古代洞窟
ようやく時間取れました。。前の話から時間が開きすぎて自分が話を忘れる始末。。
しばらく降りていくと唐突に石段は途切れて平行な地面になった。相変わらず周りは青い鉱石に囲まれている。そして足元はゴツゴツとした表面の岩で、それが更に奥へと続いている。本格的に洞窟って感じだ。
壊血草は何処だろう。一見辺りには植物らしきものは見当たらないけど…仮にもギルドの依頼になる位だ、もっと奥の方に生えているのだろう。奥に進むだけだ。
洞窟の中は静かなもので、耳を済ましても聴こえるのは俺の歩く足音だけだった。コツ、コツンと洞窟内に反響している。モルガンさん達は魔物が凶暴化していると言っていたけど、そもそもどんな魔物が居るんだろう…というか本当にいるのか?まだ入り口の方だから見かけないのかも知れないけど、周りに動く物は何も無い。
しばらく進んだ辺りで分かれ道に差し掛かった。流石にダンジョンと言われるだけあって一本道では無いようだ。どうしよう、左と右の二本だがどっちに行こうか。観察してみると、右は今までと同じような道だ。そして左の道は明らかに青い鉱石が少なく見えた。
明らかに左はハズレだな…こういう時は大体変化の無い方が正解の道だって相場が決まってるんだ。
そう確信し、右の道へと進んでいく。が…
「あっ」
少し進んだ辺りで急に足元の地面が崩壊し始めた。身体に浮遊感を感じる。しまった、落とし穴だ。道幅と同じくらいの長さをした直径の穴が空き、そこに俺は吸い込まるように落ちていく。こっちがハズレだったか…誰だ自信満々に正解の道だなんて思っていたのは。
しかしダンジョンにはこういう罠もあるんだな。冷静に分析してはいるが、その間にも落下速度はどんどん上がっていく。そして唐突に身体は停止した…というか地面に激突した。
「痛っだ!」
ゴキッ、と音がした。遅れて両足から激痛を感じる。あああ…めちゃくちゃ痛い…絶対に折れている。おまけに痛いのは足だけではなく、何故か右腕と脇腹からも鋭い痛みが走る。見ると、鋭利で長く太い針が貫通していた。痛みに耐えながら周りを見渡すと、同じような針が疎らに上を向いて地面から生えていた。そして幾つかの針の傍には人骨が散らばっている。
古代洞窟、いきなりエグい事をする。もし再生力のスキルを持っていなかったなら、俺もあの骨達の仲間入りとなっていただろう。既に足の骨折は回復していて痛みも無いが、針は刺さったままだ。これどうやって抜け出そう…と思っていたらポキン、と針が折れた。針の刺さっていた右腕と脇腹を見ると丁度折れた針が抜けていく所で、体内に針は残っていないようだ。
段々と痛みが引いていき、間も無く傷は塞がって針の刺さる前と変わらない状態まで戻った。だがしかし、針は服を貫通していた為に穴が空いている。また服か…もう本当に何も着ない方が良い気がしてきた。特に意図してなくてもこの洞窟を出る頃には全裸になっていてもおかしくない。
岩肌をよじ登って落とし穴を脱出する。幸いにも身長の三倍程の高さだったので、スキルのお陰で簡単に登ることが出来た。しかしこっちの道はハズレだったのか。もしかしたらこの先も同じく罠が仕掛けられているかも知れないし、もう片方の道を進もうかな…
引き返し、左の道を進む。右の道で丁度落とし穴に落ちた辺りまで歩いたが、特に何も起きはしなかった。こっちが当たりだ。周りをよく見ると、幾らかの青く光る鉱石は乱暴に砕かれたような形をしており、地面には多くの黒い石が転がっている。これが薄暗く見えた原因のようだ。転がる石は大小様々で、奥に進めば進むほど大きなものが増えていく。中には岩と呼べるほどの大きさのものも混じっていた。
更に進むと黒い石に混じって銀色の石が混じり始めた。拾って確認すると、明らかに周りの黒い石や岩とは違う。そして周りの石と岩の量はまるで落石でもあったかのように多い。不自然だ。いくら洞窟と言えど、こんな大量に岩が落ちているものだろうか。その考えは正しかったようで、進行方向に落ちていた銀色の岩が動き出した。
ゴゴ…
銀色の岩には幾つかの一回り小さな岩が不明な原理でくっ付いている。まるで人の腕と足のようだ。頭にあたる部分は無い。そしてその姿には心当たりがある。『ゴーレム』と呼ばれる魔物の一種だ。銀色の岩で構成されているから…シルバーゴーレムかな。見た目からしてめちゃくちゃ硬そうだ。
立ち上がったシルバーゴーレムはいきなり動き出し、ドスドスと音を立てて突っ込んできた。その見た目とは裏腹に中々機敏な動きをしている。岩の塊とは言え俺と同じくらいの身長をしているので中々圧がある。悠長に観察をしている場合じゃない。
「『風刃』!」
岩に風が効くのだろうか…とは思いつつも、右手をシルバーゴーレムに向けて魔法を放つ。結果、風の塊は洞窟内に突風と轟音を響かせながら、シルバーゴーレムを跡形もなく消してしまった。使うまで頭から抜けていたが、スキルの力によって初級魔法でも龍の身体を抉れる威力にまで高められているんだ、銀の混じったゴーレムくらいなら草も同然だった。
