続・ギルド試験
色々忙しくて久々の投稿です。
受付…フードコート?フロント?まで戻ると賑わいが少し増していた。テーブル席は殆どが酒を飲む冒険者達で埋まっている。中には俺と同じ位の歳の少年少女のグループもあった。皆、笑顔で楽しそうだな…ジャック達が生きていれば、俺もあんな風に笑うことが出来たのだろうか。
「どうした少年、ボーっとして…毒でも回ってきたか?」
不意に立ち止まり、騒ぐ冒険者達を眺めている俺を不思議に思ったのかモルガンさんが話しかけてきた。街に着いてからというもの、ふとした事で直ぐに感傷的になってしまう。
「いえ…何だか来た時より騒がしくなりましたね」
「ん?ああ、夜はこれくらいが普通なんだ」
再び歩き出して受付に向かう。受付には最初に出迎えてくれた受付嬢さんが居た。
「あら、お帰りなさい!ノエルさん、無事だったんですね!」
「ええ、何とか合格を貰えました」
「この少年、難なく最初の試験を乗り越えやがった。中々期待出来るぞ」
そうは言うけど、先程の試験で分かったのは俺が毒耐性の固有スキルを持っているという事だけだ。冒険者は毒耐性だけでやっていける程甘くは無いはず…戦闘力とか…
「今の所、ただ毒に強いだけですけどね…」
「いえいえ、試験に合格出来るほどの毒耐性は強みなんですよ?冒険者の死因に多い毒による暗殺や罠で死ぬ事が無いですし、何より依頼にも幅広く適応出来る訳ですからね」
依頼に適応ってのはどういう事を指すのかな。ありそうなのは毒の充満したダンジョンの探索とかだろうか。あとは食事の毒味の依頼とか…は流石に突飛かな。
「もしノエルさんが合格すれば今週は二人も紹介状から合格者が出たことになりますね」
「ああ、紹介状を導入して以来の快挙だな」
「二人ですか?」
「少年と同じ位の歳の少女が五日前に合格したばかりなんだ。この辺りでは珍しい獣人の娘だったんだが、難なく合格していったぞ」
獣人の女の子と言えばミオだろうな…獣人なんて言葉はこの世界で初めて聞いたが、あの猫耳と尻尾を獣人と言わずして他は無いだろう。それにしても二人か…俺が聞き返したのは、まるで週に一人合格するかどうかのような口振りだったのが気になったからだ。それがギルドだと一般的なのかな。
「それももし俺が合格出来ればの話ですけどね…」
「心配する事は無いぞ。冒険者として採用するには次の試験に合格する必要はあるのだが、実質的に最初の試験が本命だからな。後は消化試合のようなものだ」
「え、そうなんですか」
ここから段々と難しい試験が課されると思っていたのだが、次で最後とは少し拍子抜けだ。
「では次の試験に移るのですね。副支部長、幾つか試験に丁度いいのがありますよ。詳細は掲示板をご覧になってください」
「そうか。おい少年、こっちだ」
モルガンさんは先程戻ってきた廊下がある方向とは反対側に俺を招く。そして少し先で立ち止まると、壁と向き合った。
「ほう、確かに…試験にピッタリのがあるじゃねえか」
モルガンさんが向かう壁には大きな掲示板があった。そして掲示板には幾つもの横長の紙が画鋲のような物で貼りつけてある…もしかしてこれが依頼か。色々書かれているが、何が何やら分からない。
「少年、決まったぞ。この三つにしよう」
依頼について考察していると、モルガンさんが掲示板から三枚の依頼を剥がし、俺に差し出す。
「この紙は依頼書と呼ばれるもので、様々な人々からギルドに託された依頼が書かれている。そしてこの大きな掲示板には、ギルドから正式に依頼として発行された依頼書が貼ってあるんだ」
全ての依頼はギルド経由で冒険者に渡されるという事か。察するに、この掲示板から依頼書を剥がして受付で受注するのだろう…多分。
「依頼書の内容としては大体見ての通りだな。上から依頼内容、依頼者、場所、報酬、期限だ」
渡された依頼書の一つを見る。
「この依頼内容の横のシールは何ですか?」
「それは適正難易度ってヤツだな。金、銀、銅の三色存在するが、金が一番難易度が高く、一般的に金級に相当する…級については冒険者として採用した後で説明してやろう。要するに冒険者のランクが高い者しか受けることが出来ないって事だ。因みに一番級の低い銅の着いた依頼は、級に関わらず誰でも受けることが出来る」
詳しくは分からないが、やっぱり金が一番高そうだな。ローナさんとリタさんは自己主張していたように上級の冒険者だったようだ。
「依頼書については分かりました…今、依頼書の説明をしたってことはこの依頼が試験なんですね?」
「察しが良いな、その通りだ。少年には、今渡した三つの依頼を達成して貰う」
