


ミオはそれだけ言うと再び円形の模様へ歩き出した。いや全然分からない。


「『蒼晶の証』って?」

「…『蒼晶の証』、これ欲しかった」

「いやその…そうなんだ…」


そう頷くしか無かった。どうやら今の『蒼晶の証』とやらがミオの目的だったようだが、それが何なのかはサッパリだ。


「…ここ、出口」

「ここ…っていうかこれ?」


ミオは円形の模様を指さし、それが出口だと言った。ただの模様にしか見えない。


「…ワープゲート」


俺の思考を読んでか、ミオは付け足した。成程…?ダンジョンにはそういう物もあるんだな、それは理解した。でも後でギルドで聞こう。

しかしミオはこれが何処に繋がっているか知っているのだろうか。先程の部屋にはミオも来た事が無いって言っていた。


「…ん、こっち」

「え?あぁ、うん…」


何が何だか全然理解が追いついていないのだが、手を引かれるがままに、円形の模様の上にミオとくっ付いて乗る。ミオが軽く足元に電流を流すと、模様が光出した。すると模様から上に伸びる円柱の外が暗くなり、一瞬だけ全身が重くなる。そして暗闇が晴れた。


「外だ…」


そこは古代洞窟の入口だった。久々に浴びる陽の光が眩しい…日は既に大分傾いており、少し赤みが掛かっている。足元を見ると円形の模様は消滅していた。どうやら一方通行のようだ。しかし、外…外か…


「やっちゃったなぁ…」


部屋の出口だと思っていたのだが、まさか古代洞窟の出口だったとは。当初の目的を果たさずに出てきてしまった。


「…ノエル、どうしたの?」

「壊血草を採りに来てたんだけど、結局見付けられないまま出てきちゃったよ…しまったなぁと思って」


もう一度古代洞窟に入って見つけられるだろうか。いや、時間が足りない…今から入って見付けられたとしても、ギルドへの納品が間に合わない。納品が間に合わなければ冒険者の試験は失格だ。


「…あっち」


どうしたものかと悩んでいると、ミオが洞窟の入口の横の方を指さした。


「あっち?あっちに何かあるの?」

「…来て」


繋いだままだった手を引かれ、洞窟を回り込むように歩く。そして入口の丁度反対側に着いた時、それは見付かった。


「…これ」


血のように真っ赤な色をした花弁を持つ花が群生していた。壊血草だ、間違いない。依頼書に似たような絵が描いてある。花弁が下を向いている点も同じだ。


「ここにあったんだ」

「…ん、ここしか生えてない」


それはどういう意味だ、まさか洞窟の中には生えてないとかそう言うオチじゃ無いだろうな。


「確かミオ、洞窟の下の方にあるって言ってなかったっけ」

「…洞窟の中、植物は生えない…だから、外」


ミオは不思議そうな顔をして言った。ああ…出口が下の方で、更にワープゲートの先が外で、更に更に壊血草は外にしか無いからそう言ったって事か。だから壊血草の場所について尋ねた時、もっと下?と答えが疑問形だった訳だ。成程。




成程じゃない。何だったんだこの冒険は。一体何のために俺は腕が串刺しにされたり腹に穴を空けられたりと大変な思いをしたんだ…いや、結果的には剣士さん達のパーティを助けられたしミオと再会も出来たから良かったが、それはそれだ。何度か死にかけたと言うか死んだ。


そもそも、この依頼書の書き方がおかしい。場所の欄には『古代洞窟』としか書いてないし、この書き方であれば普通は古代洞窟の中に生えていると思う。外に生えているなら外に生えていると書いておいて欲しい…ギルドに戻ったら抗議しようか、モルガンさんに。


「…これであってる?」

「うん…あ、ちょっと待ってね」


念の為に確認しよう。俺はミオの手を離して壊血草の前にしゃがみ、一本の壊血草の葉をちぎって口に含んだ。そして噛み砕く。




うわにっが……………………




「…ノエル、面白い顔」


余りの苦さに表情筋が勝手に真ん中に寄っていく。本物だ。前回の試験で食べさせられた猛毒団子と同じ味…いや、素材だからか団子以上の苦味を感じる。


「さ、探してた草だよ、ありがとう」

「…ん」


ミオの表情は分かりにくいが、少し満足気だ。


「はぁ…」


ため息を吐きながら壊血草を10本摘み取り、背負っていたボロボロのリュックに入れる。これで採取は完了だ。ここまで長かった…実際には街を出てから半日程しか経っていないが、気分的には数日くらい潜っていたような気さえする。


「よし、街に戻ろうか」

「…ん」


無事、目的は果たした。しかし心労からか妙な脱力感を覚えながら、街への帰路に着いたのだった。


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