しかしこのダンジョンにはゴーレム系の魔物が出るんだな…この足元に散らばっている石は恐らくゴーレムの残骸だろう。先にこの道を通った冒険者がゴーレムを砕いて進んだのだ。そのお陰か、先程襲ってきたシルバーゴーレム以外には動く影は無い。取り敢えずはこの残骸の多い道を辿って行けば良さそうだな…自分の判断で進んだらまた罠に嵌りそうだ。死にはしないけど、痛いものは痛い。
それから暫くはなるべく冒険者の通った痕跡のある道を選んで洞窟内を進んだ。幾つかの分岐を通り、たまに少数のゴーレムに襲われはしたがそれ以外は大したことも無く順調だ。入口のような階段も何度か下った。今は五階層目くらいだろうか…目的の壊血草は何処にあるんだろう。今のところ、周りにあるのは光る鉱石や石ばかりで植物らしき物は一切見当たらない。
おかしいな、本当にこの場所で合ってるんだよな…依頼書を見直しても、場所は古代洞窟としか書いていない。せめて何階辺りに有るかどうかくらいは書いておいて欲しかった。そもそもこの洞窟って何階まであるんだろう。これ、日が暮れるまでに地上に戻れるのかな…
段々と不安になってきた。壊血草が手に入らなければ試験は失格だ。少し歩く速度を早め、壊血草を求めて更に奥へと進む。途中で何度もゴーレムが襲ってきたが、避けられそうなものは全部無視した。ゴーレムは基本休眠しているようで、こちらを認識してから歩き出すまでの一挙一動が長く、更にはこちらへと向かう速度もそこまで早くはない。突っ込まれる前に先へと進んでしまえばそのまま逃げきれてしまった。しかし休眠していないゴーレムも居るようで、
「うわっ!」
ゴシャッ!と音がして、目の前にいたゴーレムは壁にぶつかって砕けた。えっ…今、何が起きたんだ。別れ道の角を曲がった途端に目の前に現れたシルバーゴーレムに驚き、思わず片手を前に出してゴーレムに触れたのだがその瞬間、腕が不思議な感覚に包まれた。そして気が付くとゴーレムは吹っ飛んでいた。飛んでもない力だ。いくら急ぎ足で勢いがついていたとは言え、岩の塊のゴーレムを吹っ飛ばせるような力は無かった筈だが…
もしかすると固有スキルの『剛力EX』だろうか。心当たりがそれ位しか無い。使い方が全く分からなかったので特に検証もせずに放置していたのだが、今の感覚がそうだとしたら…先程の感覚を思い出しながら左手に力を込めて念じてみる。すると左手は再度不思議な感覚に包まれる。試しに小石を拾い上げて洞窟の奥へと投げてみると、想像だにしない速度で飛んで行き壁にぶつかって砕けた。
これは完全に固有スキルだ。思わぬ所で使えるようになったな…しかも威力が抑えられる分、何でも削り取ってしまう風魔法よりも使い勝手が良さそうだ。魔法自体と比べても傍目から見たら目立たないし、今後はこの剛力EXをメインで使っていこう。風魔法は威力があり過ぎると思っていた。初級なのに龍を屠る魔法なんて簡単に使っちゃいけない。
因みにこの後、新たに出現したシルバーゴーレムを押しのけずに拳で殴ってみた所、ゴーレムの身体と共に腕の骨が砕けた。どうやら力は増大しても腕の耐久力そのものは向上しないようだった。
砕けた骨がめちゃくちゃ痛い。殴らなきゃ良かった。何故、岩を殴ろうなどと思ったんだろう…
更に進むと周りの青かった鉱石に緑がかった色が混じり始め、そしてある程度まで進んだ所で完全に緑の鉱石しか無くなった。時折現れるゴーレムにも変化が有り、今度は銀では無く金が混じっている。ゴールデンゴーレムだ。シルバーゴーレムよりも防御力が低い代わりに、動きが素早くなっている。防御力が低いならばもしかしてと思い、剛力を発動して殴ると今度はゴーレムの身体だけが砕けた。若干皮膚が痛いものの、殴った腕の骨は砕けていない。よし。先程は痛い目にあったが、出来るならゴーレムは殴って突破したい。ここまでに出てきたシルバーゴーレムに対しては触れて押しのけ吹っ飛ばそうとしていたが、如何せん触れる時間が長くなるので何度か攻撃を食らいそうになってしまった。 というか2、3回食らった。
ゴーレムの攻撃と砕ける骨の痛み、正直どちらも辛い。ゴーレムの硬い岩の腕が腹や頭蓋骨にめり込んで中身を抉られると痛いし苦しいし辛い。だから殴っても骨が砕けないのならばなるべくゴーレムは殴る。そう決めた。
前に現れるゴーレムを拳で砕きながら進む。更に幾つかの別れ道と階段を降り、古代洞窟の奥を目指す。相変わらず壊血草は無い。何故だ。もう十階層くらいだろうか…ここまで見つからないと正直めちゃくちゃ不安なんだけど…本当にあるのかな…
「「うわああああああっ!!!」」
洞窟内の分岐が段々と増え、緑に光る鉱石に薄い赤が混じり始めた頃、不意に前の方から複数人の叫び声が聞こえた。遅れて何かがぶつかり合うような戦闘音が響く。先行していた冒険者だろうか、ここに来て初の邂逅だが…様子が少しおかしい。叫び声だけでなく、悲鳴も混じっている。周りの鉱石の色が変わっている所を見ると、更に強いゴーレムにでも襲われているのかな。
もしそうだとしたら、取り敢えず剛力EXなら殴ることは出来なくても押し退けるくらいなら出来そうだ。最悪殴ったり風魔法も使えるし…よし、出来るなら加勢しよう。そう考え、俺は声のする方へと駆けて行った。