大分冒険者ギルドらしい試験になってきた。ジャックがこの場に居たら大興奮していただろう。にしても、依頼は冒険者では無い者が受けても大丈夫なんだろうか。疑問だ。
「これ、俺が受けてもいい依頼なんですか?」
「ああ、その三つの依頼者はギルドだからな。失敗しても損をするのは受けた者とギルドだけだ」
本当だ…依頼者の欄には『エルトリア冒険者ギルド』と書かれている。ギルド試験に使用しても問題は特に無い依頼だけが選ばれているようだ。
「この試験は、最低限の依頼の遂行能力を持っているかどうかを見極める試験だ。仮ではあるが依頼を受けてもらう以上、冒険者として名乗る許可も出す」
「冒険者…」
「見習いってやつだな…少年、これを渡そう。身体のどこかに付けておけ、失くすなよ」
そう言ってモルガンさんは懐から青色のペンダントを取り出した。このひし形は見覚えがある…ローナさん達が見せてくれたものと同じだ。受け取ると、金属特有の重量感を手に感じる。俺が仮でも冒険者だなんてちょっと感慨深いな…ジャックは羨ましがるだろうか。取り敢えず、首に掛けておこう。
「依頼書を受付に提出すれば正式に受注出来るからな。その後は受付嬢が説明するはずだ」
「分かりました。受付に持っていくんですね」
依頼書は掲示板から剥がして、受付に提出して正式に受注だな。覚えた。
「よし、俺の監督はここまでだ。少年、依頼を達成すれば正式な冒険者だ。頑張れよ」
「あ、はい!ありがとうございました」
「おう」
モルガンさんは軽く手を振りながら受付のカウンターへと向かうと、そのまま裏へ回り込んで最初に現れた扉を潜り行ってしまった。
厳ついけど良い人だったな…副支部長なんて立場の人に試験監督をして貰えたって、実は結構レアな体験じゃないのか。どうなんだろう。
いや、そんな事より依頼だな。言われた通りに受付嬢さんの所へ持っていこう。俺も受付へと向かう。
「受付嬢さん、これお願いします」
「はい!こちらとこちらと、こちらですね!確認します!」
依頼書を渡すと、受付嬢さんは何かを書き込んでいく。そして書き終わった後にスタンプのような何かを押し、依頼書三枚には赤く四角い印が付けられた。そしてこちら側から依頼内容が読める向きで依頼書が返される。
「お待たせしました!こちら三枚、現在日から三日間の期限です!」
「三日間ですか?」
「はい、そうです!あ、もしかして依頼ごとに期限があるのは説明されていませんでした?」
「それは大丈夫なんですが、期限を過ぎるとどうなるのか気になりまして…」
依頼達成時はともかく、失敗時はやはり何かペナルティがあるかもしれない。
「期限…今回の場合は三日を過ぎた時点で依頼失敗と見なし、試験は不合格扱いとなります。また、依頼内容によっては冒険者の救出と可能な限りの状態の回復に努める事になります。今回はあくまでギルドが依頼者ですので問題ありませんが、ギルド外の顧客からギルドに寄せられた依頼に失敗しますと違約金も発生しますので、ご注意くださいね!」
やはり違約金はあるようだ。とすると余り失敗したくはないな…そしてもう一つ、気になる点がある。
「依頼の途中で死んでしまっていた場合はどうなるんでしょうか」
「パーティを組んでいるかどうかに拠りますね。一人でも生きていらっしゃる場合はその一人に全額払って頂きますが、全滅してしまった場合は違約金は発生しません」
そういう事なら、俺は出来るだけ一人で行動した方が良さそうだな…というのも、もし依頼の途中で強力な魔物や強者に会えたなら、出来れば俺を殺して貰いたい。その時誰かとパーティを組んでしまっていたら、その誰かに違約金などの負担を掛けてしまう事になる。それは流石に申し訳ないと思う。
よし、冒険の方針は決まった。俺は死ぬまで一人で行動する。
「なるほど、理解出来ました」
「良かったです…となると後は依頼内容についての確認ですね!」
依頼内容…そう言えばよく確認していなかった。受付嬢さんは俺の持つ依頼を一つずつ指差し、説明を始めた。
「依頼は大きく採取、討伐、救助、探索の四種類に分けられます。厳密に言うと更に分類は出来ますが、一般的なのはこの四種ですね。因みに今回、ノエルさんに受けて頂く依頼は採取が二つ、討伐が一つです」
結構種類があるんだな…
「順に説明しますと、採取はその名の通り指定された物品を採取し納品して頂くものです。討伐も同じく指定された対象を討伐して頂き、その対象の一部を討伐の証拠としてギルドに納品して頂くものですね」
単純で分かりやすい。細かい事務処理はギルドが担当してくれているお陰だろう。
「救助は冒険者、又は遭難者の救助の依頼がこれに当てはまります。冒険者の依頼が期限の超過によって失敗した場合に新たに発行される依頼も、この救助依頼の一例です」
受付嬢さんは更に説明を続ける。
「探索は未知の領域や新たに出現したダンジョンの踏破と調査を行って頂く依頼です。その未知の多さに起因して冒険者の死亡率も高い事から、これ迄に挙げた四種類の中では難易度の高い依頼が最も多く分類されますね。適正難易度も金級が殆どです」
その後更に詳しく聞くと、救助、探索は殆どがギルドからの指名依頼となるらしい。掲示板から受けられる依頼は採取と討伐ばかりだそうだ。俺としては最も死亡率の高い探索の依頼を受けたい所だったのだが…どうも簡単には思い通りにいかないようだ。一応、俺を含む一般人が未知の領域に入れるかどうか聞いて見たけど、そういう場所は発見され次第ギルドが周辺を管理下に置いて厳重に警備するらしく、冒険者でも許可された者しか立ち入れないらしい。くそ、ちゃんと仕事しているな…
「依頼については以上ですね。他に分からない所や聞きたいことはありますか?」
うーん、大体説明して貰えたし、聞きたいことも今は無いかな。後は依頼書を無くさないようにして依頼を無事達成するだけだ。
「いえ、ありません。他も大丈夫そうですし、準備をしたら早速出発しようと思います」
「ふふ、気が早いですね。もう日も暮れてますし、今日は何処かで宿泊された方が良いですよ」
受付嬢さんはそう言うがどうしよう。正直、睡眠には余り時間を掛けたく無いところ…眠らなくとも身体に問題は無い事が判っているし、スキルのお陰で夜でも目は利く。だが、実は疲労を感じ始めているので少し休みたくもある。本当にどうしようかな…少しだけ休憩するだけなら…いや、やはり急ごう。別の理由もあって眠りたくないし、ここは誤魔化してそのまま依頼に向かってしまおう。
「分かりました。宿屋でも探すことにします」
「もしかして宿屋がお決まりではありませんでした?それでしたらギルド一押しの宿屋がございますよ!」
「へえ、ギルドのお勧めなんてあるんですね」
メリッサさんの店と同じような提携店だろうか。一押しなんて言うくらいだから冒険者に優しかったりするのかな?割引とか特典とか…
「はい!あちらの入り口を出て真正面にございます、道路を挟んで向かい側の宿屋です!ギルドと契約を結んでまして、冒険者の方には様々なサービスがあるんです!お勧めですよ!」
え?真正面ってことは、ミオが入っていったあの豪華な宿屋のことか?無理でしょ。あんな所に泊まるようなお金無いよ、俺…いや、有るには有るけど実際の所、借金だしなぁ…
『白兎』でお金を詰め直した時に数えたのだが、ローナさんから借りた額は770万リアだった。白貨一枚が10万リアで、色々やり取りした分を考えると最初にポーチに入っていたのは77枚だったと思う。そして昼間、ミオに色々な店に連れ回された時に分かったのだが、この世界の『リア』は前世の『円』とほぼ同じ価値のようだ…まだ西の街の物価しか見ていないから確定してはいないけど。つまり、前世換算で770万円の借金だ。うわぁ…目眩がする。
それで大体今の所持金が約765万リアなのだが、なるべく減らさないままローナさんに返したいので出来るだけ節約したい…しかしあの宿屋、ちょっとだけ気になる。ちょっとだけ。ほんのちょっとだけだけど、冒険者割引とかあるなら一晩くらいなら泊まっても良いかも…
「…因みになんですけど、一泊で幾らくらいなんですか?」
「はい!一泊大体50万リアですね!」
うわ高っ…いや本当に高い。なんだその数字、一体今着てる服の何十倍するんだ。所持金だと二週間しか泊まれないぞ。冒険者はもしかして稼げる職業なのか?例えそうだとしても、もし試験に合格出来なければ冒険者ですら無くなるし、手元には借金だけが残るんだけど…
「あの、そんなに手持ち無いので…」
「あ、それでしたらギルドから借入れも出来ますよ!」
破産させる気か。この受付嬢さん、俺が冒険者見習いだってこと忘れているんじゃないだろうか。気の所為か、先程よりも目がキラキラと輝いている。
「すみません、借金はちょっと…他に安い所見つけるので」
「なるほど、借金を抱えることが心配ですか…それなら安心してください!なんと依頼回数でローンも───」
俺は逃げるようにギルドを飛び出した。ローン抱えたまま死ぬなんて嫌だ。
こういう変な所に拘ってしまうのがいけないかもしれないですね。。




